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第04章 魔族殲滅編

01 バベルの塔、封印される

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 蓮太がエルフィリアへと向かった同日、ロキは自分の持つ聖なる武器をナーザリー近くに遺棄するため、全速力で森の中を駆けていた。森の中を選んだ理由は、街道を移動した際に魔族に見つかる事態を防ぐためだ。この計画はわずかでも疑われた時点で崩壊してしまう。

 ロキが目指した場所はナーザリーとの国境近くにある村の教会だ。おそらくすでに破壊されているだろうが、そこは上手くやるつもりだ。

「ここさえ乗りきればまたレーナと一緒に暮らせるんだ……。なんとしてもこの任務を達成するぞっ! 港町を出て二日、ようやくクロスロード王国から次の国に入った。急がなければ……!」

 ロキはほぼ不眠不休で走り続けた。ロキは勇者に選ばれた時にスキル【不屈】を得ていた。スキル【不屈】は限界を超えても活動できるスキルだが、このスキルを解除した際に無理をした分だけ後から負担がのし掛かってくる。だがこれ以上魔族による被害を拡大させないため、レーナとの暮らしのために必死に目的地へと駆けた。

 その頃港町で兄と蓮太を待つしかない二人はというと。

「レーナ。もし魔族を殲滅できたとしたらその後どうする?」
「魔族を殲滅した後……か。本当にできるのかな……。あんなにいた勇者も沢山殺されちゃったし……。お兄ちゃんはともかく、私なんて下の方だったし……」
「そこは心配いらない。魔族は多分レンタが一人で殲滅するから」

 レーナはターニアを見て目を点にしていた。

「ターニアの中でレンタさんの強さはどうなってるの? 本当に一人でなんとかなると思ってるの?」
「ん。真なる勇者ならできて当たり前。そんな事より。レーナはレンタとどうにかなりたいとか考えた事ある?」
「……へ? どうにかって?」
「恋人とか、夫婦とか」
「……な、何言ってるのターニア。あなたそんなキャラだった!?」

 レーナはターニアの言葉に心底驚いていた。

「私は変わる。これからはレンタに相応しい女を目指す」
「す、好きなの?」
「ん。一日でも早くレンタの赤ちゃん作りたい」
「ぶふっ!? あ、赤ちゃんって!? そ、そもそも作り方わかってるの?」
「もちろん。むしろその行為すら楽しみ」
「は、はぁ~……。ターニアは本当に変わったね。訓練所にいた頃はずっと一人で黙々と訓練だけしてた変わり者だったのに」
「あの頃はとにかく早く強くなりたかった。でももう必要ない。私が勇者でいる時はもうすぐ終わる。レーナもロキも」
「……そうなると良いね」

 長く二人でいる時間が増え、二人は少しずつ友達のような関係になっていた。 

 それから一週間後、役目を終えた蓮太が港町ドレイクへと戻った。

「今戻ったぞ~」
「あ、お帰りなさいレンタさんっ」
「待ってた! もう用事終わり?」
「ああ。後はロキの帰りを待つだけだ。あいつなら問題ないとは思うけど……魔族の本拠地近くまで行くからな……ってなんだよターニア」

 ターニアは蓮太の腕に抱きつき離れなくなっていた。

「レンタ。レンタはこの戦いが終わったらどうする?」
「なんだよ藪から棒に」
「レンタがどうするか気になった」
「ふ~ん。ま、良いだろう。特別に教えやる。俺はこの戦いが終わったらまず死ぬ」
「「えっ!?」」 

 蓮太の言葉にレーナは驚き、ターニアの抱きつく力が強くなった。  

「死ぬって……。や、やはり魔王相手に無傷とはいかないのですね……」
「は? いや、魔王くらいワンパンだ。死ぬってのはそういう意味じゃない。誰が死ぬかっての」
「で、では死ぬとは?」

 蓮太はニヤリと笑った。

「最近の俺は働きすぎだと思うんだ」
「……は、はい?」
「エレンの奴にはこき使われるし、ドワーフなんか俺を棟梁にしやがったんだぜ? エルフィリアに至っては俺を王にしやがった。おかしいだろ、俺はどこか静かな田舎とかでのんびり暮らしたかったんだ。もう全てに疲れたんだよ。だから……魔王との戦いで相討ちになったっていう体で俺は雲隠れする。そして始めるんだ、のんびりスローライフをな!」
「私も行くっ!」
「あん? ふむ……」

 蓮太はターニアを上から下までじっくり見る。

「ま、一人くらいなら連れてっても良いかな。魔族を倒した後、俺は浮遊大陸にいくつもりだ」
「え? 浮遊大陸……ですか? あんなのあるかどうかもわかってないんですよ?」
「大丈夫だ。もう見つけてある。実は用事が片付いたのは昨日でな。それから色々とどうすれば夢が叶うか考えた末、浮遊大陸を探す事にしたんだよ」
「見つけたんですか!? いえっ、本当にあったんですね!」
「ああ。あれは普通じゃ絶対見つからんわ。浮遊大陸には不可視の結界が張ってあったんだよ。俺はそれを見破り、浮遊大陸に降りたんだ」
「誰かいました?」
「いや、誰もいなかったよ。建物も遺跡っぽい感じでさ、ほとんど廃墟だったわ」

 レーナはごくりと唾を飲み込んだ。

「凄いですっ! これは歴史的発見ですよ! 浮遊大陸は数千年前で記録が止まってるんです! きっとその廃墟には歴史的資料がたくさん……!」
「どうだろうな。それだけ放置されてたら風化してるんじゃないかな? 草木も生えてなかったくらいだし」
「そうなんですか?」
「ああ。ま、だからエルフにも見つからないんだけどな。もし浮遊大陸に草木があったらとうにエルフ達が見つけていたはずだし」
「なるほど……。うわ、私も行ってみたいかも……」

 そこで蓮太に抱きついていたターニアがさらに強く抱きつきレーナを威嚇した。

「ダメ! 浮遊大陸に行くのは私達だけ! レーナはロキといれば良い」
「べ、別に良いじゃないですか!」
「だめ。レンタと赤ちゃん作るの私だけ!」
「は? 赤ちゃん? なに? ターニア、お前俺と子作りしたいの?」
「ん。今からでもしたい」
「ふ~ん……。考えとくわ。だが……全てはロキが上手くやってくれなきゃ始まらん。とにかく今は待つしかない」
「ん。ゆっくり待つ」

 そして蓮太がドレイクに来てから一週間後、ロキがボロボロになり帰って来た。

「も、戻っ……たはぁ……っ」
「お、お兄ちゃんっ!?」
「おお、戻ったか。首尾は?」

 ロキは最後の力を振り絞り、親指を立てて床に突っ伏し、そのまま力尽きた。

「お兄ちゃん……、まさか不屈を使ったの? こんなボロボロになって……」
「だがよくやってくれた。これで魔族はバベルの塔を封印しに行くだろう。封印が終わったらすぐに動くぞ。レーナは頑張ってくれたロキを労ってくれ。ターニア、二人きりにしてやろう」
「ん。ロキ偉い」
「ありがとうございますっ! お兄ちゃんは私が見てますのでどうか魔族を……!」
「ああ」

 そして蓮太はターニアを連れもう一部屋確保した。

「さて、ターニア」
「ん?」
「ただ待ってるのも暇だし、これから俺についてくるんだろ?」
「ん!」
「なら……今から色々練習しておこうか?」
「……? ……! するっ! 練習いっぱいする!」
「よしよし。じゃあ連絡が入るまで練習しようか」
「んっ!」

 ロキがドレイクに到着した翌日。ある魔族が廃村となった跡地で武具を探していると教会に地下室がある事を発見した。

《チカダ……。チカガアル……。オタカラガアルニチガイナイ。グフフフフ》

 頭の悪そうな魔族が魔族がロキの作った地下室へと降りていく。

《アアァ……! アッタ……オタカラアッタ!! マ、マオウサマニシラセル!!》

 魔族は聖なる武具を一つだけ手に取り、出入り口を瓦礫で隠した後魔王城に戻った。

《でかしたっ! そこにまだまだあったんだな!?》
《タクサンアッタ》
《魔王様!》

 魔王はニヤリと嗤い玉座から立ち上がった。

《良し! 時は来たっ!! 今まで集めた聖なる武具とそれらを合わせ封印に向かうぞ! くくくっ、これで地上世界は我のモノだ!! ハハハハハハハッ!!》

 蓮太の計画通り、魔王は餌に食いついた。後は釣り上げるだけだ。いよいよ蓮太と魔族の戦いが幕を開けようとしていた。
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