スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第33話 反乱軍

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 エルドニア最北端にある要塞都市エスタ。国を戦から守る役割だった町は今やテロリスト集団のアジトと化していた。

 このテロリストを率いるのはエルドニアで大臣に就いていた【ハロルド・ダレンティン】と副大臣に就いていた【ドーレ・マルキン】だ。そしてこの首謀者二人が率いる犯罪者集団。エスタは着々と戦力を集めていた。

「ハロルド様、新たに二十名の協力者が参りましたぞ」
「うむ。黒い鴉の件は残念だが兵はまだまだ集まる。引き続き国に不満を抱える者を集めよ」
「ははっ!」

 エスタ占拠から一度として門が開いた形跡はない。だがエスタの町の中には日々兵隊が集められていた。それを可能としているのが黒い鴉の持つ【転移石】だ。

「ハロルド様、そろそろ軍議の時間です。会議室に参りましょう」
「うむ。全員集まっておるか?」
「はい」
「よし。では向かうとしよう。これより皆に国を乗っ取る計画を告げる」
「はっ!」

 ハロルドは肥えた身体を揺らしながらドーレを従え会議室に向かった。

「ご苦労、全員集まっておるか?」
「「「「「はっ!」」」」」

 会議室には各犯罪者集団の頭目達が集まっていた。頭目達は全部で五人。中にはレイが破ったネストもいる。

 ドーレが席に着いたハロルドの隣に立ち軍議を進行する。

「ではこれより軍議を始める。まずは各集団の状況から報告してくれ」

 ドーレの視線が左端の男に向く。左端には真紅の鎧に身を包み大木のような筋肉を誇るスキンヘッドの男がいる。

「【赤い牙レッドファング】頭目【ドレイク】だ。俺らに問題はねぇよ。戦に向け日々訓練中だ。数は五百」
「練度は?」
「捕まえた騎士とタイマンで戦って勝ってるな」
「そうか。ならば引き続き鍛錬に励め」
「おう」

 次にドレイクの隣を見る。青いローブに身を包み仮面をつけた細見の男がいる。

「【蒼炎ブルーフレイム】頭目【グレイル】。特に問題はない。以上だ」
「数と練度は?」
「有象無象を増やす気はない。日々魔導を極めている」
「そ、そうか。では次!」

 ドーレの視線が真ん中に向く。真ん中にはネストが座っていた。

「【黒い鴉】頭目のネストだ。俺んとこは俺以外全員死んじまったな」
「な、なにっ!? どういう事だ!?」
「バカが金策で失敗しちまってよ。アクアヒルにいた二人組の冒険者に殺られちまったんだわ。ちなみに俺の剣も真っ二つだ」
「お、お前が負けたのか?」
「ああ。アイツは強ぇぜ。もし戦に出てきたら俺が相手をする。次は負けねぇ」

 そこで黙っていたハロルドが口を開いた。

「二人組の冒険者か。ドーレ、調べさせろ」
「はっ!」

 ドーレは次にネストの隣を見る。そこにはエルフの男が座っていた。

「【緑の守護者グリーンガーディアン】頭目【クロード】だ。今一度問う。国王は本当に森を破壊するつもりなのだな?」
「もちろんだ。国王は森を切り開きドワーフ領と真っ直ぐ続く道を通すと言っていた」
「そうか。ならば許すわけにはいかぬ。森は我らエルフの宝。何人も侵す者は許さぬ。エルフ二百名、いつでも立ち上がれるだろう」

 ハロルドとドーレは心の中でほくそ笑んだ。

「期待しておるぞクロード殿。次!」

 ドーレの視線が右端にいた女に向けられた。右端には妖艶な雰囲気を纏った白髪隻眼の女がいた。

「【白い蛇ホワイトスネーク】頭目【ベネティア】よ。ウチは戦い専門じゃないんでね。わかってるだろう?」
「う、うむ。世話になっておる」
「ははっ。だから報告はナシよ。必要ならあんたらの性癖バラしちゃうけどね?」
「バ、バカ者っ! 口を慎めっ!」
「はいはい」

 これがハロルド率いるテロリスト集団の頭目達だ。

 報告を受けたハロルドは全員に向け指示を飛ばした。

「各部隊の状況はわかった。各々に告ぐ。我らはこれより三ヶ月後、一斉蜂起に出る。それまで練度を高めるなり駒を増やすなりしておくのだ。我らが負ければ国は弱いまま他国に蹂躙されるだろう。ヴェルデは腰抜けの若造だ。そんな輩にエルドニアは任せられん! 我らの手で強い国へと生まれ変わらせるのだ!」
「「「「「はっ!」」」」」

 こうして軍議は終わった。軍議後、部屋に戻ったハロルドとドーレは嗤っていた。

「犯罪者は扱いが楽で良いのう」
「ですな。今の所エルフも疑ってはおりません。ドワーフの引き込みは失敗しましたがエルフの方が強いので問題はないでしょう」
「うむ。それで失敗した場合の手配は済んでおるか?」
「ええもちろん。港町【カサンドラ】に船を用意させております。完成は三ヶ月後、負けた場合は我らのみ出国できますぞ」
「うむ。手筈通り頼む」
「お任せを」

 ドーレが退室した部屋でハロルドはワインを手に窓から空を見上げる。

「必ずヴェルデを殺し国を手に入れる。あんなバカ王に国は任せられん。ワシが王になり強く富める国に変えてやろう! ハッハッハッ!!」

 こうして着々と戦力を整えつつあるテロリスト集団をよそに、レイは一人馬車に揺られドワーフ領に到着していた。

「着きましたぜお客さん。ここがドワーフ領の入り口でさぁ」
「着いた? え? 山しかないけど??」

 目の前には巨大な岩山しかない。

「この山がドワーフの領地なんでさぁ。あそこにトンネルが見えるでしょう?」
「うん」
「ドワーフ達はあの山の中に町を作ってんすよ」
「山の中に町を!?」
「へい。山から煙見えません?」

 山をしっかり見ると岩肌に小さな穴があり所々から煙が上がっていた。

「見えます……ね」
「あの煙が鍛冶をしている証っす。ちなみにドワーフ領は王の許可を得た者しか入れないっすからあっしはここまでっす。あのトンネルに見張りがいるっす。許可を持ってるなら見張りに見せるっすよ」
「そっか。ここまでありがとう。これ運賃ね」

 レイは御者に少し多めに運賃を渡した。

「あの、だいぶ多いっすけど……」
「僕一人のために走らせちゃったからね。チップだと思ってくれて良いよ」
「マジっすか! 助かりますわ~。んじゃありがたく頂きますっ! ではお気を付けて~」

 御者はほくほく顔でアクアヒルへと引き返して行った。そして一人になったレイは岩陰に移動し箱庭を開く。

「リリー、着いたよ。出番だ」
「わかったなのっ。リリア、ちょっと行ってくるなのっ」
「うんっ、またね!」

 箱庭からリリアと遊んでいたリリーを連れ出しトンネルに向かう。

「まさか山の中に町があるなんて思わなかったよ」
「あの山は鉱山なのっ。掘ったついでに町を作っていったなの」
「恐るべしドワーフだな。じゃあ行こうか」
「うんなのっ」

 こうしてドワーフ領に着いたレイはリリーと共に山の中へと向かうのだった。
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