我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第二章

第54話 キラキラのキャラクターシール

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 スーパーでの買い物中ほどではないが、帰宅してからもわりと忙しかった。
 我が家の駐車場に車を止めたら、まずは獣耳幼女たちを抱っこして室内へ運ぶことになった。

 俺が「到着したよ」と声をかけてみんなを起こすと、寝起きでぽやぽやのルルが抱っこを求めて手を伸ばしてきた。

 荷物が大量にあるから自分で歩いて欲しかった……けれど、シートベルトを外してあげたら懐へ飛び込んできたので、あまりの可愛さについ抱き上げてしまったのだ。

 それを見たエマとリリも当然抱っこを希望したので、それぞれ順番にリビングのコタツまで運ぶ。

 サリアさんもなぜか抱っこ待ちしていたが、サイズ的に無理だし、どう考えても逆に俺が抱っこされる側だよね。なので、一緒に荷物を我が家の中へ運搬してもらった。

 それが済んだら、今度は獣耳幼女たちのお着替えをサポート。三人にはそのまま新たな寝所となった和室でお昼寝の続きを……と思ったのだが、すっかり目が覚めてしまったらしい。

 買ってきた食材やらを収納すべく俺がキッチンへ向かえば、背後から揃って付いて来て、お手伝いに立候補してくれた……までは良かったのだが、その後がなかなかに賑やかで。

 エマがシャンプーやボディーソープを冷凍庫にしまい込んだり、リリがレトルトの箱で積み木を始めたり、ルルがこっそり食べようとしたいちごジャムを床にこぼしたり、思わず笑ってしまうような騒ぎの連続。

 サリアさんが椅子に座って監督してくれていたので危険はなかったが、片付け終わるまでいつも以上に時間がかかった。楽しかったから全然いいけどね。

 そして、みんなでリビングへ戻ったそのとき。
 獣耳幼女たちとサリアさんの頭に、にょにょにょと獣耳が生えてきた。それと腰の尻尾も。若干の時間差はあったものの、揃って擬態薬の効果が切れたようだ。

 俺はスマホを取り出し、時間を確認する。今後を見据え、タイマーアプリで計測しておいたのだ。薬の品質によって差異があるらしいけど、おおよその目安にはなる。

 それはそうと、やっぱりみんなは本来の姿が一番いいね。
 俺が感慨深く獣耳を中心に頭を撫でていくと、エマたちは嬉しそうにしながらも小首をかしげていた。

 その後は、お待ちかねのおやつタイム。
 リビングへ移動し、各自コタツの席につく。

 ワクワクする四人に、俺はフェアリープリンセスのシール付きウエハースを配っていく。受け取った順に、満面の笑顔を浮かべつつ大喜びしてくれた。

 お菓子は複数買ったけど、今は一つずつ。他にもおやつは干し柿があるし、夜ゴハンは牛ももブロックのサイコロステーキを作るから、食べすぎないようにしないとね。

「じゃあ、お菓子の食べ方を説明するね。といっても、このギザギザの部分から袋を開けるだけなんだけど」

 いよいよ日本のお菓子に初挑戦。
 俺はさっそく食べ方がわからないだろうからと、サリアさんのお菓子をいったん借りてパッケージの開封手順を説明する。

『ひゃっ……!?』

 ところが、返ってきたのは驚いたような視線と短い悲鳴……どうやら、キュートな絵柄のパッケージを切り裂くなんてとんでもない、ということらしい。

 冷静に考えれば、そうだよな。みんなにしてみれば極めて珍しいデザインだ。まして大好きなキャラクター。ならば、損壊は最小限に留めるとしよう。

 俺はハサミを取ってきて、四人分のパッケージの端っこを慎重にカットして開封する。以降は、順に中身を発表していく流れとなった。

 最初は、ルルの番。小さな指で、そうっと開け口から透明の保護フィルムを引き出す――そこには、キラキラと輝くキャラクターのシールが収まっていた。

「んにゃあぁぁああああ――!」

 ルルは歓喜の奇声を発しながら立ち上がり、その場でぴょんぴょん飛び跳ねる。それでも感情を抑えきれなかったようで、こちらの胸元へ勢いよく飛び込んできた。

「わっ、急に危ないよ……うん? 見せてくれるのかな」

 慌てて受け止めた俺の鼻先に、キラキラのシールが押し当てられる。まるで宝物を誇示するみたいなアピールだ。ついでに保護フィルムを開けようかと思ったけど……楽しそうだし、あとでいいか。

 ルルはそのまま膝の上に収まると、ふんふん鼻息を漏らしつつシールを眺め始めた。微笑ましすぎて、こちらの頬も盛大に緩む。

「つぎはリリね! サクタロー、みてて!」

 二番手はリリ。待ち切れないとばかりに俺のすぐ隣へ寄ってきて、そっとシール入りの保護フィルムを引き出す……その直後、再び「ふわぁぁあああっ!」と歓喜の叫びがリビングに響く。

 その手元を覗き込むと、またもキラキラのシールが目に入る。かなり嬉しかったようで、狐耳ともふもふ尻尾を忙しなく揺らし、食い入るように見つめていた。夢中になっている姿が可愛らしかったので、やはり透明のフィルムは後回し。

 三番手はエマ。期待に満ちた顔で俺のすぐ隣へやってきて、同じように保護フィルムを取り出す。中身は、やはりキラキラのキャラクターシール。どうやら、すべてこのタイプらしい。

 なんにせよ大喜びに違いない、と俺は微笑みながら様子を見守る――ところが、予期せぬ反応が返ってきて大慌て。

「うぅ……す、すごいっ……!」

 シールを持ったまま、絞り出すように声を漏らすエマ。そのヘーゼルの瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。

 てっきり満面の笑顔を見られると思っていた……俺は大いに焦り、どうしたのか尋ねる。好きなキャラクターが出なかった、などで悲しむ性格ではない。何かもっと別の理由があるはず。

「わたし、こんなにきれいなの、みれるとおもってなかった……」

 孤児として生きてきた自分が、こんなにも綺麗で素敵な物を見られると思わなかった。何より、姉妹三人でこうして喜びを分かち合えている――エマは拙いながらも、一生懸命にそう説明してくれた。 

 普段は愛らしく細められるヘーゼルの瞳からは、とめどなく涙が溢れ出している。
 みんなも心配そうに見つめている……ここは大人の俺が何か言わなければ、と思うものの声が出てこない。どれだけ辛い思いをしてきたか知っているからこそ、不覚にも泣く寸前だった。

 だから、慰めの代わりに。
 その亜麻色の頭を犬耳ごと、ゆっくり慈しむように撫でる。

 ルルも体を乗り出し、俺のマネをするみたいに手を伸ばす――それからリリが同様に手を差し出しながら、明るく弾んだ声でこう言った。

「もう、エマのナキムシっ! サクタローがいるんだから、もっといっぱいみれるでしょ! サリアだっているよ!」

 そうだよ、大丈夫。もう俺が辛い思いなんてさせない。普段はグータラだけど、本気をだしたらすごいサリアさんもいる。キミたち三人はこれから、たくさん綺麗で素敵な物を見て、触れて、感じて、のんびり大人になっていくんだ。

 そんな思いは、喉が震えて言葉にこそならなかった――けれど、俺はもてる愛情のすべてを込めて、獣耳幼女たちをまとめてぎゅっと抱きしめる。

「そうだぞ、エマ! 最優の探索者にして無双の餓狼と謳われたこの私もいる! 恐れるものなど何もない!」

 うおおおっ、と。
 謎の雄叫びを放ち、サリアさんがさらに上からのしかかってくる。

 広いリビングの一画で、俺たちはひと塊になって転がった。せっかく大きなコタツを買ったのに、気づけばいつもこう。結局はみんなで身を寄せ合い、きゃっきゃと楽しく騒ぐのだ。これが我が家のお約束。

 そうすれば、ほら。
 エマもすっかり泣き止んで、いつものはにかんだ笑顔を取り戻す。やっぱり、その可愛らしい表情がよく似合うね。
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