スキル『箱庭』を手にした男ののんびり救世冒険譚〜ハズレスキル? とんでもないアタリスキルでした〜

夜夢

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第51話 シーサーペント捕獲・後編

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 小舟に揺られ海に出る。海面は照らす陽を反射しキラキラと輝き、実に穏やかだった。

「これが海の上なんですね~。初めて船に乗りました」
「酔いは大丈夫かの? いざという時戦えんでは困るぞい?」
「大丈夫みたいです」

 ボンゴの操る小舟は小舟にも関わらずほぼ揺れていない。普通このサイズの小型船はすぐに波の影響を受け激しく揺れる。その揺れが限りなく削られていた。

「ボンゴさんの腕が良いんでしょうね」
「ワシのスキル【操舵】は極めておるからの。中型船、大型船関係なく極限まで揺れを抑える事ができるのじゃ」
「す、凄いですね」

 この戦乱の世では評価されにくい不遇スキルに分類される操舵のスキルだが、レイは素直にボンゴの力に感動していた。

「ワシには海しかないからの。レイよ、そろそろシーサーペントの支配する海域に入るぞ。波が出る。落とされんようにのっ!」
「はいっ!」

 先に進むにつれ波がたってくる。あまり揺れていなかった小舟は時折跳ねる。

「あれじゃ! あの渦が見えるかレイよっ!」
「あれが……!」

 小舟の先に渦が二つ見える。

「来るぞっ! 構えろレイッ!!」
「よし来いっ!!」

 数分後、襲い掛かってきたシーサーペント二体はあっけなく捕獲され、今箱庭の中にある海で穏やかに泳いでいた。

「な、ななななんじゃこれはっ!?」
「これが僕のスキル箱庭ですよ。この世界に入った魔獣は大人しくなるんです」
「世界……。レイの世界か。くっ……くははははっ。なんじゃこりゃあぁぁっ!? ワシは今日死ぬ覚悟をしていたんじゃぞ!? それがいとも簡単に二体のシーサーペントを生きたまま捕獲しよるとはの……」

 ボンゴは箱庭の海岸に腰を下ろし泳ぎ回るシーサーペントを見ながら呟いた。

「レイよ、ワシもここで暮らしたいのじゃが構わんか?」
「え? ボンゴさんが!? それはむしろ大歓迎ですが……。家族とかは……」
「ワシに家族はおらぬよ。息子夫婦は王都じゃし、妻は先立ってしもうた」
「そうだったんですか……」
「海に関してワシの右に出る者はおらん。まあ、ワシの知っとる限りじゃがの。どうじゃ? この海と養殖場、ワシに任せてみんか?」
「よ、よろしくお願いします!」

 こうして箱庭に新たな仲間を加え、レイはボンゴと共に港へと戻った。

「帰ってきたぞ!」
「あれ、手ぶらだ! まさか逃げてきたのか?」
「バカ、ありゃ素材諦めて帰ってきたんだよきっと」

 港に着くと沢山の漁師達に囲まれ質問が飛び交った。

「ボンゴ爺さん! シーサーペントは!?」
「もうおらぬよ。明日から海に出られるぞい」
「「「「ほ、本当か!?」」」」
「うむ。それからワシはこれを最後に引退する。次の頭は好きに決めい。レイ、領主館に向かうぞい」
「はい、ボンゴさん」

 ボンゴは漁師達に簡単に報告を済ませ領主館に向かう。漁師達は去っていく二人を見ながらやがて感情を爆発させた。

「っしゃあぁぁぁぁっ! 漁に出る準備だっ!」
「やっと海に出られるぞ!」
「あぁぁぁっ、辛かった! 苦しかった!」
「稼ぐぜぇぇぇぇぇっ!」

 漁師達は海に向かい溜まっていた鬱憤を叫び、我先にと舟の点検に向かった。

 そしてレイは領主館でアリスにシーサーペントの件を現地で見せながら報告していた。

「あれがシーサーペント……ですか。ずいぶん穏やかなのですね」
「外敵がいないからじゃろうな。出産の邪魔が入らんここじゃからああも穏やかなのじゃ」
「レイ様、これでシーサーペントの素材が手に入るのですか?」
「はい。毎日世界樹の下にある収納箱に入ります」
「そうですか。とりあえずいったん戻りましょうか」

 そこでボンゴは言った。

「領主様、ワシはこれからここで暮らしますじゃ。戻られるなら二人で」
「え?」
「レイよ、ワシの家は海がよく見えるここにして欲しい」
「あ、そうですね。じゃあ今出します」

 レイはボンゴが指定した場所に報酬の中から監視小屋を選択して出した。

「えぇっ!? 家が出ました!?」
「家具とかは町で買えますので。これから色々と魚介類を運び入れます。その全てをボンゴさんに任せます」
「構わぬよ。むしろワシにしかできんじゃろ。報酬はいただくがの?」
「では月に白金貨一枚で」
「ノッた!」

 二人はがっしりと手を組み、ボンゴは箱庭で暮らす事が決まった。そして現実に戻ったアリスはレイと報酬について話し合う。

「ではレイ様? さっそくですが報酬について話し合いましょうか」
「あ、あの~……。気のせいか圧を感じるのですが」
「ふふふっ、気のせいですわ」
「は、はあ……」

 気のせいではない。顔は笑っているが椅子に座り顔の前で手を組むアリスからは凄まじい圧が放たれている。これが領主の威厳というものだ。交渉において退くつもりは微塵も感じられなかった。

「ではまず我々からの報酬として、ルーベルで捕れる魚介類を全種類お渡しします」
「はい、ありがとうございます」
「はい。では次に我が領地から漁師達のリーダーを私に無断で引き抜いた件についてですね」
「……はい?」

 アリスは領民を無断で引き抜かれた件でレイからの報酬を狙う。

「ボンゴさんはルーベルに欠かせないお方。レイ様にはそれなりのものをいただけませんと」
「は、はあ。それはシーサーペントの素材じゃダメなんですか?」
「ダメですね。それは私の口止め料でしょう?」
「んなっ!? お、脅す気ですか」
「まさか。私も辛いのですよ? 領民を無断で引き抜かれて……ぐすん」

 見事な嘘泣きだ。涙など欠片も見えない。

「はぁ。で、アリス様は何が狙いなんですか?」
「はいっ。レイ様との結婚を!」
「却下です! 僕はまだ一つの土地に留まる気はありませんし」
「むぅ。ならば……」

 アリスの交渉術は完璧だった。最初は無理難題を推し、徐々に実現可能な目的へと落としていく。若いながら実に上手いやり方だった。

「では毎月シーサーペントの素材で買えるだけの食糧と酒類でどうでしょうか?」
「わ、わかりました。それで手を打ちましょう」
「はいっ、決まりですねっ。これでボンゴさんの件は文句なしですわっ」
「……やってくれますね」
「次は屋敷での宿泊代についてですが」
「それもお金とるの!?」
「まさか。それはこちらからお願いしましたので取りませんよ。シーサーペントのために留まっていただいたお礼として私からレイ様に一つ情報を提供いたしますわ」
「情報?」
「はい。コード1」
「はい」

 天井が開き黒ずくめで仮面をつけた者が降りてきた。

「あの、その人は……」
「彼女はコード1。仮面を外しなさい」
「はい、アリス様」

 アリスの指令でコード1が仮面を外した。

「あっ! あなたはっ!」
「お久しぶりです、レイ様」
「う、家で働いていたメイドじゃないですか! ど、どういう事!?」
「それについては私から説明しましょう」

 アリスはレイに秘密を語るのだった。
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