我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第二章

第81話 魔法の薬類の検証開始

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「サクタロー殿、テーブルをあちらに動かすぞ。薬の効果を確かめるにしても、エマたちの目に入らない方がいいだろう。怖がるといけないからな」

「そうだね。じゃあ適当に移動お願い」

 魔法の薬類の検証には、僅かとはいえ流血が伴う。それゆえサリアさんは、獣耳幼女たちに見せるべきではないと判断したようだ。おっしゃる通り、情操教育にも良くないよね。

 彼女はテーブルを一つ運ぶよう指示を出し、小悪党スクワッドを引き連れてフロアの隅へ移動した。

 その間、俺は大型石油ストーブのスイッチを入れて回る。三台とも届いてすぐこちらへ持ってきて、よく座るガーデンチェアセットの周囲に設置しておいた。もちろん灯油も満タンだ。これでだいぶ暖かくなるはず。

 それからカセットコンロでお湯を沸かし、みんなに紅茶を淹れていく。
 小悪党スクワッドにも、紙コップで提供した。ついでに上流階級で流行りの飲み物だと教えたら、『お貴族様と一緒だ!』と大はしゃぎ。四人ともけっこうチョロそうな気配だ。

 さっそくお絵描きを始めた獣耳幼女たちには、インスタントのホットココアを出す。いつもは牛乳で作っているけど、今日はお湯で我慢してね。

 そうだ、これを渡すのを忘れていた。
 俺はトートバッグから『すみっこ生活』のキャラシールをワンシートずつ取り出し、三人に配っていく。

「わあっ、かわいい! これぜんぶしーる?」

「たくさんある! これ、キラキラだよ! ねぇ、サクタローなんで?」

「んっ、ぴかぴかすき!」

 エマ、リリ、ルルと。三人とも、顔の前に掲げたシールをキラッキラの瞳で眺めている。

 最近は塗り絵だけでなく、オリジナリティ溢れる絵を描くようになった。そこで、「仕上げにシールを貼って飾ってみるのはどう?」と提案する。お返事は、大賛成の歓声。

 さて、俺も魔法の薬類の検証に参加するかな。
 順番に三人のピコピコ動く獣耳ごと頭を撫で回し、サリアさんたちの元へ。この子たちのお世話は、同じテーブルでのほほんとお茶とお菓子を味わっているフィーナさんにお願いした。

「どう? サリアさん……うわ、痛そう。消毒を忘れないようにね」

 フロアの隅へ移動し、サリアさんの横からテーブルを覗き込む。すると身を寄せあった小悪党スクワッドが、こちらが持参したサバイバルナイフで腕に薄く傷を作っているところだった。赤い筋が走り、浮き出た血が表面を滑り落ちていく。平然としているのが凄い。

 ちょっとした傷だし、痛みもさほど……とはいえ、なんだか申し訳なくなってくる。後で俺もやるけど、小悪党スクワッドには好きなだけお菓子を食べてもらうとしよう。

「心配無用だ、サクタロー殿。この程度の傷、探索者にとっては日常だ。それに、分量にも目処がついている。さほど手間もかかるまい」

 実はサリアさん、治癒効果を期待できて発光現象を伴わない分量に『なんとなく予想がつく!』と豪語していた。

 それというのも、ラクスジットの北の裕福な庶民街には人(普通の外見の人間)の崇める神を祀った聖堂が存在し、喜捨と引き換えに小分けした魔法の薬類を処方しているのだとか。

 生命薬や浄瘴薬をまるまる一本買うお金がない者が体調を崩した場合、差し出せる額に応じた分だけ飲んで療養する。完治しないケースもあるが、ずいぶん具合が良くなるという。

 これは、サリアさんがお酒を飲みながらぽろっとこぼした情報だ。酔っ払った拍子にふと思い出したそうだ。レモンサワーのお手柄である。

 実際に駆け出しの探索者だった時分に治療を受け、怪我に応じた分量を処方された。ただ発光現象を伴ったかどうかは定かでなく……悲しいことに、獣人だからとぼったくられて憤慨した記憶しか残ってないらしい。

 フィーナさんのお国では、治癒師と呼ばれる魔法の使い手が聖堂に常駐している。そもそも政策で、魔法の薬類が手に入りやすい価格で出回るよう工夫しているようだ。庶民に優しくて素敵だね。

 これに関連して、もうひとつ面白い話を聞いた。魔法の薬類は歯に効きが悪く、新たに生やそうと思ったら上級の生命薬が必要になってくるそうだ。人体欠損と同レベル判定なのかね。

 他にも医療面では、生薬を扱う薬師なんかが庶民から頼りにされているようだ。日本で言うと、化学薬品と漢方薬の違いみたいな感じかな。

「え、傷が治って魔法光が起こらない量を調べてる? なんとなくわかりますよ。俺ら、しょっちゅう怪我を治しに行ってるもんで」

 おや、ここにも有用な情報源が。
 小悪党スクワッドの『そもそも、どうしてこんな野蛮なことを?』という至極もっともな疑問に、俺は日本のことなど核心には触れず目的だけ答えた。

 彼らはそれに対し、『基本的に貧乏だからいつも手持ちが足りず、治癒効果をギリギリ実感できるだけの分量を飲むことが多い』と教えてくれた。しかもその場合、大抵は魔法光――発光現象を伴わないという。

「跪いて、必死こいて頼み込むのが勘どころでしてね。業突く張りの司祭共も一応は神に仕える者ですから、少しくらい慈悲の心を持ち合わせているってわけです。なんで、俺らの泣き落としにかかればチョロいもんですよ!」

 げへへ、と下卑た笑い声を上げる小悪党スクワッドのリーダーらしき髭面。
 情けないと憐れむべきか、生き抜くための知恵と感心すべきか……少なくとも、うちの獣耳幼女たちには見習って欲しくないな。

 いや、待てよ……日本と違ってセーフティネット皆無の過酷な環境においては、彼らの持つしたたかさこそ真に必要なスキルなのだろう。ある意味、貧しい者たちのお手本かもしれない。

 そんな小悪党スクワッドの尽力もあり、さほど時間をかけずに目的を達成する。
 厳密な数値を求めているわけじゃないので、段階的に分量を変えた生命薬と浄瘴薬をそれぞれ順に服用、という簡易的な検証方法を採用。器は紙コップを使った。

 結果、トライした二人目でおおよその目処がつき、俺が最後に少し調整しつつ確認を行って分量が確定した。デジタルスケールで数値を測り、スマホのメモ帳にしっかり記録してある。

 ついでに毛髪薬の検証にも協力してもらい、作業は無事終了。
 彼らのおかげで、思いのほか早く片付いたな。とても助かりました。では、記念品をどうぞ。たんとお食べくださいね。
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