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第05章 浮遊大陸編

13 約束を果たそう

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 真に世界最強の勇者ルキ。ルキの持つ聖なる武具、【ディメンションゲート】と【神眼鏡】の効果は抜群だった。これにより行った事がない場所にも一瞬で移動でき、虐げられていたエルフ達が瞬く間に救出されていった。

 だがルキはとんでもない間違いを犯してくれた。

「てめぇ……ルキ!! なんでここに連れてくるんだよっ!」
「何をそんなに怒る。助けた後の話など何も聞いてなかったのだからここに連れて来たのだろう」

 エルフ達はお互いがどれだけ離れていても念話で繋がる事ができる。しかし今浮遊大陸を包んでいる認識阻害結界は蓮太が新たに張り直したもので、通信系のスキルはジャミングされるようになっていた。だが、エルフに蓮太の姿を見られてしまったため、地上に戻すに戻せなくなってしまったのである。

「なぜそんなに慌てる。ここに置きたくないなら別にこのまま地上に帰せばいいだろう」
「それじゃシルファ達に俺が生きている事が伝わっちまうんだよ!」
「それの何が問題なのだ。わけがわからん」

 せっかく偽物の死体まで用意し、死を偽装した事が水の泡になってしまった。どうやらエルフ達はエルフィリアのエルフから必ず救いはあるから頑張れと励まされていたらしい。そのためか、蓮太を崇拝していた。

「私達エルフの王レンタ様! なにとぞエルフィリアへと帰還を!」
「シルファ様が可哀想ですっ! 今も毎夜涙を流しておられるのですよ!」
「さあ、私達と共にエルフィリアへ!」

 エルフ達はどうしても蓮太を連れて戻りたいようだ。だが戻った所で忙しさしかないだろう事は安易に予想できる。しかも闇竜がなにより面倒だ。

「……よし、ちょっと待ってろ」
「「「「はい?」」」」

 蓮太はサングラスをかけ小さな筒状の何かを取り出した。

「お前ら~、これをしっかり見ろ」
「「「「? はい」」」」

 エルフ達の視線が筒状の何かに集まった瞬間、強烈な光が発せられた。そしてエルフ達はトランス状態に入る。そのエルフ達に向け、蓮太はこう暗示をかけた。

「お前達は自力で逃げ出しエルフィリアに辿り着いた。お前達を救った者はいないし、俺の姿も知らない」

 そう暗示をかけ、蓮太はエルフ達をエルフィリア近くの森に転送した。

「今の光はなんだ?」
「知る必要はない。ほら、まだ助けを求めるエルフがいるだろ。さっさと行け。ああ、あと次からはエルフィリアに送れ。それと……間違っても俺の名を出すんじゃねぇぞ。お前が自発的に救い出した事にしろ」
「面倒な。理由がわからん」
「理由なんざ関係ないだろ。ターニアと帰りたいんだろ? なら言われた通りに働け」
「この外道がっ!」

 そう言い放ち、ルキは再び地上へと飛んでいった。

「ユグドラシル、あと何人いるんだ?」
「まだまだ世界中にいっぱいいる。今のスピードじゃ年単位かかる」
「そうか。まぁ……その内片付くだろ。さて、俺は何をしようか」

 ルキが必死に働いている間にも蓮太はのんびり浮遊大陸を自分の庭に改造していた。狭い浮遊に空間拡張魔法を施し、そこにまず湖を作った。そこから畑に用水路を通し、オブジェとして大陸の端に山を作った。これに水竜やら地竜が喜び、あまり家に帰らなくなった。ならばと火山も作ってやると火竜まで戻らなくなった。風竜は元々家におらず、好きな時に空に浮かび遊んでいる。

「ご主人、収穫が終わりました」
「ああ、酒蔵に運んどいてくれ」
「いよいよなのですね」
「まぁ……上手くいくかはわからんけどな」

 作る酒は火酒、つまりは蒸留酒だ。わかりやすく言えばウォッカやテキーラ、焼酎なども蒸留酒になる。原材料を変え、醸造酒を作り、蒸留器で一度気化させ、冷やして寝かせる。

「よし、やりますか。スイッチオンッ!」

 蓮太は醸造から蒸留まで材料を放り込むだけで出来上がる装置を作り上げていた。各製造タンクに【時間加速】を付与し、完成した酒が樽に溜まり、自動で地下へと運ばれていく。樽にも時間加速が付与されており、数日待つだけで数年寝かせた酒が完成する仕組みだ。

「稼働は問題ないようだな。まずはウィスキーだ。その次からブランデーやらテキーラも作っていこう」

 こうして酒作りに励む事一ヶ月、大量の酒が完成し、竜達を集めて大宴会が始まった。

「あぁっちぃぃぃぃぃぃぃっ! アニキ、俺これじゃ飲めねぇよぉぉぉっ!?」
「水で薄めろよ。アルコール度数高いんだから燃えて当たり前だろうが」
「んくっんくっ! あはははははっ、美味しいわぁっ! こんな美味しいお酒初めて飲んだわっ!」

 水竜はザルだった。まるで水でも飲むかのように次々と樽を空にしていく。

「ぶぅぅぅぅっ、これは効くな。我も大満足だ! ガハハハハハッ」
「ささ、地竜。もう一杯どうぞ」
「うむ、すまぬな光竜」
「いえいえ~、どんどんお召し上がり下さい」

 光竜は地竜を酔わせて何をする気なのだろうか。

「うぇぇぇ……、辛いよこれは……」
「すまんな、まだ甘い酒が間に合わなくてな。蜂蜜で割ってみてくれ」
「それならまぁ……」

 お子様舌の風竜には少し合わなかったようだ。ちなみに闇竜とターニアも風竜と同じ飲み方をしていた。

「ご主人、次はワインを作りましょう! 酒はやはりワインじゃないと!」
「あれは葡萄で味が変わるからなぁ~……。ま、その内挑戦してみるよ」
「是非とも!」

 自分で作った酒と自分で作った野菜達で宴会を開く。このスローライフはまさに蓮太が求めていたものだった。

「あっちぃっ、ふーっふーっ……。チーズフォンデュも美味いな! これは止められんっ! これが全部自家製とか……ここは天国に違いない!」
「ご主人、オークキングのステーキが焼き上がったみたいですよ」
「よっし、なら特製ソースをかけてみんなに出してやってくれ」
「かしこまりました」

 オークキングは竜達が狩ってきてくれたものだ。他にも火喰い鳥やバトルホースがあるが、それらは焼き鳥と馬刺しに化けてすでに腹の中だ。次は唐揚げも作るとしよう。

 そんな宴会にルキが帰って来た。

「き、貴様らぁぁぁぁぁぁっ! 俺が働いているのに……何を宴会など開いているっ!!」
「あ~……ルキか。進捗は?」
「東西大陸は終わった。後は南北中央と島国だな。注げ」
「ラフィエル、注いで差し上げなさい」
「……はい」

 ラフィエルがルキのグラスにウォッカを並々と注いだ。ルキはそれを一気に飲み干し、その場で倒れ静かになった。

「よくやったラフィエル」
「ははっ、これで静かになりましたね」

 蓮太は潰れたルキを酒の肴にしながらグラスを傾ける。

「南北中央と島国か。そこは俺も見た事ないんだよなぁ~。どんな場所かは気になるところだ」

 それにラフィエルがある提案をした。

「でしたらご主人が行ってみては?」
「行ってはみたいけどな、地上に降りたら即捕捉されちまうし」
「では姿を変えてみてはどうでしょう? 竜の皆さんのように」
「……それだ!」

 どうして今まで気がつかなかったのだろうか。能力はいくらでも隠せるが、姿までに考えは至らなかった。

「よし、変身っ!」

 蓮太は半人半竜の姿に変身した。

「これなら誰にもバレないだろ」
「わぁぁ……ダーリン格好良いっ! 鱗が私と同じ黒だなんて……!」
「そこは俺の髪色が反映されたんだろうな。今の俺は竜と人間の中間ってとこだな。亜人っぽいだろ」
「うんっ! こんな事できるならもっと早く言って欲しかったな~」
「なぜだ?」

 すると闇竜はとんでもない事を口にした。

「だって……私ダーリンが寝てる時にこっそり私の血を飲ませてたし」
「……は? な、なんだって!? ち、ちょっと待て! それで俺はどうなるんだ!?」
「その内竜になるのっ! 闇より闇な暗黒竜! 格好良くない?」
「よ、良くねぇぇぇぇぇぇぇっ! 何してくれてんだお前っ!?」

 蓮太の叫びが空へと響きわたるのだった。  
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