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第一章
第19話 奴隷採用の勧め
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「担当する役人に問い合わせたところ、どうにも歯切れの悪い答えが返ってきてな」
「そうですか。具体的にどのような?」
「先方は、今すぐ手続きを行うことは難しいと言っておる。少々事情があり、しばらくの間は許可を出すことが難しいそうだ」
「事情ですか?」
「うむ。時機が悪いというと語弊はあるが、ちょうど今ラクスジットに『女神教の特使団』が来訪しておる。そんな中、元とはいえ自派の聖堂を赤の他人に移譲したと知られれば不興を買うのは明白。要は、問題がおきた場合に責任を取らされることを恐れているのだ」
先日きいた話によれば、廃聖堂はもともと女神教という宗教団体の管理物件である、とのことだった。ついでにいうと、例の純白の彫像は女神ミレイシュ様のものである。
しかし、とある事情でお取り潰しとなり放置されていた。そこで、新たに俺が税を支払えば土地および建物の利用者になれるはずだった。
ところが役場の担当者は自らの保身を優先し、手続きを行うことを拒否。
事なかれ主義というか、お役所仕事というか……どう考えても、聖堂を廃墟同然のまま放置しておく方が問題だと思うのだが。女神教のお偉方がいまの惨状を見たら絶対ブチギレるぞ。
それにしても、ちょっと困ったことになった。これでは防犯対策の強化もままならず、現状維持ではいつまた強盗にあうか不安で仕方がない。いったいどうしたものか……。
「つかぬことをお伺いしますが、サクタロー殿はこの聖堂をどうするおつもりなので?」
「えっと、その……」
わりと核心を突く質問を投げかけてきたのはケネトさん。なにもこんな治安の悪い場所を拠点にしなくても、とでも言いたげな表情だ。
できるものなら俺だって移動したい。けれど我が家とつながる地下通路が動かせない以上、他にとれる選択肢はないわけで。
「こちらも少々事情があり、ここを拠点に活動する必要があるんです。理由はいずれお話しできたらと……」
正直なところ、ゴルドさんとケネトさんにはすべてを打ち明け、サポートをお願いしたい気持ちでいっぱいだ。
知り合って間もないが、両名の人柄のよさは十分に伝わってきた。なにせ悪漢から救ってくれた恩人である。いっそ信じて行動すれば親身になって協力してくれそうだ。すでに八割がた落ちているので、俺一人なら迷いながらもそうしていた。
しかし、現実では幼女三人の命をあずかる身。もちろん目的達成のためには思い切った判断を下す必要はあるだろうけれど、発生しうるリスクは最小限に留めるべきである。
「そもそもサクタロー殿は何処に滞留なさっているのだろうか? 差し支えなければ、我が屋敷へ是非お招きしたい。もちろん童女らも一緒でかまわぬ」
ゴルドさんからの大変ありがたい提案をいただくも、やはりお断り。今はまだ秘密を打ち明けるつもりはない。
「先ほどもお伝えしたように、諸般の事情によりこの拠点から動くわけにはいかず……せっかくのお誘いにもかかわらず心苦しい限りです」
「そうか、それは残念だ……いや、待たれよ。動くわけにはいかないとおっしゃるが、よもやこの聖堂で寝泊まりされているなんてことはあるまいな?」
「え、えっと……あの、まあその……」
カンのいい商人はキライだよ(嘘)。
俺の曖昧な返事を肯定と判断してか、両名とも目を丸くして唖然としていらっしゃる。再起動まではたっぷり十秒ほどの時間を要した。
「……主よ、呆けている場合ではありません。大至急、対策を講じなければ」
「そ、そうだな。サクタロー殿の身になにかあっては大変だ。ケネトよ、まずは護衛の手配を……いや、それだけでは心もとない。やはりこの建物自体をどうにかせねば――」
本人そっちのけで、警備体制についての論議が早口で行われている。
お二方の焦りようを見るに、自身がどれほど危うい環境にいたのかを改めて思い知った。加えて会話の内容から、どうやら警備員の採用はマストらしい。
それならば、と俺は注文をつけることにした。
「あの、口がかたくて信用できる護衛を紹介してもらえませんか? できれば外の警戒をお願いしたいと考えています」
セキュリティ強化を図るうえで、ネックとなるのはやはり謎の地下通路の存在。ならば建物外周の巡視を依頼し、建物の内部、とりわけ直結している小部屋(物置)にだけは絶対に立ち入らないよう契約を結ぶ。
要は警備の方々に、よからぬ輩が廃聖堂へ近づかないよう目を光らせておいてもらうのだ。納税して敷地の利用権を得るまでは不法占拠する形になるが、そこは迷惑料を支払ってでもお目こぼしいただく。背に腹は代えられない。
このくらいのリスクならギリギリ許容範囲だろう。臆病になりすぎても話が進まない。もちろん小部屋を覗かれた場合に備え、ちょっとした工夫を施すつもりでもいる。
雇用の経費は、前回の取引で得た資金で賄う。
「それであれば『奴隷』を用いるのがよろしいかと」
「えっ、奴隷ですか!?」
ケネトさんからの予想外の返答を受け、俺は目を丸くした。
「そうですか。具体的にどのような?」
「先方は、今すぐ手続きを行うことは難しいと言っておる。少々事情があり、しばらくの間は許可を出すことが難しいそうだ」
「事情ですか?」
「うむ。時機が悪いというと語弊はあるが、ちょうど今ラクスジットに『女神教の特使団』が来訪しておる。そんな中、元とはいえ自派の聖堂を赤の他人に移譲したと知られれば不興を買うのは明白。要は、問題がおきた場合に責任を取らされることを恐れているのだ」
先日きいた話によれば、廃聖堂はもともと女神教という宗教団体の管理物件である、とのことだった。ついでにいうと、例の純白の彫像は女神ミレイシュ様のものである。
しかし、とある事情でお取り潰しとなり放置されていた。そこで、新たに俺が税を支払えば土地および建物の利用者になれるはずだった。
ところが役場の担当者は自らの保身を優先し、手続きを行うことを拒否。
事なかれ主義というか、お役所仕事というか……どう考えても、聖堂を廃墟同然のまま放置しておく方が問題だと思うのだが。女神教のお偉方がいまの惨状を見たら絶対ブチギレるぞ。
それにしても、ちょっと困ったことになった。これでは防犯対策の強化もままならず、現状維持ではいつまた強盗にあうか不安で仕方がない。いったいどうしたものか……。
「つかぬことをお伺いしますが、サクタロー殿はこの聖堂をどうするおつもりなので?」
「えっと、その……」
わりと核心を突く質問を投げかけてきたのはケネトさん。なにもこんな治安の悪い場所を拠点にしなくても、とでも言いたげな表情だ。
できるものなら俺だって移動したい。けれど我が家とつながる地下通路が動かせない以上、他にとれる選択肢はないわけで。
「こちらも少々事情があり、ここを拠点に活動する必要があるんです。理由はいずれお話しできたらと……」
正直なところ、ゴルドさんとケネトさんにはすべてを打ち明け、サポートをお願いしたい気持ちでいっぱいだ。
知り合って間もないが、両名の人柄のよさは十分に伝わってきた。なにせ悪漢から救ってくれた恩人である。いっそ信じて行動すれば親身になって協力してくれそうだ。すでに八割がた落ちているので、俺一人なら迷いながらもそうしていた。
しかし、現実では幼女三人の命をあずかる身。もちろん目的達成のためには思い切った判断を下す必要はあるだろうけれど、発生しうるリスクは最小限に留めるべきである。
「そもそもサクタロー殿は何処に滞留なさっているのだろうか? 差し支えなければ、我が屋敷へ是非お招きしたい。もちろん童女らも一緒でかまわぬ」
ゴルドさんからの大変ありがたい提案をいただくも、やはりお断り。今はまだ秘密を打ち明けるつもりはない。
「先ほどもお伝えしたように、諸般の事情によりこの拠点から動くわけにはいかず……せっかくのお誘いにもかかわらず心苦しい限りです」
「そうか、それは残念だ……いや、待たれよ。動くわけにはいかないとおっしゃるが、よもやこの聖堂で寝泊まりされているなんてことはあるまいな?」
「え、えっと……あの、まあその……」
カンのいい商人はキライだよ(嘘)。
俺の曖昧な返事を肯定と判断してか、両名とも目を丸くして唖然としていらっしゃる。再起動まではたっぷり十秒ほどの時間を要した。
「……主よ、呆けている場合ではありません。大至急、対策を講じなければ」
「そ、そうだな。サクタロー殿の身になにかあっては大変だ。ケネトよ、まずは護衛の手配を……いや、それだけでは心もとない。やはりこの建物自体をどうにかせねば――」
本人そっちのけで、警備体制についての論議が早口で行われている。
お二方の焦りようを見るに、自身がどれほど危うい環境にいたのかを改めて思い知った。加えて会話の内容から、どうやら警備員の採用はマストらしい。
それならば、と俺は注文をつけることにした。
「あの、口がかたくて信用できる護衛を紹介してもらえませんか? できれば外の警戒をお願いしたいと考えています」
セキュリティ強化を図るうえで、ネックとなるのはやはり謎の地下通路の存在。ならば建物外周の巡視を依頼し、建物の内部、とりわけ直結している小部屋(物置)にだけは絶対に立ち入らないよう契約を結ぶ。
要は警備の方々に、よからぬ輩が廃聖堂へ近づかないよう目を光らせておいてもらうのだ。納税して敷地の利用権を得るまでは不法占拠する形になるが、そこは迷惑料を支払ってでもお目こぼしいただく。背に腹は代えられない。
このくらいのリスクならギリギリ許容範囲だろう。臆病になりすぎても話が進まない。もちろん小部屋を覗かれた場合に備え、ちょっとした工夫を施すつもりでもいる。
雇用の経費は、前回の取引で得た資金で賄う。
「それであれば『奴隷』を用いるのがよろしいかと」
「えっ、奴隷ですか!?」
ケネトさんからの予想外の返答を受け、俺は目を丸くした。
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