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第2章 死の大地
第17話 旅立ち
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夕食はアイラがとても待ちきれそうになかったため、 鉄板を用意しお好み焼きにした。
「ほっ」
「おぉっ! お見事!」
「はいはい……」
青海苔と鰹節がなかったためソースとマヨネーズのみで作ったがアイラは美味そうに焼けた端から口に放り込んでいた。
アースは焼きながらルルシュに尋ねた。
「魔族の人達は何か食べる物があるのでしょうか?」
「……どうかしら。あの大地は死んでしまっているからね。森を切り開いて畑にしているか……ダンジョンでも見つけたか……。私達はもう交流がないのよ」
「そうですか……」
アースは今魔族がどうしているのか気になっていた。聞いた限り魔族は被害者だ。しかも人間の行動に怒り狂った勇者の末裔が今の魔王。何かよからぬ事を企てていないかと心配していたのである。
「……長さん。俺、死の大地にいってみたいです」
「アースさん!」
フランが席から立ち上がった。
「フラン、君も来て欲しい」
「……え? えぇっ!?」
「ほら、俺は人化の術で姿は人間になってるでしょ? 魔族に見つかったら間違いなく襲われる。そこで一端竜の姿で行く。エルフの君を乗せてね」
「わ、私がアースさんに……の、乗る……んですか!?」
フランの顔がポッと赤くなった。
「ゆっくり飛ぶから大丈夫だよ。長さんの話だと勇者と最後まで人間と争ったのは竜とエルフじゃない? だから二人で行けば受け入れてもらえそうじゃない?」
「私がアースさんと……お、お母さん?」
ルルシュはそわそわしているフランにこう言った。
「良いわよ? 私も魔族の事は気になってたし。でも私はこの里の長、仲間を放って里からは出られないの。だからフラン、あなたが行きなさいな」
「アースさんと……私が……旅……? ふぇぇぇぇっ!?」
フランは何を想像しているのか、コロコロとその表情を変えていた。その顔からは不機嫌そうな表情が消えているようにも思える。
「フラン、もし魔族が困っているようならしばらくはここには戻れない。もしかしたら俺としばらくの間二人で暮らさなきゃならなくかもしれないけど大……」
「今すぐ行きましょう! 魔族さんが可哀想です!」
「お、おぉぉ?」
フランはアースのセリフを遮りそう叫んだ。それを見てルルシュは微笑む。
「ふふっ、青春ねぇ~。アイラはどうするの?」
「私? 私は里を守らねばならんので残る」
「……本音は?」
「今ダンジョンの攻略が良いところなんだ! もう少しで五十階を攻略出来そうなんだよ!」
「アイラに春は遠そうねぇ~……」
こうして旅立ちの前夜は過ぎて行くのであった。
そして翌朝。
「フラン、もし魔王にあったらこれを」
「? ペンダント?」
ルルシュがフランにペンダントを手渡した。
「それは私が千年前に魔王からもらった【魔王の瞳】と呼ばれるアクセサリーよ。あいつ、しつこい位に私に求婚してきててさ、私が森に来る時に荷物に忍び込ませてたみたいなの」
「あの……ナイフ刺さった跡があるよ?」
「ああ、それ覗き用のアイテムだから。目は潰したわ」
「あ、あはは……」
フランはそれをそっと袋にしまった。
「じゃあそろそろ行こうかフラン」
「は、はいっ!」
アースはまだ人間の姿のままだ。正体はあまり知られたくはないので里から離れた所で竜に戻る事にした。
「フラン、頑張ってね? 帰って来る時には子供の一人や二人は連れて来るのよ?」
「お、お母さん! 私達はそんな事しに行くんじゃないのっ! まったくもうっ! 行きましょ、アースさんっ!」
「え? あ、うん。じゃあ……行ってきます!」
こうしてアースはフランと里を出た。
「アイラ、良かったの?」
「……良いんだよ。フランがあんなに真剣になっていたのだ。私の想いなど気の迷いみたいなものだ」
「お姉ちゃんねぇ、アイラは」
「我慢しなくてはな。……くっ……しばらくあの料理が食えなくなるなんてっ!」
「えっ!? そっち!?」
「ん? 何を言っている? それ以外何があると言うのだ?」
「はぁぁぁぁ……」
アイラは色より食、未だ春は遥か彼方にあるようだ。長は深く溜め息を吐き、頭を悩ませるのであった。
一方、二人は魔物を蹴散らしながら森を進んでいた。
「フラン、だいぶ強くなったね~」
「はいっ! 頑張りましたからっ!」
「えらいえらい。お、良い場所があるな。あそこにしよう」
森を進むと少し開けた場所に出た。そこでアースは一端フランを休憩させ、いよいよ人化の術を解除する事にした。フランに竜の姿を見せるのは初めてだ。怖がられなければ良いなと思いつつ、アースは人化の術を解除した。
「り、竜……! 本当に竜だったです!」
フランはアースの正体を見て驚いていた。
「怖い?」
「こ、怖くないです! でも……おっきいですね?」
「うん、大きさは自在に変えられるんだよ。これが一番大きいサイズね」
今のアースの体長は五メートルはある。成長して最大サイズも増えていた。
「ちなみに小さくなるとどれくらいです?」
「ん~……こんな感じ」
アースは三十センチくらいまで小さくなった。
「か……可愛いですっ!」
「おわっ!?」
フランは小さくなったアースを腕に抱えて抱きしめた。
「はわぁ~。可愛いです可愛いですっ!」
「むぎゅ~~っ!?」
「はっ!? わ、私ったらなんて事を!?」
ひとしきり愛でられたアースはようやく解放された。
「ご、ごめんなさいですっ!」
「大丈夫、大丈夫だから……」
色んなものが当たっていたとは言えないアースなのであった。
「ほっ」
「おぉっ! お見事!」
「はいはい……」
青海苔と鰹節がなかったためソースとマヨネーズのみで作ったがアイラは美味そうに焼けた端から口に放り込んでいた。
アースは焼きながらルルシュに尋ねた。
「魔族の人達は何か食べる物があるのでしょうか?」
「……どうかしら。あの大地は死んでしまっているからね。森を切り開いて畑にしているか……ダンジョンでも見つけたか……。私達はもう交流がないのよ」
「そうですか……」
アースは今魔族がどうしているのか気になっていた。聞いた限り魔族は被害者だ。しかも人間の行動に怒り狂った勇者の末裔が今の魔王。何かよからぬ事を企てていないかと心配していたのである。
「……長さん。俺、死の大地にいってみたいです」
「アースさん!」
フランが席から立ち上がった。
「フラン、君も来て欲しい」
「……え? えぇっ!?」
「ほら、俺は人化の術で姿は人間になってるでしょ? 魔族に見つかったら間違いなく襲われる。そこで一端竜の姿で行く。エルフの君を乗せてね」
「わ、私がアースさんに……の、乗る……んですか!?」
フランの顔がポッと赤くなった。
「ゆっくり飛ぶから大丈夫だよ。長さんの話だと勇者と最後まで人間と争ったのは竜とエルフじゃない? だから二人で行けば受け入れてもらえそうじゃない?」
「私がアースさんと……お、お母さん?」
ルルシュはそわそわしているフランにこう言った。
「良いわよ? 私も魔族の事は気になってたし。でも私はこの里の長、仲間を放って里からは出られないの。だからフラン、あなたが行きなさいな」
「アースさんと……私が……旅……? ふぇぇぇぇっ!?」
フランは何を想像しているのか、コロコロとその表情を変えていた。その顔からは不機嫌そうな表情が消えているようにも思える。
「フラン、もし魔族が困っているようならしばらくはここには戻れない。もしかしたら俺としばらくの間二人で暮らさなきゃならなくかもしれないけど大……」
「今すぐ行きましょう! 魔族さんが可哀想です!」
「お、おぉぉ?」
フランはアースのセリフを遮りそう叫んだ。それを見てルルシュは微笑む。
「ふふっ、青春ねぇ~。アイラはどうするの?」
「私? 私は里を守らねばならんので残る」
「……本音は?」
「今ダンジョンの攻略が良いところなんだ! もう少しで五十階を攻略出来そうなんだよ!」
「アイラに春は遠そうねぇ~……」
こうして旅立ちの前夜は過ぎて行くのであった。
そして翌朝。
「フラン、もし魔王にあったらこれを」
「? ペンダント?」
ルルシュがフランにペンダントを手渡した。
「それは私が千年前に魔王からもらった【魔王の瞳】と呼ばれるアクセサリーよ。あいつ、しつこい位に私に求婚してきててさ、私が森に来る時に荷物に忍び込ませてたみたいなの」
「あの……ナイフ刺さった跡があるよ?」
「ああ、それ覗き用のアイテムだから。目は潰したわ」
「あ、あはは……」
フランはそれをそっと袋にしまった。
「じゃあそろそろ行こうかフラン」
「は、はいっ!」
アースはまだ人間の姿のままだ。正体はあまり知られたくはないので里から離れた所で竜に戻る事にした。
「フラン、頑張ってね? 帰って来る時には子供の一人や二人は連れて来るのよ?」
「お、お母さん! 私達はそんな事しに行くんじゃないのっ! まったくもうっ! 行きましょ、アースさんっ!」
「え? あ、うん。じゃあ……行ってきます!」
こうしてアースはフランと里を出た。
「アイラ、良かったの?」
「……良いんだよ。フランがあんなに真剣になっていたのだ。私の想いなど気の迷いみたいなものだ」
「お姉ちゃんねぇ、アイラは」
「我慢しなくてはな。……くっ……しばらくあの料理が食えなくなるなんてっ!」
「えっ!? そっち!?」
「ん? 何を言っている? それ以外何があると言うのだ?」
「はぁぁぁぁ……」
アイラは色より食、未だ春は遥か彼方にあるようだ。長は深く溜め息を吐き、頭を悩ませるのであった。
一方、二人は魔物を蹴散らしながら森を進んでいた。
「フラン、だいぶ強くなったね~」
「はいっ! 頑張りましたからっ!」
「えらいえらい。お、良い場所があるな。あそこにしよう」
森を進むと少し開けた場所に出た。そこでアースは一端フランを休憩させ、いよいよ人化の術を解除する事にした。フランに竜の姿を見せるのは初めてだ。怖がられなければ良いなと思いつつ、アースは人化の術を解除した。
「り、竜……! 本当に竜だったです!」
フランはアースの正体を見て驚いていた。
「怖い?」
「こ、怖くないです! でも……おっきいですね?」
「うん、大きさは自在に変えられるんだよ。これが一番大きいサイズね」
今のアースの体長は五メートルはある。成長して最大サイズも増えていた。
「ちなみに小さくなるとどれくらいです?」
「ん~……こんな感じ」
アースは三十センチくらいまで小さくなった。
「か……可愛いですっ!」
「おわっ!?」
フランは小さくなったアースを腕に抱えて抱きしめた。
「はわぁ~。可愛いです可愛いですっ!」
「むぎゅ~~っ!?」
「はっ!? わ、私ったらなんて事を!?」
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「ご、ごめんなさいですっ!」
「大丈夫、大丈夫だから……」
色んなものが当たっていたとは言えないアースなのであった。
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