スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第35話 リリーの策略

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 エルナルド工房を飛び出したリリーはその足でドワーフ領をも出ようとしたが思い留まった。

「……私天才かもなの! 名案が浮かんだなのっ!」

 リリーは反転しとある場所を目指す。

「がははははっ! 仕事の後のエールは上手いなっ!」
「一日の終わりを感じるの~」

 リリーが向かった先は酒場。ドワーフと言えば鍛冶の次にくるのが酒だ。リリーは真っ直ぐカウンターに向かう。

「お? おいっ、あれリリーちゃんじゃねぇか?」
「ほんとだ! 帰ってきてたのかよ」
「くぅ~っ、相変わらずちっちゃくて可愛いぜっ!」
「リリーちゃ~ん! こっちで一緒に飲もうぜ~!」

 リリーはドワーフ達のアイドルだった。そしてその人気は男だけに留まらない。

「リリーちゃん! 久しぶりだね~。野郎共より私達と一緒に飲もうよ」
「外行ってたんでしょ? 色々話聞きた~い」
「良い男いた!? どこまで行ったの?」

 カウンターに座っただけで酒場中が沸き上がった。リリーはマスターに酒を頼み一気に呷る。

「あ~……美味しくないなの~」
「……ほう」
「「「「なんだって!?」」」」

 リリーの呟きにマスターの眉が動く。

「いきなり来て美味しくないとは言うねぇ」
「私は外のお酒いっぱい飲んできたも~んなのっ。料理も微妙だしなの」
「ぴくぴく」

 酒と料理を貶されたマスターは爆発しそうだった。

「はっはっは。済まないねぇ。私は外を知らないものでね」
「引き籠もりドワーフなら仕方ないなの。こんな洞窟みたいな環境だと作物も育たないし酒も食糧も仕入れるしかないから仕方ないなの~」

 ドワーフの食糧は全て輸入によるものだ。ドワーフは武器や防具を輸出し、これらの食糧や酒を輸入して暮らしている。

 そこで隣にいた女ドワーフがリリーに問い掛ける。

「リリーちゃんは外でどうやって暮らしてたの? 鍛冶できるようになった?」
「鍛冶? その道は諦めてるなの。リリーは今人間の仲間と冒険者して稼いでるなのっ」
「「「「冒険者だって!? お、男か!」」」」

 リリーの言葉に聞き耳を立てていた酔っ払った男連中が反応する。

「あ~……確かに男だったなぁ」
「「「なにっ!?」」」

 そこにいたのは入り口で兵士をしていたドワーフだ。兵士は一斉に男連中に囲まれた。

「詳しく」
「グラスが空だな」
「マスター! 一番美味い酒を!」
「ツマミも頼む!」

 兵士のテーブルに対価が並べられていく。

「さあ話してもらおうか。我らのアイドル……リリーちゃんを誑かした野郎の話をなぁっ!」
「ぐびっ。ふぅ……そうだなぁ~、そいつは細見の男だったな。黒髪黒目で人間の感覚でいったらまあ美形に入るだろうよ」
「「「なんだとぉぉぉっ!?」」」

 いつの間にか酒場に凄い数のドワーフが集まっていた。

「しかもそいつはヴェルデ王の知り合いらしい。封書を持ってきていた。人間を中に入れるわけにはいかなかったから諦めてもらったがな」
「そこは通せよ! したら囲んでやったのに!」

 血の気も多く短気なのがドワーフだ。

「おいおい、ヴェルデ王の知り合いだぞ? 国に喧嘩売る気か? 酒も食糧も手に入らなくなるぜ?」
「「「くっ」」」

 そしてリリーは女ドワーフ達に囲まれていた。

「リリーちゃん! 人間の男ってどうなの?」
「どうやって知り合ったの!?」
「どこまでいったの!?」
「ふふん、知りたいなの? あれはそう……」

 リリーはレイとの出会いから語り始めた。

「……なぁんだ、ただの友達じゃない」
「って言うかヒモ女じゃん」
「ち、違うなの! レイは優しくしてくれてるなのっ! それに私もちゃんと働いてるなのっ!」
「でも食べ物もお酒もその彼が用意してくれてるんでしょ?」

 箱庭を説明するわけにはいかないリリーの話は単なるヒモ女にしかきこえなかったようだ。

「でもさぁ、良い男じゃん? ねぇリリーちゃん。紹介して~」
「あ、私も! なんなら剣くらい打ってあげるよ?」
「あんたが打つなら私が打つわよ。だから私に紹介して!」

 レイの話を聞いた女ドワーフ達が色めき立つ。

「紹介~? ここから出ない癖になの?」
「養ってもらえるならやぶさかじゃない」
「むしろ出る」
「実際のとこ私達女ドワーフは満足に打たしてもらえないしね。鍛冶の基本は男連中だし」

 リリーの狙いはここだ。リリーは悪い笑みを浮かべ言った。

「本当に出るなら紹介してあげても良いなの」
「「「「本当!?」」」」
「うんなの。一週間後にまた入り口で会う事になってるなの。そこでレイと話してみれば良いなの」
「「「「行く!」」」」

 この話を聞いていた男連中はガタッと席を立った。

「お、俺も行こうかな。まだ見習いで満足に打たしてもらえないし」
「男でも養ってもらえんのか?」

 リリーは興味をもった男ドワーフにも言った。

「レイは来る者拒まずなの。鍛冶スキル持ちなら大歓迎なのっ」
「そ、そうか! そいつに頼めば毎日好きに鍛冶できるし酒ももらえるんだな?」
「間違いないなの。興味があるなら一週間後入り口に来れば良いなの」
「「「「わかった」」」」

 満足に鍛冶ができない若いドワーフの男がリリーの話に興味を抱いた。

 そしてリリーは隣にいた女ドワーフに話し掛けた。

「今日泊まるとこないなの。もっと詳しく話すから泊めてなの」
「ふふん、もちろん良いわよ~」

 そうして一週間後の朝。リリーは入り口でレイと対面していた。

「な、何事!?」
「お待たせなのっ」
「「「「よろしくお願いしゃす!」」」」
「「「「きゃっ、イケメンよっ!」」」」

 リリーの後ろに百人近いドワーフ達が鞄一つ手にして並んでいた。

「ちょっとリリー? 僕の剣は?」
「断られたなの」
「え?」
「だから考えたなのっ。ないなら作れば良いなのっ。これだけ鍛冶ができるドワーフがいたらレイもできるようになるなのっ!」
「へ? あっ!」

 レイはリリーの狙いに気付いた。

「彼らを箱庭に迎えるの?」
「うんなのっ」
「まだ話してないよね? 大丈夫なの?」
「大丈夫なの。皆不満を抱えてるなの。満足に鍛冶ができる環境とお酒があれば文句はいわないなの」

 この一週間でレイは箱庭の中に鉱山を設置し、鉱石を集めていた。目的はドワーフ達に質の良い鉱石を渡して取引するためだ。

 レイはキラキラと目を輝かせるドワーフ達を見て言った。

「皆さんは鍛冶ができたら一緒に来てくれますか?」
「「「「酒もあれば尚良し!」」」」
「「「「一緒に飲んでくれたらもっと良しっ」」」」
「は、ははは。わかりました。今から秘密の場所に案内します。そこでなら好きに鍛冶をして構いませんよ」

 そう言い、レイは例の如く少し離れた場所で箱庭の入り口を開きドワーフ達を迎えるのだった。
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