我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

文字の大きさ
5 / 90
第一章

第5話 獣耳幼女たちの事情

しおりを挟む
 俺は「すぐに用意するから」といって台所へ向かい、ご要望どおり温めコーンポタージュを狐耳幼女に提供する。あわせて他の二人のおかわりも用意した。

 スプーンの使い方を教えれば、すぐ食べることに集中して静かになる。三人とも座って食事を再開したので、タイミングを見計らって話を切りだす。

「それじゃあ、食べながらでいいから聞いてね。俺は伊海朔太郎という名前なんだけど、順番に君たちの名前と年齢を教えてくれるかな?」

 狐耳幼女はスープに夢中だし、猫耳幼女は言葉を発さない。ならば必然、回答権は犬耳幼女に委ねられる。よく見るとこの子も口の端にいちごジャムをつけていたので、さっと拭ってやった。

「ぷはっ!? えっと、わたしはエマです。この子はリリ、この子がルルです。それで……」

 回答者の犬耳幼女は、『エマ』という名前らしい。
 正確な年齢はわからないが、たぶん六歳とのこと。

 エマは胸にかかるくらいにまで伸びた……というよりは伸ばしっぱなしの亜麻色の髪と、純真な輝きを秘めたヘーゼルの瞳を持つ。柔らかな雰囲気の整った顔立ちで、鈴をはったような目が優しさと愛嬌を感じさせる。

 頭部に生えている垂れた犬耳は髪と同色の被毛に覆われ、加えて同じ色合いのふさふさ尻尾が腰の後ろで揺れていた。

 続いて、狐耳幼女の名は『リリ』というそうだ。
 年齢はたぶん五歳とのこと。

 リリは肩につく位の長さの金の髪と、理知的な輝きを放つエメラルドグリーンの瞳を持つ。この子もとても整った顔立ちをしているが、ややツリ目でキツい印象を受ける。

 頭部に生えているのは、おそらく狐耳。やはり髪と同色の被毛に覆われ、同じ色合いのふさふさ尻尾が腰の後ろで揺れていた。

 そして例の猫耳幼女は、『ルル』という名前だった。
 年齢はたぶん四歳とのこと。

 ルルは肩にかからないくらいの長さの黒髪と、無垢な輝きを宿すブルーの瞳を持つ。とても整った顔立ちをしているものの、まぶたの端がほんの少しだけ下がっていて、どこか眠たげな印象を与える。

 頭に生えている猫耳は髪と同色の被毛に覆われ、この子もまた同色のしなやかな尻尾を腰の後ろで揺らしている。

 三者三様、とても個性的だ。
 しっかり者で優しいエマに、好奇心旺盛で物怖じしないリリ、無口だけどやんちゃなルル、といった感じである。

 ただし、揃ってガリガリに痩せている、薄汚れている、ボロのワンピースをまとっている、裸足である、などの共通点があげられる。

「エマの耳と尻尾……それは犬、のものかな?」

「は、はい。司祭さまが、わたしは『ロメシュタット』からきたって」

 俺の予想は正解だったものの、ちょっと気になる言葉が飛び出してきた。
 ロメシュタットという謎の単語はさておき、司祭さまというと……もしや三人の保護者なのでは?

「聖堂のうしろにみんなで住んでたんですけど、司祭さまがいなくなって……えっと、それで……」

 拙いながらも、エマは懸命に自分たちの置かれた境遇を説明してくれた。
 その話をまとめると、こうなる――三人は孤児で、聖堂の裏手にあった孤児院らしき建物で共同生活を送っていた。

 孤児院には他にも沢山の子供がいたが、エマ・リリ・ルルの三人は特に幼く、一番の年少組だった。また年齢が推定なのも孤児という出自が原因だ。

 そしてある日のこと、保護者である『司祭さま』とやらが失踪する――事情は不明だが、資金繰りに窮して自暴自棄にでもなったのではないだろうか。もともと食うや食わずの生活で酷く貧しかったそうだし。

 ともかく、司祭さまはどこかへ出かけたきりついぞ帰ってくることはなく、当然ながら食料の補充なども行われず、孤児たちは次第に飢えていった。

 さらに悪いことは続く――いよいよ食料が底をついた時、大勢の衛兵が突如押しかけてきた。
 衛兵は孤児院を閉鎖すると言って子供たちを追い出し、室内の物品を略奪したばかりか建物すらも打ち壊した。

 理由を聞くと、司祭さまが悪いことをしたから、と教えられたそうだ。
 その際、ついでとばかりに聖堂も荒らして帰ったという。

 この許しがたい蛮行の末、孤児たちは散り散りになり、その多くが街へ出てひったくりや物乞いに身を窶すことになった。

 しかし、エマたち三人は取り残される。とりわけ幼かったことが理由だ。
 無理もない。年上の孤児たちだって、自身のことで精一杯だったのだ。自活すら難しい三人の幼女の世話をやく余裕などあるはずがない。

 そのためエマたちは荒廃した聖堂に留まる他なく、以降は年長の孤児たちがたまに持ってきてくれる食料と、付近でたまに行われる炊き出しと、近場の川沿いに生えた草などを摘んでどうにか飢えを満たす日々を送ることに。

 聞くところによれば、司祭さまの蒸発した時期は春前後。肌感覚ではあるが、異世界と日本の気候は似ているように思う。そして今は秋口……つまり三人は約半年もの間、その幼い身を寄せ合ってどうにか生き抜いてきたことになる。

 中でもエマは一番年上なので、必死にリリとルルの面倒を見てきたそうだ。

「でも、リリがたおれちゃって……わたし、神様におねがいしたんです。これからずっといい子でいるからリリを助けてくださいって。いっぱい、いっぱいお祈りしたんです」

 そうしたら神様が来てくれました――そう言って、エマはふにゃりと笑う。
 逆に俺は大人のくせに、涙をこぼさないように我慢するだけで精一杯だった。

 ひもじかったろう。
 辛かったろう。
 心細かったろう。
 怖かったろう。

 世界では三億人以上の子供たちが貧困に苦しんでいる、とテレビかなにかで見た覚えがある…だが、そんな現実を知ったとき俺はなにを思った? 

 少し顔をしかめ、ただの数字の羅列として記憶に留めただけ――言ってしまえば、貧困とは『快適な自室から見る画面越しの風景』でしかない。だからこそ他人事でいられた。

 けれど、画面は叩き割られた。
 風が吹き込み、空気が混じり合う。

 おかげで関わらずにはいられない――俺たちは今、同じ場所にいる。
 目の前にいる幼女三人を救おうと決心するのに、ほんの少しもためらいはなかった。

「話してくれてありがとう、エマ。三人とも今まで本当に大変だったね。でも安心してくれ、今後は俺がついているから」

 自身のような凡人にできることなどたかが知れている。それでも最低限、きちんと日に三度食事がとれて、屋根のある寝所で明日を楽しみに眠りにつける、そんな環境を用意してあげたい。

 と、そこでリリが不意に食事の手を止めて言う。

「じゃあ……あれ、なんていうんだっけ?」

「俺の名前かな? 伊海朔太郎ね」

「イカイサクタロ?」

「そう。でも、朔太郎でいいよ」

「わかった、サクタローね! えっと、サクタローが新しい司祭さまになってくれるの?」

「そのつもりだよ」

 俺は迷わず肯定する。
 もとより謎の地下通路によって通じる廃聖堂サイドを放置することはできないし、幼女たちを庇護するうえで有効ならば迷いなく代役を務めるつもりなので、さして語弊はないはずだ。

「よかった。人さらいじゃないのね」

 リリ曰く、聖堂のある地域には孤児をさらって売るような悪い大人もいるらしい。年長の孤児たちから気をつけるように注意されていたようで、それが『人さらい』発言へと繋がっている。かなりバイオレンスだ。

 ここはひとつ、安心させる意味でもはっきり明言しておこう。

「誓って人さらいじゃないから心配ないよ。むしろ俺は三人を守りたいんだ」

「まもってくれるの? じゃあ、サクタローはエマをまもって」

 頼れる大人もおらず、その小さな体で二人の妹を守り通してきたエマ――リリは、そんな優しくて頑張り屋さんの姉が心配で仕方ないらしい。

「わかった、約束する。でも、三人一緒に守るから大丈夫だよ。それはそうと、エマは本当に頑張ったんだね」

 思わず隣に座っていたエマの頭に手が伸びる。優しく「えらいえらい」と頭をなでると、手の動きに合わせて犬耳がふにふに揺れた。

「わたしは、ふたりのお姉ちゃんだから……」

 だとしても君は立派だよ。誰にでもできることじゃないし、本当に凄いことをしたんだ。そう繰り返し褒めながら、俺はエマの頭をなで続けた。

「え、えへへ……ふぇ、うぅ……うっ、ふえぇええ――」

「なんでなくのっ! もう、エマのなきむし!」

 お腹いっぱいになって気が緩んだのか、声をあげて泣きじゃくるエマ。それにつられてリリも泣き出し、さらにはルルまでも声を出さずに涙を流す。

 やがて三人はそれぞれを求めるように一塊となり、こてんと倒れて布団の上に転がった。すると泣き声は次第に小さくなってゆき、しばらく経つと寝息へ切りかわる。

 俺はその様子を眺めつつ、起き出してきたら今度はリリとルルをたくさん褒めることに決めた。今という時間は、三人が力を合わせて勝ち取ったものなのだから。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

もうすぐ帰って来る勇者様と私の結婚式が3日後ですが、プロポーズされていないといくら言っても誰も信じてくれません

まつめ
恋愛
3日後に村をあげての盛大な結婚式がある。それはもうすぐやって来る勇者様と自分の結婚式。けれど勇者様は王都の聖女様と結婚すると決まっている。私は聖女様の代わりに癒し手として勇者様を治療してきた、だから見事魔王を打ち破って帰って来た時、村人達は私が本物の聖女だと勘違い。私がいくら否定しても誰も聞いてはくれない。王様との謁見を終えてもうすぐ勇者様が村に帰って来る。私は一度も好きだと言われてないし、ましてや結婚しようとプロポーズも受けていない。村人達はお祭り騒ぎで結婚式の準備は加速していく。どうしようと困っているのに、心の奥底で「もしかしたら……」と大好きな勇者様が自分を選んでくれる未来を淡く期待して流されてしまう私なのだった。どうしよう……でもひょっとして私と結婚してくれる?

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

夫が「未亡人を我が家で保護する」と言ってきました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
伯爵夫人カタリナの前に、夫が“行くあてのない未亡人”を連れて帰ってきた。 夫は「保護だ」と言い張り、未亡人を家に住まわせようとするが──その素性には不審な点が多すぎた。 問いただしても夫は曖昧な説明ばかり。 挙げ句の果てには「ずっと家にいればいい」「家族になればいいだろう」と、未亡人を第2夫人にする気満々。 家を守るため、カタリナは未亡人の身元を調査する。 そして判明するのは……? ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

処理中です...