我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第二章

第85話 ラビットサンドと覚悟を固める夜

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 ゴルドさんとケネトさんの動きはとても迅速だった。
 炊き出しについて相談した翌日の午後には依頼した品を一式揃え、チェックのため廃聖堂へ搬入してくれた。

 豆の粉を練って焼き上げたフラットブレッド状の生地と肉、葉野菜、調理台などなど。食材はどれも安価、かつラクスジットで入手可能なものだ。

 生地は豆の優しい風味が好ましく、在庫は豊富にあるらしい。不足するようなら、地方の農村からいくらでも取り寄せられる。

 具材の肉は迷宮でたくさん狩れるホーンラビットを採用。これは、前に市場で串焼きを食べた覚えがある。あっさりながら滋味深く、腹持ちもいい。

 サリアさんの強い勧めで追加した葉野菜はシャキシャキ感が特徴で、ゴルドさんたちは乳葉と読んでいた。名称の由来は、芯の部分から白い液体が出てくるから。
 
 この乳葉、かじったら普通にレタスだった。見た目もほぼ一緒。自動翻訳のせいでなんかややこしい。

 調理台も、野外での使用に耐える丈夫なものを用意してくれた。
 その上に、カセットガス式のホットプレートを乗せて肉を焼く。こちらは日本のネットショップで注文した。大容量タイプで、二台もあれば量産できるに違いない。

 そして翌日、俺は台所に立って味の探求を行った。
 炊き出しだからといって、不味いものを出すつもりはない。現実的な予算に収めながらも、孤児たちをニッコリさせられるよう試行錯誤した。

 試作したメニューは、フラットブレッド状の生地で肉を包んだラップサンド。題してラビットサンド。

 味付けは、市販の焼き肉のタレがメイン。塩だけというのも微妙だったし、味見役を引き受けてくれたサリアさんとフィーナさんからの強い要望でレシピを調整した。何よりお手軽だったし……とはいえ、ちょっとやりすぎた気がしないでもない。

 もちろん、獣耳幼女たちも味見に大張り切り。大好物の肉をたらふく食べ、昼過ぎには三人ともお腹をまんまるにして居間の日向でうたた寝していた。可愛らしくて仕方ない。
 調理に失敗してもみんなが平らげてくれたので廃棄ゼロ。実にサステナブル。

 さて、俺よ――伊海朔太郎よ、覚悟はいいか?
 実際に動き始めたら、そう簡単には引き返せなくなるぞ。

 炊き出しは日本の暦に合わせ、週に数回ほど実施するとみんなで決めた。当てにされるのは構わないが、依存されると困るから毎日はダメらしい。

 それでも、途中で投げ出すなんてことは絶対に許されない。トラブルが起これば別だけど、一定の成果と未来への発展性が求められる。ただの道楽ではない、と行動で示さなければ。

 だから、メニューを試作したその日。
 俺は晩ごはんあと、コタツでまったりするみんなに話をした。

 これから少し生活リズムが変わるし、きっと楽しいことばかりじゃなくなる。その分だけ迷惑をかけるかもしれないが、どうか協力してください――そんな思いを素直に告げた。

「問題ない。サクタロー殿の願いを叶えるのが私の役目だ。この無双の餓狼にお任せあれ。褒美は、刀で構わんぞ」

「縁遠い派閥なれど、もとより我らが女神教の不始末。同胞の子らの明日を案じるのは、本来は巫女たる私の務め。このフィーナ、サクタローさんに嫁いだつもりでお支えいたします」

 お茶を飲んでいたサリアさんとフィーナさんは、改めて力強い言葉とともに協力を申し出てくれた。

 本当にありがたい。だが、刀に嫁ぐ……ちょっとそれは別の話ですね。いったん聞かなかったことにさせていただきます。

 それからリリとルルがコタツの天板に手をつき、飛び跳ねるような勢いでお手伝いに立候補してくれた。

「リリ、がんばってりょうりつくる! たくさんオニクやくよ! いつカレーあじにしていい?」

「んっ、ルルも! テリテリたべたい!」

 リリは、好物のカレーで肉を味付けしたいとずっと主張している。
 焼き肉のタレを採用しておいてアレだが、ラクスジットだと香辛料はかなり高価だからなあ……いや、逆に未知の味覚すぎて大丈夫かも。毎回同じ味付けでは飽きるだろうから、今度試作して検討しよう。

 ルルは……なぜか自分も炊き出しを食べる気まんまんだ。しかもご希望はテリヤキ味。というか、たった今ごはんを平らげたところでしょうに。
 
 まあ、材料はたくさんあるからね。
 余ったら、みんなのリクエストにお応えするとしよう。
 
「サクタローさんは、やっぱりすごいっ! わたしも、みんなにやさしい人になりたいなぁ!」

 続いて、エマが瞳を輝かせながら言う。
 どうやら勘違いしているようだ。協力して炊き出しをするのだから、凄いのは俺だけじゃない。

 それに優しい人どころか慈愛の天使なのに、本人は無自覚らしい。
 だったら、俺がしっかり教えてあげないとね。

「俺じゃなくて、炊き出しに関わるみんなが凄いんだよ。協力してくれる女神教の方々や、ゴルドさんとケネトさん。サリアさんにフィーナさん、リリとルル――もちろんエマもね。全員が力を合わせてこそ、成功するんだ。だから、一緒に頑張ってくれる?」

「うんっ! わたし、すっごくがんばっておてつだいする! う、うぅぅ~!」

 エマは感極まってしまったようで、瞳をうるませながら俺の懐へ飛び込んでくる。すると当然、リリとルル、サリアさんがはしゃぎながら続く。そして今夜は、楽しげなフィーナさんまで加わって一塊になった。
 
 コタツを揺らしながら床に転がり、明るい笑い声を響かせる。
 少しくらい生活が変わろうが、我が家は大丈夫。みんな一緒ならどんな困難でも乗り越えられる――そんな堪らなく嬉しい実感を、俺は密かに噛み締めるのだった。
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