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第1章 始まり
03 魔族の領地
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魔族の領域。そこは人の領域を追われた犯罪者や魔族に恨みを抱える者が集う闇の領域だ。魔族の領域は深い森になっており、背の高い木々が生い茂っている。そのため地表には中々光が届かない。
「とりあえず傷は治ったか。ならやる事は一つだな」
ウィケッドの魔法で回復したアーレスはまず自分の能力を確認する事にした。
「──! 闇魔法を習得してる!? まさかさっきので俺も使えるようになったのか?」
この世界の人間は自らの能力を鏡や水面に映し出して確認する事ができる。アーレスは水溜まりに自らの能力を映し出していた。
「剣術や体術はそのままだな。他の魔法は使用不可……か。まさか精霊を呼び出して魔法を見せてもらわなきゃ使えなくなってるとか? すると今ある攻撃手段は体術だけ? 魔族の領域で素手か……」
魔族の領域には人間の領域とは比にならないほど強力な魔物が跋扈している。魔族は人間と違い、無闇に魔物を殺さない。
「職業は……【精霊使い】か。そもそも精霊使いってなんだ? 精霊を使役するのか? いや、でもウィケッドは消えたし仲間って感じでもなかったな。あー……」
アーレスは頭を掻きむしった。
「わけがわからん。とりあえず魔族のいそうな所を探すか。もし武器でも奪えれば多少生存率も上がりそうだし」
能力について考えた所で今は無駄だと割りきり、アーレスは魔力探知を使いながら魔族のいそうな場所を目指して森の中を進んでいった。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
《ガァァァァァァッ!?》
「せいっ!!」
《ゴァァァァァァッ!?》
「くっそ! なんなんだこの森っ! 魔物が強すぎるッ!!」
アーレスは魔物を昏倒させながら逃げに徹していた。攻撃手段が打撃しかない今、この森の魔物を倒す事は不可能だった。
「はぁっはぁっ! キ、キツすぎる! ウィケッド!」
《はいは~い。呼んだか~い?》
闇の精霊の名を叫ぶと再びウィケッドが姿を見せた。
《どうしたマスター? 疲れてるねぇ~》
「こ、攻撃魔法を教えてくれっ! さすがに素手じゃこれ以上進めないっ!」
《攻撃魔法~? 何にする~?》
「俺は闇魔法について何も知らないから何と言われてもわからんっ! おぉぉぉぉっ!?」
突如背後からダークウルフが爪を立てて飛び掛かってきた。アーレスは何とか身をよじりダークウルフの攻撃を躱わす。
《あらら、マスター苦戦中だねぇ。仕方ない、オイラが助けてあげるよ。ちゃんと見ててな、マスター》
「は、早いとこ頼むッ!」
《はいはい、いくよ~》
ウィケッドはダークウルフに対し次々と魔法で攻撃を加えていった。
《君にウラミはないけどマスターに襲い掛かっちゃったからね~。悪いけどちょっと痛い目見てもらうよ。【ダークバインド】》
《キャンッ!》
ダークウルフを黒い触手に似た腕が締め上げる。
「おお!」
《次は~【ダークブレット】!》
動けないダークウルフを黒い弾が貫いていく。
《キャウンッ!!》
《ほらほら、逃げるなら今の内だよ?》
《キャィィィィンッ!》
ダークバインドを解除されたダークウルフは一目散に森の中へと消えていった。
「なぜ逃がした」
《無闇な殺生は良くないからね~。オイラが襲われたわけじゃないし?》
「いやいや、マスターである俺が襲われたんだが!?」
するとウィケッドは人差し指を立て左右に振った。
《ちっちっち。わかってないなぁ~マスター》
「はい?」
《精霊使いは精霊の力を使えるだけで精霊の上位になる職業じゃないんだよ?》
「精霊の力を……使える?」
《そ。どんな魔法でも、個人に適性がなくても呼び出した精霊から魔法を見せてもらえば使えるようになるのさ~》
「……それだけ?」
《うん》
アーレスは地面に崩れ落ちた。
「そ、それだけで俺はあんな目に……? 必死に勉強して身に付けた魔法は消え、国王には罵られ……騎士には暴行され……挙げ句こんな森で死にかけて……!」
《それだけって酷いなぁ。精霊を見る事ができるのは精霊使いだけなんだよ? オイラ達精霊は精霊使い以外には見えないんだ。あ、魔物は別ね。アレは魔素から生まれてるから》
「……見えたからどうだってんだ。魔法なら精霊が見えなくても使えるだろう」
《簡略化された魔法ならね~》
「なに? 簡略化?」
ウィケッドは丸太の上に寝転がり講義を始めた。
《今人間が使ってる魔法は本当の魔法じゃないんだよ》
「ほ、本当の魔法?」
《そ。今人間は大気中にある魔素を使い、かつての精霊使いが行使していた魔法を模したものを使ってるんだよ》
「大気中の魔素……」
《本当の魔法は自分の魔力を使って発現させるんだよ。ダークヒール見せたでしょ? 使ってみた?》
「いや、まだだ」
《ならさっき見せた【ダークブレット】使ってみなよ。魔力が減るはずだから》
「……わかった」
アーレスは地面に向かい、ダークブレットを放った。
「うっ……、少し力が抜ける感覚が……!」
《じゃあステータス見てみなよ》
言われるがまま水溜まりに能力値を映し出す。
「なにっ!? ま、魔力が減ってる!」
《そ。それが本物の魔法だよ。人間が使う魔法を模した魔法とは威力も何もかもが段違いなんだよ。ダークブレットなんて初歩の魔法で地面に穴なんて開かないでしょ?》
確かに地面には穴が穿たれていた。これが例えば火の初歩魔法【ファイアーボール】だとすれば地面が少し焦げるくらいの威力しかない。
「す、凄い……」
《凄さに気付いた? でも、知らないのは人間だけだからね?》
「え?」
《魔族はちゃんと魔法の理屈を知ってるってこと。だから人間のように信仰したりしないし、隣人のように接してくれるんだ。オイラはここが好きだからいるけど、精霊の中には信仰されたい奴もいるからね~。光の精霊とかね》
「精霊にも色々いるんだな」
《まぁね。それと、オイラは闇の精霊でも下位の精霊だから使える魔法も限られてるんだ。あとは【ダークソード】くらしか教えてあげられないからね。もっと強い魔法を知りたいなら上位の精霊を探し出すことだね》
「探し方は?」
《それは教えられないよ。ちなみに、オイラはマスターの強い恨みの感情で呼び出されたんだ。一度呼び出された精霊は必ず名を名乗る。その名を呼べばいつでも会えるってわけさ~》
「強い恨み……か。なるほど、呼び出し方は一つじゃないらしいな。それがわかっただけでもありがたい」
ウィケッドは身体を起こしアーレスに言った。
《アーレスは数千年ぶりの精霊使いだからね~。できたら他のみんなとも会って欲しいな。頑張って探し出してみなよ。じゃあね~》
「あ……消えた」
ウィケッドはその場でくるりと回転し、姿を消した。
「……決まりだ。俺は精霊を探す。そして本当の魔法を身に付け復讐を果たす! 【ダークソード】!」
アーレスの腕を包むように魔法の剣が現れた。
「魔力は食うけどこれで魔物はなんとかなりそうだ。さて、魔族のいる場所を探そう」
アーレスは闇の剣を片手に、森をさ迷うのだった。
「とりあえず傷は治ったか。ならやる事は一つだな」
ウィケッドの魔法で回復したアーレスはまず自分の能力を確認する事にした。
「──! 闇魔法を習得してる!? まさかさっきので俺も使えるようになったのか?」
この世界の人間は自らの能力を鏡や水面に映し出して確認する事ができる。アーレスは水溜まりに自らの能力を映し出していた。
「剣術や体術はそのままだな。他の魔法は使用不可……か。まさか精霊を呼び出して魔法を見せてもらわなきゃ使えなくなってるとか? すると今ある攻撃手段は体術だけ? 魔族の領域で素手か……」
魔族の領域には人間の領域とは比にならないほど強力な魔物が跋扈している。魔族は人間と違い、無闇に魔物を殺さない。
「職業は……【精霊使い】か。そもそも精霊使いってなんだ? 精霊を使役するのか? いや、でもウィケッドは消えたし仲間って感じでもなかったな。あー……」
アーレスは頭を掻きむしった。
「わけがわからん。とりあえず魔族のいそうな所を探すか。もし武器でも奪えれば多少生存率も上がりそうだし」
能力について考えた所で今は無駄だと割りきり、アーレスは魔力探知を使いながら魔族のいそうな場所を目指して森の中を進んでいった。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
《ガァァァァァァッ!?》
「せいっ!!」
《ゴァァァァァァッ!?》
「くっそ! なんなんだこの森っ! 魔物が強すぎるッ!!」
アーレスは魔物を昏倒させながら逃げに徹していた。攻撃手段が打撃しかない今、この森の魔物を倒す事は不可能だった。
「はぁっはぁっ! キ、キツすぎる! ウィケッド!」
《はいは~い。呼んだか~い?》
闇の精霊の名を叫ぶと再びウィケッドが姿を見せた。
《どうしたマスター? 疲れてるねぇ~》
「こ、攻撃魔法を教えてくれっ! さすがに素手じゃこれ以上進めないっ!」
《攻撃魔法~? 何にする~?》
「俺は闇魔法について何も知らないから何と言われてもわからんっ! おぉぉぉぉっ!?」
突如背後からダークウルフが爪を立てて飛び掛かってきた。アーレスは何とか身をよじりダークウルフの攻撃を躱わす。
《あらら、マスター苦戦中だねぇ。仕方ない、オイラが助けてあげるよ。ちゃんと見ててな、マスター》
「は、早いとこ頼むッ!」
《はいはい、いくよ~》
ウィケッドはダークウルフに対し次々と魔法で攻撃を加えていった。
《君にウラミはないけどマスターに襲い掛かっちゃったからね~。悪いけどちょっと痛い目見てもらうよ。【ダークバインド】》
《キャンッ!》
ダークウルフを黒い触手に似た腕が締め上げる。
「おお!」
《次は~【ダークブレット】!》
動けないダークウルフを黒い弾が貫いていく。
《キャウンッ!!》
《ほらほら、逃げるなら今の内だよ?》
《キャィィィィンッ!》
ダークバインドを解除されたダークウルフは一目散に森の中へと消えていった。
「なぜ逃がした」
《無闇な殺生は良くないからね~。オイラが襲われたわけじゃないし?》
「いやいや、マスターである俺が襲われたんだが!?」
するとウィケッドは人差し指を立て左右に振った。
《ちっちっち。わかってないなぁ~マスター》
「はい?」
《精霊使いは精霊の力を使えるだけで精霊の上位になる職業じゃないんだよ?》
「精霊の力を……使える?」
《そ。どんな魔法でも、個人に適性がなくても呼び出した精霊から魔法を見せてもらえば使えるようになるのさ~》
「……それだけ?」
《うん》
アーレスは地面に崩れ落ちた。
「そ、それだけで俺はあんな目に……? 必死に勉強して身に付けた魔法は消え、国王には罵られ……騎士には暴行され……挙げ句こんな森で死にかけて……!」
《それだけって酷いなぁ。精霊を見る事ができるのは精霊使いだけなんだよ? オイラ達精霊は精霊使い以外には見えないんだ。あ、魔物は別ね。アレは魔素から生まれてるから》
「……見えたからどうだってんだ。魔法なら精霊が見えなくても使えるだろう」
《簡略化された魔法ならね~》
「なに? 簡略化?」
ウィケッドは丸太の上に寝転がり講義を始めた。
《今人間が使ってる魔法は本当の魔法じゃないんだよ》
「ほ、本当の魔法?」
《そ。今人間は大気中にある魔素を使い、かつての精霊使いが行使していた魔法を模したものを使ってるんだよ》
「大気中の魔素……」
《本当の魔法は自分の魔力を使って発現させるんだよ。ダークヒール見せたでしょ? 使ってみた?》
「いや、まだだ」
《ならさっき見せた【ダークブレット】使ってみなよ。魔力が減るはずだから》
「……わかった」
アーレスは地面に向かい、ダークブレットを放った。
「うっ……、少し力が抜ける感覚が……!」
《じゃあステータス見てみなよ》
言われるがまま水溜まりに能力値を映し出す。
「なにっ!? ま、魔力が減ってる!」
《そ。それが本物の魔法だよ。人間が使う魔法を模した魔法とは威力も何もかもが段違いなんだよ。ダークブレットなんて初歩の魔法で地面に穴なんて開かないでしょ?》
確かに地面には穴が穿たれていた。これが例えば火の初歩魔法【ファイアーボール】だとすれば地面が少し焦げるくらいの威力しかない。
「す、凄い……」
《凄さに気付いた? でも、知らないのは人間だけだからね?》
「え?」
《魔族はちゃんと魔法の理屈を知ってるってこと。だから人間のように信仰したりしないし、隣人のように接してくれるんだ。オイラはここが好きだからいるけど、精霊の中には信仰されたい奴もいるからね~。光の精霊とかね》
「精霊にも色々いるんだな」
《まぁね。それと、オイラは闇の精霊でも下位の精霊だから使える魔法も限られてるんだ。あとは【ダークソード】くらしか教えてあげられないからね。もっと強い魔法を知りたいなら上位の精霊を探し出すことだね》
「探し方は?」
《それは教えられないよ。ちなみに、オイラはマスターの強い恨みの感情で呼び出されたんだ。一度呼び出された精霊は必ず名を名乗る。その名を呼べばいつでも会えるってわけさ~》
「強い恨み……か。なるほど、呼び出し方は一つじゃないらしいな。それがわかっただけでもありがたい」
ウィケッドは身体を起こしアーレスに言った。
《アーレスは数千年ぶりの精霊使いだからね~。できたら他のみんなとも会って欲しいな。頑張って探し出してみなよ。じゃあね~》
「あ……消えた」
ウィケッドはその場でくるりと回転し、姿を消した。
「……決まりだ。俺は精霊を探す。そして本当の魔法を身に付け復讐を果たす! 【ダークソード】!」
アーレスの腕を包むように魔法の剣が現れた。
「魔力は食うけどこれで魔物はなんとかなりそうだ。さて、魔族のいる場所を探そう」
アーレスは闇の剣を片手に、森をさ迷うのだった。
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