職業『精霊使い』に覚醒したら人類圏から追放されました(完結)

夜夢

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第3章 打倒、聖フランチェスカ教国編

02 頼りになる仲間?

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 一人東へと向け旅立ったアーレスを追う影が一つ。つかず離れずついてくる気配に痺れを切らし、アーレスは後ろを振り向き声を掛けた。

「はぁ、母さん。ついてきてるのはわかってるから出てきなよ」
「あら~? バレてた?」

 アーレスを追っていたのはアーレスの母で、邪神ヘルに身体を再構築された聖女ヘラだった。ヘラはぴょんっと木の影から姿を見せた。

「何のつもり?」
「もちろんアーレスちゃんを助けるつもりよ!」
「いや、別に俺一人でも……」
「ダメよ!」
「へ?」

 ヘラは人差し指を立てながらアーレスに身を寄せる。

「アーレスちゃんに一人旅なんてさせられないわっ!」
「な、なんでだよ」
「それは……自分の身に聞いてみなさい。アーレスちゃん、一人にしたらあちこちに子ども作って歩くでしょ!」
「んなわけあるかよっ!? なに言ってんの!?」

 とんでもない疑惑を持たれていた。 

「だって! バハートスでは──」
「おっとそこまでだ。それ以上この話を続けると後悔するぞ」
「後悔?」
「そうだ。二度と一緒に寝て──」
「さあ行きましょう! 打倒聖フランチェスカ教国よっ!」
「はぁぁ……」

 どうやらヘラは本気で一緒についてくるようだ。

「なあ、本気でついてくるの? それにさ、母さんって戦えるの?」
「ふっふっふ~。私を以前の私と一緒にされちゃ困るわ。なにせ今の私は邪神ヘル様の思念体と同化してるのよ?」
「……ああ、あの色狂いの」
「誰が色狂いよっ! あれは君が凄すぎるからで!」

 このようにふとした瞬間に邪神ヘルが表に出てくる。この人格が入れ替わっている間、ヘラに記憶はないと言っている。

「と、とにかく! 精霊神を崇拝してる奴らなんて私に任せなさい。あのクソジジイのおかげで天界の片隅に幽閉されてたんだから! その信徒は残らず消し飛ばすわっ!」
「よほど恨んでいるみたいだな」
「当然よ。私とルシファー、そして酒呑童子の三柱は本気で精霊神に抗うわ。そして……逆に幽閉してやるんだからっ!」
「でかい夢だな。できるのか?」

 するとヘルは胸を張りながらこう口にした。

「もちろんっ! 神の強さは信仰心で決まるの。今まではこの世界にある命のほとんどが精霊神を信仰してたけど……あなたが今の流れを作ってから徐々に精霊神の力は減っていってるのよ。そして! おそらくもう少ししたら酒呑童子も降りてくるかも」
「は? 何しに??」
「決まってるじゃない、地上世界のお酒を飲みによ」

 アーレスはジト目でヘルを見る。ヘルは本気で言っているようだ。

「酒って……。まるでラフィエルじゃないか。そんな理由で降臨してくる神っていまいちありがたみが……」
「酒呑童子は今の君より強いわよ?」
「なにっ!?」

 ヘルの口から酒呑童子の強さについて語られる。

「酒呑童子が外道丸という人間だった頃はね、そりゃもうモテモテでだったわけ。で、毎日毎日数々の女に言い寄られてたのよ」
「へぇ~……」
「でも当時の外道丸はストイックでね。そんな女達を無視して修行に明け暮れていたの」
「……なんか俺みたいだな」
「いや、君はやりまく──」

 しばらくお待ち下さい。

「で?」
「はぁはぁ……っ。もぉ~っ、今日も凄いんだから……」
「続き」
「つれないわねぇ」

 ヘルは身形を整えながら話を続ける。

「で、ある時それまで読まずにたまったラブレターをまとめて燃やしちゃったのよ」
「そいつは酷いな」
「まあ……当時は女なんかいらないって堅物だったのよ。でも、焼いたのが不味かったのよね」
「なぜ?」
「手紙ってね、書いた者の想い……つまり思念が宿るのよ。それが恋心ならそれはもう物凄い思念がね。で、読まれたならまだしも、読まれずに燃やされた思念は一気に怨念に変わり、外道丸に襲い掛かったのよ」
「……これはあれか、真夏の怖い話とか?」
「実話よ」

 アーレスは生唾を飲み込んだ。戦って勝てる相手ならまだしも思念相手に戦えるはずもない。アーレスは話の内容に恐怖を感じていた。

「そ、それで外道丸はどうなったんだ……?」
「煙に包まれた外道丸は絶世の美少年から筋肉ムキムキの鬼に変わってしまったのよ」
「マ、マジか!?」
「ええ。それから外道丸は酒呑童子と名乗るようになり、鬼の軍勢を率いる頭領になり、酒と女と暴力を嗜むようになったのよ」
「生き方真逆じゃんか」
「今の君みたいよね?」

 しばらくお待ち下さい。 

「んはぁっ、はぁっ、はぁっ! 御褒美ありがとうございますぅぅぅぅぅっ!」
「真面目に話そうな」
「……はい。そうして鬼の頭領になって暴れまわった酒呑童子は勇者に倒されたの。でも、酒呑童子には多くの仲間と子孫がいてね。例え倒されたとしても信仰を失わなかった。その結果、酒呑童子は天界に招かれ、そこで鬼神となったのよ」
「なるほどなぁ。でもなんでまた幽閉されてたんだ?」
「そりゃあ……女神食べまくっちゃったからよ」
「……同情の余地がない」
「酒呑童子は女神を堕落させた罪により、精霊神から罰せられて幽閉されたのよ。そうして徐々に力を失っていったんだけど、最近になってまた信仰心を得て力を取り戻してきててね。今の地上世界は酒呑童子にとって懐かしい戦乱真っ只中の当時そのもの。血が滾っててもおかしくないわ。依り代を見つけ次第降臨待ったなしね」

 ここでアーレスはヘルに質問する。

「そんな危ない奴が降臨してきたら大変じゃないか。俺より強いなら止められそうにないし」
「ああ、そこは心配いらないわ。だって私の方がもっと強いもの」
「え?」
「私は戦いが嫌いだから本気は出さないだけで、身を守るためなら本気を出すわよ。腐っても邪神だからね。鬼神に負けるなんてありえないわよ」
「神……か。こう見えてもちゃんと神なんだよなぁ」
「もっと敬っても良いんだからね? っと、そろそろヘラが目を覚ましそうね。とにかく! まずは酒呑童子を探して味方につけなさい。多分酒場か娼館を探せばいるはずだから」
「あ、おい!」

 ヘルの首ががくんっと落ちる。アーレスは倒れないようにと身体を支えたところでヘラの意識が戻ってきた。

「……アーレスちゃん?」
「なに?」
「私の身体……何か変だわ。もしかして……」
「俺は何もしてないぞ。さ、次の目的地が決まった。陽が落ちる前に町に向かおう!」
「あ、ちょっとアーレスちゃん! 垂れてきてるんだけどぉぉぉぉぉっ!」

 こうしてアーレスは二柱目の神酒呑童子降臨の話を受け、酒呑童子があらわれそうな町を目指し新天地へと向かうのだった。
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