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第二章
第87話 初めての炊き出し②
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「聖堂でメシがもらえるって聞いて、きっとサクタローの兄ちゃんだと思ったんだ。それで、仲間たちを集めて食べに行こうって話をしてさ――」
タリクくんが言うには、炊き出しの噂はある程度広まっていたようだ。サリアさんとゴルドさんのおかげだね。
しかし急な話に仲間たちは警戒し、聖堂へ近づきたがらなかった。それでも彼は説得を続け、ここへ向かおうとしてくれていたらしい。
さらにそこへ、ガラの悪い大人たち(小悪党スクワッド)が駆け寄ってきて『メシを食わせてやるからついてこい!』と強引に迫ってきた。
「いつもならすぐ逃げ出すとこだけど、女神教の聖堂にいくって言うし……それに、サクタローの兄ちゃんの子分だってうるさくてさ」
いきなり絡まれて最初はかなり警戒したものの、少し話を聞けば俺の知り合いだと判明。そのうえ目的は女神教の聖堂の炊き出しだというから、共に向かうことに……というか、小悪党スクワッドに半強制で連行されたのだとか。
それから、タリクくんが驚きの事実をもう一つ追加してくれる――なんとこの場にいる子ども全員が、エマたちと同じ孤児院の出身者だと言うではないか。
これは、出来立てのラビットサンドをお腹いっぱい食べさせねば。
一方、小悪党スクワッドの事情だが……。
「昨日サリアのやつに、一人でも多くの孤児を連れてこいって命令されたもんで。どうですか、兄貴。俺ら、ちゃんと仕事できたでしょう! 約束どおり、ウマいメシを食わせてもらっていいですか!」
彼らは先日、カーティスさんの部下の面々が主導するブートキャンプでヒイヒイ言わされた。ところが、その内容を『エルフの騎士秘伝の鍛錬法』と偽って同業の探索者に売りつけ、ちゃっかり小銭を稼いでいたらしい。
転んでもただじゃ起きないあたり、もはや好感すら覚える。
そんな折、サリアさんに遭遇。孤児を炊き出しに連れてくるよう命令されていたそうだ。代わりにメシを食わせてやるから、と。それで手当たり次第に声をかけまくっていたという。
双方の事情を聞き、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
そのとき、不意に背後から軽い衝撃が加わる。視線を落とせば、駆け寄ってきたうちの獣耳幼女たちが足にしがみついていた。
「わっ、タリク! みんなもいる!?」
「なんで? ごはんたべにきてくれたの?」
「エマ、リリ、ルル! 今日も立派なフク着てるな!」
エマとリリ、それにタリクくんがさっそく挨拶を交わす。
久しぶりの再会に少し戸惑っている様子だが、同じ孤児院で育った顔馴染みとあって、子どもたちはすぐに打ち解けて輪を作った。
矢継ぎ早に、『どうしていたのか、元気だったか』と近況を問う声が響く。中には『置いていって悪かった、ごはんわけられなくてごめん』といった謝罪まで混じっていた。
わだかまりがすべて消えたわけじゃないだろうけど、雰囲気は悪くない……なんてホッと息を吐いた矢先。急にルルが「ふにゃあぁぁぁ~!」と泣き出し、俺の体をよじ登ろうとズボンを引っ張り始めた。
声を出せるようになったことで大注目され、少し手荒なスキンシップのついでにお気に入りのマフラーを引っ張られたのがよほど嫌だったらしい。
すぐにルルを抱き上げて、背中をぽんぽんしつつ「大丈夫だよ」と声をかけて落ち着かせる。
ちょっとしたイタズラとはいえ、孤児院にいた頃を思い出して過剰に反応してしまったのかもね。この子は一番年下で、よくからかわれていたみたいだから。
「みんな、このサクタローの兄ちゃんは信用できるぞ! エマたちをもらってくれて、こんなにキレイなフクを着させるほど優しいんだ! オレはこの前、貴族が食うような白パンをもらった! すっげえウマかった!」
空気を変えるようなタリクくんの呼びかけに、他の孤児たちがわっと明るい声を上げる。
彼が率先して場を和ませてくれるおかげで、警戒心はかなり薄まったようだ。本当に助かった。お礼に、ラビットサンドを最初に食べる権利を進呈しよう。
ジタバタするルルをいったんサリアさんに預け、俺はささっと肉を焼いていく。そして食欲を刺激する香りに瞳を輝かせるタリクくんへ、出来立てのラビットサンドを手渡した。
「お待たせ。少し熱いから、ゆっくり食べてね」
「ありがとう、サクタローの兄ちゃん!」
すかさずラビットサンドに齧りつくタリクくん。しかし直後、大きく目を見開いたまま固まってしまう。
口に合わなかったのかな……にわかに不安がよぎる。子どもの繊細な舌には、ちょっと味が濃かったかもしれない。
「どう? あんまり美味しくなかった?」
「あ、いや……ウマすぎてびっくりしたよ! なんだこれ!? 肉はいっぱいだし、食べたことない味で、しょっぱくて甘くて……こんなウマいもん初めて食べたっ!」
どうやら、俺の心配とは正反対だったらしい。
タリクくん的には、この前のサンドイッチよりもよっぽど口にあったようだ。ぱっと明るい笑みを浮かべ、驚くような勢いで再び口を動かす。
この反応を皮切りに、子どもたちが一斉に調理台の前へ押し寄せてくる。即座にエルフの騎士のカーティスさんが制止してくれたが、危ないところだった。火傷なんてしたら一大事だ。
「慌てなくて大丈夫だよ。みんながおかわりしたって、食べきれないほど用意してあるから」
落ち着くよう言い聞かせながら、俺はせっせと肉を焼いていく。タレを絡ませ、生地で包んだラビットサンドを次々と手渡していった。
他の大人も気を利かせ、子どもたちを椅子に座るよう促してくれている――このラクスジットで今最も美しい光景が、多分ここにある。
間をおかず、先ほどのタリクくんと似た反応があちこちのテーブルで繰り返された。
どの子も齧りついた途端に動きを止め、その手に収まるラビットサンドを『信じられない』といった表情で見つめるのだ。
さらに、静かな衝撃が広場を満たす中。
痩せっぽちの少女が、ポツリと呟く。
「おいしい……それに、あったかい……」
骨ばった小さな手の平から、具材の肉がこぼれ落ちそうになる。
続けて彼女は、タレがついた細い指で顔を拭った――かと思えば、ぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。
「うん、あったかい……」
「こんなの初めてだよ、おいしいよぉ……」
小さく掠れた独り言が、波紋のように広がっていく。そして後を追うみたいに、子どもたちは次々と涙をこぼし始めた。気丈に振る舞っていたタリクくんさえも、鼻をすすりながら顔を下へ向けている。
「ワタシ、こんなおいしいごはん食べられるなんて思ってなかった。お腹いっぱいがどんな気持ちか知らないまま、いつか死んじゃうのかなって……」
痩せっぽちの少女のそんな呟きが耳に届き、不覚にも俺まで泣きそうになった。足に引っ付いておかわりをせがんでいたエマたちの頭を撫で回し、辛うじて涙を見せずに済んだけれども。
再び顔を上げると、腕を組んで誇らしげにグレーアッシュの尻尾を揺らすサリアさんの姿が目に入る。
フィーナさんは各テーブルを回り、子どもたちの背中を優しく撫でてあげていた。付き添うカーティスさんの態度もどこか柔らかい。
ゴルドさんたちも、眩しいものでも眺めるような表情を浮かべており……鼻の頭が赤いのは気のせいだろうか。
「サクタロー殿、よかったな。腹を満たせれば、何はなくとも生きていくことだけはできる」
サリアさんの励ますような言葉に、俺は無言で頷く。
よし、しんみりするのもここまで。まだまだ肉は余っているから、満足するまで食べてもらう。
「さあ、みんな。おかわりしたくなったら、遠慮なく言ってね! まだまだ沢山あるよ!」
俺の呼びかけを合図に、子どもたちは食事に意識を向け直す。
ドワーフ兄弟をはじめおかわりを希望する大人もいたので、再びせっせと肉を焼いてラビットサンドを仕上げていった。
ところで、小悪党スクワッドの姿が見えないけど……どこへ行ったのかサリアさんに尋ねてみれば、ブートキャンプの内容を小銭に変えたことがバレて、エルフの騎士さん数人に廃聖堂の裏手へ連行されていた。
耳をすませば、確かに小さくヒイヒイ泣く声が聞こえてくる。かわいそうだから、彼らの分も作っておこうかな。
冬にしては温かな日差しが注ぐ広場で、子どもたちは競うように口を動かし続けていた。しかしさほど時間を置かず一人、また一人と完食していく。おかわりまでしっかり平らげ、とても満足そう。
もうお腹いっぱいみたいだね、と俺は調理器具の掃除に手を付けた。
そこへ、笑顔のタリクくんが歩み寄ってくる。
「サクタローの兄ちゃん、ありがとう。今日のこと、ずっと忘れないよ」
「どういたしまして。忘れるも何も、また数日したらやるからね。ぜひ食べに来てよ」
絶対に来る、と大きな声でお返事してくれるタリクくん。それに次は、もっと多くの孤児に声をかけて連れてきてくれると約束してくれた。
「ありがとうね。ところで、タリクくんたちはこの後どうするの?」
「うーん……仕事を探しに街へでるよ」
「そっか。よければ、夜はこの聖堂に泊まる? 全員が横になれるくらいのスペースはあるよ」
「いや、大丈夫。みんなといろいろ隠してる家があるんだ」
元は彼らが生活していた場所だ。もし希望するなら、この廃聖堂で寝泊まりしてもぜんぜん構わない。数は足りないかもしれないが、テントや防寒具を貸し出す用意もある。
だが、タリクくんは首を横に振った。前回と一緒だ。現在はある廃屋をねぐらにしており、あまり長いあいだ留守にするのはよくないらしい。ちょっとした縄張り意識があるのかもね。
それなら、と俺は次の炊き出しの開催日を伝えた。また美味しい料理をたくさん作って待っているからね。
しばらくしたら、子どもたちはそれぞれ明るい声でお礼を言いながら去っていく。広場に残る大人たちは、遠ざかる小さな背中を目で追いながら穏やかに微笑んでいた。うちの獣耳幼女たちは、俺の足にピッタリ張り付いてちょっと寂しそう。
「皆さん、今日は本当にお疲れ様でした。ご協力に心より感謝します」
みんなにお礼を告げ、俺は頭を下げた。
時間や材料はまだ余っているものの、今回の炊き出しはこれにて終了。
一時はどうなるかと気を揉んだが、初日にしては大成功といって過言ではない。それもこれも、この場にいる全員の協力があってこそ。改めてお礼をしなくちゃね。
しっかり片付けをして、我が家へ戻ったらのんびり休もう。それで今晩は、とびっきり美味しいごはんを作ろう――油とタレで汚れたホットプレートを軽く掃除しながら、俺は心地よい疲労感に浸るのだった。
タリクくんが言うには、炊き出しの噂はある程度広まっていたようだ。サリアさんとゴルドさんのおかげだね。
しかし急な話に仲間たちは警戒し、聖堂へ近づきたがらなかった。それでも彼は説得を続け、ここへ向かおうとしてくれていたらしい。
さらにそこへ、ガラの悪い大人たち(小悪党スクワッド)が駆け寄ってきて『メシを食わせてやるからついてこい!』と強引に迫ってきた。
「いつもならすぐ逃げ出すとこだけど、女神教の聖堂にいくって言うし……それに、サクタローの兄ちゃんの子分だってうるさくてさ」
いきなり絡まれて最初はかなり警戒したものの、少し話を聞けば俺の知り合いだと判明。そのうえ目的は女神教の聖堂の炊き出しだというから、共に向かうことに……というか、小悪党スクワッドに半強制で連行されたのだとか。
それから、タリクくんが驚きの事実をもう一つ追加してくれる――なんとこの場にいる子ども全員が、エマたちと同じ孤児院の出身者だと言うではないか。
これは、出来立てのラビットサンドをお腹いっぱい食べさせねば。
一方、小悪党スクワッドの事情だが……。
「昨日サリアのやつに、一人でも多くの孤児を連れてこいって命令されたもんで。どうですか、兄貴。俺ら、ちゃんと仕事できたでしょう! 約束どおり、ウマいメシを食わせてもらっていいですか!」
彼らは先日、カーティスさんの部下の面々が主導するブートキャンプでヒイヒイ言わされた。ところが、その内容を『エルフの騎士秘伝の鍛錬法』と偽って同業の探索者に売りつけ、ちゃっかり小銭を稼いでいたらしい。
転んでもただじゃ起きないあたり、もはや好感すら覚える。
そんな折、サリアさんに遭遇。孤児を炊き出しに連れてくるよう命令されていたそうだ。代わりにメシを食わせてやるから、と。それで手当たり次第に声をかけまくっていたという。
双方の事情を聞き、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
そのとき、不意に背後から軽い衝撃が加わる。視線を落とせば、駆け寄ってきたうちの獣耳幼女たちが足にしがみついていた。
「わっ、タリク! みんなもいる!?」
「なんで? ごはんたべにきてくれたの?」
「エマ、リリ、ルル! 今日も立派なフク着てるな!」
エマとリリ、それにタリクくんがさっそく挨拶を交わす。
久しぶりの再会に少し戸惑っている様子だが、同じ孤児院で育った顔馴染みとあって、子どもたちはすぐに打ち解けて輪を作った。
矢継ぎ早に、『どうしていたのか、元気だったか』と近況を問う声が響く。中には『置いていって悪かった、ごはんわけられなくてごめん』といった謝罪まで混じっていた。
わだかまりがすべて消えたわけじゃないだろうけど、雰囲気は悪くない……なんてホッと息を吐いた矢先。急にルルが「ふにゃあぁぁぁ~!」と泣き出し、俺の体をよじ登ろうとズボンを引っ張り始めた。
声を出せるようになったことで大注目され、少し手荒なスキンシップのついでにお気に入りのマフラーを引っ張られたのがよほど嫌だったらしい。
すぐにルルを抱き上げて、背中をぽんぽんしつつ「大丈夫だよ」と声をかけて落ち着かせる。
ちょっとしたイタズラとはいえ、孤児院にいた頃を思い出して過剰に反応してしまったのかもね。この子は一番年下で、よくからかわれていたみたいだから。
「みんな、このサクタローの兄ちゃんは信用できるぞ! エマたちをもらってくれて、こんなにキレイなフクを着させるほど優しいんだ! オレはこの前、貴族が食うような白パンをもらった! すっげえウマかった!」
空気を変えるようなタリクくんの呼びかけに、他の孤児たちがわっと明るい声を上げる。
彼が率先して場を和ませてくれるおかげで、警戒心はかなり薄まったようだ。本当に助かった。お礼に、ラビットサンドを最初に食べる権利を進呈しよう。
ジタバタするルルをいったんサリアさんに預け、俺はささっと肉を焼いていく。そして食欲を刺激する香りに瞳を輝かせるタリクくんへ、出来立てのラビットサンドを手渡した。
「お待たせ。少し熱いから、ゆっくり食べてね」
「ありがとう、サクタローの兄ちゃん!」
すかさずラビットサンドに齧りつくタリクくん。しかし直後、大きく目を見開いたまま固まってしまう。
口に合わなかったのかな……にわかに不安がよぎる。子どもの繊細な舌には、ちょっと味が濃かったかもしれない。
「どう? あんまり美味しくなかった?」
「あ、いや……ウマすぎてびっくりしたよ! なんだこれ!? 肉はいっぱいだし、食べたことない味で、しょっぱくて甘くて……こんなウマいもん初めて食べたっ!」
どうやら、俺の心配とは正反対だったらしい。
タリクくん的には、この前のサンドイッチよりもよっぽど口にあったようだ。ぱっと明るい笑みを浮かべ、驚くような勢いで再び口を動かす。
この反応を皮切りに、子どもたちが一斉に調理台の前へ押し寄せてくる。即座にエルフの騎士のカーティスさんが制止してくれたが、危ないところだった。火傷なんてしたら一大事だ。
「慌てなくて大丈夫だよ。みんながおかわりしたって、食べきれないほど用意してあるから」
落ち着くよう言い聞かせながら、俺はせっせと肉を焼いていく。タレを絡ませ、生地で包んだラビットサンドを次々と手渡していった。
他の大人も気を利かせ、子どもたちを椅子に座るよう促してくれている――このラクスジットで今最も美しい光景が、多分ここにある。
間をおかず、先ほどのタリクくんと似た反応があちこちのテーブルで繰り返された。
どの子も齧りついた途端に動きを止め、その手に収まるラビットサンドを『信じられない』といった表情で見つめるのだ。
さらに、静かな衝撃が広場を満たす中。
痩せっぽちの少女が、ポツリと呟く。
「おいしい……それに、あったかい……」
骨ばった小さな手の平から、具材の肉がこぼれ落ちそうになる。
続けて彼女は、タレがついた細い指で顔を拭った――かと思えば、ぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。
「うん、あったかい……」
「こんなの初めてだよ、おいしいよぉ……」
小さく掠れた独り言が、波紋のように広がっていく。そして後を追うみたいに、子どもたちは次々と涙をこぼし始めた。気丈に振る舞っていたタリクくんさえも、鼻をすすりながら顔を下へ向けている。
「ワタシ、こんなおいしいごはん食べられるなんて思ってなかった。お腹いっぱいがどんな気持ちか知らないまま、いつか死んじゃうのかなって……」
痩せっぽちの少女のそんな呟きが耳に届き、不覚にも俺まで泣きそうになった。足に引っ付いておかわりをせがんでいたエマたちの頭を撫で回し、辛うじて涙を見せずに済んだけれども。
再び顔を上げると、腕を組んで誇らしげにグレーアッシュの尻尾を揺らすサリアさんの姿が目に入る。
フィーナさんは各テーブルを回り、子どもたちの背中を優しく撫でてあげていた。付き添うカーティスさんの態度もどこか柔らかい。
ゴルドさんたちも、眩しいものでも眺めるような表情を浮かべており……鼻の頭が赤いのは気のせいだろうか。
「サクタロー殿、よかったな。腹を満たせれば、何はなくとも生きていくことだけはできる」
サリアさんの励ますような言葉に、俺は無言で頷く。
よし、しんみりするのもここまで。まだまだ肉は余っているから、満足するまで食べてもらう。
「さあ、みんな。おかわりしたくなったら、遠慮なく言ってね! まだまだ沢山あるよ!」
俺の呼びかけを合図に、子どもたちは食事に意識を向け直す。
ドワーフ兄弟をはじめおかわりを希望する大人もいたので、再びせっせと肉を焼いてラビットサンドを仕上げていった。
ところで、小悪党スクワッドの姿が見えないけど……どこへ行ったのかサリアさんに尋ねてみれば、ブートキャンプの内容を小銭に変えたことがバレて、エルフの騎士さん数人に廃聖堂の裏手へ連行されていた。
耳をすませば、確かに小さくヒイヒイ泣く声が聞こえてくる。かわいそうだから、彼らの分も作っておこうかな。
冬にしては温かな日差しが注ぐ広場で、子どもたちは競うように口を動かし続けていた。しかしさほど時間を置かず一人、また一人と完食していく。おかわりまでしっかり平らげ、とても満足そう。
もうお腹いっぱいみたいだね、と俺は調理器具の掃除に手を付けた。
そこへ、笑顔のタリクくんが歩み寄ってくる。
「サクタローの兄ちゃん、ありがとう。今日のこと、ずっと忘れないよ」
「どういたしまして。忘れるも何も、また数日したらやるからね。ぜひ食べに来てよ」
絶対に来る、と大きな声でお返事してくれるタリクくん。それに次は、もっと多くの孤児に声をかけて連れてきてくれると約束してくれた。
「ありがとうね。ところで、タリクくんたちはこの後どうするの?」
「うーん……仕事を探しに街へでるよ」
「そっか。よければ、夜はこの聖堂に泊まる? 全員が横になれるくらいのスペースはあるよ」
「いや、大丈夫。みんなといろいろ隠してる家があるんだ」
元は彼らが生活していた場所だ。もし希望するなら、この廃聖堂で寝泊まりしてもぜんぜん構わない。数は足りないかもしれないが、テントや防寒具を貸し出す用意もある。
だが、タリクくんは首を横に振った。前回と一緒だ。現在はある廃屋をねぐらにしており、あまり長いあいだ留守にするのはよくないらしい。ちょっとした縄張り意識があるのかもね。
それなら、と俺は次の炊き出しの開催日を伝えた。また美味しい料理をたくさん作って待っているからね。
しばらくしたら、子どもたちはそれぞれ明るい声でお礼を言いながら去っていく。広場に残る大人たちは、遠ざかる小さな背中を目で追いながら穏やかに微笑んでいた。うちの獣耳幼女たちは、俺の足にピッタリ張り付いてちょっと寂しそう。
「皆さん、今日は本当にお疲れ様でした。ご協力に心より感謝します」
みんなにお礼を告げ、俺は頭を下げた。
時間や材料はまだ余っているものの、今回の炊き出しはこれにて終了。
一時はどうなるかと気を揉んだが、初日にしては大成功といって過言ではない。それもこれも、この場にいる全員の協力があってこそ。改めてお礼をしなくちゃね。
しっかり片付けをして、我が家へ戻ったらのんびり休もう。それで今晩は、とびっきり美味しいごはんを作ろう――油とタレで汚れたホットプレートを軽く掃除しながら、俺は心地よい疲労感に浸るのだった。
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