我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第二章

第73話 地球の世界遺産自慢と見知らぬ少年

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 これが修繕に使う資材なのかな、と当たりをつけていたら……案の定、グレンディルさんが木箱の蓋を開け、中を見せながら説明してくれる。

「この木箱に詰まっているのが『魔灰石』だ。物は知っていても、普通は使い方を知らんからな。我ら兄弟の職人技をたっぷり披露してやる。期待するといい」

 この滑らかな白い泥のような物は、魔灰石と呼ばれているらしい。迷宮で産出される特殊な砂に、水と魔石の粉末を適量混ぜ込んだ資材だそうだ。

 魔力に反応し、任意の形で固まる。芯材が不要なほどの強度を持ち、定着後は魔力の影響も受けないという。

 なるほど……異世界版コンクリートって感じかな。
 多少値は張るものの、貴族街や他の重要な建物も同様の資材で建築されている。この廃聖堂もかつては真っ白だったみたい。今や劣化でくすんでしまっているが。

「この魔石灰をどれだけ繊細に扱えるかで、職人の腕の良し悪しが測れるってもんよ」

「そうなんですか。これって、魔力があったら誰でも扱えるんです?」

「それは無理だな。知っての通り、魔力には性質がある。要は適性がないと扱えんという話だ」

 俺のストレートな疑問に、グレンディルさんが笑いながら答えてくれる。
 魔法の適性は個々で異なる。そして『大地』と親和性の高い魔法使いでなければ、この魔石灰を扱えないそうだ。

 性質か……ぜんぜん知っての通りではないが、リリはどうなのかな。まだフィーナさんのレッスンは始まってないけど、後々わかったりするのだろう。すごく楽しみだ。

 思わず、そばにあったその黄金色の頭と狐耳を撫で回す。同時にきゃっきゃと明るい声が上がり、俺の手を取り合ってわちゃわちゃしだす獣耳幼女たち。
 お利口さんに説明を聞いていたけど、退屈だったらサリアさんと遊んでいていいからね。

「まずは、このワシが直々に修繕するとしよう。ちびっ子らも見逃すでないぞ!」

 大きめの木桶に魔石灰を取り分けつつ、なにやら意気込むガンドールさん。意外と目立ちたがりなのかもしれない。

 そんな彼の先導に従い、揃って廃聖堂の出入口へ移動する。このあたりは、欠けや損傷の跡が特に目立つ。

「では、作業に入る――むんっ!」

 ガンドールさんは、木桶に手を突っ込んで唸る。すると間髪入れず、ぼやっと全身が発光。

 おそらく、魔力を操作しているのだろう……と思ったその直後、今度は魔灰石がぬるりと浮かび上がり、まるで蛇のようにくねりつつ宙を滑って外壁にへばりつく。

「ふむ。ここは、これでよかろう」

 さらに魔石灰を薄くまんべんなく塗り広げたところで、ガンドールさんの発光は収まった。作業完了らしい。壁の損傷部分もキレイに覆われている。色合いの違いが目立つが、これはまた別の工程で対応するそうだ。

「すごい!? にょーんって!」

「これマホウ? なんかウニョウニョしていた! サクタロー、なんで?」

 驚愕の光景を見て、エマとリリは小さく飛び跳ねて大興奮。ルルだけはあまり興味がないようで……さっきから俺の体をよじ登ろうと必死だったから、仕方なく抱っこしてあげた。むふん、と鼻息をこぼして満足そう。

 俺たちはそのまま、次はどんな作業が見られるのかワクワクしながら待っていた。ところが、ガンドールさんは「これでヨシ!」と作業完了を宣言する。
 あれ、もうおしまいなのか……なんか、めちゃくちゃあっけない。

「ずいぶんあっさりですね。もっと手間のかかる作業だと勝手に思い込んでいました」

「兄貴だからこそ、簡単に見えておるのよ。普通はこれほどすんなりいかん」

「そうなんですね。うちの国とは少し離れた場所に、百年以上が経過してもまだ完成しない大聖堂があって。それをイメージしていたから、ちょっと驚いてしまいました」

「ガハハ、グレンディルの言う通り! 百年も未完成などとは、よほど腕の立たぬ職人ばかりが集っているのだろうな!」

 俺の話を聞き、豪快に笑い飛ばすドワーフ兄弟。
 スペインのサグラダ・ファミリアを引き合いに出したのだが……おいおい。そんなこと言われたら、こっちも黙っちゃいられないよ。
 
 世紀の天才建築家が設計したかの大聖堂は、あまりに意匠が複雑なため腕の立つ職人にしか作業が許されていないのだ。つまり、彼らの指摘の真逆なのである。

 他にも、資金不足や明確な設計図が存在しないなどの理由はあれど、怠慢や技量の問題で未完成だなんて心外にも程がある。そもそも、地球人類が誇るべき世界遺産の一つなのだ。

 よし、こうなったら……ルルを下ろしながら断りを入れ、俺はいったん我が家へ帰還する。次いでスマホを取り出し、サグラダ・ファミリアの画像をスクショしまくって保存。すぐさま異世界へとんぼ返りし、ドワーフ兄弟に見せつける。

「こ、これは!? 絵にしては鮮明すぎる……サクタロー殿、この板はいったい?」

「まるで世界をあるがまま切り取ったような……恐るべき技巧だ」

「ガンドールさん、グレンディルさん。その疑問は後回しで。それより、これを見てください。さっきお話した百年未完の大聖堂です。ね、すごく緻密でしょ? 工期が伸びているのは、職人の腕のせいじゃないんです。むしろ逆で、ここなんてほら、こんなにも細かい装飾が――」

 飽きて縄跳びを始めた獣耳幼女たちとサリアさんをよそに、俺はサグラダ・ファミリアがいかに素晴らしい建築物か熱を込めて語る。

 ドワーフ兄弟はかなり驚いているようで、食い入るようにスマホの画面を見つめていた。反応は上々。ならば、ダメ押しといこう。

「ご理解いただけましたか? これほど壮大な建築物だからこそ、百年が経過しても未完なのです。しかしその途上ですら美しく、見物客が絶えず集う……おそらく、存在しないでしょうね」

「……サクタロー殿、存在しないとは?」

「ああ、失礼。こちらには、これほど素晴らしい聖堂は存在しないでしょう――そう言いたかったのです。もちろん、ガンドールさんたちの母国であるレーデリメニアも同様に」

 俺が自慢げにそう告げれば、ガンドールさんはむっと眉根を寄せた。それから僅かな間を置き、絞り出すような声で問いかけてくる。

「では、何か? サクタロー殿は、ワシらの腕が劣っていると考えておるのか」

「いえ、そんなことはありません。ただ流石のお二人でも、これほどの聖堂を建てるのはちょっと難しいのではないか、と思いまして」

 言って、チラリとドワーフ兄弟の反応をうかがう。二人とも、『ぐむむ』と唸りながら口をヘの字に曲げている。

 ここで、俺は畳み掛けるように勝ち誇った笑みを浮かべる。
 それにやや遅れ、もはや我慢できぬとばかりにガンドールさんが声を上げた。

「――出来るに決まっておるわッ! ワシを甘く見るなよ、サクタロー殿!」

「え、今なんと?」

「ダメだ、兄貴! 留まれ!」

「グレンディルは黙っておれ! ワシらなら、より立派な聖堂を作れると言っておる!」

 勢い余ったガンドールさんから言質を取れた……いや、ごめんなさい。つい俺も熱くなり、挑発するような態度で接してしまった。

 まあ、この廃聖堂にはとてもお世話になっているし、美しく生まれ変われるのならそれに越したことはないけれども。

 とにかく、やりすぎた。謝罪の意味を込め、たくさん差し入れをするのでお許しいただこう。資金の方もいくらか融通しようかな。

「見ておるがいい、サクタロー殿。必ずや唸らせてみせる! やるぞ、グレンディル!」

「お、おう……」

 意気込む兄のガンドールさんに先導される形で、再び修繕作業が開始される。
 先程のデモンストレーションとは異なり、欠落した屋根から手を付けてもらえるようだ。

 手際よくハシゴを組み立てたかと思えば、二人は魔石灰の詰まった桶を手にスルスルと登っていく。

 とても助かる。これでフロアの窓を少し塞げば、雨が吹き込む心配もない。ようやく、ガーデンチェアセットなども設置したままにできそうだ。

 むしろ殺風景だから、カーペットやソファなんかを持ち込み、くつろぎ空間を構築してしまおうか……うん、いいね。訪れた人がまったり過ごせる聖堂。お茶やお菓子も提供させていただこう。

 どうリフォームするか想像するのが楽しくなってきて、俺は思わず笑みを浮かべる。
 しかし、次の瞬間。

「お前ら、聖堂に何してやがる!」

 切羽詰まったような声が背後から飛んできて、スンと真顔に変わる。同時に振り返ってみると、『見知らぬ獣人の少年』の姿が視界に飛び込んできた。敷地と通りの境目あたりに立ち、こちらを睨みつけているが……はて、どちら様?
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