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第一章
第4話 眠り姫のお目覚め
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俺は幼女二人が夢中で食事をする様子を眺めてから、布団で眠る狐耳幼女に視線を向ける。
まだ起きる気配はない。心配になって間近で体調を確認してみるも、特に異変はなく呼吸も安定していた。むしろ顔色が少し良くなっているように思える。
この分なら寝かせたままで大丈夫そうだ。最悪は病院に連れて行こうと考えていたけれど、その場合は事情説明などで間違いなくトラブルが発生していただろうから、こちらとしても良い傾向である。
ちょっとひと人心地ついた感じだ。
そんなわけで、今のうちに所用を済ませるとしよう。
「少し出てくるけど、そのままご飯を食べていてね」
俺はよくわかっていなさそうな二人に見送られつつ居間を後にする。
向かった先はPCなどを設置してある二階の自室。中に入ってすぐデスク脇に置いてある仕事用の鞄からメモ用紙を取りだし、ささっとペンを走らせる。
『三人の女児を預かっています。数時間おきにこちらへ確認に戻りますので、保護者の方はその場でお待ち下さい』
その後、俺は例の廃聖堂へ舞いもどり、純白の女神像の足元に先の文言を記したメモを残す。
日本語を読めるかどうか不明だが、保護者がいた場合を考えての対策である。その辺に落ちている瓦礫を乗せておけば風で飛んでいく心配もない。
「よし……ちょっと外の様子をのぞいてみるか」
目的を達成した俺は、女神像とは真逆の方向へ目を向ける――視線の先には外界と通じる廃聖堂の出入り口があった。存在するはずの扉は壊されてしまったようで、今は外光が盛大に入りこんでいる。
外をうろつくつもりはないけれど、あそこから周囲を観察しようと思う。どのような世界が広がっているのかを知っておくことは、幼女たちのお世話方針を定めるうえで有用だと判断した。
俺はさっそく内壁に手をかけて外の光景をうかがう。
「街だ……けど、日本とは根本的に違うな」
真っ先に目に飛び込んできたのは、高い青空に燦然と輝く太陽――その下には、古い時代の『西洋の庶民街』を彷彿させる光景が広がっていた。
木材の骨組みに漆喰やレンガを組み合わせた造りの家屋が主流で、大きさはまちまち。ただしあまり豊かには見えず、少し埃っぽく、どこかうら寂しい印象を受けた。
次いで付近の通りに目を移すと、そこを行き交う人々の姿を確認できる。
俺の知る『人類』とさほど変わらぬ外見の者の他にも、様々なタイプの獣耳や尻尾を生やした者たちが混在し、さらには髪色までもが多彩で、得も言われぬ異国情緒……いや、ファンタジー感が漂う。顔立ちは西洋風だ。
男性の衣服は、詰め襟のシャツにベスト、加えて長ズボンに革靴、といった組み合わせが一般的らしい。
女性は大抵が、丈の長いワンピースの上にボディスのような衣服をかさね、足元は革靴だ。コスプレっぽい。
どちらも共通して作りや素材はあまり良くなさそう。おまけに、カラーバリエーションに乏しいように思えた。
「ふうむ……これ、もしや『異世界』なのでは?」
どう考えても日本じゃない。それどころか、地球ですらないだろう――この光景にふさわしい言葉を俺は、異世界という単語以外に思いつかない。
やはり外へ飛び出さなくて正解だった。どのような常識がまかり通っているか定かでない現状、よそ者が無防備のまま散歩するような場所じゃない。
俺は即座に身をひるがえし、早足に我が家へ戻った。
***
「あんた、人さらいね!」
リビングにもどった途端、子供らしい弾んだ声が俺を出迎えてくれた。見れば、部屋の中央で狐耳幼女が仁王立ちしていた。
眠り姫のお目覚めだ。ずいぶん元気そうでよかった。腰へ当てている両手に、それぞれバターロールが収まっているあたり微笑みを禁じえない。
「だ、だめだよ、リリ……!」
犬耳幼女が傍らであわあわしながら、何とか宥めようとしているところも微笑ましい。残るもう一人は……うわあ、失敗した。
居間を後にする際、いちごジャムの蓋を空けておいたのだけど、猫耳幼女はビンに直接手を突っ込んでむさぼり食っている。
顔にも服にも周囲にもいちごジャムが飛び散り、そこら中ベッタベタで酷い状態だ。本人は飛び跳ねてご満悦な様子だが、すぐに止めさせなくては。
「ほら、それ置いて大人しくしてくれ」
俺はすぐに濡れタオルを用意し、ジャムをまき散らす犯人を捕獲してむにむに顔を拭う。何が楽しいのか、猫耳幼女は笑顔でされるがままだ。
横から顔を覗かせた狐耳幼女が、金の被毛に覆われた尻尾を揺らしながら「聞きなさいよ!」と非難してくるのだけど、その口の横にもいちごジャムがついていたので強引に拭ってやる。
「ぷはっ!? ちょっとやめて!」
「よし、きれいになった。それで、体調はどう?」
「だいじょぶ! ねえ、リリも二人がたべてたスープほしいっ!」
体の具合を確認するも愚問だった。狐耳幼女はどう見ても元気いっぱいである。経過観察の必要はあるものの、食欲があるならひと先ず安心していいだろう。
まだ起きる気配はない。心配になって間近で体調を確認してみるも、特に異変はなく呼吸も安定していた。むしろ顔色が少し良くなっているように思える。
この分なら寝かせたままで大丈夫そうだ。最悪は病院に連れて行こうと考えていたけれど、その場合は事情説明などで間違いなくトラブルが発生していただろうから、こちらとしても良い傾向である。
ちょっとひと人心地ついた感じだ。
そんなわけで、今のうちに所用を済ませるとしよう。
「少し出てくるけど、そのままご飯を食べていてね」
俺はよくわかっていなさそうな二人に見送られつつ居間を後にする。
向かった先はPCなどを設置してある二階の自室。中に入ってすぐデスク脇に置いてある仕事用の鞄からメモ用紙を取りだし、ささっとペンを走らせる。
『三人の女児を預かっています。数時間おきにこちらへ確認に戻りますので、保護者の方はその場でお待ち下さい』
その後、俺は例の廃聖堂へ舞いもどり、純白の女神像の足元に先の文言を記したメモを残す。
日本語を読めるかどうか不明だが、保護者がいた場合を考えての対策である。その辺に落ちている瓦礫を乗せておけば風で飛んでいく心配もない。
「よし……ちょっと外の様子をのぞいてみるか」
目的を達成した俺は、女神像とは真逆の方向へ目を向ける――視線の先には外界と通じる廃聖堂の出入り口があった。存在するはずの扉は壊されてしまったようで、今は外光が盛大に入りこんでいる。
外をうろつくつもりはないけれど、あそこから周囲を観察しようと思う。どのような世界が広がっているのかを知っておくことは、幼女たちのお世話方針を定めるうえで有用だと判断した。
俺はさっそく内壁に手をかけて外の光景をうかがう。
「街だ……けど、日本とは根本的に違うな」
真っ先に目に飛び込んできたのは、高い青空に燦然と輝く太陽――その下には、古い時代の『西洋の庶民街』を彷彿させる光景が広がっていた。
木材の骨組みに漆喰やレンガを組み合わせた造りの家屋が主流で、大きさはまちまち。ただしあまり豊かには見えず、少し埃っぽく、どこかうら寂しい印象を受けた。
次いで付近の通りに目を移すと、そこを行き交う人々の姿を確認できる。
俺の知る『人類』とさほど変わらぬ外見の者の他にも、様々なタイプの獣耳や尻尾を生やした者たちが混在し、さらには髪色までもが多彩で、得も言われぬ異国情緒……いや、ファンタジー感が漂う。顔立ちは西洋風だ。
男性の衣服は、詰め襟のシャツにベスト、加えて長ズボンに革靴、といった組み合わせが一般的らしい。
女性は大抵が、丈の長いワンピースの上にボディスのような衣服をかさね、足元は革靴だ。コスプレっぽい。
どちらも共通して作りや素材はあまり良くなさそう。おまけに、カラーバリエーションに乏しいように思えた。
「ふうむ……これ、もしや『異世界』なのでは?」
どう考えても日本じゃない。それどころか、地球ですらないだろう――この光景にふさわしい言葉を俺は、異世界という単語以外に思いつかない。
やはり外へ飛び出さなくて正解だった。どのような常識がまかり通っているか定かでない現状、よそ者が無防備のまま散歩するような場所じゃない。
俺は即座に身をひるがえし、早足に我が家へ戻った。
***
「あんた、人さらいね!」
リビングにもどった途端、子供らしい弾んだ声が俺を出迎えてくれた。見れば、部屋の中央で狐耳幼女が仁王立ちしていた。
眠り姫のお目覚めだ。ずいぶん元気そうでよかった。腰へ当てている両手に、それぞれバターロールが収まっているあたり微笑みを禁じえない。
「だ、だめだよ、リリ……!」
犬耳幼女が傍らであわあわしながら、何とか宥めようとしているところも微笑ましい。残るもう一人は……うわあ、失敗した。
居間を後にする際、いちごジャムの蓋を空けておいたのだけど、猫耳幼女はビンに直接手を突っ込んでむさぼり食っている。
顔にも服にも周囲にもいちごジャムが飛び散り、そこら中ベッタベタで酷い状態だ。本人は飛び跳ねてご満悦な様子だが、すぐに止めさせなくては。
「ほら、それ置いて大人しくしてくれ」
俺はすぐに濡れタオルを用意し、ジャムをまき散らす犯人を捕獲してむにむに顔を拭う。何が楽しいのか、猫耳幼女は笑顔でされるがままだ。
横から顔を覗かせた狐耳幼女が、金の被毛に覆われた尻尾を揺らしながら「聞きなさいよ!」と非難してくるのだけど、その口の横にもいちごジャムがついていたので強引に拭ってやる。
「ぷはっ!? ちょっとやめて!」
「よし、きれいになった。それで、体調はどう?」
「だいじょぶ! ねえ、リリも二人がたべてたスープほしいっ!」
体の具合を確認するも愚問だった。狐耳幼女はどう見ても元気いっぱいである。経過観察の必要はあるものの、食欲があるならひと先ず安心していいだろう。
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