シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<1話>僕の『愛犬』(其の1)

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僕は自分の部屋のベット
の中で覚醒した。
時計を見ると午前2時
ちょっと早く起きすぎたかな。
・・・あれ?
僕は確か路地裏で言葉を話す犬に
襲われ(どころか体に侵入され)て
気絶したはずなんだけど。
こうして硬い地面ではなく
自分の家の柔らかいベットに寝ていて、
ご丁寧にパジャマまで着替えて
いるところを見ると、
精神的に追い詰められすぎてか、
疲れすぎてか
幻覚でも見たのだろうか?
そういえば妙に
腹のあたりが重いし・・・。

腑に落ちないまま、
僕はベットの中でふと頭を起こす。
「おっはよ~う、赤斗君!
いや~、この『ベット』っていうやつ、
草なんか比べ物にならないくらい
フッカフカだねぇ~♪
君のご両親に昨晩
ここに案内されたときは、
『なんだこの珍妙な寝具は!
何で布団をわざわざ脚のついた
箱の中に入る必要があるのだ!』
とか思ったけど、これ
めちゃくちゃいいね~!
君の身体を返すのも惜しかったよ、
もう少し寝て居たかったなあ。
ねえねえ、今からでも
変わってくれない?
半刻だけでい~からさ~?
ね?お願い!」
僕の腹に座った柴犬はベラベラと
こうまくし立てた。
この直後、僕の悲鳴は
僕の人生の最大声量を
更新することになる。

ーーー「ごめんごめん、
驚かせて悪かったよ。
あー、お前誰だよって話だよね。
私はフセ。柴犬の『シンジュウ』の
1柱だよ。で、
君は昨晩僕の現し身う  つしみになった。
だから私は精神だけの存在で、
君の身体に張り付いてるのさ。
理解できた?」
・・・理解云々以前に
頭がついていけない。
僕はベットの上で柴犬・フセの
話を聞いていた。
突撃してきた両親に
(夜中の2時に1人息子が何の前触れも
無しにこの世のものとは思えない
悲鳴をあげたら
そりゃすっ飛んでくるに決まってる。)
なんとか言い訳して
部屋に帰ってもらった後、
僕はまず説明を求めたのだ。
フセという存在について。

僕は彼に問う。
「なあ、まず質問。『シンジュウ』って
何?そして、それがどうして僕の体に
住み着く必要があるの?」
フセは尻尾を振りながら答える。
「うん、そうだね。それは
説明するべきだよね。
まあ落ち着いて、なんか飲もうよ。」
そう言って彼は部屋を出たかと思うと、
背中にお盆、その上に皿に注いだ水と
ペットボトル入りのお茶を乗せて
戻ってきた。
どこから持ってきたんだろうか?
器用なもんだ。
フセはお盆を下ろし、
僕にペットボトルを投げると
自身は水をペロリと舐め、話し始めた。
「まず、『シンジュウ』とは何か、
っていうことだよね。
えーとさ、
アイヌ民族って聞いたことあるでしょ?
あの人達は獲物とか火とか
を『カムイ』って言うよね。
あれは動物とか、火とか植物とか、
人間を助けてくれる物とか、
逆に害を及ぼす物とかを神格化してる。
あれは実は本当なんだよ。
カムイと呼ばれる存在は本当にいて、
人間に『加護』をあたえているんだ。
ただ彼らは大抵力の弱い低級のものだ。
だから何かを媒介にしなきゃ
人間に何かしてあげることはできないし
人間の信仰がなきゃこの世に存在する
ことすらできない。
彼らは人々に恵みという『加護』
を与えることで、
人間に信仰してもらい、
この地に分身を存在させる事ができる。
いわばギブアンドテイクなのさ。」

僕はメモを取り出し、書き込む。
🗒神様と人間はギブアンドテイク

その行為にフセが気づき、
不思議そうに話しかける。
「・・・何してんの?」
「ん?ああ、僕小説家になりたくてさ、
面白そうな話はこうやって
メモすることにしてるんだ。
気にしないで続けて続けて。」
「あ、うん。」
フセはちょっと不思議そうにしながら、
話を戻す。
「で、シンジュウってのは、
カムイより力が強い、
ワンランク上の存在だ。
カムイよりずっと力が強い。
だけどその分、存在するには
『信仰』じゃなく『認識』が必要だ。
つまりは、自分の存在を認めてくれる
人が必要で、
私達が存在するには、
曖昧な『信仰』ではなく、
私達が本当にいると5感的に『認識』
してもらわなきゃならない。
かといって『ある事情』で
大勢に私達が本当に
存在している事が露呈するのは
非常に危険だ。
そこで、だれか人間を1人選んで
その人に取り憑き、
やりたいことをするのさ。
で、その取り憑き相手と言うのが
私の場合は君だったって話。」
つまり、フセには人間の世界でやりたい事があり、
本来は存在できない世界に
彼をつなぎとめる錨役として
選ばれた人間が僕、ということらしい。

「繋ぎ止め役かあ、
これから色々と大変そうだな。」
僕が呟くとフセが気になる言葉を返した
「まあ、そう落胆しなさんな。
確かに大変だけど、
君には何のメリットもない
わけじゃないんだよ。」
僕は少し驚く。
「どういうこと?僕は錨役なんだろ。」
フセが続ける。
「確かにそうだけど、先刻さっき
いったでしょ?
神と人間はギブアンドテイクなんだぜ。
私は君の身体に住み着くけど、
その代わり君は私の加護を得られる。」
「何をくれるの?
『食べ物には一生不自由しないぜ!』
とかいうご利益とか?」
今思えば、もし、彼のいう『加護』が
そんなに優しい・・・
物だったなら、僕の人生は、
こうも変わったりしなかっただろう。
彼は首を横に振った。
「いいや、違う。
もう少し直接的なものさ。
うまく使えば世界でも変えられるよ。
ただ、
変な使い方すれば身を滅ぼすけどね。」
そして彼が続けた言葉に、
僕はしばらく放心することになった。
「私達の『加護』は、
人の身のまま神に近づかせる、
神の力の貸与さ。
つまりはまあ、
君たちが『異能力』って呼んでる
力を人間に与える、
それが私たちの加護さ。」
そう言って、フセは微笑んだ。
そんな気がした。



















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