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第02章 エンドーサ王国編

08 獣人

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 呼び止められた蓮太が振り返ると獣人達は皆、片膝を地につけ頭を下げていた。

「な、なに?」
「あなたは私達の命の恩人ですっ!」
「いや、大げさだな!?」
「なにを言われますか。あのままでは私達は延々見せ物にされ、満足に食事も与えられず朽ちていたでしょう。何より憎きバハロス人に意趣返しできた事が嬉しくてたまらないのです!」

 どうやら相当鬱憤がたまっていたらしい。

「私達は何もしていないのにいきなりバハロス帝国から侵略されました。王は処刑され、兵士は全員火炙りにされました。私達にはもう帰る場所すらないのです! もしご迷惑でないのならば……私達をあなたの奴隷として使ってはもらえないでしょうか!」
「いやいや、せっかく自由になれたのに自ら奴隷に志願するとか何言ってんの!? 好きな所に行って好きな事すれば良いじゃん」

 だが獣人達は諦めなかった。

「やはり……私達が獣人だからそばには置けないのですか?」
「いや、俺はそんな偏見もってないし、むしろ今すぐもふりた……いや、なんでもない」

 そう言いかけた言葉を獣人の男は聞き逃さなかった。

「なるほど。ならば……」
「ん? ちょ……」

 男は仲間の中から三人の獣人を選び前に出した。

「犬型、猫型、羊型のメスにございます。しばらく水浴びもできておりませんでしたから今は多少ゴワついておりますが、綺麗にすれば毛はフサフサ、抱いて眠れば癒される事間違いなしでしょう」
「や、止めろっ! そんな誘惑には乗らないぞっ!」
「なるほどなるほど。三人とも、主様をどう思うか申してみるのだ」

 すると三人はもじもじしながら思いを口にし始めた。

「ワン、ワタシは……主様の抱き枕になりたいワンッ」
「うっ」
「ニャア~……、私はご主人と日向でゴロゴロしたいニャア~」 
「うぅっ」
「メェ~……、私は逆にご主人様を包んであげたいメェ~」
「うぅぅぅっ!」

 蓮太は動物好きだった。地球ではペット禁止の部屋だったため、動物を飼う事が出来なかった。飼う時間もなかったのだが。

「何なら他にもいますよ? この中から好きな獣人を選んでくれて構いません。買われた以上は私達は主様の物ですから」
「だから買ってないんだって」
「いやいや、あの場で契約は成立してますよ。どうか私達を助けると思ってなんとか!」
「助けるって……。本当に行く場所がないのか?」
「はい。私達の国があった場所はもうバハロス帝国の土地です。私達は兵士と違い、訓練もしていませんのでそれほど強くもありません」

 必死に嘆願する獣人達を見捨てる事など動物好きの蓮太にできるはずもなかった。

「わ、わかったよ。ただし、一つだけ言っておく」
「なんでしょうか」
「俺は今エルフ達の王をしているんだ」
「エルフですか!?」
「そうだ。もしエルフと仲が悪いなら悪いがお前達とは暮らせ──」

 獣人達は蓮太の言葉を遮るように蓮太の周りに群がった。

「まさかエルフまで救っておられたとは!」
「さすが主様だワンッ」
「ニャア、エルフ達は亜人だから私達の仲間ニャア~」
「エルフも人間とは敵対関係にありますが、獣人とは敵対していなかったメェ~」
「ちょっ、近いっ! んで猫! すり寄るな! もふるぞ!?」
「……ニャンッ」

 猫はちょっとざらつく舌で蓮太の頬を舐めた。そこから先の記憶はない。蓮太は猫を小脇に抱え、茂みの中に入る。そして二時間後。

「んじゃエルフの所に行きますか」
「おやおや、ずいぶんスッキリなされたようで……」
「動物好きだからな俺は」

 その陰で三人はなにやら話し合っていた。

「主様はどうだったワン?」
「す、凄いテクニックだったニャン……、首の下を撫でる指技と尻尾の付け根を擦る指技が極上だったニャア~……」
「さ、最後までしたメェ~?」
「もちろんニャア~。凄かったニャン」
「「……ズルい!」」

 三人娘はおいておき、蓮太は獣人の男に言った。

「とにかくだ、お前達は俺が引き取るよ。今からエルフの所に飛ぶ。全員手を繋いでくれ」
「飛ぶ?」
「ああ、俺は【転移】を使える。エルフの国は俺が作った安全地帯だからな。そこなら安心して暮らせるだろう」
「……わかりました。皆、隣の者と手を繋ぐのだ!」
「「「「はいっ!」」」」

 そうして獣人総勢百人が手を繋ぐ。なぜか正面から猫が抱きつき、左右には犬と羊ががっしり抱きついていたが今は我慢する。

「主様、指示通りに」
「うん、じゃあ飛ぶよ。【転移】!」

 蓮太は獣人達を連れエルフの国へと戻った。

「はい、到着だ」
「な、なん……と! あれは世界樹では!?」
「ああ、うん。あれも俺がやった」
「主様はもしや神様でしょうか?」
「いいや、普通の人間……なぁ、三人とももう離れてくれない?」
「いやニャン」
「わ、ワタシも欲しいワンッ」
「今夜は寒くなりそうなので私を布団に……メェ」

 実は語尾作っているのではと思ったがそれ所ではなかった。

「レンタ様?」
「レンタ? な、なんだその獣人達は」
「あ、長にリージュ!」

 もふもふに誘惑されている所に長達がやってきた。

「いや、実はな……」

 蓮太は二人にイシュガルの町であった事を話した。

「な、なん……だと! 獣人の国がバハロス帝国に!? では獣王が負けたのか!?」
「はい。奥方と王女を人質に取られ……」
「なんて卑怯な……。しかも兵士を火炙りだなんて……。よく無事でしたね」
「いえ、こうして助かったのは主様のお陰です。もし主様がいなければ私達も死に絶えていたでしょう」
「……許せんな」

 リージュは静かに怒りを表していた。

「とにかくだ、今エンドーサには奴隷商人に扮したバハロス帝国兵が何とか手を出させようと色々やってるみたいでな。多分奴隷になってる獣人もまだいるはずだ。全員とは言わないまでも何とか全員救いたい。そしてできたらここに住まわせたいのだが……」
「もちろん構いませんわ。まだ空いている土地も沢山ありますし、獣人は仲間ですから」
「そっか。じゃあ獣人達を頼むよ。俺は残りの獣人を何とか救ってくるからさ」
「大丈夫か? もうすぐ夜だぞ?」
「……そうだな。明日にするか。とりあえず住む家だけ建ててくるからその間に風呂に案内してくれるかな?」
「わかった。皆さん、私についてきてくれ。今から汚れを落として綺麗にする」
「「「「はいっ!」」」」

 そうして蓮太は空き地に獣人達の家を建ててやった。そしてその日の夜、蓮太から金塊を受け取ったバハロス帝国兵達はというと。

「ははははっ、これを持ち帰ったら陛下に褒めてもらえるぞ!」
「これだけありゃあ勲章間違いなしだろ! まさかゴミ同然の獣がこんな金塊に化けるとはなっ」
「戦の火種になれば儲けもんだったが……意外に稼げ……なっ!? なんだこりゃっ!?」
「どう──は? はぁぁぁぁぁっ!?」

 押し車に積んでいた金塊が気付くと石の山に変わっていた。

「バ、バカな! なんだこれっ! ただの石じゃねぇかっ!」
「さっきまでは確かに金塊だったぞ!?」
「や、やられた! ちくしょうっ! 騙されたっ!」
「俺達は……奴隷を奪われ延々重い石を運んでたって事……か?」
「ちくしょぉぉぉっ! あの冒険者めぇぇぇっ!」
「ど、どうするよ! こんなの陛下にバレたら……」
「ひ、引き返すぞ! あのクソ野郎を探しだしてぶっ殺す! 帝国兵を舐める野郎は皆殺しだっ!」
「「「殺るか」」」

 帝国兵達は国境手前でハメられた事に気付き、怒りに震えながらイシュガルの町へと引き返していくのだった。 
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