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第1章
<59話>それから
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けたたましい目覚ましの音で、
僕は目を覚ました。
『なんで目覚ましなんかかけるんだよ。
せっかくの休みの日なのに・・・。』
「仕方ないだろ、用事あるんだから。」
僕は頭を掻きながらベットから降りる。
今日は8月20日。
あの事件から、10日。
あの日、
警察に保護された僕が放り込まれた病院は、
怪我人とその身内で溢れかえっていた。
幸い怪我は殆ど治癒しており、
休んだはずの僕が山にいた件も、
我慢できなくてこっそり行ったとか
適当に誤魔化し(勿論怒られたけど)
簡単な検査だけ受けて、
一応僕の方は収束した。
知り合いの方も
結構の割合で入院したものの、
落命した者はおらず、
1週間ほどでほぼ退院したため、
山が半焼した事件の規模からすれば、
被害は最小限に留まったかもしれない。
・・・いや、人が亡くなっている時点で、
規模なんか関係無い。
疑いようもなく最悪か。
警察は血眼で犯人を探すかと思いきや、
捜査は早々に切り上げられたらしい。
単純に諦めたのか、圧力でもかかったのか、
どっちにしても、僕には知る由も無い。
・・・などと考えているうちに、
気づけば僕は総合病院の
入り口に立っていた。
(甚右衛門達はうるさいので置いてきた。)
本当はもっと早くお見舞いに
行くつもりだったんだけれど、
ゴタゴタしていた結果、
こんな日にちになったのだ。
僕が病院に足を踏み入れようとしたその時、
不意に誰かに服を引っ張られた。
後ろを振り返ると、誘導灯を持った警備員。
ただ、その顔には何故か生気が無い。
「・・・あの、なんですか?」
「アンタだな、『旅人』の義経赤斗って。」
僕は驚きで目を見開く。
「来い!よばな・・・!」
「ああ、待った待った、タンマタンマ!
オレは敵じゃない、
ただ夏さんの伝言を渡しに来ただけだ!
ついでにこいつは、
オレが操ってるだけの一般人。」
確かに、
警備員がベラベラと喋っている言葉は、
とてもその歳の男性が使うとは
思えないような言葉だった。
「・・・シンジュウか。」
「そういうこと!
申し遅れた、俺は慶介、
生物を一定時間操作する力を持つ、
『人形遣い』だ。」
そう言いながら相手はペコリと頭を下げる。
いや、下げさせる。
「・・・操ってる方に、実害はないのか?
言っちゃあ悪いけど、
正直あんまり気持ちのいい力じゃないし。」
「大丈夫、一切ない。それは保証するぜ。
そんじゃあ、夏さんからの伝言だ。
『助けてくれてありがとう。
でも、貴方これから大変よ、
気をつけなさい。』
以上、ほんじゃーなー。」
そう言った警備員は一瞬ガクッと
脱力したかと思うと、
今度は生気を感じられる目で、
「・・・あれ?
なんでこんなところに・・・?」
と、キョロキョロと辺りを見回した。
「・・・承りましたよ。」
激励とも警告とも取れる言葉を
心に刻みつつ、僕は病院の入り口へ進んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「こんの野郎がぁぁぁぁぁ!!!」
見舞いに訪れた病室で僕を出迎えたのは、
中1女子の怒号と、
鳩尾への的確なパンチだった。
『赤斗ぉ!?』
フセの声が遠くで聞こえる。
「お、おい凛!
落ち着けって!」
『お嬢様、うら若き乙女が、
そんな汚い言葉を使ってはいけません!』
隼人くんにホールドされた凛さんは、
尚も僕に追撃を加えようと、
足をバタバタさせている。
「や、やあ、凛さん・・・。
元気そうで良かった・・・。」
「良くない!何も良くない!」
痛みに耐えながら絞り出した声に、
凛さんは怒号を返す。
「あの化け物を倒したぁ!?
この変態先輩が!?
アタシが瀕死になるまでやり合っても、
傷一つつけられなかったアイツを!?
認めない認めない、絶対認めない!」
「・・・。」
どんだけ嫌われてんだ、僕・・・。
この調子じゃ、彼女の力で
僕がケシズミになる日も近いかも・・・。
「と、とにかく
僕は大した怪我はしてないし、
凛もシンジュウの治癒力のお陰で、
大ごとにはなってないみたいです。
先輩が助けてくれたおかげです、
本当にありがとうございました。」
隼人君はペコリと頭を下げる。
その後ろで凛さんは、不機嫌を表現した顔で見舞品の饅頭を貪るように食べていた。
「で、今日は何しにきたんですか?
話は聞きましたよ、
ヒーローとして、
アイツに負けた私達を嘲笑いにでも?」
「おい、凛!」
隼人君が凛さんを小突くのを、
僕は苦笑いをしながら見て、言った。
「いいや、
今日はお礼と謝罪を言いにきたんだ。
凛さん、隼人くん、先輩から話は聞いたよ。
衝撃音って、君らが戦ってた音だろ?
殴って気が済むのなら、
いくらでも殴ってくれても構わない。
間に合わなくてごめんなさい。
みんなを守ってくれてありがとう。」
そう言って僕は深々と頭を下げた。
凛さんは僕の方も向かずに、
「・・・やめてください。
私達に、その理由で
先輩を殴る権利はありません。
何を言おうが私達は負けて、
先輩は勝ったんです。
私達はなんの役にも立ってません。」
僕は首を横に振った。
「いいや、
君達が時間を稼いでくれなかったら、
先輩も異変を察知できなかっただろうし、
きっと僕達も間に合ってなかった。
あの場に置いて君達は、
僕なんかよりずっと、
ヒーローだったよ。」
照れたように笑う隼人くんのそばで、
凛さんは相変わらずそっぽを向いたまま。
だけど、その表情が和らいだのは、
なんとなくわかった。
「それじゃ、そろそろ行くよ。
饅頭、好きならまた持ってこようか?」
僕はニヤニヤしながら凛さんの方を見る。
彼女は向こうを向いたまま、
だけど微かに首を動かした。
上下に。
僕はニヤリと笑って、病室を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あっはっはっ、成る程。
荒っぽいんだなぁ、流石陸上部。」
「いや、運動部だからって、
荒っぽいとは限らねえだろ。
俺中学の頃バスケ部だったけど、
全然そんな事しなかったぞ。
せいぜいちょっとカツアゲをシメるとか。」
「充分じゃないスカ?」
「そう?」
「あの、どうでもいいんですけど・・・。
面識あったんですか?
羽柴さん、本田先輩。」
病院のベンチでダベる、
美人JCと作業服姿の男子高校生の会話に、
僕はおずおずと割り込んだ。
「「ああ、この前会った。
何だ、知り合いか?」」
「そんな関係でそんなラフに会話を!?」
見た目だけなら、
なんだかイカガワシイ感じ満載だ。
『なー、怖いやろー?
この子、特に不良をシメた話とかに、
異様なほど興味示すねんで、
メッチャこわない?』
「コマチ、お前は黙ってろ。」
「誰に言ってるんですか?」
「「何でもないです。」」
不思議そうな顔をしながら、
コーラの缶を開ける先輩に、
羽柴さんが話しかける。
「しかし、アンタ凄えよなぁ。
あの突拍子もない事態に、
一番冷静に対応したらしいじゃねえか。
宿舎組の方は、
死人怪我人が多発した
広場に残った奴らと違って
食い殺された奴はいなかったし、
怪我人も少数なんだろ?
アンタ本当に中学生か?」
その言葉で、僕はギョッとする。
羽柴さん曰く、宿舎に避難していたのは
未成年ばかりだと聞いていたが、
まさかその中心が先輩だったとは。
齢15歳にして、異能力者でもないのに、
未確認生物に襲われている中、
何十もの命を背負いながらも
冷静に、他人のために動くこの人は、
本当に僕と同じ人間なのだろうか。
「アタシはアタシの最善を
尽くしただけですよ。
それが結果こうなっただけ。
博打を当てたからって褒められても、
あんまり嬉しくない。」
先輩はコーラを一息に飲み干し、答えた。
「それに、正直アタシは失敗してる。
貴方が手助けしてくれなかったら、
アタシ達は山を降りられなかっただろうし、
それに・・・。」
先輩は俯き、空の缶を握りつぶした。
「正直、自分を危険に晒してまで、
時間を稼いでくれたあの子。
あの子がいなけりゃ、アタシ達全員、
間違いなく怪物の胃の中だったろうさ。」
「・・・斯波、葉月、ですよね。」
僕はボソリと呟く。
「やっぱり知り合いか。」
「・・・まあ。」
僕の脳裏に、よぎるのは、
恐怖と苦痛を押し殺して笑う斯波。
血で染まった皮膚に、深く傷が彫り込まれ、
赤い木版のようになった彼女の背中。
「・・・僕、もう、行きますね。」
僕がベンチのそばを離れようとすると、
「ああ、ちょっと待て!
この前聞きそびれたことが1つ。」
と、先輩に突然呼び止められた。
「・・・何ですか?」
「お前、何で事件発生後に山に行った?」
その一言に、僕、フセ、羽柴さん、コマチは
飛び上がらんばかりに驚いた。
おかしい、一度も見られてないはずなのに!
「だってお前、病院に来てたろ?
あん時お前、泥だらけだったじゃないか。
この辺では験山以外、
あんな泥まみれになるような所は無い。
雨が降り出したのは、事件が発生してから。よしんば体調が回復したとしても、
普通事件の現場に行くか?」
「え、あ、その・・・。」
僕は冷や汗をかきながら、
必死に言い訳を考えるのだった・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「焦った・・・。」
『私も計算外だったよ、
まさかあの子があんなに鋭いとは・・・。』
「本当に15歳か?あの人・・・。」
どっかの都市伝説で、
代償と引き換えに人間を『完璧』にする、
とかいう怪人がいた気がする。
一度研究会で調べてみようかな、
先輩抜きで。
などと考えているうちに、
目的の場所についた。
既に時刻は5時近く。
そこは個室病室の1つで、
ネームプレートには『斯波葉月』の文字。
(・・・最悪、開けたら胴体四散かな。)
史上最強の扶養者との対峙も考慮しつつ、
僕は深呼吸をして、扉をノックした。
「・・・義経とフセ。」
一瞬の間を置いて、
「どうぞ。」という女の子の声がした。
僕が遠慮がちに扉を開けると、
パジャマに身を包んだ兎探偵は、
既に僕の来訪を予期していたかの如く、
ベットの縁に座り、
眠る兎をその腕に抱きながら、
真っ直ぐ僕の方を見つめていた。
ホイップクリームまみれで。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ごめんね、さっきまで
友達と先輩がお見舞いに来てくれてて、
その時に色々あってさ。
ピノは呆れて寝ちゃったみたいだし。
わざわざお見舞い品まで・・・。
わあ、お饅頭だ!
これ好きなんだ、ありがとう。
叔父さんとピノと一緒に食べるね!」
「・・・あの、その前に聞いていい?
どうやったら、
ホイップクリームにまみれるなんて
奇奇怪怪な状況になるの?」
僕は目の前で、
片手で兎を抱き、もう片方の手で
自分についたクリームを拭う斯波に問う。
「ああ、これ?
友達がね、ケーキ作ってあげる!って言って
スポンジケーキ持ってきて、
ここでクリームかき回しだしちゃって、
それで・・・。」
「・・・飛散した結果のこの惨状か。」
というか、なんで
ここでケーキ作ろうって考えに至るんだよ。
「そういう人なんだよ。
ああ、座って座って!
お昼何も食べてないんでしょ?
エクレアあるから一緒に食べよ。
紅茶も沸かしたし・・・。」
そう言いつつ、僕を椅子に座らせると、
エクレアの乗った皿を僕の前に置き、
自分は2つのカップに紅茶を注ぎ始めた。
「・・・随分、用意がよくない?」
「そりゃあ、まあ、ちょっと・・・。」
「鹿を連れた先輩に、
僕が来ること教えてもらったから?」
僕のその言葉に、斯波は一瞬、
ピクッと身体を震わせた。
「何で知ってるの?」
「・・・あの日、僕の家に来たからさ。
助けてって。」
僕は静かに椅子から降りると、
そのまま、土下座した。
「ごめん!
君が指を失ったのも、
身体中にキズが付いたのも、
凛さんと夏さんが
大怪我したのも僕のせいだ!
死んだ人達も僕がいなければ、
僕が、小早川にあんなことしなければ、
みんな死ななかった!
何がシンジュウだ!何が異能力者だ!
腹が立つなら、
罵ってくれても殴ってくれても構わない!
頼ってもらったのに、助けるって言ったのに
結局僕は変わってない!
何にもできないゴミのままだ!」
僕が泣きながら叫ぶのを、
斯波は、フセは、呆然と聞いていた。
暫くの沈黙の後、フセが口を開く。
『違う!赤斗、あれは・・・。』
「何が違うんだよ。」
僕は吐き捨てる。
「アイツがあんなことしたのは、
僕への復讐のためだ。
原因は、疑いようもなく僕だよ。」
その言葉で、フセは押し黙る。
暫く、僕は額を床に打ち付けたまま、
その沈黙を噛みしめた。
沈黙を破ったのは、
「・・・顔、上げてよ。」
斯波の、その一言だった。
僕は顔を上げ、彼女を見つめる。
罵倒されるのは覚悟の上だった。
あの事件によって、
彼女は心身共に傷つけられたばかりか
指まで・・・。
「まず、指ならくっついたよ。」
「え?」
僕が思わず顔を上げると、
斯波は、5本の指が揃った右手を、
ひらひら振っていた。
「・・・な、何で。」
「あの時ね、おじさんが拾って、
氷漬けにして保存してくれてたんだって。
そうでなくとも、
シンジュウの回復力は尋常じゃないから、
木っ端微塵にでもなってない限り、
指くらいはくっつくの。
怪我の方も、
正直一生治らない覚悟だったんだけど、
知り合いの治癒能力者が
思ったよりすごくてさ、
綺麗さっぱり消えたよ。
今は、もう療養状態なんだよね。」
僕は口をあんぐりと開けたまま、
彼女を見つめる。
斯波は自身の手を下ろすと、口を開いた。
「確かに、義経君がいなければ、
あの事件は起こらなかったかもしれない。
でも、ひょっとしたら、
義経君は関係無しに、
結局あの事件は起こってたかもしれない。
そうなってたら、
私達は死んでいたと思う。」
斯波はゆっくりと話す。
「・・・どういうこと?」
「だからさ、
昔に何をやったからこうなった、なんて、
誰にもわかんないんだよ。
あの事件だってそう。
例え義経君が一切抵抗しなくても、
事件が起こってたルートだって、
きっとあったんじゃないかな。
そのルートなら、少なくとも、
私もおねいちゃんも、生きてないと思う。
というか、あの山にいた人達は、
みんな殺されてたんじゃないかな。
だってその時は義経君は、
私達を助けてくれた人は、
いないんだもん。」
斯波は、にっこりと笑った。
「義経君がいたから事件が起こったのか、
義経君がいなくても事件は起こったのか、
そんなのわかんない。
でもね、確かなのは、
あの山から生還した人達は、
義経君がいたから生きてるんだよ。
病院に来た時、
お見舞いの人沢山みたでしょ?
あの人達は、義経君がいたから、
大切な人を失わずに済んだんだよ。」
そしてそのまま、深々と頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
扉から出ると、三好さんがいた。
「・・・夏さんは?」
「アイツは、知り合いの力で怪我治して、
もう仕事に行ってるよ。
で、ヒーローになった感想はどうだ?」
ヘラヘラと笑いながらのその問いに、
僕は胸を押さえ、言った。
「・・・怖いです。」
「ほう、そりゃまたどうして?」
三好さんは片目を瞑って僕を見る。
「いつか僕はこの力を、
間違った方向に使うんじゃないかって。
小早川みたいになるんじゃないかって。」
『・・・赤斗。』
三好さんは短く息を吐いた。
「師匠はお前に『旅人』を託した。
それは、お前なら正しく使えるっていう、
確信があったからじゃねえの?」
「僕は祖父ほど強くありません。
それに、憎いんじゃないんですか?
僕のこと。」
すると突然、三好さんは僕の頭を掴み、
自分の顔を近づけた。
殴られるのを覚悟して目を瞑ったが、
三好さんはそうせず、
僕のことを至近距離でじっと見つめながら
口を開いた。
「確かに、葉月がああなったのには、
お前が関与しているのかもしれねえ。
でも、アイツが許すって言ったんなら、
俺が手を出すのはお門違いだ。」
僕は生気のない顔で彼を見つめる。
三好さんは続けた。
「お前、さっき『旅人』の力を、
間違えたことに使うかもしれない、
と言ったな。
ああ、その通りだ。
お前はいつかきっと、
後悔する選択をするだろう。
その力で、何かを失うかもしれないし、
人の大切なものを奪うかもしれない。
間違えない奴なんて1人もいないんだから。
ましてや、お前はまだ14歳の子供だ。
これから、間違いと後悔の連続だ。
だから、赤斗、1人で抱え込むな。
不安なら、とにかく誰か、
そばにいてくれるやつを見つけろ。
先輩でも後輩でも友達でも、
自分が道を踏み外しそうになったら、
ぶん殴ってでも止めてくれるやつを。
それが、間違いに対抗する、
唯一の方法だ。」
三好さんは僕の頭を離し、
それから、ポケットに手を突っ込むと、
中で何かを握りしめるような動作をした。
「・・・もう暗くなってきてる。
そろそろ帰った方がいいだろ。
俺は葉月に付き添うから。」
そう言ってドアに手をかける三好さんに、
僕は言葉を投げかける。
「・・・ありがとうございました。」
彼は微笑を浮かべた。
「気にすんな、
自分が怖いから忠告しただけだ。
知ってるからな、
自分1人で抱え込んだ結果、
大切な物を、
残らず血の海に沈めちまったやつを。
それと、赤斗、もう一つ。」
三好さんは振り返り、
ティッシュを差し出し、一言。
「頬のチョコレート、拭え。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
病院の外に出ると、
流石に辺りは暗闇だった。
僕とフセは、蛍光灯に照らされながら、
帰路に着く。
『・・・責められるべきは、
私かもしれないな。』
フセがポツリと呟いた。
「・・・何で?」
『君をこんな世界に放り込んだのは、
私と良太郎だ。だから・・・。』
「だからどうした。」
僕は呟く。
「創造主だか何だか知らないけど、
爺ちゃんをあんな風にしたやつを、
ぶん殴れるなら、僕はそれでいい。
確かに、
死ぬかもしれない恐怖はある。
だけど、それに文句を言うには、
僕はお前に色んな物を貰いすぎたよ。」
僕は空を見上げる。
月はまだ、満月には程遠い。
僕は目を覚ました。
『なんで目覚ましなんかかけるんだよ。
せっかくの休みの日なのに・・・。』
「仕方ないだろ、用事あるんだから。」
僕は頭を掻きながらベットから降りる。
今日は8月20日。
あの事件から、10日。
あの日、
警察に保護された僕が放り込まれた病院は、
怪我人とその身内で溢れかえっていた。
幸い怪我は殆ど治癒しており、
休んだはずの僕が山にいた件も、
我慢できなくてこっそり行ったとか
適当に誤魔化し(勿論怒られたけど)
簡単な検査だけ受けて、
一応僕の方は収束した。
知り合いの方も
結構の割合で入院したものの、
落命した者はおらず、
1週間ほどでほぼ退院したため、
山が半焼した事件の規模からすれば、
被害は最小限に留まったかもしれない。
・・・いや、人が亡くなっている時点で、
規模なんか関係無い。
疑いようもなく最悪か。
警察は血眼で犯人を探すかと思いきや、
捜査は早々に切り上げられたらしい。
単純に諦めたのか、圧力でもかかったのか、
どっちにしても、僕には知る由も無い。
・・・などと考えているうちに、
気づけば僕は総合病院の
入り口に立っていた。
(甚右衛門達はうるさいので置いてきた。)
本当はもっと早くお見舞いに
行くつもりだったんだけれど、
ゴタゴタしていた結果、
こんな日にちになったのだ。
僕が病院に足を踏み入れようとしたその時、
不意に誰かに服を引っ張られた。
後ろを振り返ると、誘導灯を持った警備員。
ただ、その顔には何故か生気が無い。
「・・・あの、なんですか?」
「アンタだな、『旅人』の義経赤斗って。」
僕は驚きで目を見開く。
「来い!よばな・・・!」
「ああ、待った待った、タンマタンマ!
オレは敵じゃない、
ただ夏さんの伝言を渡しに来ただけだ!
ついでにこいつは、
オレが操ってるだけの一般人。」
確かに、
警備員がベラベラと喋っている言葉は、
とてもその歳の男性が使うとは
思えないような言葉だった。
「・・・シンジュウか。」
「そういうこと!
申し遅れた、俺は慶介、
生物を一定時間操作する力を持つ、
『人形遣い』だ。」
そう言いながら相手はペコリと頭を下げる。
いや、下げさせる。
「・・・操ってる方に、実害はないのか?
言っちゃあ悪いけど、
正直あんまり気持ちのいい力じゃないし。」
「大丈夫、一切ない。それは保証するぜ。
そんじゃあ、夏さんからの伝言だ。
『助けてくれてありがとう。
でも、貴方これから大変よ、
気をつけなさい。』
以上、ほんじゃーなー。」
そう言った警備員は一瞬ガクッと
脱力したかと思うと、
今度は生気を感じられる目で、
「・・・あれ?
なんでこんなところに・・・?」
と、キョロキョロと辺りを見回した。
「・・・承りましたよ。」
激励とも警告とも取れる言葉を
心に刻みつつ、僕は病院の入り口へ進んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「こんの野郎がぁぁぁぁぁ!!!」
見舞いに訪れた病室で僕を出迎えたのは、
中1女子の怒号と、
鳩尾への的確なパンチだった。
『赤斗ぉ!?』
フセの声が遠くで聞こえる。
「お、おい凛!
落ち着けって!」
『お嬢様、うら若き乙女が、
そんな汚い言葉を使ってはいけません!』
隼人くんにホールドされた凛さんは、
尚も僕に追撃を加えようと、
足をバタバタさせている。
「や、やあ、凛さん・・・。
元気そうで良かった・・・。」
「良くない!何も良くない!」
痛みに耐えながら絞り出した声に、
凛さんは怒号を返す。
「あの化け物を倒したぁ!?
この変態先輩が!?
アタシが瀕死になるまでやり合っても、
傷一つつけられなかったアイツを!?
認めない認めない、絶対認めない!」
「・・・。」
どんだけ嫌われてんだ、僕・・・。
この調子じゃ、彼女の力で
僕がケシズミになる日も近いかも・・・。
「と、とにかく
僕は大した怪我はしてないし、
凛もシンジュウの治癒力のお陰で、
大ごとにはなってないみたいです。
先輩が助けてくれたおかげです、
本当にありがとうございました。」
隼人君はペコリと頭を下げる。
その後ろで凛さんは、不機嫌を表現した顔で見舞品の饅頭を貪るように食べていた。
「で、今日は何しにきたんですか?
話は聞きましたよ、
ヒーローとして、
アイツに負けた私達を嘲笑いにでも?」
「おい、凛!」
隼人君が凛さんを小突くのを、
僕は苦笑いをしながら見て、言った。
「いいや、
今日はお礼と謝罪を言いにきたんだ。
凛さん、隼人くん、先輩から話は聞いたよ。
衝撃音って、君らが戦ってた音だろ?
殴って気が済むのなら、
いくらでも殴ってくれても構わない。
間に合わなくてごめんなさい。
みんなを守ってくれてありがとう。」
そう言って僕は深々と頭を下げた。
凛さんは僕の方も向かずに、
「・・・やめてください。
私達に、その理由で
先輩を殴る権利はありません。
何を言おうが私達は負けて、
先輩は勝ったんです。
私達はなんの役にも立ってません。」
僕は首を横に振った。
「いいや、
君達が時間を稼いでくれなかったら、
先輩も異変を察知できなかっただろうし、
きっと僕達も間に合ってなかった。
あの場に置いて君達は、
僕なんかよりずっと、
ヒーローだったよ。」
照れたように笑う隼人くんのそばで、
凛さんは相変わらずそっぽを向いたまま。
だけど、その表情が和らいだのは、
なんとなくわかった。
「それじゃ、そろそろ行くよ。
饅頭、好きならまた持ってこようか?」
僕はニヤニヤしながら凛さんの方を見る。
彼女は向こうを向いたまま、
だけど微かに首を動かした。
上下に。
僕はニヤリと笑って、病室を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あっはっはっ、成る程。
荒っぽいんだなぁ、流石陸上部。」
「いや、運動部だからって、
荒っぽいとは限らねえだろ。
俺中学の頃バスケ部だったけど、
全然そんな事しなかったぞ。
せいぜいちょっとカツアゲをシメるとか。」
「充分じゃないスカ?」
「そう?」
「あの、どうでもいいんですけど・・・。
面識あったんですか?
羽柴さん、本田先輩。」
病院のベンチでダベる、
美人JCと作業服姿の男子高校生の会話に、
僕はおずおずと割り込んだ。
「「ああ、この前会った。
何だ、知り合いか?」」
「そんな関係でそんなラフに会話を!?」
見た目だけなら、
なんだかイカガワシイ感じ満載だ。
『なー、怖いやろー?
この子、特に不良をシメた話とかに、
異様なほど興味示すねんで、
メッチャこわない?』
「コマチ、お前は黙ってろ。」
「誰に言ってるんですか?」
「「何でもないです。」」
不思議そうな顔をしながら、
コーラの缶を開ける先輩に、
羽柴さんが話しかける。
「しかし、アンタ凄えよなぁ。
あの突拍子もない事態に、
一番冷静に対応したらしいじゃねえか。
宿舎組の方は、
死人怪我人が多発した
広場に残った奴らと違って
食い殺された奴はいなかったし、
怪我人も少数なんだろ?
アンタ本当に中学生か?」
その言葉で、僕はギョッとする。
羽柴さん曰く、宿舎に避難していたのは
未成年ばかりだと聞いていたが、
まさかその中心が先輩だったとは。
齢15歳にして、異能力者でもないのに、
未確認生物に襲われている中、
何十もの命を背負いながらも
冷静に、他人のために動くこの人は、
本当に僕と同じ人間なのだろうか。
「アタシはアタシの最善を
尽くしただけですよ。
それが結果こうなっただけ。
博打を当てたからって褒められても、
あんまり嬉しくない。」
先輩はコーラを一息に飲み干し、答えた。
「それに、正直アタシは失敗してる。
貴方が手助けしてくれなかったら、
アタシ達は山を降りられなかっただろうし、
それに・・・。」
先輩は俯き、空の缶を握りつぶした。
「正直、自分を危険に晒してまで、
時間を稼いでくれたあの子。
あの子がいなけりゃ、アタシ達全員、
間違いなく怪物の胃の中だったろうさ。」
「・・・斯波、葉月、ですよね。」
僕はボソリと呟く。
「やっぱり知り合いか。」
「・・・まあ。」
僕の脳裏に、よぎるのは、
恐怖と苦痛を押し殺して笑う斯波。
血で染まった皮膚に、深く傷が彫り込まれ、
赤い木版のようになった彼女の背中。
「・・・僕、もう、行きますね。」
僕がベンチのそばを離れようとすると、
「ああ、ちょっと待て!
この前聞きそびれたことが1つ。」
と、先輩に突然呼び止められた。
「・・・何ですか?」
「お前、何で事件発生後に山に行った?」
その一言に、僕、フセ、羽柴さん、コマチは
飛び上がらんばかりに驚いた。
おかしい、一度も見られてないはずなのに!
「だってお前、病院に来てたろ?
あん時お前、泥だらけだったじゃないか。
この辺では験山以外、
あんな泥まみれになるような所は無い。
雨が降り出したのは、事件が発生してから。よしんば体調が回復したとしても、
普通事件の現場に行くか?」
「え、あ、その・・・。」
僕は冷や汗をかきながら、
必死に言い訳を考えるのだった・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「焦った・・・。」
『私も計算外だったよ、
まさかあの子があんなに鋭いとは・・・。』
「本当に15歳か?あの人・・・。」
どっかの都市伝説で、
代償と引き換えに人間を『完璧』にする、
とかいう怪人がいた気がする。
一度研究会で調べてみようかな、
先輩抜きで。
などと考えているうちに、
目的の場所についた。
既に時刻は5時近く。
そこは個室病室の1つで、
ネームプレートには『斯波葉月』の文字。
(・・・最悪、開けたら胴体四散かな。)
史上最強の扶養者との対峙も考慮しつつ、
僕は深呼吸をして、扉をノックした。
「・・・義経とフセ。」
一瞬の間を置いて、
「どうぞ。」という女の子の声がした。
僕が遠慮がちに扉を開けると、
パジャマに身を包んだ兎探偵は、
既に僕の来訪を予期していたかの如く、
ベットの縁に座り、
眠る兎をその腕に抱きながら、
真っ直ぐ僕の方を見つめていた。
ホイップクリームまみれで。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ごめんね、さっきまで
友達と先輩がお見舞いに来てくれてて、
その時に色々あってさ。
ピノは呆れて寝ちゃったみたいだし。
わざわざお見舞い品まで・・・。
わあ、お饅頭だ!
これ好きなんだ、ありがとう。
叔父さんとピノと一緒に食べるね!」
「・・・あの、その前に聞いていい?
どうやったら、
ホイップクリームにまみれるなんて
奇奇怪怪な状況になるの?」
僕は目の前で、
片手で兎を抱き、もう片方の手で
自分についたクリームを拭う斯波に問う。
「ああ、これ?
友達がね、ケーキ作ってあげる!って言って
スポンジケーキ持ってきて、
ここでクリームかき回しだしちゃって、
それで・・・。」
「・・・飛散した結果のこの惨状か。」
というか、なんで
ここでケーキ作ろうって考えに至るんだよ。
「そういう人なんだよ。
ああ、座って座って!
お昼何も食べてないんでしょ?
エクレアあるから一緒に食べよ。
紅茶も沸かしたし・・・。」
そう言いつつ、僕を椅子に座らせると、
エクレアの乗った皿を僕の前に置き、
自分は2つのカップに紅茶を注ぎ始めた。
「・・・随分、用意がよくない?」
「そりゃあ、まあ、ちょっと・・・。」
「鹿を連れた先輩に、
僕が来ること教えてもらったから?」
僕のその言葉に、斯波は一瞬、
ピクッと身体を震わせた。
「何で知ってるの?」
「・・・あの日、僕の家に来たからさ。
助けてって。」
僕は静かに椅子から降りると、
そのまま、土下座した。
「ごめん!
君が指を失ったのも、
身体中にキズが付いたのも、
凛さんと夏さんが
大怪我したのも僕のせいだ!
死んだ人達も僕がいなければ、
僕が、小早川にあんなことしなければ、
みんな死ななかった!
何がシンジュウだ!何が異能力者だ!
腹が立つなら、
罵ってくれても殴ってくれても構わない!
頼ってもらったのに、助けるって言ったのに
結局僕は変わってない!
何にもできないゴミのままだ!」
僕が泣きながら叫ぶのを、
斯波は、フセは、呆然と聞いていた。
暫くの沈黙の後、フセが口を開く。
『違う!赤斗、あれは・・・。』
「何が違うんだよ。」
僕は吐き捨てる。
「アイツがあんなことしたのは、
僕への復讐のためだ。
原因は、疑いようもなく僕だよ。」
その言葉で、フセは押し黙る。
暫く、僕は額を床に打ち付けたまま、
その沈黙を噛みしめた。
沈黙を破ったのは、
「・・・顔、上げてよ。」
斯波の、その一言だった。
僕は顔を上げ、彼女を見つめる。
罵倒されるのは覚悟の上だった。
あの事件によって、
彼女は心身共に傷つけられたばかりか
指まで・・・。
「まず、指ならくっついたよ。」
「え?」
僕が思わず顔を上げると、
斯波は、5本の指が揃った右手を、
ひらひら振っていた。
「・・・な、何で。」
「あの時ね、おじさんが拾って、
氷漬けにして保存してくれてたんだって。
そうでなくとも、
シンジュウの回復力は尋常じゃないから、
木っ端微塵にでもなってない限り、
指くらいはくっつくの。
怪我の方も、
正直一生治らない覚悟だったんだけど、
知り合いの治癒能力者が
思ったよりすごくてさ、
綺麗さっぱり消えたよ。
今は、もう療養状態なんだよね。」
僕は口をあんぐりと開けたまま、
彼女を見つめる。
斯波は自身の手を下ろすと、口を開いた。
「確かに、義経君がいなければ、
あの事件は起こらなかったかもしれない。
でも、ひょっとしたら、
義経君は関係無しに、
結局あの事件は起こってたかもしれない。
そうなってたら、
私達は死んでいたと思う。」
斯波はゆっくりと話す。
「・・・どういうこと?」
「だからさ、
昔に何をやったからこうなった、なんて、
誰にもわかんないんだよ。
あの事件だってそう。
例え義経君が一切抵抗しなくても、
事件が起こってたルートだって、
きっとあったんじゃないかな。
そのルートなら、少なくとも、
私もおねいちゃんも、生きてないと思う。
というか、あの山にいた人達は、
みんな殺されてたんじゃないかな。
だってその時は義経君は、
私達を助けてくれた人は、
いないんだもん。」
斯波は、にっこりと笑った。
「義経君がいたから事件が起こったのか、
義経君がいなくても事件は起こったのか、
そんなのわかんない。
でもね、確かなのは、
あの山から生還した人達は、
義経君がいたから生きてるんだよ。
病院に来た時、
お見舞いの人沢山みたでしょ?
あの人達は、義経君がいたから、
大切な人を失わずに済んだんだよ。」
そしてそのまま、深々と頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとう。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
扉から出ると、三好さんがいた。
「・・・夏さんは?」
「アイツは、知り合いの力で怪我治して、
もう仕事に行ってるよ。
で、ヒーローになった感想はどうだ?」
ヘラヘラと笑いながらのその問いに、
僕は胸を押さえ、言った。
「・・・怖いです。」
「ほう、そりゃまたどうして?」
三好さんは片目を瞑って僕を見る。
「いつか僕はこの力を、
間違った方向に使うんじゃないかって。
小早川みたいになるんじゃないかって。」
『・・・赤斗。』
三好さんは短く息を吐いた。
「師匠はお前に『旅人』を託した。
それは、お前なら正しく使えるっていう、
確信があったからじゃねえの?」
「僕は祖父ほど強くありません。
それに、憎いんじゃないんですか?
僕のこと。」
すると突然、三好さんは僕の頭を掴み、
自分の顔を近づけた。
殴られるのを覚悟して目を瞑ったが、
三好さんはそうせず、
僕のことを至近距離でじっと見つめながら
口を開いた。
「確かに、葉月がああなったのには、
お前が関与しているのかもしれねえ。
でも、アイツが許すって言ったんなら、
俺が手を出すのはお門違いだ。」
僕は生気のない顔で彼を見つめる。
三好さんは続けた。
「お前、さっき『旅人』の力を、
間違えたことに使うかもしれない、
と言ったな。
ああ、その通りだ。
お前はいつかきっと、
後悔する選択をするだろう。
その力で、何かを失うかもしれないし、
人の大切なものを奪うかもしれない。
間違えない奴なんて1人もいないんだから。
ましてや、お前はまだ14歳の子供だ。
これから、間違いと後悔の連続だ。
だから、赤斗、1人で抱え込むな。
不安なら、とにかく誰か、
そばにいてくれるやつを見つけろ。
先輩でも後輩でも友達でも、
自分が道を踏み外しそうになったら、
ぶん殴ってでも止めてくれるやつを。
それが、間違いに対抗する、
唯一の方法だ。」
三好さんは僕の頭を離し、
それから、ポケットに手を突っ込むと、
中で何かを握りしめるような動作をした。
「・・・もう暗くなってきてる。
そろそろ帰った方がいいだろ。
俺は葉月に付き添うから。」
そう言ってドアに手をかける三好さんに、
僕は言葉を投げかける。
「・・・ありがとうございました。」
彼は微笑を浮かべた。
「気にすんな、
自分が怖いから忠告しただけだ。
知ってるからな、
自分1人で抱え込んだ結果、
大切な物を、
残らず血の海に沈めちまったやつを。
それと、赤斗、もう一つ。」
三好さんは振り返り、
ティッシュを差し出し、一言。
「頬のチョコレート、拭え。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
病院の外に出ると、
流石に辺りは暗闇だった。
僕とフセは、蛍光灯に照らされながら、
帰路に着く。
『・・・責められるべきは、
私かもしれないな。』
フセがポツリと呟いた。
「・・・何で?」
『君をこんな世界に放り込んだのは、
私と良太郎だ。だから・・・。』
「だからどうした。」
僕は呟く。
「創造主だか何だか知らないけど、
爺ちゃんをあんな風にしたやつを、
ぶん殴れるなら、僕はそれでいい。
確かに、
死ぬかもしれない恐怖はある。
だけど、それに文句を言うには、
僕はお前に色んな物を貰いすぎたよ。」
僕は空を見上げる。
月はまだ、満月には程遠い。
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