仲間に裏切られた勇者、事実を知り奮い立つ! ~世界を救う勇者アインの物語~

夜夢

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第1章 はじまり

第22話 ドワーフ

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 リーリエ到着から数日後、ドワーフ五名は家族全員引き連れ拠点に現れた。

「な、なにこの外壁!?」
「この鋼鉄の外壁は……軍事国家バウエッセンの?」
「え? バウエッセンってあの!?」

 ドワーフの男が外壁を見上げる。

「間違いない。これはバウエッセンの外壁だ。百年前に俺も手伝った事があるからわかる。なぜこんな所に……」
「お父さん、それよりあの門見て! 何か変じゃない?」
「門? バウエッセンの門は普通の鉄門だったが……」

 見ると門に向かい跳ね上げ式の橋がかかっている。その橋の向こうに奇妙な門が一行を待ち構えていた。

《ここを通りたければ私に触れると良いでしょう。鍵は掛かっておりませんが、通れるかどうかは貴殿方次第でしょう》
「お父さん、門が喋ってるよ!?」
「喋る門……? まさか審判の門か!? この堀といい外壁といい……。そこに審判の門まで組み込むとは! これを作った者は素晴らしいセンスをしているな!」
「ちょっとお父さん? 喜んでる場合!? 審判の門ってなに!?」
「うむ」

 ドワーフの男は娘達に向かいに説明した。

「じゃあ敵意がなきゃ良いの?」
「まあ、そうなんだがな。だが思うだけじゃだめだ。審判の門は心の底、深層心理まで介入してくる。その人間そのものを審判するのだ」
「えぇ……、けど私達まだ中の人知らないし?」
「それは大丈夫だ。敵意さえ抱かなければ入れるはずだ。どれ、俺から試してみよう」
「だ、大丈夫なの!?」

 ドワーフの男が門に触れる。すると扉は開かず、そのまま扉の中へと消えていった。

「お父さん!?」

 しばらくしてドワーフの男が扉から頭だけ出した。

「は、早く来いお前ら! 中はもっと凄いぞ!!」
「え?」
「こりゃ帝国なんぞ相手にもならんかもしれんぞ!」
「あ、消えた。皆、行ってみる?」
「「「「行く!」」」」

 そうして次々とドワーフ達が審判の門を越え、全員が拠点の中に入った。

「な、なにここ!? まるっきり要塞じゃない!」
「あ! 先輩っ!」
「リーリエ! ……と何で野菜?」

 リーリエは荷車に野菜を山積みにして運んでいた。

「あはは。今収穫中でして。先輩、来てくれてありがとうございますっ!」
「え、えぇ……。って待って! その果実、今まだ熟す時期じゃないわよね? なんで今熟してるの?」

 リーリエは空を見上げながら先輩に呟いた。

「……そういうものだと思って下さい。私にも全く理解できないのです」
「理解できない?」
「はい。これがアインさんの力だそうで」
「アイン?」

 そこにアインが姿を見せた。

「リーリエ、収穫は終わったか?」
「あ! アインさん! はいっ、これで最後です!」
「そうか。ではいつもの倉庫に運び入れておいてくれ」
「はいっ! あ、アインさん。先輩方が来てくれました!」
「ん? ああ、どうやらそのようだな」

 アインはリーリエの言っていた仲間とやらを見る。

「ドワーフ、人間、ハーフドワーフか。総勢二十名、全員家族ってわけじゃないよな」
「あなたがリーリエを助けた人?」
「ああ。お前は?」

 するとリーリエの先輩が名を名乗った。

「私はリーリエと同じ魔法学園で二つ上の学年に通っていた【マリーベル】よ。あなたがアイン?」
「ああ。俺がアインだ。ようこそ、ハーチェット領へ」
「ハーチェット領ね。お父さんの話し──」

 そこでマリーベルの父親が割って入ってきた。

「俺はマリーベルの父で【ドレイク】だ。兄ちゃん、あの外壁と正面の要塞はバウエッセンの物だよな? なぜ同じ物がここにある」
「なぜ……か。これは俺のスキルで再現したものだ。バウエッセンには今もちゃんと外壁と要塞がある。別に盗んだわけではない」
「ふむ、わかった。時にお主、聖剣デュランダルを持っておるとか」
「これか?」

 アインはドレイクに聖剣デュランダルを見せた。するとドレイクは息を荒げ、聖剣デュランダルを食い入るように見つめた。

「ま、まさに聖剣デュランダル! 我らが祖先が鍛え上げ、勇者アインに託した剣だ! お主、これをどこで!?」
「これは勇者アインがマードレック王国を訪れた際に俺の父バランに託したものだ。それを今俺が託されこうして腰に下げている」
「聖剣デュランダルを託した? な、なぜ勇者アインはそんな事を……! それがあれば死ぬ事もなかっただろうに……」
「な、なにっ!? どういう事だ!」
「うぉ!? な、なんだ!?」

 アインはドレイクに詰め寄っていた。

「なぜこの剣があれば勇者アインは死ななかったと言える!」
「ぐっ、苦しいわっ!」
「あ、すまん……」

 アインから解放されたドレイクは聖剣デュランダルの特性について話した。  

「聖剣デュランダルはな、持っているだけで全ての状態異常から身を守れるのだが……」
「それは知っている」
「うむ。聖剣デュランダルにはの、もう一つ力が隠されておるのだ」
「もう一つ?」
「うむ。その力とは自身を犠牲に瀕死の一撃をどんな攻撃だろうと一度だけ肩代わりしてしてくれるのた」
「こ、この剣にそんな力が!? 俺──いや、父さんからそんな話は聞いた事もないぞ」
「話しておらんからの」
「え?」 

 ドレイクは言った。

「そもそもそんな力があるとわかれば勇者アインの性格から考えると絶対に無茶をすると族長らは考えていたそうだ。だから本当の力は隠したまま渡した。だが……今思えば隠さなかった方が良かったかもしれんな。正直に告げておれば勇者アインは死なずに済んだやもしれぬし……」
「……いや、勇者アインならもし知っていたらもっと無茶していただろう。勇者アインが死んだのは仲間を見る目がなかったからだ。誰も悪くない」
「……リヒトーか。いや、今は魔王ディザームだったな。あれが勇者アインの仲間だったとは今も信じられんよ」
「色々あったんだろうよ。しかし……あんたやたら詳しいが何者だ? ドワーフの隠れ里にいたのか?」

 するとドレイクの表情が変わった。

「……待て。お前、なぜ隠れ里の事を知っている!」
「い、いや……その……」
「お前はマードレック王国出身だろう? ドワーフの隠れ里はこの大陸にはない。いや、そもそもバウエッセンもこの大陸にはない。お前こそ何者だ! 聖剣を手にし何をしようとしておる!」

 アインは必死に思考を巡らすが、良い打開策が思い浮かばなかった。

「はぁ……。ここまでか。わかった、本当の事を話す。俺は──」

 アインはその場にいた者達に自分の正体を明かすのだった。
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