仲間に裏切られた勇者、事実を知り奮い立つ! ~世界を救う勇者アインの物語~

夜夢

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第1章 はじまり

第30話 修行

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 地下十階層で思わぬ収穫を得たアインは翌日から階層にいる全ての敵を倒しながら下層へと進んでいった。地下二十階層、地下三十階層はハズレだったが、地下四十階層で再びスキルスクロールを手に入れた。

「またスクロールが出たか。次は何がもらえるんだろうな」

 アインはレジストリからスキルスクロールを取り出し中身を確認した。

「お……おぉぉぉぉっ! これはっ! まさかのスキル【転移】か! これで【現実改変】を使わなくても移動できる! 現実改変はコストが高いからな。転移なら魔力消費なしで移動できるからずっと欲しかったんだよな」

 地下四十階層で転移スキルを得た。しかしこのスキルを得た事でアインの中でさらに警戒心が高まった。

「やはりおかしいな。地下十階層や四十階層あたりでスキルが得られるなんて他のダンジョンとは落ちる宝の質が違いすぎる。もしかするとそんなに深くないダンジョンなのか……それともこれまで手付かずだったからレアな宝が落ちるのか……。欲望のダンジョンも初回攻略の時だけは確かに良い宝が落ちていた。それでもスキルスクロールは落ちなかったが……」

 最初に階層ボスを倒した時だけ初回ボーナスがある。欲望のダンジョンのように多くの冒険者が挑んでいるようなダンジョンは初回ボーナスなどはるか昔に狩り尽くされている。つまり、アインはここでようやくダンジョンボス初討伐のボーナスについて気付いた。

「誰も攻略した事がないダンジョンがこんなに美味いなんて知らなかったな。やはりこれは踏破するしかない。何階階層まであるか知らんが踏破するまで帰れないな」

 そうして地下五十階層、六十階層と進んで行く。レジストリの自動回収と自動開封機能が優秀過ぎたため、通常の攻略とは比べ物にならないくらい攻略速度は上がっていた。そして地下七十階層のボス部屋で再びスキルスクロールを入手した。

「さて、今度はなにかな。ん? んん? なんのスキルだこれ」

 スクロールにはこれまで同様文字が書かれていたが、それは見た事もない文字だった。

「……どうしようか。物は確かにスキルスクロールだが……中身がわからないんじゃ不安だな。う~む……」

 アインはスクロールを眺めながら悩みに悩んだ。

「……えぇい! どうにでもなれだ! スキルスクロール使用!」

 悩んだ結果、アインはスキルスクロールを使うことにした。これまで得たスキルは【レジストリ】に【転移】だ。例え内容がわからなくてもハズレスキルではないと賭け、覚悟をきめながらスクロールを使う。すると三度目のアナウンスが脳内に流れた。

 ★スキル【召喚】、スキル【人化】を入手しました。

「え? 二つも!? 何でだ??」

 使ったスキルスクロールは空になるためなぜ二つもらえたかは不明だ。

「う~ん……。わからないならわからないで良いか。スキルは獲得できたんだし。えっとスキルの内容は……」

 スキル【召喚】……使用者のレベルに近い何かを呼び出し、使役できる。

 スキル【人化】……魔物でも獣でも命あるもなら全て人の姿に変えられる。

「……これは……こんなスキルがあるのか! つまりこれで俺を裏切る事のない仲間が喚び出せるのか!」

 アインの心には深い傷があった。これまでマードレック王国、ガーデン帝国と渡り歩いてきたが、誰一人として仲間に迎える事がなかった理由はこの深い傷が理由になっていた。

 仲間は裏切る者。長い間共に旅をし、親友とまで思っていたリヒトーに裏切られ、恋人だったマーリンに裏切られ、自分を兄のように慕っていたミューズにまで裏切られた。

 これがアインが未だに一人で居続けた理由だ。

「……俺だって仲間は欲しい。しかし……また裏切られると思ったら言葉が出なかった。だから誰とも心から仲良くはならなかったし、気を許しもしなかった。ずっと浅い付き合いのままで良いとさえ思うようになって……ようやく踏ん切りもついたのに……。神よ、なぜ今になって俺に仲間を作らせようとする……。どんなスキルよりもこのスキルが欲しかった……っ!」

 アインは読めなかったがスキルスクロールにはこう記されていた。

《スキルスクロール【心から望むスキルセット】》

 スキルを入手したアインは地下七十階層のボス部屋で一晩明かし翌朝。

「召喚は自分のレベルに近い何かを喚び出せるんだったな。ならもっとレベルを上げてから使った方が良いかも知れないな。今の俺じゃまだディザームの配下にに勝てそうな仲間を喚び出せそうにない。せめて昔のリヒトー達と同じレベル帯まで上げてから呼び出すとしよう」

 そうして今は仲間を喚び出さず、アインは地下深くへと潜っていく。

「っ、はぁぁぁぁぁっ!」
》 

 地下七十一階層からはあまり見る機会のない魔物が現れ始めた。どうやらスタンピードで溢れだした魔物は七十階層から上の魔物だけだったらしい。

「くそっ! 一体一体が強いっ! ここにきてヒュドラやらネプチューンかっ! さすがに群れ相手はっ!」

 アインはダンジョンを駆け回りつつ、細い通路に飛び込みながら魔物の数を減らしていった。

「はぁっはぁっ……! ス、スキルに頼りきりじゃ腕が鈍ると思ったが……スキルなしじゃまだヒュドラの群れ相手はキツかったか……! はぁぁ……」

 どうにか階層の魔物を掃討したアインは剣を鞘に納め床に腰を下ろした。

「やっぱり一人じゃ……いやいや、ダメだ。安易に頼ろうとするな俺! 仲間に裏切られた時甘えは捨てたはずだ。仲間ができるかもしれない誘惑に負けるな俺!」

 アインは今すぐ召喚を試したい衝動をどうにか抑えつつ、身体を休めるのだった。 
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