シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<7話>廃倉庫にて(其の2)

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彼女らの漫才が終了した後、
僕が小早川に虐められていたこと、
小早川が謎の症状で入院したのは
僕がシンジュウの力を使って
反撃した結果であることを話した。
続いて僕の『加護』について
話そうとした時、
フセが『絶対ダメ!』と
かなりきつい表情で
僕の足に体当たりしたので、
僕はよろけながら
説明を中断する羽目になった。

そんなに重要なもんなのか?
と思っているとピノが口を挟む。
『加護までは喋らなくていいよ。
さすがにこの犬も
気分を害するだろうからね。

僕らにとって『加護』は、
心から信頼した人間にだけ与えるもので
見知らぬ人間、
ましてや他のシンジュウに自身の加護を
ばらされるというのは、
信頼した人間にだけ教えた企業秘密を
漏洩される様なものだからね。

だから僕らが
宿り主以外に
このことを喋る事はほぼない。

逆に言えば、
宿り主かシンジュウが赤の他人に
『加護』をバラすっていうのは、
その人の事を
心から信頼してるってことなんだよ。』

どうやらそれは本当らしく、
ふとフセの方を見ると、
今度は軽く
軽蔑の視線を向けられていた。

・・・次からは気をつけよう。

「なるほど、大体わかりました。」
僕の話を聞き終わった斯波は、
一度だけ大きく頷いた。
「とりあえず貴方のことは信用します。貴方もあの人の
被害者だったんですか。
色々と苦労をされたんですね。
あの人、最低な人だったんだ。
心中お察しします。
ああしておいてよかった・・・。」
とホッとしてた様に言った。

僕は怪訝な顔をしながら、
「何をしたの?」と聞くと、
今度は足元のピノが、
『そもそも僕達が
お前の学校に行った理由は、
小早川とかいう議員から、
息子を廃人にした犯人と話したいから、
見つけて指定の場所まで連れてこい
っていう依頼を受けたからなんだ。

だけど、色々と変だったんだ。
理由を隠したがるし、
報酬もちょっと高すぎるし、
何より『警察より早く犯人特定を』って
しつこく言われるから、
気になってちょっと調べてみた。

そしたら出るわ出るわ、
賄賂やら脱税やら不正受給やら、
時代劇の悪代官もびっくりの
悪事を働きまくってたんだよ、
あのおっさん。

成る程、道理で警察が動いてるのに
わざわざ探偵に依頼なんかしたわけだ。
捜査中に、もしそこをつつかれたら、
今までの地位が全部陥落するもんね。
それが嫌なら公的機関の
手を借りずに、
警察が真相に辿り着く前に
自分でなんとかするしかなかったんだ。

おまけに、
話し合う気なんかハナからなくて、
犯人を海に沈める気だったよ。
証拠隠滅ってやつかな。

息子の方の素行も最低だったしな。
普通初対面の女の子に
あんなにボディータッチする!?
もし三好のおっさんに見られてたら、
きっとあいつ明後日くらいに
変死体で発見されるぜ。

それに、あいつの過去の行いから見ても
どう考えても今回の件は因果応報だ。

そんなわけで、
僕達はこの事件を
解決する気0だったわけさ。

更に犯人はずっといじめられてて、
今回初めて反撃した
哀れないじめられっ子ときたもんだ。
完全に真相を報告する気失せたね。

だからまあ、
わからなかったって言っとくよ。

それに、あと2日もすれば、
あの人達はどの道息子襲撃の犯人探し
どころじゃなくなるさ。

あの議員の汚職全部警察に
言っちゃったからね、
今週中には息子の入院費の支払いも
怪しくなるんじゃない?
親子とも地獄に落ちるには
十分すぎることやったからね、
ザマアミロって感じだね。』

僕は呆然とする。

少し前にネットニュースを見て、
小早川の父親の汚職が発覚して、
国会議員を辞職させられたことは
知っていたのだが、
まさかそれを暴いた張本人が、
シンジュウとその宿り主だったとは。

要するに彼女達は
警察が匙を投げた事件を
たった1週間で解決し、
しかもその
大物国会議員を
辞職にまで追い込んだのだ。
もう名探偵とか、
そういうぬるいレベルの話じゃない。
なんなら妖怪の所業だ。
いや、か。

そして問題は、その謎の力を、
ということだ。
それに直接的な攻撃力は
ないのかもしれないが
少なくとも
人外の力を持っている事は確かだ。
把握していないのはまずい、
絶対にまずい。

早い話、
『彼らが僕達を本当に信用しているか』いう事が
わからないということが
1番の問題点だった。

だけど、幸いなことに
敵かどうか判断するのは簡単だ。
さっきご丁寧にその方法を
ピノが言ってくれていたじゃないか。
僕は斯波とピノの方を向き、
にこりと笑って、まず
「ねえ、今日は情報交換するんでしょ?こんなに警戒し合ってても
どうしようもないからさ、
お互いちゃんと信頼しあおうよ。」
と告げた。
斯波とピノはよくわからないといった
ような様子だった。
僕は軽く息を吐いて落ち着いてから、
おもむろにに世離を顕現させる。
そして微笑みながら言葉を更に続ける。

「『斬った物を非物質化する
刀を顕現させる』
これが僕の加護だ。
君の加護を教えてよ!」
フセは
『喋っちゃダメって言ったのに・・・』
と言うような表情で呆れたように
あんぐりと口を開けて僕を見ていた。
ピノの方を見ると、
同じく『こいつ馬鹿なのか?』
というような視線を僕に向けていた。

そしてそのまま数秒の沈黙が流れ、
その夜の静けさを破ったのは、
斯波の押さえつけたような
可愛らしい笑い声だった。

ひとしきり笑った後、
そのまま笑顔で僕に問いかける。
「いいんですか?
出会って数時間の人間を
こんなにあっさり信用しちゃって?」
斯波の笑いながらのこの問いかけに、
僕は
「君達は信頼できるって、
思った。」
とはっきりと言い切った。

次の瞬間、ピノがグネグネと
曲がり、鹿
そしてクルクルと回りながら
斯波の頭に乗った。
と思ったら、斯波の上に
斯波はいきなり目を閉じ、
僕の眉間に自身の人差し指を置いた。
突然美少女に眉間を触られて
僕は驚いて仰け反りそうになるが、
「動かないでください。」と
いきなり強めの口調で言われたことで、
僕は硬直した。

そのまま数秒が経過し、
「あ、あの・・・これ」
何?と言いかけた時だった。
突然彼女は一言、
「シンジュウに
犬用口輪は要らないと思いますよ。」

昼間に考えていた
どうでもいい事を当てられた
最初僕は、「・・・はえ?」と
間の抜けた返事をするしかなかった。
だけど、数秒立って衝撃の波が引いたら
当然この疑問は出てくるのだ。
「・・・なんでわかったの!?」

斯波は笑顔のままだ。
僕はそれが彼女の
無言の回答だという事を理解した。
(というか話の流れから見て
ちょっと考えればわかるか)
「・・・これが君の『加護』か。」

斯波は僕をビシッ!っと指差して、
「正解です!」と宣言した。
「『相手の記憶を読む』、
これが私の加護です。
トリガーは、
ピノの変身した帽子を被ること。
その人に触れれば、
さらに詳しく読めます。」

彼女は自身の『加護』を僕に明かした。
ということは、
「・・・僕を、
信頼してくれたってこと?」
ピノと斯波は同時に
「『取り敢えずは』」と短く返事した。

『結局シンジュウのことについては、
全然教えてもらえなかったね。』
斯波達と別れた帰り道、
フセが思い出したように呟いた。
「でもそれ以上の収穫はあったよ。」
僕は携帯の連絡先欄の
『斯波葉月』の文字を見ながら言った。
「友達が出来た。」
フセはつまらなさそうに
「良かったね」と吐き捨てたが、
よく見ると、
尻尾がフリフリと動いていた。
彼にとっても、
ピノという同族の友人が出来たことは、
大きな収穫だったのだろう。

そこで、僕は彼女の叔父のことを
思い出した。
「そういえば、あの探偵、
ええと・・・
三好さんとも
コンタクト取らないとね。
ちょっと怖いけど・・・。」
フセは笑いながら茶化す。
『あー・・・、あいつよく見たらかなり
筋肉質な武闘派な外見してたよ。
自分の姪取られたって言って、
いきなり殴りかかられそう。』
「怖いこと言わないでよ・・・。」
僕はフセのこの冗談に微笑で対応した。

3日後、
この冗談が現実になるとも知らずに。


















































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