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第03章 バハロス帝国編

10 勇者教育

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 ドワーフとエルフの合コンまで残り三週間。蓮太はその間にターニアを教育する事にした。とりあえず高級宿に行き風呂に入れ一晩休ませてから行動を開始した。

 そして一晩明け翌朝。

「まずは金の稼ぎ方からだ。ターニア」
「ん」
「お前は冒険者という職業を知っているか?」
「知らない」
「知らないのか。じゃあ実際に冒険者ギルドに行き説明する。俺についてくるんだ」
「わかった」

 蓮太はターニアを連れ冒険者ギルドへと向かった。

「よし、着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ。あの看板が目印だな。大体の大きな町にはあるから覚えておくといい」
「わかった」
「じゃあ中に入るぞ」

 蓮太は扉を開きターニアと共に冒険者ギルドに入った。そしてまずカウンターを指差す。

「あれが受付だ。まずあそこで冒険者になる登録をする」
「ん」

 蓮太はターニアを連れカウンターに向かった。

「いらっしゃいませ。御用件を伺います」
「こいつの冒険者登録を頼みたいんだけど」
「畏まりました。ではこちらの用紙に必要事項を記入していただけますか?」
「ああ。ターニア、字は書けるか?」
「書けない」
「マジかよ……」

 本当に戦う事しかできないのだなと思いつつ、蓮太はターニアに話を聞きながら必要事項を埋めてカウンターに出した。

「ゆ、ゆゆゆ勇者様!? なぜ勇者様が冒険者ギルドに!?」
「は? まさか勇者じゃ冒険者登録できないのか?」
「い、いえ、そんな事はありませんが……。そもそも勇者様の活動資金は教会から支払われているのですが」
「は?」

 蓮太はちらりとターニアを見る。ターニアは全く知らないといった様子だった。

「……つまりなんだ、登録する必要はないって事?」
「そうですね。討伐した魔物の魔石も教会が研究に使っていますし、冒険者ギルドへの登録は必要ないと思われますが」
「……そうか。邪魔したな」
「またのお越しを~」

 ひとまず蓮太はターニアを連れ冒険者ギルドを出た。

「お前な、それくらい覚えておけよ! 恥かいたじゃんか!」
「初めて聞いた」
「はぁぁ……。教会行くか……」

 活動資金が全て支払われるのならわざわざ冒険者登録させて一から金の稼ぎ方を教える必要もない。今度は教会に向かった。

「良いかターニア。屋根の上に十字架のある建物が教会だ。あれは冒険者ギルド以上にどこにでもある。ただ、貧乏な教会もあるかもしれないからな。立ち寄る時は大きな教会にしておくといい」
「ん」

 そして二人は教会の中に入った。

「これはこれは。どうなされましたか?」
「お金ないから出せ」
「えっ!?」
「アホかっ!!」

 蓮太はターニアの頭をはたいた。

「あ、あの……?」
「すんません。こいつバカなもんで……」
「は、はぁ。ご、強盗ではありませんよね?」
「もちろんです! ちょっと待ってて下さい」

 蓮太は頭を押さえるターニアにこう言った。

「強盗と間違えられてんじゃねぇか! 要件を言う前に必ず名乗れ!」
「わ、わかった」

 するとターニアは二人にシスターに向かい、こう言い直した。

「私は勇者ターニアだ。ナーザリーに戻るために船代が欲しい。出せ」
「ゆ、勇者様?」

 シスターはちらりと蓮太を見た。どうやら疑っているらしい。

「ターニア、何か勇者と証明できる物を持ってないか?」
「ん。なら聖なる武器を」

 だがそれをシスターが慌てて止めた。

「あ、あのっ! 司祭様から指輪を預かっておりませんか? 勇者様は必ず旅立ちの前に指輪を渡されるはずですが」
「……ない。急だったから。それに私はまだ訓練中の勇者見習い」
「え? で、ではなぜナーザリーからエンドーサに?」

 蓮太はシスターに事情を説明した。

「ま、まさかナーザリーがそんな事に……」
「ああ。で、こいつをナーザリーのある大陸に渡らせたいんだ。魔族を倒せるのは勇者だけ。だろ?」
「はい。あれ? けどレンタ様?」
「なんだ?」
「確かレンタ様はバハロスで魔族を倒したのでは? 噂になってますよ?」
「……は?」
「おぉ! もう魔族を倒していたのかっ」
「ち、ちょっと待て!」

 蓮太は慌ててシスターに詰め寄った。

「う、噂ってなんだ! 出所はどこだっ!」
「ひっ、あ、あの……。噂ではバハロス帝国に現れたのは魔族で、レンタ様がそれを一瞬で塵に変えたと……。出所はバハロスに戻ろうとしていた商人で、偶然見てしまったのだとか……」
「な、なんてこった……。まさか見られていたなんて! そいつがあまりに弱かったのかサーチに引っ掛からなかったから油断していた……」

 するとターニアが無表情を捨て目を輝かせながら蓮太の腕に抱きついていった。

「まだ勇者じゃなかったのに魔族を倒してたなんて凄いっ! さすが真なる勇者!」
「ちょっ!?」
「し、真なる……勇者……? レンタ様が……? あぁぁぁぁぁ……、ひ、広めなければっ!」
「や、止めろっ! は、離れろターニア!」
「なぜ?」
「あっ、シスター!!」

 シスターは教会を飛び出し真なる勇者が現れたと触れ回った。

「真なる勇者? レンタ様がか!」
「なるほど、それなら魔族も余裕で倒せたはずだ。さすがレンタ様だな」
「すっご~い! 真なる勇者って世界に一人しか現れないんでしょ!? それがレンタ様だなんて素敵~」

 噂は瞬く間に広まり、さらに尾ひれをどんどん追加され、歪みながらエンドーサ中に伝わっていった。

「な、なんてこった! あのシスターもバカか!?」
「真なる勇者レンタ。格好いい」
「ふざけんなよ。俺はただの人間だ。無理矢理聖なる武器を押し付けられて困ってるんだ!」
「聖なる武器は素質のある者しか手にできない。遅かれ早かれレンタは聖なる武器を持ち勇者になっていたはず」
「そうと知ってたら絶対に近づかなかったわ」
「またまた。レンタはそんな人じゃない」
「そんな人なんだよ俺は。ゆっくりまったりのんびり平和に暮らす事がモットーなの」

 するとターニアは蓮太にこう告げた。

「そのモットーは魔族を滅ぼさない限り叶わない。今はまだナーザリーだけだけど、今後は回りの国も滅ぼされていく。そして世界は魔族のモノになる。今倒さなきゃ人類は滅亡する」
「そのために勇者がいるんだろ。そんな時のために教会はやたら御布施をもらっていたはずだしな」
「ぴゅ~……ぴゅ~……」

 シスターは鳴らない口笛を吹きながら冷や汗を垂らしていた。

「そこで残念なお知らせ」
「ん?」
「今、最強の勇者は聖なる武器を四つ使える絶級勇者。しかも一人。その下は使えて二つ。人数は百人にも満たない。そして残りは一つを使えるかまだ訓練中かの有象無象」
「少なっ!? え? 勇者ってそれだけしかいねぇの!?」
「いない。聖なる武器は人を選ぶ。武器はあっても使える人が現れなかった」
「緊急時に人なんか選んでんじゃねぇよ……はぁぁ……」

 そしてシスターが蓮太に言った。

「レンタ様でしたらお金持ちですから活動資金は教会から出さなくても大丈夫ですよね?」
「……は?」
「ナーザリーが滅びたとなればもう私達は民からの寄付で生きていくしかありませんので! 少しでも節約しないとっ!」
「ちょっと待て! 俺に金出せって言ってんのか!?」
「だってレンタ様は真なる勇者様なのでしょう? ならば困っている仲間を見捨てられないはずです! 大陸までと言わず、ナーザリーまで送って差し上げたらどうでしょうか?」
「ん。私もそれがいい!」
「き、貴様らぁぁぁ……っ!」

 こうして教会からは活動資金を一切受けとれず、真なる勇者の話もそこら中に拡散され、蓮太はターニアを押し付けられる形になり、がっくりと肩を落とすのだった。
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