仲間に裏切られた勇者、事実を知り奮い立つ! ~世界を救う勇者アインの物語~

夜夢

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第1章 はじまり

第08話 王都フレメリア

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 計画はこうだ。まずはアリアに可能な限り被害に遭った者を集めさせる。そして主犯格である第二王子【ガレイル・マードレック】。この人物をアインがスキルで操り、加害者全てを集めさせ、アリアの集めてきた被害者の前に突き出す。そこから断罪が始まる。おそらく加害者達には二度と幸福な未来は訪れないだろう。

 林の奥で一泊した二人はそれぞれ計画に沿って行動を開始する事にした。

「ではアイン。私は被害者たちを集め王都近くの村で待つ」
「ああ。俺は今から王都に行き第二王子と加害者全員を連れてくるよ」

 さも当然のように告げるアインを心配し、アリアはもう一度確認した。

「本当に大丈夫なのだろうな。止めるなら今だぞ?」
「大丈夫だよ。正しい者がばかを見る現実など歪んでいるからな。これは魔王ディザームに対する反撃の狼煙だ。誰もが言いなりになるわけではないと知らしめる」
「わかった。そこまで決意しているならもう止めんよ。この国は狭い。被害者も直ぐに見つかるだろう。一ヶ月だ、その間で全員集める。合流は今から一か月後、場所は王都近郊の村【クランベル】だ」
「ああ。じゃあ行動開始だ」

 二人は拳を合わせ目的に向かい動き出した。アリアはまず西に向かい、アインは当初の予定通り北にある王都へと向かう。途中合流予定のクランベルの様子を確認し、一泊した後王都を目指した。

 アリアと別れてから三日後、アインはマードレック王国王都【フレメリア】に到着した。

「いつぶりの王都だっけ。あまり変わってないな」

 アインは町の様子をみて懐かしさを覚えていた。しかし、建物は当時のまま変わらず残っていたが、住民の様子は当時とは全くかけ離れていた。住人達には活気がなく、路上に座り込む者も多くいた。

「なぁ兄ちゃん……昨日から何にも食ってねぇんだよぉ……。なにか食うもん持ってねぇか?」

 ここで施しを与える事は容易だ。だがそれでは一時の救済にしかならず、真の意味で目の前の生活困窮者を救済する事にはならない。アインは地面に座り込む男にこう言った。

「俺は今あなたを救う事ができない。だが、食べる事に困っているなら聖神教会に行けば良いはずだ。教会では炊き出しをしているのではないか?」
「教会……か。そんなもんここにはもうねぇよ」
「え? き、教会がない!? そんなバカな! 教会はどの町にも必ずあるはずだ! 今も魔国と戦っているだろう?」

 地面に座る男は項垂れながらこう告げた。

「第二王子だよ。あいつが教会に火を放った」
「な、なんだと!?」
「あの野郎は魔国に恭順の意を示しやがったんだ。一昨日奴は騎士団を率いて国王を投獄し、兄である第一王子を殺害した」

 男は人生に疲れたような表情でアインに言った。

「世界で一番魔国から遠いこの国ですらこんな状態だぁ……。俺ぁこの国を出た事がねぇから知らねぇがよぉ、この世界はもうお終いだ。勇者アインも死に、その仲間だった奴らが世界を支配してんだ。冒険者組合? 聖神教会? 所詮勇者アインの足元にも及ばなかった奴らが力を合わせた所で勝ち目なんてあるわけがねぇ。もう食いもんは良いわ……。俺は無惨に殺されるより餓死を選ぶわ……」

 そんな男にアインはこう尋ねた。

「諦める前に一つ尋ねる。あんたはこうなる前何をしていたんだ?」
「ああ? 俺は焼き討ちされた教会で建物の管理をしていた管理人だよ。俺以外の教会関係者は騎士団に連行されてっちまった。俺は運よく買出しに出てたから難を免れたが……。司祭様やシスター、子どもらは全員連れて行かれたんだ」
「……そうか。第二王子はそこまで愚かだったか」
「ああ。魔国に従うフリをしていた国王は投獄され、後を継ぐはずだった第一王子は死んだ。もう数日もしたら第二王子が国王として名乗りを挙げるだろうよ。まぁ……俺はその頃もう死んでるだろうがな」

 アインは死んだ目をした男に手を差し伸べた。

「まだ人生を諦めるには早いぞ?」
「あ?」
「俺の手をとるんだ。そしたら奇跡が拝めるかもしれないぞ?」
「奇跡だ? はぁ、何言ってんだあんた。奇跡なんてもんはありゃしねぇんだよ。神を信仰していた司祭様でさえ捕まったんだぞ」
「それは俺がいなかったからだ。必ず俺がこの国を正しい姿に戻してやる。それを見届けてまだ死にたいと思うならその時は好きにしたら良い。さ、手をとれ。まずは教会から元に戻して見せよう」

 男は怪しみながらもどうせ短い余生だと割り切り、アインの手をとった。そして地面から男を引き起こしたアインは教会の跡地に向かった。

「あんた、もしかしてこの町に来たことが?」
「昔な。教会の場所は変わらずか?」
「ああ。町はずれの荒地だ」

 そうして二人は町はずれにあった教会の跡地に向かう。そして教会の跡地を見たアインは眉をひそめた。

「第二王子は神を神とも思わぬ愚者のようだな。教会に火を放つなどと……。愚かな者には必ず神罰が下るだろう」
「ああ、是非ともそう思うよ。ところで……俺はもう限界なんだがな。奇跡とやらを拝ませてくれるなら早くしてくれないか?」
「おっと、そうだったな。では今からお見せしよう。さあ刮目せよ!」

 アインは焼け落ちた瓦礫に向かい手をかざした。

「なぁ、本当に教会は焼け落ちたのか? あんたの見間違いじゃなかったか?」
「はぁっ!? はぁぁぁぁぁっ!? 嘘だろっ!? なんで瓦礫が元通りに!? 俺はついに死んじまったのかっ!?」
「はははっ、大丈夫だ。あんたはまだ生きているし、目の前の教会も現実だ。中でも確かめてきたらどうだ?」
「ゆ、夢だ……。これは夢にちげぇねぇ……」

 男はフラフラと教会の中に進み、一時間後に戻ってきた。その手には食べ物があり、死んだ目も生き返っていた。

「あんた、いったい何をした!? 確かに教会は焼け落ち、思い出も何もかも失われたはずだ! それがこんな……! 俺が買出しに出た時のままじゃないか! これが現実!? 俺が都合の良い夢を見ているだけじゃないのか!?」
「何度も言うがこれはまぎれもなく現実だ。俺のスキルで修復したんだよ。そして……連れ去られた司祭やシスター、それに子ども達も俺が必ず救い出す。奇跡はまだまだ続くぞ。あんたはここで待っていいてくれ。俺を信じてな」
「……頼む! 皆を助けてやってくれっ! 俺達は慎ましく穏やかに暮らしていただけなんだ! 神は正しき者に救いの手を差し伸べてくれるんだろう!?」
「ああ。もうすぐ全てが元通りになる。これで子どもたちのために食材でも買っておいてくれ」

 そう言い、アインは男に金を手渡した。

「あ、あんたが神じゃないのか……! こんな奇跡があるのか……っ!」
「正しく生きてきたご褒美じゃないかな。現に今から愚か者には罰が下るだろうからな。では後を任せた」
「あ、ああっ!」

 アインは夜まで町の中に潜み、深夜王城へと侵入するのだった。
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