28 / 71
第一章
第28話 短剣と魔法具工房と生命薬
しおりを挟む
やがて金属を叩くような騒音が、少し冷たい風に乗って聞こえてくる。
それを合図に、俺たちが歩く石畳の大通りは徐々に趣を変える――磨き上げられた刀剣や鋭い穂先の槍、彫刻を施した盾、重厚な鎧などを軒先に陳列する店舗を目にするようになった。
どうやら、職人街へと差し掛かったようだ。
ファンタジー感が一気に増し、俺の気分も高揚する。
「この辺りには、各工房で作られた武器や防具を売る店が並んでいる。当然、探索者の多くが利用しているわけだが……サクタロー殿、やつらは気性が荒い。私からあまり離れないよう注意してくれ」
実を言うと、ここに至るまで住民の方々から結構な視線を浴びていた。原因は、間違いなく俺たちの衣服にある。
デザインからして違うし、こちらの物と比較すればかなり上等なので無理もない。それでも無闇に声をかけてこないのは、こちらが上流階級のお忍びである可能性を考えて。
一方、探索者には後先考えない者が多い。タチの悪い部類だと、ただの破落戸ばりに絡んでくるかもしれないという。
もっとも、サリアさんのそばにさえいれば問題ないようだが。
「了解。みんなもいいね? さっきみたいに、いきなり走り出さないように」
しゃがんで肩からリリを下ろしながら注意を促せば、『はーい!』と気持ちのいい返事を聞けた。ルルも深く頷いてくれている。
この子たち、返事はいいんだよなあ……とりあえず、しっかり手を繋いで見て回るとしよう。
「馴染みの店があるから、そこで揃えてしまおう」
そう言ったサリアさんの先導で、とある武具店へお邪魔する。
生憎、顔見知りの店主は不在だったようだが、年若い店員さんが対応してくれてお目当ての物は揃えられた。
「本当にそれだけでいいの?」
「うむ。護衛ならば、室内での活動が多くなるだろうからな。当面はこれで事足りる」
サリアさんの手には、一本の短剣が収まっていた。木材と魔物の皮を使った鞘とのセット商品で、無骨ながら味のあるデザインをしている。
そこまで重くないと聞いて、密かに俺も振ってみようかと思ったけど、肩が抜けそうな予感がしたのでやめた。
「ずいぶんとあっさり決まったね」
「私は素手が一番やりやすいからな。見せかけであれば、これで十分だろう」
ということは、素手で魔物を……?
なんて俺が驚いている間に、さっさと支払いが完了する。
これでサリアさんの装備は、スウェットにサンダル、背中に短剣となった。剣帯はショルダータイプを選択したみたい……ぱっと見はニート勇者だ。
ついでに、こちらの貨幣を収納する皮の巾着も購入していた。他にも簡単な衣服や防具などもあったが、本人が「あっち(日本)の品が欲しい」と希望したので手を出さなかった。
気になる短剣のお値段は、展示されている品の中ではかなり安め。高いものは、鉄以外に特殊な素材が配合されているらしい。道理で、刀身の輝きが違うわけだ。
非常に興味深い。少年心をくすぐられ、ずっと眺めていられそうだ……が、エマたちがつまらなそうなので御暇する。また今度ゆっくり見学に訪れよう。
続いては、より異世界らしい魅力がつまった興味深い店へ向かう。
これは俺のリクエストだ。雑貨店も兼ねているらしく、みんなで楽しめそうだと思って。
しばらく歩いたところで、サリアさんがある建物の前で立ち止まる――大通りから少し裏に入った路地に並ぶ、趣のある古びた一軒家だ。
軒先にかかる年季の入った木製看板には、『ジグナール魔法具工房』の文字がひっそりと記されていた。
ワクワクしながら扉を開き、シナモンにも似た独特の香りが漂う店内へ踏み込む。
同時に、カランコロンとベルのような音が響く。その出どころを探すみたいに、幼女たちが揃って獣耳を動かす仕草がとても可愛らしい。
というか、思ったより明るいな。窓もないはずなのに……訝しげに思って天井を見上げれば、煌々と光を灯すランプらしき物が備え付けられていた。
「あれは……?」
「魔石を使ったランプだな。あちらには、ゴルド殿が使っていた簡易のカマドもあるぞ」
ああ、例の魔石ね……確か、あれも迷宮から産出されるんだったか?
サリアさんによると、他にも魔石を使った道具が色々あるらしい。興味を惹かれたので、さっそく見て回る。
「いらっしゃい。ゆっくり見ていっておくれ――おや? サリアじゃないか。奴隷堕ちしたと聞いていたが、もう解放されたのかい?」
「久しぶりだな、店主。見ての通り、私は今も奴隷の務めを果たしているところだ」
店の奥には木製のカウンターがあり、その向こうに黒いローブをまとった人物が腰掛けていた。赤毛を三つ編みにまとめた、整った顔立ちの妙齢の女性だ。
彼女は顔をあげると、やや目を見開きながら声をかけてきた。知人らしく、サリアさんも自然に応じている。
「どうも、店主さん。少し拝見しますね」
「ええ、構わないわ。どうぞごゆっくり」
店主の承諾を得て、俺は幼女たちと一緒に店内を改めて見て回る。
所狭しと立ち並ぶ木棚には、不思議な品々がぎっしり詰まっていて、まるでファンタジー映画の世界に迷い込んだような気分にさせてくれた。もはや店内の明かりすら怪しげに感じてくる。
「ねぇねぇ、サクタロー。あれなに?」
「さあ、なんだろうねえ……」
「いいか、リリ。それは――」
気になる物があるたびに、リリがあれこれ尋ねてくる。しかし俺には、ほとんど正解がわからない……代わりに、サリアさんが説明を引き受けてくれて助かった。
そして店内を時計回りで半周したところで、ふと足を止める。
目の前のひときわ年季の入った棚には、細長い陶器の薬筒らしき物が並んでいた。コルクのような栓が嵌まっているあたり、中には液体が収まっていると予想できる。
「サリアさん、これはなに?」
「ん? ああ、それは『生命薬』だな。怪我によく効く。物によっては、切断された手足すら生やすことができる」
なんとなしに尋ねてみれば、驚くべき答えが返ってくる。
その瞬間、俺はハッと息を飲み、棚の薬筒へ視線を向け直した。
それを合図に、俺たちが歩く石畳の大通りは徐々に趣を変える――磨き上げられた刀剣や鋭い穂先の槍、彫刻を施した盾、重厚な鎧などを軒先に陳列する店舗を目にするようになった。
どうやら、職人街へと差し掛かったようだ。
ファンタジー感が一気に増し、俺の気分も高揚する。
「この辺りには、各工房で作られた武器や防具を売る店が並んでいる。当然、探索者の多くが利用しているわけだが……サクタロー殿、やつらは気性が荒い。私からあまり離れないよう注意してくれ」
実を言うと、ここに至るまで住民の方々から結構な視線を浴びていた。原因は、間違いなく俺たちの衣服にある。
デザインからして違うし、こちらの物と比較すればかなり上等なので無理もない。それでも無闇に声をかけてこないのは、こちらが上流階級のお忍びである可能性を考えて。
一方、探索者には後先考えない者が多い。タチの悪い部類だと、ただの破落戸ばりに絡んでくるかもしれないという。
もっとも、サリアさんのそばにさえいれば問題ないようだが。
「了解。みんなもいいね? さっきみたいに、いきなり走り出さないように」
しゃがんで肩からリリを下ろしながら注意を促せば、『はーい!』と気持ちのいい返事を聞けた。ルルも深く頷いてくれている。
この子たち、返事はいいんだよなあ……とりあえず、しっかり手を繋いで見て回るとしよう。
「馴染みの店があるから、そこで揃えてしまおう」
そう言ったサリアさんの先導で、とある武具店へお邪魔する。
生憎、顔見知りの店主は不在だったようだが、年若い店員さんが対応してくれてお目当ての物は揃えられた。
「本当にそれだけでいいの?」
「うむ。護衛ならば、室内での活動が多くなるだろうからな。当面はこれで事足りる」
サリアさんの手には、一本の短剣が収まっていた。木材と魔物の皮を使った鞘とのセット商品で、無骨ながら味のあるデザインをしている。
そこまで重くないと聞いて、密かに俺も振ってみようかと思ったけど、肩が抜けそうな予感がしたのでやめた。
「ずいぶんとあっさり決まったね」
「私は素手が一番やりやすいからな。見せかけであれば、これで十分だろう」
ということは、素手で魔物を……?
なんて俺が驚いている間に、さっさと支払いが完了する。
これでサリアさんの装備は、スウェットにサンダル、背中に短剣となった。剣帯はショルダータイプを選択したみたい……ぱっと見はニート勇者だ。
ついでに、こちらの貨幣を収納する皮の巾着も購入していた。他にも簡単な衣服や防具などもあったが、本人が「あっち(日本)の品が欲しい」と希望したので手を出さなかった。
気になる短剣のお値段は、展示されている品の中ではかなり安め。高いものは、鉄以外に特殊な素材が配合されているらしい。道理で、刀身の輝きが違うわけだ。
非常に興味深い。少年心をくすぐられ、ずっと眺めていられそうだ……が、エマたちがつまらなそうなので御暇する。また今度ゆっくり見学に訪れよう。
続いては、より異世界らしい魅力がつまった興味深い店へ向かう。
これは俺のリクエストだ。雑貨店も兼ねているらしく、みんなで楽しめそうだと思って。
しばらく歩いたところで、サリアさんがある建物の前で立ち止まる――大通りから少し裏に入った路地に並ぶ、趣のある古びた一軒家だ。
軒先にかかる年季の入った木製看板には、『ジグナール魔法具工房』の文字がひっそりと記されていた。
ワクワクしながら扉を開き、シナモンにも似た独特の香りが漂う店内へ踏み込む。
同時に、カランコロンとベルのような音が響く。その出どころを探すみたいに、幼女たちが揃って獣耳を動かす仕草がとても可愛らしい。
というか、思ったより明るいな。窓もないはずなのに……訝しげに思って天井を見上げれば、煌々と光を灯すランプらしき物が備え付けられていた。
「あれは……?」
「魔石を使ったランプだな。あちらには、ゴルド殿が使っていた簡易のカマドもあるぞ」
ああ、例の魔石ね……確か、あれも迷宮から産出されるんだったか?
サリアさんによると、他にも魔石を使った道具が色々あるらしい。興味を惹かれたので、さっそく見て回る。
「いらっしゃい。ゆっくり見ていっておくれ――おや? サリアじゃないか。奴隷堕ちしたと聞いていたが、もう解放されたのかい?」
「久しぶりだな、店主。見ての通り、私は今も奴隷の務めを果たしているところだ」
店の奥には木製のカウンターがあり、その向こうに黒いローブをまとった人物が腰掛けていた。赤毛を三つ編みにまとめた、整った顔立ちの妙齢の女性だ。
彼女は顔をあげると、やや目を見開きながら声をかけてきた。知人らしく、サリアさんも自然に応じている。
「どうも、店主さん。少し拝見しますね」
「ええ、構わないわ。どうぞごゆっくり」
店主の承諾を得て、俺は幼女たちと一緒に店内を改めて見て回る。
所狭しと立ち並ぶ木棚には、不思議な品々がぎっしり詰まっていて、まるでファンタジー映画の世界に迷い込んだような気分にさせてくれた。もはや店内の明かりすら怪しげに感じてくる。
「ねぇねぇ、サクタロー。あれなに?」
「さあ、なんだろうねえ……」
「いいか、リリ。それは――」
気になる物があるたびに、リリがあれこれ尋ねてくる。しかし俺には、ほとんど正解がわからない……代わりに、サリアさんが説明を引き受けてくれて助かった。
そして店内を時計回りで半周したところで、ふと足を止める。
目の前のひときわ年季の入った棚には、細長い陶器の薬筒らしき物が並んでいた。コルクのような栓が嵌まっているあたり、中には液体が収まっていると予想できる。
「サリアさん、これはなに?」
「ん? ああ、それは『生命薬』だな。怪我によく効く。物によっては、切断された手足すら生やすことができる」
なんとなしに尋ねてみれば、驚くべき答えが返ってくる。
その瞬間、俺はハッと息を飲み、棚の薬筒へ視線を向け直した。
215
あなたにおすすめの小説
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~
黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!
異世界ネットスーパー始めました。〜家事万能スパダリ主夫、嫁のために世界を幸せにする〜
きっこ
ファンタジー
家事万能の主夫が、異世界のものを取り寄せられる異世界ネットスーパーを使ってお嫁ちゃんを癒やしつつも、有名になっていく話です。
AIと一緒に作りました。私の読みたいを共有します
感想もらえたら飛んで喜びます。
(おぼろ豆腐メンタルなので厳しいご意見はご勘弁下さい)
カクヨムにも掲載予定
過労死した家具職人、異世界で快適な寝具を作ったら辺境の村が要塞になりました ~もう働きたくないので、面倒ごとは自動迎撃ベッドにお任せします
☆ほしい
ファンタジー
ブラック工房で働き詰め、最後は作りかけの椅子の上で息絶えた家具職人の木崎巧(キザキ・タクミ)。
目覚めると、そこは木材資源だけは豊富な異世界の貧しい開拓村だった。
タクミとして新たな生を得た彼は、もう二度とあんな働き方はしないと固く誓う。
最優先事項は、自分のための快適な寝具の確保。
前世の知識とこの世界の素材(魔石や魔物の皮)を組み合わせ、最高のベッド作りを開始する。
しかし、完成したのは侵入者を感知して自動で拘束する、とんでもない性能を持つ魔法のベッドだった。
そのベッドが村をゴブリンの襲撃から守ったことで、彼の作る家具は「快適防衛家具」として注目を集め始める。
本人はあくまで安眠第一でスローライフを望むだけなのに、貴族や商人から面倒な依頼が舞い込み始め、村はいつの間にか彼の家具によって難攻不落の要塞へと姿を変えていく。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。
百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」
妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。
でも、父はそれでいいと思っていた。
母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。
同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。
この日までは。
「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」
婚約者ジェフリーに棄てられた。
父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。
「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」
「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」
「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」
2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。
王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。
「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」
運命の恋だった。
=================================
(他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる