仲間に裏切られた勇者、事実を知り奮い立つ! ~世界を救う勇者アインの物語~

夜夢

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第1章 はじまり

第12話 アイン、婚約す!?

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 アインはユーリカを連れ城に戻った。門を守る騎士とはもう顔馴染みになりつつあり、顔パスで通過できてしまっている。

「アイン様、お疲れ様です」
「ありがとう。城門の警備お疲れ様」
「はっ! ささ、お通り下さい」

 隣にいるユーリカの事には一切触れる事なく城内に通された。それだけ信用されているのだろう。

 城内に入ったアインはユーリカを連れ真っ直ぐ王の私室に向かった。

「失礼します、アインです」
「入って良いぞ」

 アインは扉を開き中に入った。王は寝ているかと思いきや机に座り書類仕事に精を出していた。

「もう回復されたのですか?」
「まだ全快ではないがのう。回復魔法で少しな」

 王の視線がユーリカに向く。ユーリカは王の視線を感じると何故かアインの背に隠れてしまった。

「連れてきてくれたか。その娘がユーリカか……」
「はい。ユーリカ、君の父君に挨拶を」
「は、はい……」

 ユーリカはおずおずとアインの背から姿を見せ、王に向かい頭を下げた。

「初めまして。私はユーリカと申します。事情はアイン様から聞きました。私が王女でお父様は私を守るために教会に預けたそうで……」
「うむ。苦労をかけたの、ユーリカ。話が通っておるならワシから言う事は一つじゃ。ユーリカよ、これからこの城にて暮らし、ワシの跡をユーリカに任せたい。この国の女王となってはくれまいか」
「それは……」

 ユーリカは真剣な眼差しで王に向かいこう宣言した。

「私は王女だったかも知れませんが、育った場所は教会です。教会は魔国クリミナルと戦っています。ですがこの国は魔国クリミナルに従う方針なのだとか。私は教会の教えに従い魔国クリミナルに抗います。ですのでこの国の女王にはなれません」

 幼いながらにユーリカの考えはしっかりしたものだった。

「なるほど。ならば我が国がクリミナルに従わないと宣言すればなってもらえるのかの?」
「はい。魔国クリミナルは悪魔の国です。あの国は世界に混乱をもたらしております。私は……あの国だけには従いたくないのです」
「ふぅ……、そうか」

 王は溜め息を吐いたのち、ユーリカに向けこう言った。

「ユーリカよ。この国は魔国クリミナルから一番遠い国じゃ。それにも関わらず犯罪者は増える一方じゃ。何故犯罪者が増えるかわかるかの?」
「はい。それは民の間に格差があるからに他なりません。悪事を働いても許されるなら貧しき者は悪の道にはしってしまいます。その方が楽に生きられるからです」
「うむ。ではその格差を失くすためにはどうしたら良いかわかるか?」
「はい。国民一人一人同額の税をとるのではなく、収入に見合った税にするべきです。しかし、そのためには一般の者の識字率を上げ、しっかりとした教育をホドコス必要があります。つまり、国が率先して民に知識を学ばせる場所が必要となるでしょう」
「それだけか?」

 ユーリカは首を横に振った。

「いえ。まずは国民の数を正しく知り、管理しなければなりません。各領地ごとに国民の収入、家族構成を記載させましょう。そのための新しい機関を作る必要があります」
「……うむ。どうやら司祭の教育はしっかり行き届いているようじゃな。ユーリカよ、ワシが存命の間は王女となり、今言った機関を発足させよ。そしてワシが亡き後はその功績を引っ提げ女王となってくれ。ワシにユーリカの力を貸してくれ」
「は、はいっ! まだ若輩ではありますがよろしくお願いいたしますっ!」
「うむ。してアインよ」
「はい?」

 王はユーリカの能力確認を終え、今度はアインに話をふった。

「お主、妻はおるのか?」
「俺に妻ですか? いえ、おりませんが」
「そうか。ならユーリカなどどうじゃろうか?」
「「えっ!?」」

 アインとユーリカは同時に驚き声を発した。ユーリカの顔は真っ赤に染まっていた。

「なにを言われますか、国王。俺は……」
「ユーリカでは不満かの?」
「いえ、不満はありませんよ。ですが……あ~、もう良いか。スキル解除」
「んん?」

 アインは王に掛けていた現実改変を解除した。

「俺は守護騎士でもなんでもない。だからユーリカとは結婚できませんよ、国王」
「ふむ。なにかしていたのか。だが、アインよ。お主はバランの関係者なのじゃろう?」
「え?」

 王はアインの腰にある聖剣デュランダルを指差した。

「それはワシの守護騎士であったバランに与えた剣じゃ。そのバランから剣を譲り受けたのじゃろ?」
「まぁ……はい。俺はバランの息子です」
「息子か。ならば身元もハッキリしておるし、何よりワシはバランに信をおいておった。ユーリカの相手にこれほど相応しい相手はおらぬじゃろうて。ユーリカも満更ではない様子じゃしのう?」
「はぅぅぅ……」

 ユーリカは茹でダコのようになっていた。

「……無理ですよ」
「え?」
「ふむ。理由でもあるのかの?」

 アインは王を真っ直ぐ見て理由を告げた。

「俺は魔国クリミナルに行きます。そして魔王ディザームを討ち、かつて勇者の仲間であり、今は魔に堕ちたマーリンとミューズを解放しなければなりません。それが神フレキシオスから与えられた俺の使命なのです」
「え!? 神フレキシオスといえば勇者アイン様の守護神では……!」

 ユーリカは教会で育った。勇者の事を知っていても不思議ではない。

「……そうか。お主は神に勇者アインの後を任せられたのじゃな。ならば余計に立場が必要なのではないか?」
「立場ですか」
「うむ。勇者アインはかつていくつもの功績を掲げ、様々な国から承認を受け勇者と名乗れるようになった」
「いや、確かにそうですが。俺は勇者という肩書きが欲しいわけではありませんので」
「肩書きは必要じゃろう。冒険者組合の力が衰退した今、国間を渡り、大陸を渡るためにも肩書きはあった方が良い。ひとまず将来の女王の夫としての地位を受けよ。その方が打倒ディザームへの近道となろう。今、民は勇者という希望を望んでおる。アインよ、お主が希望となるのじゃ。女王の夫という肩書きをもって国を回り、希望を与えていくのじゃ。我が国のように従いたくはないが従わなければならない国など山ほどあろう。それらの国を救い、まずは勇者となるのじゃ」

 アインは別に勇者と名乗りたいわけではなかった。だが今の王の言葉を聞き、勇者とは肩書きだけではなく、救いを求める者の象徴であると改めて自覚した。

「……話はわかりました。ですが俺は良くてもユーリカは……」
「わ、私なら何も問題ありませんっ! あ、問題はまだ成人してないので結婚できない事ですが!」
「じゃそうじゃ、まあ今は婚約で構わぬじゃろう。数日後、ガレイルの処刑と共に民に宣言を出す。アインよ、ユーリカを頼む」
「……わかりました。これも民を救うためですから」
「うむ。ではアインには変わらず守護騎士の任を続けてもらおうかの。宣言後は自由に動いてくれて構わぬからの」
「はい」

 こうしてあれよあれよという間にアインの結婚が決まっていった。この時アインは知識の大切さを身に染みて実感していた。

「くそう……、一国の王ともなれば口が上手すぎる……。なし崩し的に囲われた気分だ。本当に近道になるんだろうか……はぁ」

 この二日後、城にアリアが駆けつけるのだった。
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