スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第38話 リリーのスキル

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 翌朝、工房にきたリリーにレイの考えを告げた。

「スキル【譲渡】……なの?」
「うん、多分ね。これだけは僕も効果がわからなかったから使ってなかったんだよ。そして今も僕のスキルに硬質化なんてないんだ。リリーが最初から秘密にしないでくれてたらとっくに解決してたと思うんだけど~?」

 リリーは申し訳なさそうに肩を落とした。

「ご、ごめんなの。ちょっとやさぐれてたなの」
「ま、良いけどね。でだ、僕なりにこの譲渡ってスキルを検証してみる。そしてリリーも同じ事ができたらリリーのスキルが硬質化じゃなく譲渡になるんだ」
「わ、わかったなの。やってみるなの!」
「よし、じゃあ試してみようか」

 レイは工房のテーブルに鉄のインゴットを二つ並べる。

「とりあえず色々試してみるか。リリーはどんな感じで硬質化させてた?」
「私は……まず金槌で叩きながら硬くなれ、壊れなくなれって口にしながらやってたなの」
「ふむふむ。ならちょっとやってみてもらえる?」
「わ、笑わないでなの」

 鍛冶ができないリリーはしばらく鍛冶から離れ緊張していた。リリーは炉で熱した鉄のインゴットを金床に置き、鎚を振り下ろす。

「武器になれなのっ! 硬い武器にっ!」

 そう口にした瞬間、鉄のインゴットから響く音が明らかに変わった。

「ストップ、リリー」
「え?」
「今音変わったよね?」
「普通じゃないなの? インゴット伸びてるし?」
「いや、それにしても変わり過ぎだ。ちょっと鑑定するよ」

 リリーのスキルを譲渡だと知った上、自分も鍛冶をしたからこそ気付いた。

「やっぱり。鉄のインゴットに硬質化が付与されてる。これじゃ硬くなってこれ以上形が変わらないはずだ」
「そ、そうなの! いつもここから形が変わらなくなるなの!」
「多分だけど硬くなれって思いながら鎚を振り下ろしたからじゃないかな。硬質化した鉄のインゴットなんて誰も鍛えられないよ。ちょっと試してみようか」

 レイはテーブルにあった鉄のインゴットに触れこう口にした。

「硬くなれ」
「?」

 そして鉄のインゴットを確認する。

「おぉ! できた! 硬質化がプラスされてる!」
「えっ!? い、今ので!?」
「うん。スキルは使おうと思わなきゃ発動しない。リリーは鑑定で硬質化だと思い込んでしまったからそれしか使えなかったんじゃないかな。で、これに……」

 今度は意識した上で鉄のインゴットに譲渡を使ってみる。

「譲渡、破壊不能!」
「えぇ!?」

 再び鑑定すると鉄のインゴットに硬質化と破壊不能が付与されていた。

「か、変わった?」
「うん。リリー、ちょっとこれ持ちながら『軽くなれ』って思ってみて」
「う、うんなの」

 リリーは言われるがまま鉄のインゴットを手にし、軽くなれと呟いた。その後鑑定すると鉄のインゴットに三つ目の効果が付与されていた。

「軽量化が付与されてる。リリー、軽くなったと思わない?」
「た、確か……あ、あれ……」
「リリー?」

 リリーの瞳から涙が零れ落ちる。

「な、なんで泣くの!?」
「だ、だってなのっ! 私ずっと役立たずでっ! 鍛冶に関われない落ちこぼれドワーフでっ! 冒険者しかできなくてっ!」

 レイは泣きじゃくるリリーの頭を撫でてやった。

「リリーは落ちこぼれなんかじゃないよ。結構な時を無駄にしたかもしれないけどさ、まだ人生は長い。今わかって良かったじゃないか。リリーのスキルは【譲渡】。付与術師より便利なスキル持ちだ。あっちは魔力を消費するけどスキルは魔力を消費しないしね。これから引っ張りだこになるかもね?」
「レイッ! ありがとうなのぉぉぉっ!」

 泣き止むまで待ち、レイはリリーに言った。

「リリーのスキル譲渡は僕の箱庭と同じくまだ未調査のスキルかもしれないね。もしかしたらまだ何かできる事が他にもあるかもしれない。鍛冶の他にも色々検証しないとね」
「う、うんなのっ。私も色々調べるなのっ!」

 長年の悩みが解決したリリーはスッキリとした表情でやる気に満ち溢れていた。

「さて、ならまずは何をどれだけ譲渡できるか調べますか。鉄のインゴットと他のインゴットで譲渡できる数が違うかも調べないとだし。やる事たくさんありすぎだなぁ」
「私は鑑定できないからレイに任せるなの! 私はサポートにまわるなのっ」
「よろしくね」

 それから色々と検証していき、素材によって譲渡できる数が違う事、そして譲渡できる内容に差がある事がわかった。

「なるほどなるほど。重ね掛けすれば+2になるけど他に譲渡できる数が減る。素材で譲渡できる数も違うし、できる内容も違うか。思ったより時間かかるなこれ」
「なんかだんだん譲渡できる内容が増えてるなの」
「うん。使えば使うほどスキルレベルが上がってるみたいだ。それで譲渡できる内容も増えてるし。これは終わりが見えないなぁ……」
「が、頑張るなの!」

 それから十日後、一旦検証を終えたレイは深夜、一人刀に色々と譲渡を繰り返していた。

「破壊不能、素早さ上昇、力上昇、体力吸収、両断……今譲渡できるのはここまでかな。うん、この刀もう神器だな」

 薄紅色の刀はスキル譲渡の力でとんでも武器に進化していた。そしてオリハルコンの剣も同様に超絶進化を遂げた。

「これで新しい武器は手に入れた。さあ、エスタに向かおう。飛んで行けばすぐ着くはずだ。平和なこの国に争いは必要ない。僕が反乱軍を潰す!」

 深夜、レイは一人漆黒の闇へと浮かび上がり、要塞都市エスタへと向かうのだった。
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