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第二章
第70話 フィーナさんを加えた朝食と多感なお年頃
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朝晩の冷え込みがぐっと増した、秋の終わりの朝。
いつも通り早朝に目を覚ました……というより、エマとリリの元気な声で起こされた俺は、少し特別な朝食をコタツの上に並べた。
バターロールとコーンポタージュ、それにいちごジャム。珍しく獣耳幼女たちにリクエストされた組み合わせで、サリアさんを初めて家へお招きした際にも出したメニューだ。今回はデザートのフルーツも添えてある。
要するに、我が家なりの歓迎の証である。となれば当然、コタツには新しい顔ぶれが加わっているわけで。
「素晴らしい朝食です。これほど風味豊かな白パンは、我が国の王宮ですら口にしたことがありません。こちらのスープも、とても美味しいですね。何より、コタツの快適さといったらもう……ああ、恐ろしい。私は二度とここから出られないかもしれません」
食事の手を止め、ホッと息を吐くフィーナさん。
そう。実は今朝、我が家へ正式にご招待した。
銀糸のような長い髪とアメジストのごとき瞳を持つエルフのお姫様は、朝食やコタツをいたくお気に召したご様子。細長い耳をピクピク動かし、とても満足げだ。
どうして共に食卓を囲むことになったのかと言えば、サリアさんの提案に同意したから。
昨日行われた真珠の取引は、神秘的な光景をもって幕を閉じた。ところがこのお姫様は、なおも廃聖堂に身を置き続ける決意を表明した。
ここでサリアさんが待ったをかけた。加えて、『フィーナは友人であり、リリの魔法の師となる予定だ。できれば賓客として我が家へ招いてはもらえないか』と申し出た。
俺としても、本物の王女様をいつまでも地下通路で寝泊まりさせるのは気が引けた。ゆっくり休めず、体調を崩しては一大事。それに本人の強い希望もあったので、さほど迷うことなく受け入れた。
護衛騎士のカーティスさんあたりが反対するのではないかと心配したが、『サクタロー殿の館であれば……』とやたらすんなり話がまとまったので、ちょっとびっくりである。
結果、フィーナさんは我が家へ滞在し、ドワーフ兄弟やお付の侍女さんなんかは引き続きラクスジットの宿に留まる形で合意したのだった。期間は未定である。
ただし荷物などを整理する必要があったので、今朝改めて我が家へお招きする運びとなったのだ。
「いちごじゃむ、いっぱいがおいしい!」
「では、頂戴しますね……これは、あまりの美味しさについ食べすぎてしまいそうですね。教えてくださってありがとうございます、ルル」
食べ始めて早々に俺の膝の上をゲットしたルルが、いちごジャムをたっぷりのせたバターロールをフィーナさんに勧めていた。
この子は基本的に甘い物が大好きで、いちごジャムは特にお気に入り。もちろん、左右に座って口を動かすエマとリリの好物でもある。
「マヨネーズもおいしいよ!」
「でもサクタローがね、まんまるになるからたくさんはダメって!」
「そうだよ。食べすぎると体に良くないからね」
俺がそう応えながら順番にほっぺをつつくと、エマとリリがキャッキャと笑う。
たっぷりのいちごジャムからもわかるように、好物を出すとみんな山盛り頬張る。別に太るのはいいんだけど、食べ過ぎは健康に良くないからほどほどにね。
朝ごはんが済んだら、腹ごなしのティータイム。
近頃は紅茶を飲む機会が多かったので、今日は温かい緑茶をチョイス。獣耳幼女たちにはりんごジュースを注いであげる。
「あら、このお茶も素晴らしい味わいですね。紅茶より、こちらの方が好みかもしれません」
フィーナさんはかなり気に入ってくれたようだ。意外と和風の味わいが口にあうのかも。抹茶のチョコとかいいかもね。これから色々と出してみよう。
「サクタロー、てれびみたい!」
「はいはい。そうだ、今日は『すみっこ生活』のアニメにする? この前もらったおもちゃのやつ。リリも大好きでしょ?」
「だいすきっ、それがいい! はやくはやく!」
先日のハンバーガーショップでもらって以来、例のおもちゃが大のお気に入り。なので、元となったアニメを勧めてみた。するとリリを含めた三人……いや、サリアさんを加えた四人の口から、わっと期待を込めた歓声が上がる。
確か、契約中の動画配信サービスで見られたはず。また一つ、みんなのお気に入りアニメが増えそうな予感。これからもどんどん増やしていこうね。
「これが、サクタローさんのおっしゃっていた『てれび』ですか……本当に人がたくさん中に入っているように見えますね。不思議です」
俺がテレビをつけると、フィーナさんがのんびりした口調で呟く。
彼女には、日本のことや家電などざっと説明済み。異世界の迷宮関連の知識があるだけに、サリアさんのときと同様に理解が早かった。
どこかおっとりとした性格も影響しているように思う。お姫様という立場ゆえの振る舞いなのかもね。いずれにしろ、ゴルドさんたちのようにプチパニックに陥ったりしなくて安心した。
順応も早そうだ。アニメが始まれば、うちの子たちと一緒に夢中で画面を眺めている。
さて、俺は洗い物を済ませてしまおうかな。
しばらくはこのまま自由時間。もっとも10時頃には来客があるので、獣耳幼女たちにはお着替えと擬人薬を服用してもらうけど。
肝心の来客が誰かと言えば、俺の幼馴染にして頼れる兄貴のセイちゃんだ。
用件は、毛髪薬。そろそろ本格的にビジネスの話を進めようと言われ、まずは成分調査を行うことになった。
口が堅くて信用できる技術者にも心当たりがあるそうだ。結構な額のお金を貸していて、それをチャラにする代わりとして依頼するらしい。もちろん秘密保持契約などの書類も交わし、ガッチガチに固める。
そのうえ、分析が終わるまでセイちゃんが立ち会うという。もし検出不明の成分を確認した場合、即座に検査終了と情報を破棄する。おまけに、そのままこちらのビジネスに引き込んで口止めを図る算段でもある。
果たして、どのような結果が出るのか……個人的には、魔法的なエッセンスを認識できないのではと予想している。機械程度が神の奇跡を証明できるはずもない。
というわけで、ちょうどいい機会だからうちの獣耳幼女たちを軽く紹介することにした。
セイちゃんは毛髪薬を取りに来るだけなので、ちょっと顔を見せるだけになるけどね。余計な誤解を与えると面倒だから、サリアさんとフィーナさんに関してはまたいずれ。
そして居間へ戻り、みんなと一緒にまったり過ごすこと数時間。
インターホンが鳴り、待ち人の到着を告げた。事前にメッセージも届いており、セイちゃんで間違いない。
「おつかれ、セイちゃん。遠いところ悪いね」
「まったく問題ないよ。なにせ俺は、使命に燃えているからね。このビジネスを軌道に乗せて、薄毛に悩む同士たちを救ってみせるんだ」
俺が玄関の扉を開けて歓迎すると、セイちゃんは至極真面目な顔つきで決意を述べた。
この人、だいぶ前のめりなんだよね……まあ、俺としてもビジネスが成功するに越したことはない。いい加減、日本サイドでの資金問題をクリアにしたい。
「それで、サクちゃん。お世話しているちびっ子たちはどこにいるの?」
「ああ、そうだ。紹介するね。エマ、リリ、ルル。こっちにおいで」
すぐに『はーい!』と元気な返事が響き、ドタバタと獣耳幼女たちが居間からやってきた。すでに擬人薬を服用しており、チャーミングな獣耳と尻尾は引っ込んでしまっている。
それから三人は俺の足の後ろに隠れ、セイちゃんを見上げつつ口を開く。
「わっ!? くさい!」
「ほんとだっ! このひとくさい!」
「ん、くさくさ」
エマ、リリ、ルル。三人は順にとんでもないことを口走り、止める間もなくドタバタと居間へ引き返していく。そして、俺が顔を玄関へ向け直せば……。
「く、くさい……俺、くさいって……幼女たちにくさいって……もしかして加齢臭? 普段からめちゃくちゃ気を使っているのに、加齢臭が漂っていた……?」
がっくりと膝をつき、虚ろな瞳でブツブツ呟くセイちゃん。
ああ、なるほど……加齢臭は完全に勘違いだ。獣耳幼女たちは、多分タバコのニオイがダメだったのだろう。吸わない人からすると、けっこう強烈だからなあ。
とにかく、セイちゃんをフォローしなければ。
気持ちはよくわかる。俺たち、多感なお年頃だもんね。
いつも通り早朝に目を覚ました……というより、エマとリリの元気な声で起こされた俺は、少し特別な朝食をコタツの上に並べた。
バターロールとコーンポタージュ、それにいちごジャム。珍しく獣耳幼女たちにリクエストされた組み合わせで、サリアさんを初めて家へお招きした際にも出したメニューだ。今回はデザートのフルーツも添えてある。
要するに、我が家なりの歓迎の証である。となれば当然、コタツには新しい顔ぶれが加わっているわけで。
「素晴らしい朝食です。これほど風味豊かな白パンは、我が国の王宮ですら口にしたことがありません。こちらのスープも、とても美味しいですね。何より、コタツの快適さといったらもう……ああ、恐ろしい。私は二度とここから出られないかもしれません」
食事の手を止め、ホッと息を吐くフィーナさん。
そう。実は今朝、我が家へ正式にご招待した。
銀糸のような長い髪とアメジストのごとき瞳を持つエルフのお姫様は、朝食やコタツをいたくお気に召したご様子。細長い耳をピクピク動かし、とても満足げだ。
どうして共に食卓を囲むことになったのかと言えば、サリアさんの提案に同意したから。
昨日行われた真珠の取引は、神秘的な光景をもって幕を閉じた。ところがこのお姫様は、なおも廃聖堂に身を置き続ける決意を表明した。
ここでサリアさんが待ったをかけた。加えて、『フィーナは友人であり、リリの魔法の師となる予定だ。できれば賓客として我が家へ招いてはもらえないか』と申し出た。
俺としても、本物の王女様をいつまでも地下通路で寝泊まりさせるのは気が引けた。ゆっくり休めず、体調を崩しては一大事。それに本人の強い希望もあったので、さほど迷うことなく受け入れた。
護衛騎士のカーティスさんあたりが反対するのではないかと心配したが、『サクタロー殿の館であれば……』とやたらすんなり話がまとまったので、ちょっとびっくりである。
結果、フィーナさんは我が家へ滞在し、ドワーフ兄弟やお付の侍女さんなんかは引き続きラクスジットの宿に留まる形で合意したのだった。期間は未定である。
ただし荷物などを整理する必要があったので、今朝改めて我が家へお招きする運びとなったのだ。
「いちごじゃむ、いっぱいがおいしい!」
「では、頂戴しますね……これは、あまりの美味しさについ食べすぎてしまいそうですね。教えてくださってありがとうございます、ルル」
食べ始めて早々に俺の膝の上をゲットしたルルが、いちごジャムをたっぷりのせたバターロールをフィーナさんに勧めていた。
この子は基本的に甘い物が大好きで、いちごジャムは特にお気に入り。もちろん、左右に座って口を動かすエマとリリの好物でもある。
「マヨネーズもおいしいよ!」
「でもサクタローがね、まんまるになるからたくさんはダメって!」
「そうだよ。食べすぎると体に良くないからね」
俺がそう応えながら順番にほっぺをつつくと、エマとリリがキャッキャと笑う。
たっぷりのいちごジャムからもわかるように、好物を出すとみんな山盛り頬張る。別に太るのはいいんだけど、食べ過ぎは健康に良くないからほどほどにね。
朝ごはんが済んだら、腹ごなしのティータイム。
近頃は紅茶を飲む機会が多かったので、今日は温かい緑茶をチョイス。獣耳幼女たちにはりんごジュースを注いであげる。
「あら、このお茶も素晴らしい味わいですね。紅茶より、こちらの方が好みかもしれません」
フィーナさんはかなり気に入ってくれたようだ。意外と和風の味わいが口にあうのかも。抹茶のチョコとかいいかもね。これから色々と出してみよう。
「サクタロー、てれびみたい!」
「はいはい。そうだ、今日は『すみっこ生活』のアニメにする? この前もらったおもちゃのやつ。リリも大好きでしょ?」
「だいすきっ、それがいい! はやくはやく!」
先日のハンバーガーショップでもらって以来、例のおもちゃが大のお気に入り。なので、元となったアニメを勧めてみた。するとリリを含めた三人……いや、サリアさんを加えた四人の口から、わっと期待を込めた歓声が上がる。
確か、契約中の動画配信サービスで見られたはず。また一つ、みんなのお気に入りアニメが増えそうな予感。これからもどんどん増やしていこうね。
「これが、サクタローさんのおっしゃっていた『てれび』ですか……本当に人がたくさん中に入っているように見えますね。不思議です」
俺がテレビをつけると、フィーナさんがのんびりした口調で呟く。
彼女には、日本のことや家電などざっと説明済み。異世界の迷宮関連の知識があるだけに、サリアさんのときと同様に理解が早かった。
どこかおっとりとした性格も影響しているように思う。お姫様という立場ゆえの振る舞いなのかもね。いずれにしろ、ゴルドさんたちのようにプチパニックに陥ったりしなくて安心した。
順応も早そうだ。アニメが始まれば、うちの子たちと一緒に夢中で画面を眺めている。
さて、俺は洗い物を済ませてしまおうかな。
しばらくはこのまま自由時間。もっとも10時頃には来客があるので、獣耳幼女たちにはお着替えと擬人薬を服用してもらうけど。
肝心の来客が誰かと言えば、俺の幼馴染にして頼れる兄貴のセイちゃんだ。
用件は、毛髪薬。そろそろ本格的にビジネスの話を進めようと言われ、まずは成分調査を行うことになった。
口が堅くて信用できる技術者にも心当たりがあるそうだ。結構な額のお金を貸していて、それをチャラにする代わりとして依頼するらしい。もちろん秘密保持契約などの書類も交わし、ガッチガチに固める。
そのうえ、分析が終わるまでセイちゃんが立ち会うという。もし検出不明の成分を確認した場合、即座に検査終了と情報を破棄する。おまけに、そのままこちらのビジネスに引き込んで口止めを図る算段でもある。
果たして、どのような結果が出るのか……個人的には、魔法的なエッセンスを認識できないのではと予想している。機械程度が神の奇跡を証明できるはずもない。
というわけで、ちょうどいい機会だからうちの獣耳幼女たちを軽く紹介することにした。
セイちゃんは毛髪薬を取りに来るだけなので、ちょっと顔を見せるだけになるけどね。余計な誤解を与えると面倒だから、サリアさんとフィーナさんに関してはまたいずれ。
そして居間へ戻り、みんなと一緒にまったり過ごすこと数時間。
インターホンが鳴り、待ち人の到着を告げた。事前にメッセージも届いており、セイちゃんで間違いない。
「おつかれ、セイちゃん。遠いところ悪いね」
「まったく問題ないよ。なにせ俺は、使命に燃えているからね。このビジネスを軌道に乗せて、薄毛に悩む同士たちを救ってみせるんだ」
俺が玄関の扉を開けて歓迎すると、セイちゃんは至極真面目な顔つきで決意を述べた。
この人、だいぶ前のめりなんだよね……まあ、俺としてもビジネスが成功するに越したことはない。いい加減、日本サイドでの資金問題をクリアにしたい。
「それで、サクちゃん。お世話しているちびっ子たちはどこにいるの?」
「ああ、そうだ。紹介するね。エマ、リリ、ルル。こっちにおいで」
すぐに『はーい!』と元気な返事が響き、ドタバタと獣耳幼女たちが居間からやってきた。すでに擬人薬を服用しており、チャーミングな獣耳と尻尾は引っ込んでしまっている。
それから三人は俺の足の後ろに隠れ、セイちゃんを見上げつつ口を開く。
「わっ!? くさい!」
「ほんとだっ! このひとくさい!」
「ん、くさくさ」
エマ、リリ、ルル。三人は順にとんでもないことを口走り、止める間もなくドタバタと居間へ引き返していく。そして、俺が顔を玄関へ向け直せば……。
「く、くさい……俺、くさいって……幼女たちにくさいって……もしかして加齢臭? 普段からめちゃくちゃ気を使っているのに、加齢臭が漂っていた……?」
がっくりと膝をつき、虚ろな瞳でブツブツ呟くセイちゃん。
ああ、なるほど……加齢臭は完全に勘違いだ。獣耳幼女たちは、多分タバコのニオイがダメだったのだろう。吸わない人からすると、けっこう強烈だからなあ。
とにかく、セイちゃんをフォローしなければ。
気持ちはよくわかる。俺たち、多感なお年頃だもんね。
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