職業『精霊使い』に覚醒したら人類圏から追放されました(完結)

夜夢

文字の大きさ
2 / 55
第1章 始まり

02 追放

しおりを挟む
 アーレスが連行されて間もなく、町の住民が領主の館に駆け込んだ。

「た、大変だ! アーレス様が神殿騎士達に連行された!」
「な、なんだと!? なぜだ!?」
「わ、わからねぇ! ただ、神官はアーレス様を罰当たりだと……」
「ば、罰当たりだと? あのアーレス様が?」
「「あ! 領主様!」」

 騒ぎを聞き付けたアーレスの父と弟が門の前に姿を見せた。

「罰当たりとはなんだ! アーレスはどうなったのだ!」
「そ、その……腕に手枷を嵌められ、く、首に縄をかけられて王城へと連行されました!」
「バ、バカな! アーレスが何かしたのか!?」
「兄様が……捕まった? な、なぜ──」

 そこにさらにもう一人町の住民が駆けてきた。

「わかったぞ! アーレス様は精霊使いエレメンタルマスターって職業を授かったらしい! それで神官が精霊を使うとは何事だと怒り狂ったらしいぞ!」
「精霊……使いだと!? ア、アーレスッッッ!! あのバカ息子がッ!」
「兄様が……そんなバかな! あれほど優秀な兄様がそんな罰当たりな職業を授かるだなんて!」

 町の住民は領主に言った。

「俺らはアーレス様が好きだった。だが……もうお終いだ。アーレス様は二度と戻らないだろう」
「皆さんッ! 待って下さいッ! きっと何かの間違いで──」
「よせ、ヨハネス」
「父様!」

 領主はヨハネスを制し、怒りを圧し殺しながら領民の前でこう宣言した。

「我が家に息子はお前一人だけだヨハネス。この領地の未来はお前の双肩にかかっている。よりいっそう励め。どこぞの愚か者に負けぬようにな」
「父様!」

 領主はヨハネスを残し屋敷の中に消えた。

「ヨハネス様、この領地を頼みますよ。精霊様の怒りに触れたら終わりですからね」
「皆さん──ッ!」

 町の住民達は気落ちした様子で屋敷を離れて行った。気落ちするという事はそれだけアーレスに期待していた表れだろう。

「兄様……、なぜ兄様が……!」

 この数日後、アーレスの生まれた国【バルガス王国】の王城、その玉座の間に捕縛されたアーレスの姿があった。

「精霊様を使うだとッ!! 貴様ぁぁぁぁッ! 己の立場を弁えんかぁぁぁぁぁッ!! 精霊様を使役することで怒りにでも触れられてはかなわんッ!! よって貴様を人の住む領域から追放処分とするッ!!」
「ま、待って下さい国王様! 俺は──」

 この横暴ともいえる裁きに対しアーレスは堪らず声を上げてしまった。

「ワシに直訴だと? 貴様は貴族の規則すらままならぬ愚か者か! もう良い、これは決定だ! 誰ぞその愚か者を魔族の住む領域に捨てて参れッ! 貴様は二度と人の住む領域に立ち入るでないぞ! もし立ち入った場合は有無をいわさず処刑とするッ!!」

 この裁定を受け、騎士達がアーレスを抱えあげた。

「は、離せぇぇぇぇぇぇッ!! たかが職業で追放処分なんてあんまりだッ!」
「黙れ。これは王の裁定である。従わぬ場合は今ここで処するぞ!」
「こ、こんなの……あんまりだぁぁぁぁぁっ!」

 アーレスの叫び虚しく直ちに刑は執行された。アーレスは鎖に繋がれたまま馬車の荷台へと押し込まれ、数ヶ月かけ人の住む領域と魔族の住む領域の境に連行されていった。

 アーレスが追放者として魔族領へと連行された事は父にも書簡で告げられだが、父は受け取った内容を流し読みしたのち、沈黙を保ったまま破り捨て暖炉の中へと放り込んだ。

「ヨハネス、アーレスという愚か者が魔族の住む領域に廃棄処分となったそうだ」
「アーレス? 我が家にはそのような者はいませんが。どちらの方でしょうか?」

 あれほど兄を慕っていた弟の目にはもう兄など写っていなかった。弟はアーレスに対する思いを全て捨て去り、最初からいなかった事にしていた。

「……そうだな。それで良い。お前だけが頼りだ。ヨハネス、より励むのだぞ」
「はい、父様」

 一方その頃、アーレスは馬車での移動中、絶え間なく騎士達に暴行を受け続けていた。長く美しかった黒髪は無惨に切られ、整った顔は痣だらけになっていた。

「将来有望だった貴族様もこうなっちゃお終いだな。おっと、これは暴行じゃねぇぞ? 精霊様を敬っているからこその対処だからな──!」
「ぐふ──ッ! がはっ──くぅッ!」
「おいおい、あんまり馬車の中を汚すなよな。おら、吐き出したモノは舐めて綺麗にしとけ」
「ガア──ッ!!」

 血を吐き出すと頭を床に踏みつけられ、綺麗にするまで痛め付けられる。アーレスは死んだような目で徐々に人の心を失っていった。

 そうして散々痛めつけられ、王国を出発してから二ヶ月後、アーレスは魔族の領域へと棄てられた。

「ないと思うがよ、もし貴様が人の住む領域で発見されたら即処刑だからよ?」
「なあ、いっそ今殺しちまわねぇか?」

 騎士の一人が腰にある剣に手を伸ばした。

「やめときな。あんな犯罪者でもまだ一応人だからな。理由もなく人の命を奪った瞬間精霊の加護は消える。あいつはまだ精霊を使っちゃいねぇからな。行くぞ」
「ちっ」

 アーレスは囚人服を着せられ、魔族の住む領域へと放り込まれた。そこは深い森となっており、そこら中で獣の雄叫びが巻き起こっている。

 アーレスは仰向けになったまま、馬車が遠ざかる音を危機ながら天に向かい叫んだ。

「はぁ……はぁ……。クソ……ッ! クソォォォォォォッ! 俺が何をしたっていうんだッ! ただ職業を授かっただけじゃないか!! 精霊使い……!? それがなんだっていうんだ!! ……許さん……、絶対に許さんッ!」

 全身傷だらけで無惨な有り様にされたアーレスは天に向かい拳を突き上げた。

「精霊使いを悪と決めつけた神官……! 話も聞かずに俺を断罪した国王! そして……散々痛ぶってくれた騎士!! 俺はお前らを許さない……。必ず生きて復讐してやる……ッ! 覚えておくがいいッ!!」

 清く正しかったアーレスの心が黒く濁ったものへと変わっていく。するとそんなアーレスの隣に黒い霧が現れ、徐々に人に似た姿へと変わっていった。

「な、なんだ……?」
《やあ、精霊使いエレメンタルマスター。オイラは闇の精霊【ウィケッド】だよ》
「闇の……精霊!? せ、精霊の姿が見えるのか!?」
《そりゃそうだよ。君は精霊使いだからね。見えて当然──っていうかオイラの姿を見ても怖がらないんだな》

 闇の精霊は小さな人型の魔物のような姿をしているが、アーレスに恐怖はなかった。

「なぜ怖れる必要がある……。俺は見ての通りボロボロだ。殺るならさっさと殺れよ」
《殺る? なぜオイラがマスターを殺るんだい? 精霊はマスターに従うもんだよ。とりあえずその傷と髪を治しちゃお。【ダークヒール】》
「うぉっ!?」

 アーレスを黒い霧が包み込む。すると全身にあった痛みが消え去り、無惨に切られていた黒髪が美しさを取り戻した。

《おぉ~、綺麗な黒髪だ! オイラ羨ましいぞ!》
「き、傷が治った……のか?」
《オイラが治してやったんだぜ! 感謝しろよなッ、マスター!》
「あ、ありがとう?」

 アーレスは回復した身体を起こし、ウィケッドに頭を下げ礼を述べた。

《なんのなんの。この辺りは闇の領域だからな~。なんかあったらまた呼んでくれよッ、マスター。じゃあな~》
「あ……」

 そう言い残し、ウィケッドは再び黒い霧となり姿を消した。

「呼ぶ? 俺が呼んだのか? あの精霊を? ……どうやって?」

 アーレスはウィケッドが消えた跡を見つつ、首を傾げるのだった。  
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...