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第8章 竜界編

06 下界へ

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 全竜がどこかへと消え去った後、ローグは竜化して塔から下へと降りた。

《ん? 何してんだろみんな》

 地面が見えたと同時に竜達の姿も見えた。竜達は無竜を前に頭を下げていた。そこにローグも人の姿に戻り合流した。

「よっと。お待たせ。で、何してるのこれ?」
《《 》》
「……はい?」

 見ると心なしか無竜が怒っていた。

「どうしたの?」
《どうしたもこうしたもありません。家出した事は百歩譲って許します。ですが……ああ、情けない》
《《》》

 無竜の鋭い眼光に怯み、竜達はガタガタと震えていた。

《あなた達。どうやらこの数百年サボりにサボりまくったようね。長兄である光竜でさえこの有り様とは……。あなた達は属性竜である自覚もないのですか!》
《は、母上。私はサボってなど……!》
《お黙りなさいっ!》
《くっ!》

 光竜は無竜に一喝され怯んだ。

《サボっていないとするならば……その弱さはなんですか? 数百年もあれば私に並ぶ強さを得られているはず。それが……今のあなた達は最年少の時竜と同程度の強さしかないではありませんか!》
《母様~、なんでみんなあんなに弱そうなの?》


 竜達は最年少の時竜に舐められ怒りを露にする。

《母上、時竜という新しい竜がいた事には驚きましたが……いくらなんでも私達より強いという事はないでしょう》
《なら戦ってみなさい。時竜、殺さない程度に遊んであげなさい》
《は~いっ。よ~し、お兄ちゃんに習った戦い方でみんなを倒しちゃうぞ~!》

 ローグはとりあえず成り行きを見守る事にした。

《舐められたものですね。ここは私が──》
《待てよ、光竜》
《ん?》

 戦おうとしていた光竜の前に雷竜が出た。

《あんたが出るまでもねぇ。ここは俺がやってやんよ。ガキんちょに舐められてたまっかよ》
《雷竜……。わかりました。ですが相手は一応私達の妹、殺さない程度に手加減してあげて下さいよ?》
《ハッハー! わかってるって! シャオラッ!》

 時竜の前に雷竜が向かう。

《俺らが地上で遊んでたわけじゃねぇって所を見せてやんぜッ!!》
《よ~し、やっちゃうよ~!》

 まずはスピードで上回る雷竜が先手を取る。

《いくぜッ!! 【ゴッドスピード】!!》
《わわっ、消えた!? なら……【スロウタイム】!》
《おわっ!?》

 時竜は雷竜のスピードを殺すためにスキルを使った。この場合はローグの教えによる楽に勝つためのスキル使用に当てはまらない。

「お? やっぱりあのスキルはズルいなぁ。雷竜の持ち味が全部死んだぞ……」

 雷竜はスキルを使われた事に気付かず、ノロノロと時竜の周りを駆け回っている。そう見えているのは時竜のスキルを知り、自らにクイックタイムを使ったローグだけだ。他の竜達は雷竜同様遅れた時間の中にいる。

《お兄ちゃん、片腕くらいなら治せる?》
「ん? ああ、遠慮なくやっていいよ」
《よしっ、見ててねお兄ちゃんっ!》

 そう言い、時竜は腕を前に突き出す。

《切り裂けっ! 【次元断】!》
《ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?》

★スキル【次元断】を入手しました。

「今のは……雷竜の腕があった次元を断ったのか!」

 時竜は首を縦に振り、時の速さを元に戻した。

《《》》
《ぐっ、う……腕がぁぁぁっ!》

 腕を失った雷竜はその場に転がり、傷口を押さえている。ローグはすぐに雷竜に向け回復魔法を放った。

《アニキィッ!》
「油断したね、雷竜。時竜は時間を操る竜だ。そこを攻略しない限り勝てないよ?」
《あ~! お兄ちゃん、バラしちゃダメだよ~!》

 そこで無竜が前に出て時竜の勝ちを宣言した。

《雷竜、戦闘不能のため時竜の勝ちです》
《やった! 勝った~》

 他の竜達は何が起きたか全くわかっていなかった。かろうじて光竜のみがローグの言葉から時竜が何をしたか気付いた。

《まさか……時間を操るなど! 時竜! 時間を操る事は大罪ですよ! 神に消されでもしたらどうするのですか!》
《大丈夫だよ? だって、時の速さを変えたのは世界じゃなくてお兄ちゃん達だけだし。さすがに私も世界の時間は変えないよ》
《……なるほど。あくまでも対象は個人……。それならば神の法には触れないと……。全く、なんという力ですか。これでは私達に勝ち目は……》
「いや、あるよ?」
《《》》

 ローグは土竜の前に向かった。

「アース、ちょっとアドバイスしてあげるよ」
《わ、我か!? 自慢ではないが我は誰よりも遅いのだが……》
「ははっ、わかってるよ。って言うか、速度対決するなら誰だろうと時竜には勝てないよ。アース、耳貸して」
《う、うむ……》

 ローグは手短に戦い方をアドバイスする。

《なるほど。それならば勝てそうだ。さすが主だ!》
「じゃあやってみようか。無竜に怒られ続けるのは嫌でしょ?」
《うむ》

 アドバイスをもらった土竜は意気揚々と時竜の前に移動した。

《母上、我が勝ったら説教は終わりにしてもらうぞ!》
《勝てたらね。時竜、続けてやっちゃいなさい》
《う、うん。でも……ローグお兄ちゃんが戦い方を教えたんだよね? 勝てるかな……》

 時竜は少し怯えていた。

「リーミン!」
《ひゃいっ!?》
「危ないと思ったら次元断を使え。それだけだ」
《え? う、うん!》

 そして時竜と土竜の戦いが始まった。

《よ、よ~し……。来いっ!》
《往くぞッ!! 【アースプリズン】!!》
《え? わわわわっ!?》
《まだまだっ!! 【サンドロック】!!》

 数秒後、時竜は次元断を使い岩の塊から飛び出してきた。時竜は酷く息を荒げている。そこで土竜が鋭い岩の先を首に当て、勝敗が決した。

《うわぁぁぁぁん! あんなのズルいよぉぉぉっ!》
《我の勝ちだな、時竜よ》
《勝者……土竜……。あ~あ、負けちゃったかぁ》

 さて、ここで何があったかおさらいしてみよう。

 まず、速度で敵わない土竜は動く事を止め、時竜の動く軌道を読む事に徹した。そして直線軌道に入った瞬間、時竜を岩の牢獄に閉じ込め、さらに内側を砂で満たした。力の弱い時竜は岩の牢獄を破る事ができず、転移も使えないため、酸素不足と砂の圧力により身動きがとれなくなり、最後の力で次元断を放ち、岩の牢獄から抜け出した。そこを土竜がしっかりと読み切り、王手をかけたのである。

《ローグさん? 今のアドバイスは反則では?》
「俺は力の使い方を教えただけですよ。アース達もただ遊んでいたわけじゃありません。ただ……ちょっと考える力が足りなかったから口を出しただけですよ。俺はあいつらの主なので」
《そうですか。全く……土竜?》
《う、うむっ! 何であるか?》

 無竜は土竜にこう告げる。

《戦える力があるなら頭を鍛えなさい。本来なら自分で考え戦うのですよ? 地上世界は総じて弱い者しかいないため、力だけに頼ってしまう。それでは勝てない敵もいるのです》
《……うむ》
《……はぁ。今回だけは許してあげましょう。ですが……サボった分は私自ら鍛え直します》
《……ん? な、なんと?》

 無竜はニッコリと微笑み、土竜の肩を叩いた。

《むぉぉぉぉっ!?》
《今度は私も地上世界に降ります。ローグ、魔族の件はあなたに任せます》
「知っていたのか」
《ええ。少し世界が騒がしくなりそうです。この子達にまた悲しい思いをさせるのは少々酷なので……今度は私も動きましょう。ローグ、あなたはあなたのすべき事を成しなさい。そのために私も力を貸しましょう》
「……はい、ありがとうございます」

 無竜は人化し、時竜を見て言った。

「時竜、次元の扉を開いて下さい。皆で地上世界へと向かいますよ」
《う、うんっ! じゃあ……【次元の扉ディメンション・ゲート】!》

★スキル【次元の扉】を入手しました。

 こうして無竜の説教は終わり、ローグは最強竜の一角を率いて地上世界へと帰還したのだった。
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