仲間に裏切られた勇者、事実を知り奮い立つ! ~世界を救う勇者アインの物語~

夜夢

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第1章 はじまり

第26話 皇帝討伐

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「た、大変ですアインさん!」
「どうした、リーリエ」

 新しく増えた民のために家屋を設置していたアインのところに慌てたリーリエが駆け込んできた。

「み、見張りから報告が! とにかく一度外壁の上に来て下さいっ!」
「あ、ああ」

 アインはリーリエと共に外壁の上に立った。

「な、なんだこの数!?」
「まだ増えてます! 門の前は人で埋め尽くされちゃってますよぉっ!」

 審判の門の前にはとても数えきれないほどの人間が密集していた。

「中に入れてくれぇぇぇぇぇっ!」
「化け物に食われて死ぬのは嫌だぁぁぁっ!」
「お願いしますぅっ! せめてこの子だけでもっ!」
「早く門を開けろぉぉぉっ! 俺達を見捨てるのかっ!」

 集まった人間の中にはどうやらずいぶん自分勝手な人間もいるようだ。そんな人間達に向かい、アインは外壁の上から声を掛けた。

「今から橋を降ろす。入りたければ入れば良い。ただし、一人ずつ門に触れろ。複数人で触っても開かないからな」
「「「「お……俺が先だっ!」」」」

 アインの言葉を聞いた民は一斉に降りた橋を渡り審判の門に触れていった。

《──許可する》
「わっ!?」

 門に触れた男の姿が消え、外壁の中に送られた。

《──悪意のある者は去れ》
「おわっ!?」

 今度も男の姿が消えたが外壁の中には現れなかった。

「な、なんで消えるのこれ?」

 そう困惑する民にアインは忠告した。

「外壁の中に入れるのは正しき者だけだ。他人を害そうとする者や犯罪者は入れん。だがまあ、触れたら世界のどこかには逃げられるだろうからお前達の皇帝から逃げたいと言う願いは叶ってるだろう。ただし、世界のどこかだからな? もしかしたら皇帝の目の前に飛ばされる可能性もある。それでも良いなら門に触れると良い」
「「「「は、犯罪者差別だ!」」」」
「きちんと更正していたら入れるんだ、別に差別はしていないだろう。助かるか助からないかは自分の行い次第だ」

 それを聞いた民はわずかに躊躇いながらも審判の門に触れ、外壁の中へ歓迎された者と世界のどこかへと転移させられた者に分かれた。

 アインは外壁の上から降り、新しく入ってきた民に尋ねた。

「さて、突然だが話が聞きたい。この大移動の原因はなんだ?」

 この問い掛けに娘を抱えた母親が身を震わせながら答えた。

「こ、皇帝がその本性を現したのよ……っ」
「本性?」
「はい、皇帝は人間の肉を食う悪魔なんです! 従っていれば助かると思っていたのにっ! あの化け物は初めから私達国民を餌としか見ていなかったのです!」
「なるほど、エンドリクセンは欲に溺れたのか」
「お願いします! どうか私達をお救い下さいっ! あの化け物に食われて死ぬなんて怖くて……!」

 アインは母親に問い掛けた。

「じゃあ今エンドリクセンに味方はいないのか?」
「はい。恐らく一人でここを目指して来ています!」
「そうか、一人になったか」
「あの……」

 アインはしばらく悩み、母親に言った。

「とりあえず逃げて来た者はここにいて構わない。この外壁の中にいればエンドリクセンに襲われる事はないだろう」
「あ、ありがとうございますっ!」
「空いている建物は好きに使ってくれ。食糧もじきに配布する」
「し、食糧まで!? で、でもお金が……」
「金はいらないよ。籠城する予定だったから食糧にはかなり余裕がある。さあ、少し休むと良い」
「あぁ……ありがとうございますっ、ありがとうございますっ!」

 それからエルム達を呼び、手分けして避難民に休める場所と食糧を与えさせた。避難民達はアインの決定に涙を流し感謝していた。

 そして避難民の話を聞いたアインはリーリエを呼び出し作成の変更を伝えた。

「えっ!? う、討って出るんですか!?」
「ああ。もはやエンドリクセンに味方はいない。あれは食欲に溺れ頭の中は食べる事で支配されているようだ。ならばもう籠城する必要はない。ここは討って出てエンドリクセンを一気に叩く。リーリエ、俺についてこい」
「わ、私も行くんですか!? 私滅茶苦茶弱いですよ!?」
「知ってるよ。だがお前は行かなきゃならない。家族の敵討ちをし、次の皇帝になるためにな。安心しろ、戦うのは主に俺だ。リーリエは最後にちょっとだけ攻撃してトドメを刺してくれれば良い」
「……できますかね?」
「大丈夫、俺は勇者だ。リーリエ一人くらいなら余裕で守ってやれる。さあ、最後の戦いに行くぞ。今こそ仇を討つ時だ!」
「……はいっ!!」

 アインは避難民の事をエルムに丸投げし、リーリエを連れて帝都へと向かっていった。途中いくつか町や村を通ったがほぼ人はいなく、いるのは育った土地を捨てられなかった老人達のみだった。アイン達はそんな老人達の家に宿泊していた。

「お爺さんはどうして逃げなかったんですか?」
「嬢ちゃん達はまだ若いから知らぬだろうなぁ。ここは元々ガーデン帝国ではなかったのじゃよ」
「えっ!?」
「ガーデン帝国になる前はそれはもう草木が生え放題、魔物はわんさか出てくる未開の地じゃった。そこをワシらが開拓し、小さな国を興したのじゃ。この地はワシらの青春がたっぷり詰まった地なのじゃよ。そして……この歳になるとあともう何年生きられるかわからんからのう……。どうせ死ぬなら思い出が詰まったこの地で死にたい。じゃからワシらは逃げんのじゃ」
「それは……知りませんでした……」

 ここはハーチェット領の隣だ。つまり、ハーチェット領も元々はガーデン帝国ではなかった。ここもハーチェット領も先代の皇帝が戦で勝ち取った土地だったのだと、初めて知った。アインもそれほど過去の事は知らなかった。

「それにしても……嬢ちゃんらはどこに向かうつもりじゃ? この先はいつ化け物皇帝が現れてもおかしくないぞ?」
「……私達はその化け物皇帝を倒すために帝都に向かってるんです」
「な、なんじゃと!? は、早まるでない! アレは人がどうこうできる相手ではないぞ!」
「大丈夫ですよ、お爺さん。私達には強い味方がいますから!」

 リーリエはアインの腕を引き隣に並んだ。

「この方が私達を救ってくれます! まだ人生を諦めるには早いですよっ。絶対に私達が華やかだった日々に戻してみせます! だから……頑張って生きて下さいっ!」
「……ははっ、熱い嬢ちゃんじゃなぁ……。わかった、ならば期待して待たせてもらうとしようではないか」
「はいっ!」

 そうして老人達を励ましつつ、二人は帝都を目指すのだった。 
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