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第二章
第48話 予想以上の大金とお出迎え
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なんにせよ、話の流れは好都合。
俺はベンチから腰を上げ、セイちゃんの前に立って問いかける。
「もしもの話だけどさ。頭皮を復活させられる薬があるとしたら、どうする?」
「またそれ? まあ、本当にあるんだったら是が非でも欲しいけど」
当然の解答だ。本当に効果がある毛髪薬だったら、喉から手が出るほど欲しいに違いない。もっとも、実在すればの話だけど……まあ、実在するんですけどね。
俺は手に持っていたトートバッグから、陶器の薬筒をひとつ取り出す――そう、異世界で仕入れてきた毛髪薬である。
続いて周囲に人目がないことをよく確認し、かぶっていたキャップを勢いよく脱ぎ捨てる。
「いやいや、サクちゃん。なんでボウズなの……小学校の一年生以来じゃない? 相変わらず似合ってないね」
セイちゃんの指摘通り、俺のヘアスタイルは現在ボウズである。似合ってないは余計だが。
我が家を出発する前に、サリアさんにお願いしてバリカンで刈ってきたのだ。もちろん毛髪薬も試し済み――実は、最初からこちらの売り込みが真の狙いだったりする。
ネットニュースで彼の姿を見たとき、毛髪薬を欲しがると確信した。そもそも、生命薬と浄瘴薬が必要ならこっそり飲ませるつもりだったしね。
何より、会話を交わして昔のままだとわかったことが大きいし、嬉しくて堪らない。
小学生の頃、俺を幼稚なイジメから救ってくれた。中学校では厄介な先輩を遠ざけてくれた。高校では恋人を作れと、相性が良さそうな女の子を紹介してくれた。成人してからは何度も一緒に酒を飲んだ――数年のブランクなんてまるで感じない。
セイちゃんはいつだって、俺にとってかけがえのない頼れる兄貴なのだ。ゆえにこそ、こうして一歩踏み込む決心がついた。欲を言えば、日本で資金を稼ぐための相談役になってほしいくらいである。
「さあ、とくとご覧あれ。とあるルートで仕入れた、この秘薬の効果を!」
きゅぽっ、と。
俺はノリで即興の口上を述べ、薬筒のコルクを外す。
そのまま中身の液体を自分の頭にすべて注ぐ。不思議と滴り落ちることはなく、頭皮にじっとり染み渡る感触がした。
間髪入れず、ブルリと全身に鳥肌が立つ――次の瞬間、バサッと長い黒髪が垂れ落ちて視界を覆った。
「…………は!? いま頭が一瞬光って、いきなり髪の毛が生えたんだけど……え、なにこれ? マジでなに? なんの手品?」
「どうかな、正真正銘の毛髪薬の効果は。もしこれが買えるとしたら、いくらの値をつける?」
俺がうざったいほど伸びた前髪をかき上げつつ問いかけると、セイちゃんは震える手をパーにした。多分、『五十万円』と言いたいのだろう。
予想以上の大金だが、毛髪薬の費用と考えれば納得できる。
もっとも、二度とこんな直接的な売り込み方をするつもりはない。今回は、セイちゃんなら信用できると判断したからこそである。
次の商機がいつ来るかわからないし、ここはありがたく受け取らせてもらおう。貯金がかなり目減りしてきちゃったからね……背に腹は代えられない、というやつだ。
「では、お買い上げありがとうございます。じゃあ、はいどうぞ」
「わっ、冷た――うおっ、うおおぉぉおおおお!?」
俺はトートバッグから毛髪薬をもう一本取り出し、遠慮なくセイちゃんの頭に振りかける。するとさっき聞いた感想の通り、頭が僅かに発光したかと思えばゾバッと。瞬く間に、肩につくほどの長さの黒髪が生え揃う。
「本当に意味不明なんだが……こんなのもう『神の奇跡』だろ」
新たに生えた髪を引っ張りながら、呆然と呟くセイちゃん。
普通に正解だから困る。この毛髪薬、異世界では『神様が作ったジョークグッズ』みたいな扱いらしいですよ。
とにかく、トートバッグからヘアゴムを二つ取り出し、片方をセイちゃんに手渡す。揃ってうざったい髪を古のオタク一本結びにしてから、俺たちはまた話を続けた。
「ここ最近、いろいろあってさ。それこそ、神様がくれた奇跡みたいな日々を過ごしているよ」
俺はわずかに胸を躍らせ、核心はボカしたり脚色しつつも近況を少しだけ打ち明ける。
その後、セイちゃんの提案で深夜まで営業している渋谷のヘアサロンで髪を切り、またすぐの再会を約束して解散となった。
また車を走らせて帰宅した俺は、キッチンへ直行して冷蔵庫から缶ビールを取り出す。なんともいい気分だったので、こっそり祝杯をあげようと思ったのだ。
そこで、トテトテと。
複数の足音が聞こえてきて……温かそうなパジャマを着た獣耳幼女たちが揃って、『あ、いたっ!』とニッコニコの顔でこちらへやってくる。
三人はそのまま、いつものように俺の懐へ飛び込んできたので受け止めた。予想外のお出迎えに、こっちまでニッコニコである。
「わっ、どうしたの。もしかして起こしちゃった?」
「ルルが、サクタローさんかえってきたって!」
俺の帰宅に気づき、ルルが目を覚ましてしまったようだ。それで皆に乗っかりながら起こして回った、そうエマが弾むような声で教えてくれる。
サリアさんもいったん目を覚ましたが、またすぐ眠ってしまったらしい。
他にも、俺がいない間に遊んだフェアリープリンセスの塗り絵や絵合わせカードがいかに楽しかったかなど、それぞれが『あのね、あのね!』と笑顔で競うように報告してくれた。
「ん、だっこ」
「あ、ずるい! リリも!」
「わたしも、だっこ!」
俺が返事をしながらキッチンテーブルの椅子に座り直すと、ルルが抱っこを求めてグイグイ服を引っ張ってくる。その様子を見たリリとエマも騒ぎ出したので、三人を順番に膝の上へ乗せていく。これもお決まりの流れだ。
それからまた、ぎゅうぎゅうと体を寄せ合って楽しく会話を続けた。とはいえ、すでに時刻は深夜。程よいところで切り上げ、みんな揃って眠りにつく。夜ふかしは成長に良くないからね。
そして、数日後。
セイちゃんから、『毛髪薬の代金を振り込んだ』とメッセージが届いた。
確認すべく、俺はネットで銀行口座にログインし……思わず、持っていたスマホをリビングの床に落とした。振込の記載欄に、なんと『五百万円』もの大金が表示されていたのである。
俺はベンチから腰を上げ、セイちゃんの前に立って問いかける。
「もしもの話だけどさ。頭皮を復活させられる薬があるとしたら、どうする?」
「またそれ? まあ、本当にあるんだったら是が非でも欲しいけど」
当然の解答だ。本当に効果がある毛髪薬だったら、喉から手が出るほど欲しいに違いない。もっとも、実在すればの話だけど……まあ、実在するんですけどね。
俺は手に持っていたトートバッグから、陶器の薬筒をひとつ取り出す――そう、異世界で仕入れてきた毛髪薬である。
続いて周囲に人目がないことをよく確認し、かぶっていたキャップを勢いよく脱ぎ捨てる。
「いやいや、サクちゃん。なんでボウズなの……小学校の一年生以来じゃない? 相変わらず似合ってないね」
セイちゃんの指摘通り、俺のヘアスタイルは現在ボウズである。似合ってないは余計だが。
我が家を出発する前に、サリアさんにお願いしてバリカンで刈ってきたのだ。もちろん毛髪薬も試し済み――実は、最初からこちらの売り込みが真の狙いだったりする。
ネットニュースで彼の姿を見たとき、毛髪薬を欲しがると確信した。そもそも、生命薬と浄瘴薬が必要ならこっそり飲ませるつもりだったしね。
何より、会話を交わして昔のままだとわかったことが大きいし、嬉しくて堪らない。
小学生の頃、俺を幼稚なイジメから救ってくれた。中学校では厄介な先輩を遠ざけてくれた。高校では恋人を作れと、相性が良さそうな女の子を紹介してくれた。成人してからは何度も一緒に酒を飲んだ――数年のブランクなんてまるで感じない。
セイちゃんはいつだって、俺にとってかけがえのない頼れる兄貴なのだ。ゆえにこそ、こうして一歩踏み込む決心がついた。欲を言えば、日本で資金を稼ぐための相談役になってほしいくらいである。
「さあ、とくとご覧あれ。とあるルートで仕入れた、この秘薬の効果を!」
きゅぽっ、と。
俺はノリで即興の口上を述べ、薬筒のコルクを外す。
そのまま中身の液体を自分の頭にすべて注ぐ。不思議と滴り落ちることはなく、頭皮にじっとり染み渡る感触がした。
間髪入れず、ブルリと全身に鳥肌が立つ――次の瞬間、バサッと長い黒髪が垂れ落ちて視界を覆った。
「…………は!? いま頭が一瞬光って、いきなり髪の毛が生えたんだけど……え、なにこれ? マジでなに? なんの手品?」
「どうかな、正真正銘の毛髪薬の効果は。もしこれが買えるとしたら、いくらの値をつける?」
俺がうざったいほど伸びた前髪をかき上げつつ問いかけると、セイちゃんは震える手をパーにした。多分、『五十万円』と言いたいのだろう。
予想以上の大金だが、毛髪薬の費用と考えれば納得できる。
もっとも、二度とこんな直接的な売り込み方をするつもりはない。今回は、セイちゃんなら信用できると判断したからこそである。
次の商機がいつ来るかわからないし、ここはありがたく受け取らせてもらおう。貯金がかなり目減りしてきちゃったからね……背に腹は代えられない、というやつだ。
「では、お買い上げありがとうございます。じゃあ、はいどうぞ」
「わっ、冷た――うおっ、うおおぉぉおおおお!?」
俺はトートバッグから毛髪薬をもう一本取り出し、遠慮なくセイちゃんの頭に振りかける。するとさっき聞いた感想の通り、頭が僅かに発光したかと思えばゾバッと。瞬く間に、肩につくほどの長さの黒髪が生え揃う。
「本当に意味不明なんだが……こんなのもう『神の奇跡』だろ」
新たに生えた髪を引っ張りながら、呆然と呟くセイちゃん。
普通に正解だから困る。この毛髪薬、異世界では『神様が作ったジョークグッズ』みたいな扱いらしいですよ。
とにかく、トートバッグからヘアゴムを二つ取り出し、片方をセイちゃんに手渡す。揃ってうざったい髪を古のオタク一本結びにしてから、俺たちはまた話を続けた。
「ここ最近、いろいろあってさ。それこそ、神様がくれた奇跡みたいな日々を過ごしているよ」
俺はわずかに胸を躍らせ、核心はボカしたり脚色しつつも近況を少しだけ打ち明ける。
その後、セイちゃんの提案で深夜まで営業している渋谷のヘアサロンで髪を切り、またすぐの再会を約束して解散となった。
また車を走らせて帰宅した俺は、キッチンへ直行して冷蔵庫から缶ビールを取り出す。なんともいい気分だったので、こっそり祝杯をあげようと思ったのだ。
そこで、トテトテと。
複数の足音が聞こえてきて……温かそうなパジャマを着た獣耳幼女たちが揃って、『あ、いたっ!』とニッコニコの顔でこちらへやってくる。
三人はそのまま、いつものように俺の懐へ飛び込んできたので受け止めた。予想外のお出迎えに、こっちまでニッコニコである。
「わっ、どうしたの。もしかして起こしちゃった?」
「ルルが、サクタローさんかえってきたって!」
俺の帰宅に気づき、ルルが目を覚ましてしまったようだ。それで皆に乗っかりながら起こして回った、そうエマが弾むような声で教えてくれる。
サリアさんもいったん目を覚ましたが、またすぐ眠ってしまったらしい。
他にも、俺がいない間に遊んだフェアリープリンセスの塗り絵や絵合わせカードがいかに楽しかったかなど、それぞれが『あのね、あのね!』と笑顔で競うように報告してくれた。
「ん、だっこ」
「あ、ずるい! リリも!」
「わたしも、だっこ!」
俺が返事をしながらキッチンテーブルの椅子に座り直すと、ルルが抱っこを求めてグイグイ服を引っ張ってくる。その様子を見たリリとエマも騒ぎ出したので、三人を順番に膝の上へ乗せていく。これもお決まりの流れだ。
それからまた、ぎゅうぎゅうと体を寄せ合って楽しく会話を続けた。とはいえ、すでに時刻は深夜。程よいところで切り上げ、みんな揃って眠りにつく。夜ふかしは成長に良くないからね。
そして、数日後。
セイちゃんから、『毛髪薬の代金を振り込んだ』とメッセージが届いた。
確認すべく、俺はネットで銀行口座にログインし……思わず、持っていたスマホをリビングの床に落とした。振込の記載欄に、なんと『五百万円』もの大金が表示されていたのである。
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