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第1章
<2話>僕の『愛犬』(其の2)
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どんな不思議体験に遭遇しようと、
必ず次の日というのはやって来る。
僕たちの学校は4月2日から
始まるので、今日4月4日も勿論登校
しなければならない。
・・・行きたくない。
前に言った通り、僕は強姦魔として
地位は地を通り越して
地中に潜り込んでるレベルだし、
小早川達『上層グループ』に
目をつけられているので、
学校に行けば彼らの暴力か、
そうでなくとも他の生徒・教師達の
侮蔑の視線・態度を一身に受けるのが、
僕のスクールライフなのだ。
残念ながらこの地獄に青春を見出せる程
僕はマゾではないし、
もう1年以上この状態だから
少しは慣れたとは言えども
やっぱり味方がいない
のは辛いに決まってる。
ただ、今日からは違う。
僕にも味方ができたのだから。
もう僕は一人で軽蔑と戦わなくて
いいのだから。
それに不登校になったりしたら
それこそあいつらの思う壺だ。
「もうそろそろ出発するよ。」
僕はカバンの中身を確認し、
後ろを振り返る。
「ウッヒョーイ!
外の世界だ外の世界だイェーイ!」
・・・味方・・・だよね?
そこには、尻尾を振って
クルクル回りながら
はしゃぎ回る柴犬が、フセがいた。
何でフセも連れて行くのかというと、
彼曰く、『シンジュウ』は、
宿り主とそんなに
離れられないらしいのだ。
実際どっちかがある程度(約5mくらい)
離れると、離れた方が
引き戻されてしまうということは、
夜中のうちに確認済みである。
(その他色々と検証してみたが、
逐一書き記していけば
僕は確実に遅刻してしまうので、
申し訳ないがこれも必要になったら
説明する、という形にしておこう。)
「まあ、心配するなよ。
私が君の敵に回ることは絶対ないさ。
それに、
何かあったら『力』を貸してあげるよ。」
フセは途中で
人ごみに揉みくちゃにされながら
そう言ってくれた。
「有り難いけど、
君の『力』を借りないで
済む事を祈るよ。
あと、前から思ってたんだけど、
君最初に会った時はもっと
威厳に溢れた口調じゃなかった?」
この質問に関しては、
フセは即答してくれた。
「ああ、あれね。
何となくかっこいいかなと
思ったんだけど、
何か痛かったからやめた。」
そんなこんなで僕は学校に、
天原中学校にたどり着いた。
「ウッヒョー!これが『ガッコウ』か!
デッケー!『ジュギョウ』とか
『ブカツ』とかすんでしょー!?
ぜひ見てみたいなー!」
いきなりそんな事を叫び出したので、
僕は慌てて彼のマズルを引っ掴む。
「ばか!聞かれたらどうするんだよ!」
「ああ大丈夫。シンジュウの姿は
私が見せようと思わなきゃ見えないし、
声は一般人には聞こえないから。」
拘束を外すとフセはさらりと答えた。
取り敢えず僕はメモを取り出す。
🗒シンジュウの姿は任意で認識の
可不可を変えることができ、
声はそもそも聞こえない。
しかし、そうでなくとも
これでは僕が一人でブツブツやってる
ヤバい奴に見えるので、再度注意しようとした瞬間、何かが僕の頭に当たり、
鈍痛と共に僕はうずくまった。
それはサッカーボールだった。
そして、サッカー部のユニフォーム姿の顔の整った一人の学生がニヤつきながら
僕に近づいてくる。
「おい義経、何一人で
ブツブツやってんだよ。
お前これ以上イカれるつもりか?
また、今日も俺の鬱憤頼むぜ。」
彼こそ学校の『優等生(笑)』僕に冤罪をふっかけて地獄に突き落とし、今現在僕をいじめている中心人物の小早川だ。
彼は近づきざまに僕の腹に蹴りを入れると上記の台詞を吐き、
また練習に戻っていった。
グラウンドでは爆笑と
小早川ファンからの歓声がわいていた。
英雄小早川の朝の悪人制裁というわけだ
『今のが君を貶めたやつか。
絵に描いたような嫌な奴だねえ。
やり返したらいいんじゃない?』
ここに関してはフセに同意だ。
しかし冤罪が晴れていない以上、
次何かやらかしたら
今度こそ退学になるかもしれない。
「・・・仕方ないんだよ。
僕にはそんな力はないから。」
やっぱり今日も普段通り
最悪の日になりそうだ。
そんな事を思って僕は吹き飛んだ
眼鏡を拾い、
肩を落として
さっさと校舎に入ってしまったので、
フセがボソリといった
言葉に気づかなかった。
『まあ、今日中に私達に手を出した事を
泣いて後悔するだろうけどね。』
その日は午前中は特に何事も起きず、
そのまま午後になった。
午後は社会科の授業で、
その時僕達2年3組は、
担当教師から資料室にある
教材を取ってくるように言われた。
みんなが渋る中、
小早川が颯爽と名乗り出、
そして言い放った。
「先生、
一条君と今川君、あと義経君に
手伝ってもらっていいでしょうか?」
一条と今川は、
小早川の腰巾着にして、
一緒にいつも
僕をサンドバックにしている
奴らである。
教師の満足げな返事を聞きながら、
僕は思った。
こいつら、このタイミングでやるのか。
こういう場合、僕がまずすることは、
トイレに行くことだ。
そこで『心の準備』という奴をするのだ
といっても、
「じいちゃん、僕は負けないよ」
というだけだけど。
「じいちゃん」というのは、
小説家だった僕の祖父のことで、
僕になんでもメモを取る癖をつけさせた
張本人でもある。
僕をとても可愛がってくれて、
教師なんかよりずっといろんな事を
教えてくれた。
じいちゃんの教えは、
おいおい公表しようと思っているが、
とにかく、僕の中では
人生の師匠みたいな人なのだ。
形見の万年筆を僕には託して、
5年前に亡くなっちゃったけど。
だからまあ、『守って下さい』
みたいなニュアンスでこんな事を
言ってから、
僕は彼らの暴力に
望むことにしているのだ。
そうすると、何となく
『負けていない』ような気がするのだ。
『君、お爺ちゃんっ子だったんだね。』
「・・・いつから聞いてた!?」
外に置いてきたはずなのに!
フセはまた当然というふうに、
『ああ、シンジュウはね、
場所さえわかれば宿り主のところに
瞬間移動出来るんだよ。』
「なにそのご都合設定!?」
『まあまあ、それより君、
このままだったら嬲られるんでしょ?
私も流石に自分の宿り主が
殴打されてるのを黙って見ているのは
辛いからなにかしてあげたいんだけど、
私は霊体だから、
あいつらに干渉する事はできないし、
結局あいつらが君自身に
恐怖を抱いてくれれば
多分いじめなくなると思うんだよね。
というわけで、はいこれあげる。』
そう言って彼は尻尾をブンブン
振り回し始めた。
すると、上の空間に穴が空き、
呆然としている僕の眼前に、
一振りの刀が落ちてきた。
『<妖刀・世離>
切った相手を、死をも超える地獄へ
導く私の『加護』さ。
どうしても我慢できなかったら・・・』
そして、
とんでもない言葉に繋いだ。
『あいつらをソイツで斬れ。
大丈夫、絶対に死にはしない。
いや、絶対に死なせないというのが
適当かもしれないね。
じゃあそれあげるから、
上手く使いなよ。
あ、触れたら十数秒で
消えちゃうけど大丈夫、
次からは念じるだけで
勝手に顕現するから。
じゃ!』
そう言って、フセは僕の中に消えた。
残された僕はただ呆然と
その刀を見つめ、思わず唾を飲む。
・・・これがフセの『加護』、
僕が恐る恐る鞘を抜くと、
『世離』はその青白い刀身を
僕の眼前に晒した。
ーーー「おっせえんだよてめえは!」
殴られた。まあ、これは延々トイレに
篭っていたのは事実なので仕方ない。
暴力さえ無ければね。
僕は小突かれながら資料室に到着した。
僕が資料室に入った瞬間、
小早川の強烈な蹴りが僕より背中を
鈍痛として貫いた。
僕は吹き飛び、地面にうずくまる。
いつものことだ、
流石サッカー部レギュラー
といったところか。
彼は倒れた僕の髪を掴んで僕の顔を上げ
顔を近づける。
「てめえ、散々俺達またせやがって、
サンドバックの分際で何様のつもりだ!
ああ!?」
僕は痛みを堪えながら弱々しく答える。
「ご・・・ごめ・・・。」
腹に鈍痛。僕は自身でも気色悪い
声を出し、再度地面にうずくまる。
「まずはお仕置きだな。」
その言葉と同時に、小早川の拳が
僕の顔に猛スピードで近づいてきた。
ーーー2分後、資料室には、
鮮血の中で横たわる僕の姿があった。
前では小早川達が爆笑している。
「お前マジで弱えな!
本当に人間か!?
実は虫なんじゃね!?」
僕は悔しさで左手の拳を握りながら、
無意識に胸ポケットへ、
形見の万年筆の無事を確かめようと・・・
・・・無い。無い、無い、無い、無い、
無い無い無い無い無い無い無い無い!
万年筆が無い!
僕は痛みで動かない体を動かしながら、
必死に周囲を探す。だけど見当たらない
「探してんのはこれかあ?」
見上げると、小早川が
万年筆を持ってにやけていた。
「返せ!それは・・・」
お前なんかが持っていい物じゃない!
僕は彼の足に飛びかからんとしたが、
勿論再び顔面を蹴り飛ばされるのが
オチだった。
僕は再びうめき声をあげて
古びた木目を見つめる。
「そんなに大事なもんなんだ~。
ふ~ん。」
小早川は万年筆をまじまじと見つめ、
そして、
それを床に落とし思い切り踏んだ。
人間というのは、限界を超えて
怒り狂うとどうなるのか、
僕の場合はまず痛みを感じなくなった。
そして僕は兎のように
床を蹴り飛ばし、
飛び上がってしゃがんで着地、
反撃の体制を整え、
それと同時に『世離』を顕現する。
フセの言う通り、念じるだけで、
あの青白い刀身を持つ異形の刃は、
両手に握り込まれた。
そして僕はそのまま床を破壊せんばかりの勢いで床板を蹴り飛ばして小早川に
突進し、刀を彼の足に差し込み、
全身全霊でその刃を左に薙いだ。
(後からわかったんだけど、
シンジュウの宿主は、身体能力が
常人の6倍ほどに向上するそうだ。
その証拠に
この一連の動作は
全て2~3秒の間に行われた。)
「う、うおああ!?」
僕の予想外の反撃に、
小早川は横に揺らぎ、尻餅をつく。
「一馬!?大丈夫か!?」
小早川は動揺していたが、
「お、おう・・・。」と返事を返した。
確かに、
取り巻き達が声をかける小早川には、
特に変化が見られなかった。
いや、・・・なんだあれ、紋様?
『世離』の刀身が貫通したはずの
小早川の両足には、
生々しい切傷ではなく、
犬の咬み傷を模したような紋様が
びっしりと張り付いていた。
どういうことだ!?
確かに切ったはずなのに!?
混乱する僕に、取り巻き達はさっさと
近づいてきて、
「てめえ、ゴミの分際で
何やり返そうとしてんだオラァ!」と
凄みの形相で詰め寄る。
小早川も元気そうに、
「何の痛みもねえ・・・な・・・?
おい、今ひょっとして反撃したのか?
なんもねえけど?これが反撃?
やっぱゴミだな。」
と言い、そばにあったゴミ箱を僕に
投げつけた。
その瞬間、
「ぎゃあああああああああ!」
僕は勿論一条や今川も後ろを、
悲鳴の主の小早川を振り返る。
小早川は、透き通る両脚を抱えて、
のたうちまわっていた。
血走った目は大きく見開かれ、
鼻からは鼻水、口からは涎を垂らし、
瞼や手を神経に通電したように
痙攣させながら、
断末魔が美しい音色に聞こえるような
生々しく悲痛で汚らしい大音量の悲鳴を
周囲に撒き散らしながら
狂ったように暴れまわる。
いや、側から見ればどう見ても
発狂しているようにしか見えない。
だって、
彼は何処も怪我していないのだから。
切れてもいない、血も流れていない、
かすり傷一つ付いていない。
なのに本人は、人間のそれとは到底思えないような動きと、声と、形相で、
必死に痛みから逃れようと
狂ったように暴れているのだ。
僕たちはお互いに関する怒りすら忘れて
呆然と小早川を見る。
僕は彼らより早く我に帰り、
そしてそれと
同時にある憶測が湧き出た。
僕はそれを確かめるべく、
僕の両手に視線を移す。
憶測は当たっていたようだった。ついさっきまで透き通るような
青白い色をしていた『世離』は、
目眩がするような、
心すら血に染まるような
赤黒い色に染まっていた。
グチャグチャの僕の頭の中で、
フセの声が響く。
『言ったでしょ?
後悔するってさ。
そいつに、
『世離』に切られたものはね、
どうしようと決して
痛みから逃れることは出来ない。
それがそいつの力さ。』
必ず次の日というのはやって来る。
僕たちの学校は4月2日から
始まるので、今日4月4日も勿論登校
しなければならない。
・・・行きたくない。
前に言った通り、僕は強姦魔として
地位は地を通り越して
地中に潜り込んでるレベルだし、
小早川達『上層グループ』に
目をつけられているので、
学校に行けば彼らの暴力か、
そうでなくとも他の生徒・教師達の
侮蔑の視線・態度を一身に受けるのが、
僕のスクールライフなのだ。
残念ながらこの地獄に青春を見出せる程
僕はマゾではないし、
もう1年以上この状態だから
少しは慣れたとは言えども
やっぱり味方がいない
のは辛いに決まってる。
ただ、今日からは違う。
僕にも味方ができたのだから。
もう僕は一人で軽蔑と戦わなくて
いいのだから。
それに不登校になったりしたら
それこそあいつらの思う壺だ。
「もうそろそろ出発するよ。」
僕はカバンの中身を確認し、
後ろを振り返る。
「ウッヒョーイ!
外の世界だ外の世界だイェーイ!」
・・・味方・・・だよね?
そこには、尻尾を振って
クルクル回りながら
はしゃぎ回る柴犬が、フセがいた。
何でフセも連れて行くのかというと、
彼曰く、『シンジュウ』は、
宿り主とそんなに
離れられないらしいのだ。
実際どっちかがある程度(約5mくらい)
離れると、離れた方が
引き戻されてしまうということは、
夜中のうちに確認済みである。
(その他色々と検証してみたが、
逐一書き記していけば
僕は確実に遅刻してしまうので、
申し訳ないがこれも必要になったら
説明する、という形にしておこう。)
「まあ、心配するなよ。
私が君の敵に回ることは絶対ないさ。
それに、
何かあったら『力』を貸してあげるよ。」
フセは途中で
人ごみに揉みくちゃにされながら
そう言ってくれた。
「有り難いけど、
君の『力』を借りないで
済む事を祈るよ。
あと、前から思ってたんだけど、
君最初に会った時はもっと
威厳に溢れた口調じゃなかった?」
この質問に関しては、
フセは即答してくれた。
「ああ、あれね。
何となくかっこいいかなと
思ったんだけど、
何か痛かったからやめた。」
そんなこんなで僕は学校に、
天原中学校にたどり着いた。
「ウッヒョー!これが『ガッコウ』か!
デッケー!『ジュギョウ』とか
『ブカツ』とかすんでしょー!?
ぜひ見てみたいなー!」
いきなりそんな事を叫び出したので、
僕は慌てて彼のマズルを引っ掴む。
「ばか!聞かれたらどうするんだよ!」
「ああ大丈夫。シンジュウの姿は
私が見せようと思わなきゃ見えないし、
声は一般人には聞こえないから。」
拘束を外すとフセはさらりと答えた。
取り敢えず僕はメモを取り出す。
🗒シンジュウの姿は任意で認識の
可不可を変えることができ、
声はそもそも聞こえない。
しかし、そうでなくとも
これでは僕が一人でブツブツやってる
ヤバい奴に見えるので、再度注意しようとした瞬間、何かが僕の頭に当たり、
鈍痛と共に僕はうずくまった。
それはサッカーボールだった。
そして、サッカー部のユニフォーム姿の顔の整った一人の学生がニヤつきながら
僕に近づいてくる。
「おい義経、何一人で
ブツブツやってんだよ。
お前これ以上イカれるつもりか?
また、今日も俺の鬱憤頼むぜ。」
彼こそ学校の『優等生(笑)』僕に冤罪をふっかけて地獄に突き落とし、今現在僕をいじめている中心人物の小早川だ。
彼は近づきざまに僕の腹に蹴りを入れると上記の台詞を吐き、
また練習に戻っていった。
グラウンドでは爆笑と
小早川ファンからの歓声がわいていた。
英雄小早川の朝の悪人制裁というわけだ
『今のが君を貶めたやつか。
絵に描いたような嫌な奴だねえ。
やり返したらいいんじゃない?』
ここに関してはフセに同意だ。
しかし冤罪が晴れていない以上、
次何かやらかしたら
今度こそ退学になるかもしれない。
「・・・仕方ないんだよ。
僕にはそんな力はないから。」
やっぱり今日も普段通り
最悪の日になりそうだ。
そんな事を思って僕は吹き飛んだ
眼鏡を拾い、
肩を落として
さっさと校舎に入ってしまったので、
フセがボソリといった
言葉に気づかなかった。
『まあ、今日中に私達に手を出した事を
泣いて後悔するだろうけどね。』
その日は午前中は特に何事も起きず、
そのまま午後になった。
午後は社会科の授業で、
その時僕達2年3組は、
担当教師から資料室にある
教材を取ってくるように言われた。
みんなが渋る中、
小早川が颯爽と名乗り出、
そして言い放った。
「先生、
一条君と今川君、あと義経君に
手伝ってもらっていいでしょうか?」
一条と今川は、
小早川の腰巾着にして、
一緒にいつも
僕をサンドバックにしている
奴らである。
教師の満足げな返事を聞きながら、
僕は思った。
こいつら、このタイミングでやるのか。
こういう場合、僕がまずすることは、
トイレに行くことだ。
そこで『心の準備』という奴をするのだ
といっても、
「じいちゃん、僕は負けないよ」
というだけだけど。
「じいちゃん」というのは、
小説家だった僕の祖父のことで、
僕になんでもメモを取る癖をつけさせた
張本人でもある。
僕をとても可愛がってくれて、
教師なんかよりずっといろんな事を
教えてくれた。
じいちゃんの教えは、
おいおい公表しようと思っているが、
とにかく、僕の中では
人生の師匠みたいな人なのだ。
形見の万年筆を僕には託して、
5年前に亡くなっちゃったけど。
だからまあ、『守って下さい』
みたいなニュアンスでこんな事を
言ってから、
僕は彼らの暴力に
望むことにしているのだ。
そうすると、何となく
『負けていない』ような気がするのだ。
『君、お爺ちゃんっ子だったんだね。』
「・・・いつから聞いてた!?」
外に置いてきたはずなのに!
フセはまた当然というふうに、
『ああ、シンジュウはね、
場所さえわかれば宿り主のところに
瞬間移動出来るんだよ。』
「なにそのご都合設定!?」
『まあまあ、それより君、
このままだったら嬲られるんでしょ?
私も流石に自分の宿り主が
殴打されてるのを黙って見ているのは
辛いからなにかしてあげたいんだけど、
私は霊体だから、
あいつらに干渉する事はできないし、
結局あいつらが君自身に
恐怖を抱いてくれれば
多分いじめなくなると思うんだよね。
というわけで、はいこれあげる。』
そう言って彼は尻尾をブンブン
振り回し始めた。
すると、上の空間に穴が空き、
呆然としている僕の眼前に、
一振りの刀が落ちてきた。
『<妖刀・世離>
切った相手を、死をも超える地獄へ
導く私の『加護』さ。
どうしても我慢できなかったら・・・』
そして、
とんでもない言葉に繋いだ。
『あいつらをソイツで斬れ。
大丈夫、絶対に死にはしない。
いや、絶対に死なせないというのが
適当かもしれないね。
じゃあそれあげるから、
上手く使いなよ。
あ、触れたら十数秒で
消えちゃうけど大丈夫、
次からは念じるだけで
勝手に顕現するから。
じゃ!』
そう言って、フセは僕の中に消えた。
残された僕はただ呆然と
その刀を見つめ、思わず唾を飲む。
・・・これがフセの『加護』、
僕が恐る恐る鞘を抜くと、
『世離』はその青白い刀身を
僕の眼前に晒した。
ーーー「おっせえんだよてめえは!」
殴られた。まあ、これは延々トイレに
篭っていたのは事実なので仕方ない。
暴力さえ無ければね。
僕は小突かれながら資料室に到着した。
僕が資料室に入った瞬間、
小早川の強烈な蹴りが僕より背中を
鈍痛として貫いた。
僕は吹き飛び、地面にうずくまる。
いつものことだ、
流石サッカー部レギュラー
といったところか。
彼は倒れた僕の髪を掴んで僕の顔を上げ
顔を近づける。
「てめえ、散々俺達またせやがって、
サンドバックの分際で何様のつもりだ!
ああ!?」
僕は痛みを堪えながら弱々しく答える。
「ご・・・ごめ・・・。」
腹に鈍痛。僕は自身でも気色悪い
声を出し、再度地面にうずくまる。
「まずはお仕置きだな。」
その言葉と同時に、小早川の拳が
僕の顔に猛スピードで近づいてきた。
ーーー2分後、資料室には、
鮮血の中で横たわる僕の姿があった。
前では小早川達が爆笑している。
「お前マジで弱えな!
本当に人間か!?
実は虫なんじゃね!?」
僕は悔しさで左手の拳を握りながら、
無意識に胸ポケットへ、
形見の万年筆の無事を確かめようと・・・
・・・無い。無い、無い、無い、無い、
無い無い無い無い無い無い無い無い!
万年筆が無い!
僕は痛みで動かない体を動かしながら、
必死に周囲を探す。だけど見当たらない
「探してんのはこれかあ?」
見上げると、小早川が
万年筆を持ってにやけていた。
「返せ!それは・・・」
お前なんかが持っていい物じゃない!
僕は彼の足に飛びかからんとしたが、
勿論再び顔面を蹴り飛ばされるのが
オチだった。
僕は再びうめき声をあげて
古びた木目を見つめる。
「そんなに大事なもんなんだ~。
ふ~ん。」
小早川は万年筆をまじまじと見つめ、
そして、
それを床に落とし思い切り踏んだ。
人間というのは、限界を超えて
怒り狂うとどうなるのか、
僕の場合はまず痛みを感じなくなった。
そして僕は兎のように
床を蹴り飛ばし、
飛び上がってしゃがんで着地、
反撃の体制を整え、
それと同時に『世離』を顕現する。
フセの言う通り、念じるだけで、
あの青白い刀身を持つ異形の刃は、
両手に握り込まれた。
そして僕はそのまま床を破壊せんばかりの勢いで床板を蹴り飛ばして小早川に
突進し、刀を彼の足に差し込み、
全身全霊でその刃を左に薙いだ。
(後からわかったんだけど、
シンジュウの宿主は、身体能力が
常人の6倍ほどに向上するそうだ。
その証拠に
この一連の動作は
全て2~3秒の間に行われた。)
「う、うおああ!?」
僕の予想外の反撃に、
小早川は横に揺らぎ、尻餅をつく。
「一馬!?大丈夫か!?」
小早川は動揺していたが、
「お、おう・・・。」と返事を返した。
確かに、
取り巻き達が声をかける小早川には、
特に変化が見られなかった。
いや、・・・なんだあれ、紋様?
『世離』の刀身が貫通したはずの
小早川の両足には、
生々しい切傷ではなく、
犬の咬み傷を模したような紋様が
びっしりと張り付いていた。
どういうことだ!?
確かに切ったはずなのに!?
混乱する僕に、取り巻き達はさっさと
近づいてきて、
「てめえ、ゴミの分際で
何やり返そうとしてんだオラァ!」と
凄みの形相で詰め寄る。
小早川も元気そうに、
「何の痛みもねえ・・・な・・・?
おい、今ひょっとして反撃したのか?
なんもねえけど?これが反撃?
やっぱゴミだな。」
と言い、そばにあったゴミ箱を僕に
投げつけた。
その瞬間、
「ぎゃあああああああああ!」
僕は勿論一条や今川も後ろを、
悲鳴の主の小早川を振り返る。
小早川は、透き通る両脚を抱えて、
のたうちまわっていた。
血走った目は大きく見開かれ、
鼻からは鼻水、口からは涎を垂らし、
瞼や手を神経に通電したように
痙攣させながら、
断末魔が美しい音色に聞こえるような
生々しく悲痛で汚らしい大音量の悲鳴を
周囲に撒き散らしながら
狂ったように暴れまわる。
いや、側から見ればどう見ても
発狂しているようにしか見えない。
だって、
彼は何処も怪我していないのだから。
切れてもいない、血も流れていない、
かすり傷一つ付いていない。
なのに本人は、人間のそれとは到底思えないような動きと、声と、形相で、
必死に痛みから逃れようと
狂ったように暴れているのだ。
僕たちはお互いに関する怒りすら忘れて
呆然と小早川を見る。
僕は彼らより早く我に帰り、
そしてそれと
同時にある憶測が湧き出た。
僕はそれを確かめるべく、
僕の両手に視線を移す。
憶測は当たっていたようだった。ついさっきまで透き通るような
青白い色をしていた『世離』は、
目眩がするような、
心すら血に染まるような
赤黒い色に染まっていた。
グチャグチャの僕の頭の中で、
フセの声が響く。
『言ったでしょ?
後悔するってさ。
そいつに、
『世離』に切られたものはね、
どうしようと決して
痛みから逃れることは出来ない。
それがそいつの力さ。』
0
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