シンジュウ

阿綱黒胡

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第1章

<14話>修理屋『スクラップ』(其の2)

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周りから視線を感じる。
大通りだから人目が多いのは
当然ではあるのだけれど、
なんというかこう、
好奇の視線を向けられてる気がする。

理由はなんとなくわかるけど。

そりゃあなあ、
ラノベに出てくるかませ犬というか、
『モブ』みたいな見た目の僕の隣に、
容姿端麗な斯波がいたんじゃ、
(なんであんな子があんな奴と?)
と思うのも、
当然かもしれない。

「で、なんだけどさ、
僕達って今日一体どこに行くの?」
とりあえず僕は、
隣を歩く斯波から目的地を聞く。

「ええとね、まずは
に行こうと思うんだ。」
しかし、そう言いながら
廃倉庫とは真逆の方向に進んでいる。
まさか道がわからないのか?
「え、あのさ、道・・・。」
僕がそう言いかけると、
『わかってるよ心配しなくても。
馬鹿にすんな。』と、
今度はピノに強めに返され、
斯波も、
「まあまあ、大丈夫だから!」
と、ズンズン進んで行くので、
僕達は黙って後ろを
ついていくしかないのだった。

着いたところは、
小さな修理店だった。

かなり年季が入った建物らしく、
ところどころ汚れが目立つ。
厚い木の板の看板に、
ペンキか何かで
豪快に書かれた文字は、
・・・修理屋『スクラップ』?

「斯波、現場って
あの廃倉庫じゃ・・・。」
僕が斯波の方を見ると、
彼女はピノの変身した
鹿撃帽をすでに頭に被り、
店の壁やら看板やら
依頼された修理品と思しき家具やらを、
ペタペタと触っていた。

「ちょ、ちょっと何やってんの!?」
僕は思わず素っ頓狂な声を上げる。
流石に店の真ん前で堂々と
店の備品を触りまくっていたら、
怪しすぎるにもほどがある。
店主に見られてたら、
通報されてもおかしくない。

「何か御用ですか?」
突然背後から声がして、
店に気を取られていた僕は飛び上がる。
振り向くと、この店の店主らしい、
大柄な男性が、
顔をしかめて仁王立ちしていた。

「い、いいいいえあの!」
僕は驚いて支離滅裂な言語を繰り出す。
噂をすればだ、
こんなのどう考えても
中学生カップルが悪戯
しているようにしか見えない。
(カップルと見られていたら、
それはそれで嬉しいという気持ちも
僅かながらあるけれど)

しかし慌てふためく僕とは反対に、
斯波は至って冷静に、
「あ、すみません。
叔父から先日こちらに依頼した
修理品の回収の
お使いを頼まれたんですけど、
メモには
『モダンデコの加湿器を持ってきて』
とだけ書かれていて、
何かわからなくて・・・。」
と返す。

すると店主は今までの
強面が嘘のように満面の笑みで、
「ああ、モダンデコの加湿器ね。
1週間前に持ち込んでもらったやつなら
もう修理は終わってるよ。
今持ってくるからちょっと待ってね。」
と店の奥に消えていった。

「・・・どういうこと?」
何が何だかわからない
僕の質問に、斯波はコソコソと、
「実は、廃倉庫で目撃されてる、
謎の人物っていうのが、
この店の関係者らしいんだ。

張り込みしてた三好叔父さんが、
教えてくれてさ、
それで調査に来たってこと。

あ、そうだ最後の仕上げやらなきゃ。
嫌なら大丈夫なんだけど、
メモ用紙一枚もらえないかな?」

僕がメモを破いて渡すと、
斯波は何処からか出したシャーペンで
サラサラと何かを書き、
加湿器を持ってきた店主に
(想像していたより遥かに
小さかった。
卓上加湿器というやつだろう。)
「これ、息子さんに
渡しておいてもらっていいですか?」
と、2つに折ったメモを渡し、
来た道を戻り始めた。

調査?
聞き込みとか一切せずに、
ただ店の物をペタペタ触るだけが?

僕は彼女の一連の謎行動を
全く理解できないまま、
大慌てで彼女の背中を追った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大通りに入ると、
斯波は「う~ん!」と
大きく背伸びをした後、
突然「お腹すかない?」と聞いてきた。

「ああ、昨日から
あんまり食べてないから、
正直結構腹の虫が・・・って、
そんなことより説明してくれよ!
こっちはわけわかんないんだよ。」
僕が急かすと、
斯波は思い出したように、
「ああ、ごめんごめん忘れてた。」
と右手を出して
『ゴメン』のジェスチャーをする。
「私の『加護』、覚えてる?」
「ああ、確か、
『触れたものの記憶を読む』・・・。
あ、そうか!」
「正解!」と、
斯波は僕を指差した。

そう、あの時斯波が
店の物にペタペタ触れていたのは、
記憶を読むためだったのだ。
まさか無機物まで読めるとは
正直思わなかったけど。

「それで、収穫はあったの?」
僕の質問に、
斯波は太陽のような笑顔とVサインで、
「収穫も収穫、大収穫だよ。
やっぱりあの店の関係者、
それも息子さんが、
事件の当事者みたいだね。

そして、なんと!
恐らくターゲットがいるであろう、
もしくはこれから訪れるであろう
場所がわかりました!」
とテレビの司会者の
ようなことを口にする。

それは確かに大収穫だ。
「なら、次の行動は?」
昨日から緊張で、
まともな物が喉を通らなかったので、
腹の虫が鳴きまくっているのも忘れて、
僕は興奮気味に質問する。

と言っても、
場所がわかっているのなら、
『行く』一択だろうけれど。

僕のこの質問に、斯波は笑顔で、
「勿論、だから今からそこに・・・。」
そして何故か一呼吸置き、
『ペロンと唇を舐め』、
!」
と元気よく発したのだった。












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