我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第二章

第86話 初めての炊き出し①

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 ただ料理をして待つだけでは誰も集まらない、とはフィーナさんのご意見である。
 そこでメニューを試作した翌日は、サリアさんとゴルドさんに協力してもらい、ラクスジットの孤児たちへの周知に努めた。女神教の廃聖堂で炊き出しを行う、と。

 それから一晩が過ぎ、時計の針が昼前を指し示したころ。
 うんと厚着をした俺たちは、異世界の青空のもと設営や調理器具などの最終チェックを行っていた。場所は、結構なスペースがある廃聖堂の出入り口前の広場。

 その脇の一角に持参したブルーシートを敷き、調理台と二台の大容量ホットプレートを設置。食材は木箱に入れて先ほど持ち込まれ、油や細やかな道具類も不足なし。味の決め手の焼き肉のタレは、市販の業務用ボトルを取り寄せた。つまり、準備万端というわけだ。
 
 今回の仕込みの分量は、だいたい百と少し。
 できるだけ多くの孤児のお腹を満たせますように――号砲こそ響かないものの、記念すべき第一回目の炊き出しがいよいよ実施されようとしていた。

 ところが、広場に集ったのは大人ばかり……女神教の特使団内でも慈善活動に熱心な数名、ドワーフ兄弟、いつもの侍女さんたち、カーティスさんを筆頭とする騎士さん方、ゴルドさんとケネトさんに加えて護衛の面々。そして俺たち一行の姿しか見えない。

 子どもといえば、張り切って荷物運びをしてくれているうちの獣耳幼女たちくらいのもの。悲しいことに、孤児の姿はゼロ。

「……まあ、そう簡単にはいかないか」

「先日、サリアが丁寧に告知をしてくれたというのに……」

 そばで作業を手伝ってくれていたフィーナさんが、俺の呟きを拾いつつ小さくため息をこぼす。

 隣接する通りから、こちらを遠巻きに覗う視線を確かに感じられる。だが、いずれも近所の住民のもので、こちらが会釈すると気まずそうに目を伏せて立ち去っていく。

「近隣の住民でさえ我らを不審がっておる。孤児ならば、それ以上の警戒心であろうな。ゆえにこそ、このラクスジットを生き抜けておる。歯がゆくとも、ここは辛抱強く待つ他あるまい」

 厚着のせいで一層体格よく見えるゴルドさんが、ホットプレートを興味深そうに観察しつつ話に加わる。

 彼の言う通り、嘆いても仕方ない。以前会った、タリクくん――エマたちと同じ孤児院出身の獣人の少年も、悪い大人を特に警戒していたものな。炊き出しをやるからと言って、ほいほい釣られたりはしないだろう。

 こちらは純粋に良かれと思って手を差し伸べた。しかし何も知らない子どもたちには、『邪な魔手』にでも見えているかもしれない。

「孤児たちにとって、理由のない善意は何よりも恐ろしく感じるのやも。腹を満たした代償に、奴隷として囚われるのではないかと……力ない者を食い物にせんとする不埒者は、いつの世も後を絶ちません」

 背後に立つケネトさんが、やはりホットプレートを熱心に眺めたまま口を開く。
 現状を冷酷に捉えた言葉を受け、俺の胸は小さく痛む。

 この街の孤児たちが置かれている環境は、炊き出しすら警戒するほど過酷なのか……日本のセーフティネットの偉大さを改めて痛感する。

 何となく積み上げられたフラットブレッド状の生地に触れると、すっかり冷え切っていた。
 それならばいっそ、と気持ちを切り替えながらホットプレートに火を入れる。

 せっかくだから、この場の希望者にラビットサンドを振る舞うとしよう。もとより味見してもらうつもりだったし、少し沈んだこの雰囲気を払拭するきっかけくらいにはなる。
 
 温まった天板に油を広げ、小分けした肉を焼いていく。たちまちパチパチと小気味いい音が響き、みんなの視線が集まるのを感じる。
 
 同時に、他のお手伝いをしていたはずの獣耳幼女たちとサリアさんが、ワクワク顔で寄り添ってくる。口々に『おなかすいた!』と大はしゃぎ。そうだね、もうお昼だもんね。

 焼き肉のタレで味付けすれば、広場は食欲をそそる香ばしさに包まれる。
 こうなれば、もはやみんな興味津々。ゴルドさんとケネトさんの期待した声を皮切りに、なんだなんだとドワーフ兄弟や侍女さん方がお集まりに。
 
 仕上げに、熱々の肉をレタスとフラットブレッド状の生地で包む。これでラビットサンドの完成だ。
 
 最初に受け取った獣耳幼女たちは大歓声を上げつつかぶりつき、べったりと口の周りを汚していた。とても満足そうだけど、ごちそうさましたらウェットティッシュでふこうね。

 続けてサリアさんとフィーナさんの分を作り、集まってきた他の方々にもご協力のお礼を伝えながら手渡していく。肉はぜんぶで十キロくらい用意してある。俺の枕サイズだ。多少減ったところで問題はない。

 気づけば、みんな持参した組み立て式のテーブルや椅子を設置して各々くつろぎ始めている。ラビットサンドに舌鼓を打ち、酒を持ってくればよかったと和気あいあい。

「お酒はないですけど、温かい茶をどうぞ。砂糖も用意してありますから、お好きなだけ使ってくださいね」

 侍女さんたちと協力して紅茶を淹れ、俺は湯気を立てる紙コップを手渡していく。
 炊き出しのはずが、広場は賑やかな冬のピクニックのような空気に包まれていた。

 本来の目的こそ果たせなさそうだけど、これはこれでいい感じだ。そもそも、失敗したからと嘆く必要はない。なにせまだ初日、ほぼお試しである。これからも地道に周知を繰り返し、俺たちの活動を広めていけばいい――と気持ちが軽くなった、そのとき。

「兄貴! ガキどもを連れてきましたぜ!」

 隣接する通りから、ガラの悪い男性の四人組が下品な笑い声を上げつつ大股で歩み寄ってくる。例の小悪党スクワッドだ……しかも彼ら、背後にぞろぞろと子どもを引き連れている。

 男女混合で、数にして十人ほど。揃って獣人で、擦り切れてほつれた衣服を身にまとっている。靴代わりにボロボロの革を紐でくくりつけ、お世辞にも身綺麗とはいえない。

 おまけに振る舞いからは警戒心が滲み出ている。普段ならトラブルを恐れ、避けていたかもしれない。

 だが、俺は迷いなく歓迎の笑みを浮かべる。
 なぜなら、その中心に見知った少年の姿があったから。

「サクタローの兄ちゃん! またウマいメシ食わしてくれるって聞いたけど、ホントか?」

「やあ、タリクくん! よく来てくれたね。とっても美味しい料理を用意して待ってたんだ。ぜひ食べていってほしいな!」

 うちの獣耳幼女たちの口周りをさっと拭い、小悪党スクワッドとタリクくん率いる一団を出迎えた。

 来てくれて本当に嬉しい。寝泊まりしている場所を知らなかったので直接声をかけることは叶わなかったが、どうにかして炊き出しの噂が耳に届いたのだろう。

 それにしても、予想外すぎる組み合わせだ。
 ガラの悪い大人たちと、警戒心が強そうな子どもたち。いったい何がどうなって……と俺は事情を尋ねた。
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