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第1章
<5話>オッサンと兎探偵(其の3)
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実はうちの学校の校舎の裏の網には、
人が通れるくらい大きな穴が空いており
そこをくぐり抜けると学校裏の雑木林の
ようなところに出て、
そこにある獣道を
まっすぐに30秒ほど行くとすぐ
大きめの廃倉庫のようなものがある。
校区外のためか、
穴が草で完全に隠れていて、
あることを知っていなければ
見つけるのがほぼ不可能なためか、
何故か先生達も
抜け穴の存在に気づいておらず、
中も結構広いため、
休み時間の休憩所や
告白スポットになったりしている。
ここの生徒であれば誰が使ってもいい、
まさに『生徒限定憩いの場』なのだ。
(但し、大勢で使うと気づかれるので
利用できる日程は生徒会長によって
(勿論教師陣にバレないようこっそりと)
各々平等に決められていること、
そして
大規模な捜索がなされて抜け道の存在が
見つかる恐れがある
廃倉庫に隠れて
授業をすっぽかす、
あるいは学校からの脱走などは
御法度というのが
暗黙の了解となっている。)
結局僕は僕を犯人と見抜いた
うさ耳帽少女・斯波葉月
(いや.話したのは
彼女のシンジュウとだけど)
彼らやシンジュウについて
話すことを条件に、
放課後7時、
そこで落ち合うことにした。
というのも、向こうが、
『いや、心配しなくても、
警察にたれこんだりしねえよ。
お前のアレは正当防衛の結果で、
小早川とかいう奴は
絵に描いたようなクズだってことは、
僕たちは分かっているからな。
だから、お前を警察に突き出そうとか、
どうこうしようとか、
そんな事は誓ってない。
その代わりと言ってはなんだけど、
放課後もう一度僕たちと会ってくれ。
邪な心は全くない。
危害も一切加えない、約束する。
ただ、僕の『宿り主』の葉月が、
純粋に話したがってるんだけなんだ、
葉月はずっと1人だったからな。
多分同じ境遇のやつに
出会えて嬉しいんだと思う、
憑依中だから、葉月が喜んでることが
ビシビシ伝わってくるんだよ。
それに、僕だって情報交換はしたい。
頼む、
『斯波葉月の意思を持つ斯波葉月』に
会ってやってくれないか?
お前らにとっても
いいことではあるはずだ、
断ったら・・・わかるよな?』
と凄みのある声で僕に迫ったからだ。
随分ややこしい言い方
をされてしまったが、
要するに僕は彼女のシンジュウに、
『自分たちが暴いたお前の罪を
告発しないでおいてやるから、
シンジュウが憑依していない
彼女本人と
話をしてくれ(じゃなきゃバラす)』
と半分恐喝じみたことを言われたのだ。
同い年の女の子から。
とはいえ、
断ったらどうなるかわからないし、
実際に彼女達と
話すことで、
大きな収穫を得ることが
できるかもしれないのは事実だ、
そう考えた僕とフセは、その要求を
僕は二つ返事で承諾したのだった。
ーーーその夜の6時30分、
僕とフセは月明かりに浮かび上がった
黒くて大きな校門の前にいた。
なんでそんな時間に
そんなところにいたのかというと、
勿論待ち合わせ場所である
廃倉庫に行くためである。
「いや、普通に雑木林から行けよ。」
という人もいるかもしれないが、
僕のいう雑木林、
『平泉国有林』の正式な入り口は、
実は学校の抜け穴の真反対なのである。
正式な入り口から行こうと思うと、
ここから車でも1時間ほどの、
おそろしく遠い林の入り口から
行かなくてはならない。
この林、実はかなり広いのだ。
それに、辺りは完全に闇なので、
無理に正式な入り口から
コースから外れたところにある
廃倉庫に向かおうと思えば、
僕は確実に迷子になるだろう。
というわけで、僕は晴れて
人生初の学校への不法侵入を
試みるに至った。
まあ、何事も経験だと思う。
一応顔が見えないように
フード被ってサングラス
かけてマスクしてるし
(これ見つかったら絶対通報されるな)
最悪シンジュウの力を使えば
身体能力が常人離れするんだから、
駆けつけた警備会社やら警察やらを
振り切って逃げきることも可能だろう。
(それでもダメなら
『世離』を使うしかないが、
いくら『赤い刃』でなければ
切っても死なないとはいえ、
絶対にやりたくない。)
取り敢えず校門近くまで来た僕に、
まず監視カメラの存在が立ち塞がったが
人間に見えない様になっているフセに、
全ての監視カメラの位置を探してもらい
そこに紙を貼り付けてもらったのだ。
おそらくタチの悪い
いたずらとして処理されるだろう。
普段は模範的生徒なのだから、
これくらいのことは
勘弁していただきたい。
「・・・よし、行こうか。」
『うん、行こう。』
僕とフセは少し後ろに下がり、
そこからダッシュで助走をつけて、
校門を飛び越えた。
そしてそのまま、校舎や倉庫の
屋根から屋根を伝って
裏側の金網のところまで行った。
すると突然フセが
『本当に行くの?
実は罠で私達を警察が待ち受けてたり、
いや、最悪彼女達に殺されるかもよ?』
と口走った。
嫌な事を言う柴犬だ。
しかも正論なんだから達が悪い。
確かに彼女達が
僕たちに害を及ぼす可能性も、
残念ながら捨てきれない。
でも、でも。
僕は万年筆を固く握りしめて、答える。
「昔爺ちゃんが言ってたよ、
『人生において、欲しいと思うものは、
<有ると良いもの>と
<無くてはならないもの>の
2種類がある。
<有ると良いもの>は
放っておいても
大抵向こうからやってくるから、
それを自分から危険を冒して
取りに行く様な
奴の事を愚か者という。
ただし、
時には愚か者にならなくては、
<無くてはならないもの>を
見分けられるようにはなれないし、
取りに行くことも、
手にすることもできない。』って。
これは<なくてはならないもの>だ。
だから取りに行く、それだけさ。」
フセは黙って
僕にその黒くて湿った鼻を向けていた。
かくして、
僕たちは抜け穴をくぐり、
倉庫へ向かったのだった。
人が通れるくらい大きな穴が空いており
そこをくぐり抜けると学校裏の雑木林の
ようなところに出て、
そこにある獣道を
まっすぐに30秒ほど行くとすぐ
大きめの廃倉庫のようなものがある。
校区外のためか、
穴が草で完全に隠れていて、
あることを知っていなければ
見つけるのがほぼ不可能なためか、
何故か先生達も
抜け穴の存在に気づいておらず、
中も結構広いため、
休み時間の休憩所や
告白スポットになったりしている。
ここの生徒であれば誰が使ってもいい、
まさに『生徒限定憩いの場』なのだ。
(但し、大勢で使うと気づかれるので
利用できる日程は生徒会長によって
(勿論教師陣にバレないようこっそりと)
各々平等に決められていること、
そして
大規模な捜索がなされて抜け道の存在が
見つかる恐れがある
廃倉庫に隠れて
授業をすっぽかす、
あるいは学校からの脱走などは
御法度というのが
暗黙の了解となっている。)
結局僕は僕を犯人と見抜いた
うさ耳帽少女・斯波葉月
(いや.話したのは
彼女のシンジュウとだけど)
彼らやシンジュウについて
話すことを条件に、
放課後7時、
そこで落ち合うことにした。
というのも、向こうが、
『いや、心配しなくても、
警察にたれこんだりしねえよ。
お前のアレは正当防衛の結果で、
小早川とかいう奴は
絵に描いたようなクズだってことは、
僕たちは分かっているからな。
だから、お前を警察に突き出そうとか、
どうこうしようとか、
そんな事は誓ってない。
その代わりと言ってはなんだけど、
放課後もう一度僕たちと会ってくれ。
邪な心は全くない。
危害も一切加えない、約束する。
ただ、僕の『宿り主』の葉月が、
純粋に話したがってるんだけなんだ、
葉月はずっと1人だったからな。
多分同じ境遇のやつに
出会えて嬉しいんだと思う、
憑依中だから、葉月が喜んでることが
ビシビシ伝わってくるんだよ。
それに、僕だって情報交換はしたい。
頼む、
『斯波葉月の意思を持つ斯波葉月』に
会ってやってくれないか?
お前らにとっても
いいことではあるはずだ、
断ったら・・・わかるよな?』
と凄みのある声で僕に迫ったからだ。
随分ややこしい言い方
をされてしまったが、
要するに僕は彼女のシンジュウに、
『自分たちが暴いたお前の罪を
告発しないでおいてやるから、
シンジュウが憑依していない
彼女本人と
話をしてくれ(じゃなきゃバラす)』
と半分恐喝じみたことを言われたのだ。
同い年の女の子から。
とはいえ、
断ったらどうなるかわからないし、
実際に彼女達と
話すことで、
大きな収穫を得ることが
できるかもしれないのは事実だ、
そう考えた僕とフセは、その要求を
僕は二つ返事で承諾したのだった。
ーーーその夜の6時30分、
僕とフセは月明かりに浮かび上がった
黒くて大きな校門の前にいた。
なんでそんな時間に
そんなところにいたのかというと、
勿論待ち合わせ場所である
廃倉庫に行くためである。
「いや、普通に雑木林から行けよ。」
という人もいるかもしれないが、
僕のいう雑木林、
『平泉国有林』の正式な入り口は、
実は学校の抜け穴の真反対なのである。
正式な入り口から行こうと思うと、
ここから車でも1時間ほどの、
おそろしく遠い林の入り口から
行かなくてはならない。
この林、実はかなり広いのだ。
それに、辺りは完全に闇なので、
無理に正式な入り口から
コースから外れたところにある
廃倉庫に向かおうと思えば、
僕は確実に迷子になるだろう。
というわけで、僕は晴れて
人生初の学校への不法侵入を
試みるに至った。
まあ、何事も経験だと思う。
一応顔が見えないように
フード被ってサングラス
かけてマスクしてるし
(これ見つかったら絶対通報されるな)
最悪シンジュウの力を使えば
身体能力が常人離れするんだから、
駆けつけた警備会社やら警察やらを
振り切って逃げきることも可能だろう。
(それでもダメなら
『世離』を使うしかないが、
いくら『赤い刃』でなければ
切っても死なないとはいえ、
絶対にやりたくない。)
取り敢えず校門近くまで来た僕に、
まず監視カメラの存在が立ち塞がったが
人間に見えない様になっているフセに、
全ての監視カメラの位置を探してもらい
そこに紙を貼り付けてもらったのだ。
おそらくタチの悪い
いたずらとして処理されるだろう。
普段は模範的生徒なのだから、
これくらいのことは
勘弁していただきたい。
「・・・よし、行こうか。」
『うん、行こう。』
僕とフセは少し後ろに下がり、
そこからダッシュで助走をつけて、
校門を飛び越えた。
そしてそのまま、校舎や倉庫の
屋根から屋根を伝って
裏側の金網のところまで行った。
すると突然フセが
『本当に行くの?
実は罠で私達を警察が待ち受けてたり、
いや、最悪彼女達に殺されるかもよ?』
と口走った。
嫌な事を言う柴犬だ。
しかも正論なんだから達が悪い。
確かに彼女達が
僕たちに害を及ぼす可能性も、
残念ながら捨てきれない。
でも、でも。
僕は万年筆を固く握りしめて、答える。
「昔爺ちゃんが言ってたよ、
『人生において、欲しいと思うものは、
<有ると良いもの>と
<無くてはならないもの>の
2種類がある。
<有ると良いもの>は
放っておいても
大抵向こうからやってくるから、
それを自分から危険を冒して
取りに行く様な
奴の事を愚か者という。
ただし、
時には愚か者にならなくては、
<無くてはならないもの>を
見分けられるようにはなれないし、
取りに行くことも、
手にすることもできない。』って。
これは<なくてはならないもの>だ。
だから取りに行く、それだけさ。」
フセは黙って
僕にその黒くて湿った鼻を向けていた。
かくして、
僕たちは抜け穴をくぐり、
倉庫へ向かったのだった。
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