職業『精霊使い』に覚醒したら人類圏から追放されました(完結)

夜夢

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第1章 始まり

07 堕天使ラフィエル

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 魔王軍は四つの軍団で構成されている。

 まず一つは魔王軍参謀であるベリアル率いる悪魔軍。これらはデーモン族が主だった面子だ。
 
 次にレザニア率いる獣魔軍。これらは魔獣や獣人が所属している。

 三つ目はウルスラ率いる不死軍。これらはゴーストやアンデッドといった不死の者たちで構成されている。

 残る四つ目が未だ見ぬ幹部【ラフィエル】率いる堕天使軍だ。ミリアム曰く、この軍団は天界を追放された堕天使で構成されているのだとか。しかしアーレスは当の天界を知らないため、今一つ堕天使というものを理解していない。

 そしてこの四つの軍団を指揮しているのが魔王アリアであり、ミリアムはどこにも属していない。

 アーレスは改めてミリアムに尋ねた。

「ミリアム、お前はなぜどこにも所属していないんだ? サキュバスクイーンならベリアルの軍団じゃないのか?」
「私があの変態の部下なんかになると思います?」
「……全く想像がつかない」
「私がどこにも属していない理由は、私がアリア様に次いで強いからなんですよ~。もし仮に私一人とベリアルの軍団全員が戦になっても私が勝ちます」

 ミリアムは自信満々にそう言ってのけた。

「へぇ~。門番の態度から推測はしていたが……。ミリアムはそこまで強かったのか」
「はいっ! だから常に私と一緒にいる事をオススメしますよっ」
「いや、自分の身くらい自分で守れるし」
「そんなぁ~!」

 魔王アリアとの修行を積んだアーレスは現時点で魔王アリアに並ぶ強さを誇っている。魔王アリアは精霊召喚士であり、召喚した精霊を味方にして戦う。アーレスのように精霊の魔法を身に付けられるわけではないため、今後の修行次第でアーレスが魔王アリアに勝つ未来もありえなくはない。

「ところでミリアム」
「なんです?」

 アーレスは未だに姿を見せないラフィエルの事を尋ねた。

「ああ、ラフィエルですか~。あの方は本っ当に気まぐれなので」
「ふむ」
「魔王様から招集命令があっても守った試しがありません」
「それでよく幹部がやれてるな……」
「えぇまぁ。堕天使は強いですから」

 ここでアーレスは堕天使について尋ねた。

「ミリアム、俺は今まで天使とか天界とか堕天使とか全く知らない世界にいたのだが……。ちょっと俺にもわかるように説明頼めるか?」
「うんっ」

 ミリアムの説明によると、この惑星ギガアースには三つの世界があるそうだ。

 一つ目は地表深くに存在する【魔界】。ここは魔王アリアの親である大魔王が支配しているらしい。この世界に陽は昇らず、四六時中闇が支配しているのだとか。

 二つ目はここ地上世界だ。ここについては説明は不要だろう。

 そして先ほど話に出た【天界】。ここは様々な神が存在するらしい。このらしいというのも、こちら側から天界へと渡る方法はなく、向こうを知る者は堕天使しかいないという理由からだ。

 堕天使は堕とされた瞬間に天界へと渡る手段を封じられ、二度と天界に入る事ができないのである。堕ちていない天使ならば往来は可能だが、神の遣いである天使が地上に現れるという事はそれこそ地上世界の終わりと同義なのである。そのため、天界についてはほぼ何もわかっていない事が現状だ。

「堕天使がまたなんで魔王軍に?」
「それはまぁ、堕天使ですから。堕天使は神に逆らった者。精霊神を信仰の対象としてる人間の領域には住めやしませんよ~。ラフィエル達もまた、アーレスさんのように迫害や追放されたんです」
「……そうか。それが魔王軍にいる理由か」

 アーレスは堕天使達に同情を禁じ得なかった。アーレスは職業で追放され、堕天使は種が理由で迫害された。言うなればアーレスと堕天使達は同じ立場にあるという事になる。 

「なるほどなぁ。追放された同士か。それは気が合いそうだ」
「え? ま、まさかアーレスさん……。まだ側室増やす気ですか!? これ以上はさすがに許容できませんよ!?」
「バッ──何を言ってるんだ! 俺はただ同じ境遇だからわかりあえるんじゃないかってなぁ!」
「増やすなら魔王様の許可をもらうんですね! ふ~んだっ!」

 ミリアムはまだ接触すらしていないラフィエルに嫉妬するのだった。

 それから日々魔王アリアに魔法主体の戦い方を習いつつ、ラフィエルについて話を聞いていった。

「ラフィエル? ああ、あやつは魔王軍幹部ではあるが、行動を縛ったりしてはおらんのだよ」
「つまり自由にさせてるって事?」
「うむ。ラフィエルについては妾も奴が今どこで何をしておるかわからぬ」
「ふ~ん。結構ユルいんだな、魔王軍って。もっと規律とかうるさいと思ってたよ」

 魔王は汗を拭きながらアーレスに言った。

「ふぅ。規律など必要ない。妾は魔王を名乗ってはいるが、それは魔界にいる父の威光を受けての事じゃ。従いたい者は従えば良いし、従いたくない者は従わなくても良い。妾はここを地上にいる魔族や行き場を失った者が幸せに暮らせる楽園にしたいのじゃよ。そんな場所に堅苦しい規律など不要。そうは思わぬか?」
「まぁ……な」

 ここ数日、アーレスは修行の時間以外をラフィエルの捜索に充てていた。そこで見た住民の姿は誰もが幸せそうに暮らし、争い一つなかった。このように平和な領地はアーレスがいた国には一つもない。 国を追放され荒んでいたアーレスの心も徐々に穏やかさを取り戻していった。

 そんなある日、いつものようにダンジョン内にある町を探索している時、一軒の店が目に入った。

「あれは……酒場か? ふむ……」

 アーレスは酒が飲める歳になったは良いものの、そのまま捕縛され追放されており、まだ一滴も酒を口にしていなかった。あの騒動がなければ屋敷で盛大な誕生パーティーが開かれていたのだが、アーレスが二十歳の誕生パーティーを楽しむ機会はなかった。

「……ちょうど良い。誕生日はだいぶ過ぎたが一人で祝うとするか」

 そう決めたアーレスは酒場の扉を開き、固まった。

「うぉりゃ~! あたしは魔王軍幹部ラフィエル様だぞ~! 早く酒もってこ~いっ!」
「た、ただいまぁぁぁぁっ!」

 それを遠巻きに客が見ていた。

「また飲んだくれてるよあの人……」
「あの人酔うと暴れ出すからなぁ……。完全に酔っ払う前なら奢ってくれたりするけどさぁ」
「さて、帰るか。今日はどうやら泥酔しちまってるようだしな」

 ラフィエルの酔っ払い具合で危険を察知した客が次々と席を立ちアーレスの脇を通り過ぎていった。

「あんたも絡まれない内に退散した方が良いぜ? 酔っ払ったラフィエル様は性質タチが悪いからなぁ」
「全くだぜ。あれだけ酒で失敗してんのに懲りずによく飲むよなぁ」
「あ、あれが最後の幹部……堕天使のラフィエル……だと!?」

 改めてカウンターを見ると、そこには漆黒の翼を生やした赤い髪でアホそうな堕天使が並々とエールが入ったジョッキを豪快に傾けていた。

「にゃはははは~! あたしはこの酒が飲みたくて堕ちたと言っても過言ではな~いっ! 店主! おかわりっ!」
「は、ははぁぁぁぁっ!」 

 アーレスは声を掛けるか迷った末、一応挨拶だけはしておこうと酒場に足を踏み入れるのだった。
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