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第1章
<71話>芸術家
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扉が開く音を聞いて、私はベットから起き、玄関へ飛んで行きました。
「叔父さん!義経君は!?フセくんは!?」
叔父さんは首を横に振りました。私は力なくソファに戻ります。
義経君が私と別れた後、行方不明になったと聞いたのは、つい先日でした。
助けられたという男の子から、京極さんが話を聞いたそうです。
「あいつ、そのフードを追って行ったそうだ。おそらくその後・・・。」
そう言って悔しそうに話す京極さんの顔から私は最悪な予想をせずにはいられませんでした。
俯く私の頭を、叔父さんはそっと撫でて、
「大丈夫、フセがついてるんだ。絶対に生きてるから心配するな。
俺も対策課も、今総力を上げて探してる、大人を信頼しろよ。
・・・もう夜も遅いから、寝なさい。」
そう言って半ば押し込むように私を部屋に戻しました。
『心配したってしゃーねーよ。
とにかく休もうぜ、もたないよ。』
ピノがベットをテシテシと叩くのを、私はぼんやりと見つめます。
「・・・ねぇ、私どうしたらいいかな。」
『まーだ義経のこと言ってんのか?
あのなぁ、専門家の大人がよってたかっても難航するような事件だぜ?
普通の子供がどうにかできるわけないだろ。』
ピノは突き放すようにそう言いますが、それで、そうですねとなるわけがありません。
『それに、今回のはシンジュウ能力者を誘拐するような相手だぜ?
万が一お前が首突っ込んでもしものことがあれば、オッサンはどう思うだろうな。
ほら、もう諦めろって。一人じゃどうにもできねーよ。』
「だって・・・。」
私は力なく明日の教科書をバッグに放り込みます。その時、取り出した教科書に引っ張られるようにして、1冊の本が落ちました。
『なんだそりゃ、絵本?』
「あおぞらくん」と書かれた、空の下で笑う男の子の絵が描かれたその本を、私は拾いあげます。確か、雨をあがらせる力を持つ男の子の話です。
「近所に住んでたお兄ちゃんがくれたんだ。
私が虐待されてるってのも、引っ越していく日まで必死に伝えようとしてくれててね、すごく優しくて、かっこいい人だった。」
『へえ、初恋ってやつか?』
冷やかすようにいうピノに、私は首を振ります。
「それなら、名前くらい覚えてないとおかしいでしょ?」
そう言いつつ、私はベットに潜り込みましたが、少しも眠れません。
「・・・あの人なら、どうするのかな。」
ピノが舌打ちをして、
『あ~も~!人格変わってやるから、兎に角寝ろ!お前3日くらいブツブツ呟いてばっかりでマトモに寝てないじゃないか!」
いうが早いか、帽子になったピノは、私の頭に被さります。
「え、ちょっ・・・!」
こうして私は、人格を乗っとられるという前代未聞の形で、眠りに落ちました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、私がいつも通り下校しようとした時、1人の男の子が私の前に立ち塞がりました。
「お願いします!力を貸してください!」
北畠隼人君は、そう言って深々と頭を下げました。
「・・・顔あげてよ。どの道、義経君は探すつもりだから。」
隼人君の顔はパッと明るくなりました。
「・・・どんだけ単純なのよ、アンタ。」
声のする方を見ると、制服を着た女の子。
「・・・あなたは?」
「私は北畠凛です、ソイツの双子の姉。
無理やり連れてこられました。」
ぶっきらぼうにそういう凛ちゃんを、隼人君はキッと睨みました。
「おい、助けてもらったのに、なんでそんな態度なんだよ。」
「そりゃ嫌に決まってるじゃない、切りかかってきた相手を命かけて探すなんて。」
睨み合う双子を静止してから、私は頭を下げました。
「ありがとう、あの山のシンジュウを抑え込んだ北畠君達がいれば百人力だよ。」
「何が百人力なんですか、今私達がやろうとしてること分かってます?手がかりが全くないんですよ?全く!」
凛さんは叫びます。たしかに、相手すら分かっていない時点で、雲を掴むような話です。
どうしたものか・・・。
「力をお貸しシマショウ!」
突然何もない空間から発せられた声に、私達は飛び上がりました。
「誰!?」
「嫌だなぁ、北畠クン。まだ私のこと覚えてくれないんデスカ?」
いつのまにか門の上には、金髪の女の子が出現していました。
「・・・う、上杉先輩・・・!」
「ハァイ!」
上杉と呼ばれたその子は、ピョンと飛び降りると、私に手を差し出しました。
「初めまして、斯波葉月サン!」
私が恐る恐る手を握ると、一気に彼女の記憶がなだれ込んできて・・・。
「あ、貴方、あの怪物の・・・!」
「そうデス、私は、あの『捕食者』を放った組織の元構成員デス!」
瞬間、凛ちゃんが甲虫を掴んだ、と同時に、その腕を上杉さんが掴みました。
「・・・殺してやる!」
「そうしてあげたいのは山々デスガ、ここでは不味いと思いマスヨ?
人目がありますし、それに多分、今貴方と私が戦ったら、一面が焼け野原になると思いマスガ。」
2人は暫く睨み合った後、凛さんは腕を下ろしました。それを見て、私はホッとしました。正直今は、上杉さんに頼るしかありません。
「何か、考えはあるんですか?」
「勿論。葉月ちゃん、被害者のキオクは、もう読みましたカ?」
「被害者の記憶は、もう読みましたよ。でも、完全な不意打ちだったみたいで、性別すら満足に分かりませんでした。」
上杉さんは深く頷くと、
「では、その前後ハ?
キオク探知は、何も最近のことしかわからない、というわけではないんデスヨネ?」
確かに私の加護は、本人の記憶さえあれば10年前だろうが20年前だろうが読むことが可能です。
「その人の最近の行動を調べ上げて、関係してそうな場所に行ってその場所で、最近の何があったか見れば、進展があるかも!・・・だけど、叔父さんに怒られるかもなぁ。」
赤斗君が消えた付近の場所の記憶は、私もあちこち読んでみようとしたのですが、途中で何故か叔父さんに咎められてしまいました。
でも、義経君や誘拐された人達の身の安全が保障されていない今、なりふり構っていられません。
「付き添ってくれませんか!?」
「もちろん!ですよね、上杉先輩!?」
上杉さんは笑顔で頷きました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・どうですか?」
「ダメ、手がかりになるようなことは残ってない。」
場面は変わって、事件現場周辺です。
現場自体は封鎖されているので、そこに至るまでの道のりの記憶を片っ端から読んでいたのですが、
「・・・そうだよね。そんなあからさまな人なんて、いるわけないよね。」
結局、手がかりになりそうなものは残っていませんでした。
「にしても上杉先輩、なにがしたかったんでしょうか。いきなり帰っちゃうし・・・。」
私達にこのやり方を提案した本人は、ここに到着する直前に、用事を思い出したと言ってとんでもない速さで帰っていきました。
「人に聞こうにも、この辺り、人気殆どないしなぁ。まあ、だからこそ実行場所に選ばれたんでしょうけど。」
当たりはすっかり夕闇に包まれて、寒さも増してきています。
『おい葉月、いい加減に帰ろうぜ。凍えちまうよ、グジュッ!』
ピノがクシャミをしたその時、上空に、巨大な額縁が現れました。
「あはははははは!まさか、こんなに簡単に釣れるとは思わなかった!」
声のした方には、狂ったように笑う女の子。
「あ、新井先輩・・・?」「うん、そう!」
ニコニコ笑うその子の目は、まるで新しい玩具をみる子供のように爛々と輝いています。
「義経君を探しにきたんだよね!?でも、ざんね~ん!アイツは、もう死んでるよ!?」
そう言ってその子が指を鳴らした瞬間、額縁からボールのような物が落ちてきました。けれど、それはそんな生易しいものではありませんでした。
『見るな!』
ピノが叫びましたが、私は、それより早く北畠君の目を覆っていました。
見せる訳にはいかなかったからです、義経君の生首なんて。
言葉を失う私達を見て、少女は顔を綻ばせます。
「ああ、その表情、素晴らし・・・。」
その瞬間、凄まじい衝撃、そして破裂音と共に、その子の頭が吹っ飛びました。
「・・・手応えが、ナイ。」
いつの間にか私達の側にいた上杉さんは、吐き捨てるようにそう言いました。
「・・・やっぱり、いたんですね。」
「オヤ、気づいてたんデスカ?ケハイってやつデスカ?」
「違いますよ、握手した時考えてましたよね?」
誰に聞かれているか分からないので、言及するのは避けましたが、彼女は私達を餌にして犯人の闇討ちを狙っていたのです。
「アンタ・・・!」
鬼のような表情で上杉さんににじり寄る隼人君を、私は静止します。
「何やってんすか!コイツは、僕達を囮にしたんですよ!?
一歩間違えたら、僕達は死んでいたかも・・・!」
「うん、そうだね。
でも、それはあの人も同じだと思うよ」
そう言って私は、上杉さんの、歪な形に捻れた右腕を指さしました。
「・・・嫌いなんですケドネ、磁力砲。」
人間の頭を吹っ飛ばす威力の攻撃が、反動がないわけありません。
あの人はあの人で、自分の体を犠牲にする覚悟があったのです。
「・・・ああ、先輩!そんな・・・!」
北畠君が、義経君の首に駆け寄ります。が、
「・・・あれ。」
「アハハハハハハ!びっくりした!?びっくりした!?」
マネキンを抱えたまま呆然とする北畠君を嘲り笑うように、新井さんは姿を現しました。
「よくできてるでしょ?それ。」
「・・・やっぱり。貴方達、義経君を殺すわけにはいかないですもんね。」
上杉さんが舌打ちをします。さっき頭を吹っ飛ばしたように見えたそれは、吹っ飛ばされたのではなく、消えたのです。
『・・・やはり、生きていたか・・・。生きていたか・・・。』
「自分まで額縁の中に入れられるとは、予想外デシタ・・・。」
「いえ、十分です。お陰で、あの額縁の中は人が生存できる環境だってことがよく分かりました。
ピノ、憑依。私の人格ね。」
鹿撃帽を被った私は、2人の方に向き合います。
「『上杉さん、アレ下さい。』」
激痛が腕を走っているはずの上杉さんはニッコリと笑うと、自分の皮膚から、メスを生成しました。
「いってらっしゃい!」
「させないっての!お前以外は、殺していいって言われてるからね!」
上の額縁が凄まじい勢いで、私を吸い込みはじめ、それと同時に、別に現れた額縁から、2体の怪物が這い出てきました。
「まずはお前からだ、暗さ・・・!」
言葉が止まったのは、唸り声をあげていた怪物は、既に氷漬けにされていたからです。
「『絶対に逃がさないで!吸い込まれてもダメ!』」
「「余裕ですよ、5分は持たせますから、その間になんとかしてください。
・・・軽蔑しましたよ、先輩。アンタには、冷たい氷の中がお似合いだ。」」
隼人くんと凛さんの怒りに震えた声が、夜の闇にこだまします。
(絶対助けるんだ、みんなを!・・・そうだよね、ピノ。)
その決意とともに、私の意識は黒い空間へ吸い込まれて行きました。
「叔父さん!義経君は!?フセくんは!?」
叔父さんは首を横に振りました。私は力なくソファに戻ります。
義経君が私と別れた後、行方不明になったと聞いたのは、つい先日でした。
助けられたという男の子から、京極さんが話を聞いたそうです。
「あいつ、そのフードを追って行ったそうだ。おそらくその後・・・。」
そう言って悔しそうに話す京極さんの顔から私は最悪な予想をせずにはいられませんでした。
俯く私の頭を、叔父さんはそっと撫でて、
「大丈夫、フセがついてるんだ。絶対に生きてるから心配するな。
俺も対策課も、今総力を上げて探してる、大人を信頼しろよ。
・・・もう夜も遅いから、寝なさい。」
そう言って半ば押し込むように私を部屋に戻しました。
『心配したってしゃーねーよ。
とにかく休もうぜ、もたないよ。』
ピノがベットをテシテシと叩くのを、私はぼんやりと見つめます。
「・・・ねぇ、私どうしたらいいかな。」
『まーだ義経のこと言ってんのか?
あのなぁ、専門家の大人がよってたかっても難航するような事件だぜ?
普通の子供がどうにかできるわけないだろ。』
ピノは突き放すようにそう言いますが、それで、そうですねとなるわけがありません。
『それに、今回のはシンジュウ能力者を誘拐するような相手だぜ?
万が一お前が首突っ込んでもしものことがあれば、オッサンはどう思うだろうな。
ほら、もう諦めろって。一人じゃどうにもできねーよ。』
「だって・・・。」
私は力なく明日の教科書をバッグに放り込みます。その時、取り出した教科書に引っ張られるようにして、1冊の本が落ちました。
『なんだそりゃ、絵本?』
「あおぞらくん」と書かれた、空の下で笑う男の子の絵が描かれたその本を、私は拾いあげます。確か、雨をあがらせる力を持つ男の子の話です。
「近所に住んでたお兄ちゃんがくれたんだ。
私が虐待されてるってのも、引っ越していく日まで必死に伝えようとしてくれててね、すごく優しくて、かっこいい人だった。」
『へえ、初恋ってやつか?』
冷やかすようにいうピノに、私は首を振ります。
「それなら、名前くらい覚えてないとおかしいでしょ?」
そう言いつつ、私はベットに潜り込みましたが、少しも眠れません。
「・・・あの人なら、どうするのかな。」
ピノが舌打ちをして、
『あ~も~!人格変わってやるから、兎に角寝ろ!お前3日くらいブツブツ呟いてばっかりでマトモに寝てないじゃないか!」
いうが早いか、帽子になったピノは、私の頭に被さります。
「え、ちょっ・・・!」
こうして私は、人格を乗っとられるという前代未聞の形で、眠りに落ちました。
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翌日、私がいつも通り下校しようとした時、1人の男の子が私の前に立ち塞がりました。
「お願いします!力を貸してください!」
北畠隼人君は、そう言って深々と頭を下げました。
「・・・顔あげてよ。どの道、義経君は探すつもりだから。」
隼人君の顔はパッと明るくなりました。
「・・・どんだけ単純なのよ、アンタ。」
声のする方を見ると、制服を着た女の子。
「・・・あなたは?」
「私は北畠凛です、ソイツの双子の姉。
無理やり連れてこられました。」
ぶっきらぼうにそういう凛ちゃんを、隼人君はキッと睨みました。
「おい、助けてもらったのに、なんでそんな態度なんだよ。」
「そりゃ嫌に決まってるじゃない、切りかかってきた相手を命かけて探すなんて。」
睨み合う双子を静止してから、私は頭を下げました。
「ありがとう、あの山のシンジュウを抑え込んだ北畠君達がいれば百人力だよ。」
「何が百人力なんですか、今私達がやろうとしてること分かってます?手がかりが全くないんですよ?全く!」
凛さんは叫びます。たしかに、相手すら分かっていない時点で、雲を掴むような話です。
どうしたものか・・・。
「力をお貸しシマショウ!」
突然何もない空間から発せられた声に、私達は飛び上がりました。
「誰!?」
「嫌だなぁ、北畠クン。まだ私のこと覚えてくれないんデスカ?」
いつのまにか門の上には、金髪の女の子が出現していました。
「・・・う、上杉先輩・・・!」
「ハァイ!」
上杉と呼ばれたその子は、ピョンと飛び降りると、私に手を差し出しました。
「初めまして、斯波葉月サン!」
私が恐る恐る手を握ると、一気に彼女の記憶がなだれ込んできて・・・。
「あ、貴方、あの怪物の・・・!」
「そうデス、私は、あの『捕食者』を放った組織の元構成員デス!」
瞬間、凛ちゃんが甲虫を掴んだ、と同時に、その腕を上杉さんが掴みました。
「・・・殺してやる!」
「そうしてあげたいのは山々デスガ、ここでは不味いと思いマスヨ?
人目がありますし、それに多分、今貴方と私が戦ったら、一面が焼け野原になると思いマスガ。」
2人は暫く睨み合った後、凛さんは腕を下ろしました。それを見て、私はホッとしました。正直今は、上杉さんに頼るしかありません。
「何か、考えはあるんですか?」
「勿論。葉月ちゃん、被害者のキオクは、もう読みましたカ?」
「被害者の記憶は、もう読みましたよ。でも、完全な不意打ちだったみたいで、性別すら満足に分かりませんでした。」
上杉さんは深く頷くと、
「では、その前後ハ?
キオク探知は、何も最近のことしかわからない、というわけではないんデスヨネ?」
確かに私の加護は、本人の記憶さえあれば10年前だろうが20年前だろうが読むことが可能です。
「その人の最近の行動を調べ上げて、関係してそうな場所に行ってその場所で、最近の何があったか見れば、進展があるかも!・・・だけど、叔父さんに怒られるかもなぁ。」
赤斗君が消えた付近の場所の記憶は、私もあちこち読んでみようとしたのですが、途中で何故か叔父さんに咎められてしまいました。
でも、義経君や誘拐された人達の身の安全が保障されていない今、なりふり構っていられません。
「付き添ってくれませんか!?」
「もちろん!ですよね、上杉先輩!?」
上杉さんは笑顔で頷きました。
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「・・・どうですか?」
「ダメ、手がかりになるようなことは残ってない。」
場面は変わって、事件現場周辺です。
現場自体は封鎖されているので、そこに至るまでの道のりの記憶を片っ端から読んでいたのですが、
「・・・そうだよね。そんなあからさまな人なんて、いるわけないよね。」
結局、手がかりになりそうなものは残っていませんでした。
「にしても上杉先輩、なにがしたかったんでしょうか。いきなり帰っちゃうし・・・。」
私達にこのやり方を提案した本人は、ここに到着する直前に、用事を思い出したと言ってとんでもない速さで帰っていきました。
「人に聞こうにも、この辺り、人気殆どないしなぁ。まあ、だからこそ実行場所に選ばれたんでしょうけど。」
当たりはすっかり夕闇に包まれて、寒さも増してきています。
『おい葉月、いい加減に帰ろうぜ。凍えちまうよ、グジュッ!』
ピノがクシャミをしたその時、上空に、巨大な額縁が現れました。
「あはははははは!まさか、こんなに簡単に釣れるとは思わなかった!」
声のした方には、狂ったように笑う女の子。
「あ、新井先輩・・・?」「うん、そう!」
ニコニコ笑うその子の目は、まるで新しい玩具をみる子供のように爛々と輝いています。
「義経君を探しにきたんだよね!?でも、ざんね~ん!アイツは、もう死んでるよ!?」
そう言ってその子が指を鳴らした瞬間、額縁からボールのような物が落ちてきました。けれど、それはそんな生易しいものではありませんでした。
『見るな!』
ピノが叫びましたが、私は、それより早く北畠君の目を覆っていました。
見せる訳にはいかなかったからです、義経君の生首なんて。
言葉を失う私達を見て、少女は顔を綻ばせます。
「ああ、その表情、素晴らし・・・。」
その瞬間、凄まじい衝撃、そして破裂音と共に、その子の頭が吹っ飛びました。
「・・・手応えが、ナイ。」
いつの間にか私達の側にいた上杉さんは、吐き捨てるようにそう言いました。
「・・・やっぱり、いたんですね。」
「オヤ、気づいてたんデスカ?ケハイってやつデスカ?」
「違いますよ、握手した時考えてましたよね?」
誰に聞かれているか分からないので、言及するのは避けましたが、彼女は私達を餌にして犯人の闇討ちを狙っていたのです。
「アンタ・・・!」
鬼のような表情で上杉さんににじり寄る隼人君を、私は静止します。
「何やってんすか!コイツは、僕達を囮にしたんですよ!?
一歩間違えたら、僕達は死んでいたかも・・・!」
「うん、そうだね。
でも、それはあの人も同じだと思うよ」
そう言って私は、上杉さんの、歪な形に捻れた右腕を指さしました。
「・・・嫌いなんですケドネ、磁力砲。」
人間の頭を吹っ飛ばす威力の攻撃が、反動がないわけありません。
あの人はあの人で、自分の体を犠牲にする覚悟があったのです。
「・・・ああ、先輩!そんな・・・!」
北畠君が、義経君の首に駆け寄ります。が、
「・・・あれ。」
「アハハハハハハ!びっくりした!?びっくりした!?」
マネキンを抱えたまま呆然とする北畠君を嘲り笑うように、新井さんは姿を現しました。
「よくできてるでしょ?それ。」
「・・・やっぱり。貴方達、義経君を殺すわけにはいかないですもんね。」
上杉さんが舌打ちをします。さっき頭を吹っ飛ばしたように見えたそれは、吹っ飛ばされたのではなく、消えたのです。
『・・・やはり、生きていたか・・・。生きていたか・・・。』
「自分まで額縁の中に入れられるとは、予想外デシタ・・・。」
「いえ、十分です。お陰で、あの額縁の中は人が生存できる環境だってことがよく分かりました。
ピノ、憑依。私の人格ね。」
鹿撃帽を被った私は、2人の方に向き合います。
「『上杉さん、アレ下さい。』」
激痛が腕を走っているはずの上杉さんはニッコリと笑うと、自分の皮膚から、メスを生成しました。
「いってらっしゃい!」
「させないっての!お前以外は、殺していいって言われてるからね!」
上の額縁が凄まじい勢いで、私を吸い込みはじめ、それと同時に、別に現れた額縁から、2体の怪物が這い出てきました。
「まずはお前からだ、暗さ・・・!」
言葉が止まったのは、唸り声をあげていた怪物は、既に氷漬けにされていたからです。
「『絶対に逃がさないで!吸い込まれてもダメ!』」
「「余裕ですよ、5分は持たせますから、その間になんとかしてください。
・・・軽蔑しましたよ、先輩。アンタには、冷たい氷の中がお似合いだ。」」
隼人くんと凛さんの怒りに震えた声が、夜の闇にこだまします。
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