我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第一章

第28話 短剣と魔法具工房と生命薬

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 やがて金属を叩くような騒音が、少し冷たい風に乗って聞こえてくる。

 それを合図に、俺たちが歩く石畳の大通りは徐々に趣を変える――磨き上げられた刀剣や鋭い穂先の槍、彫刻を施した盾、重厚な鎧などを軒先に陳列する店舗を目にするようになった。

 どうやら、職人街へと差し掛かったようだ。
 ファンタジー感が一気に増し、俺の気分も高揚する。

「この辺りには、各工房で作られた武器や防具を売る店が並んでいる。当然、探索者の多くが利用しているわけだが……サクタロー殿、やつらは気性が荒い。私からあまり離れないよう注意してくれ」

 実を言うと、ここに至るまで住民の方々から結構な視線を浴びていた。原因は、間違いなく俺たちの衣服にある。

 デザインからして違うし、こちらの物と比較すればかなり上等なので無理もない。それでも無闇に声をかけてこないのは、こちらが上流階級のお忍びである可能性を考えて。

 一方、探索者には後先考えない者が多い。タチの悪い部類だと、ただの破落戸ばりに絡んでくるかもしれないという。
 もっとも、サリアさんのそばにさえいれば問題ないようだが。

「了解。みんなもいいね? さっきみたいに、いきなり走り出さないように」

 しゃがんで肩からリリを下ろしながら注意を促せば、『はーい!』と気持ちのいい返事を聞けた。ルルも深く頷いてくれている。

 この子たち、返事はいいんだよなあ……とりあえず、しっかり手を繋いで見て回るとしよう。

「馴染みの店があるから、そこで揃えてしまおう」

 そう言ったサリアさんの先導で、とある武具店へお邪魔する。
 生憎、顔見知りの店主は不在だったようだが、年若い店員さんが対応してくれてお目当ての物は揃えられた。

「本当にそれだけでいいの?」
 
「うむ。護衛ならば、室内での活動が多くなるだろうからな。当面はこれで事足りる」

 サリアさんの手には、一本の短剣が収まっていた。木材と魔物の皮を使った鞘とのセット商品で、無骨ながら味のあるデザインをしている。

 そこまで重くないと聞いて、密かに俺も振ってみようかと思ったけど、肩が抜けそうな予感がしたのでやめた。

「ずいぶんとあっさり決まったね」

「私は素手が一番やりやすいからな。見せかけであれば、これで十分だろう」

 ということは、素手で魔物を……?
 なんて俺が驚いている間に、さっさと支払いが完了する。

 これでサリアさんの装備は、スウェットにサンダル、背中に短剣となった。剣帯はショルダータイプを選択したみたい……ぱっと見はニート勇者だ。

 ついでに、こちらの貨幣を収納する皮の巾着も購入していた。他にも簡単な衣服や防具などもあったが、本人が「あっち(日本)の品が欲しい」と希望したので手を出さなかった。

 気になる短剣のお値段は、展示されている品の中ではかなり安め。高いものは、鉄以外に特殊な素材が配合されているらしい。道理で、刀身の輝きが違うわけだ。

 非常に興味深い。少年心をくすぐられ、ずっと眺めていられそうだ……が、エマたちがつまらなそうなので御暇する。また今度ゆっくり見学に訪れよう。

 続いては、より異世界らしい魅力がつまった興味深い店へ向かう。
 これは俺のリクエストだ。雑貨店も兼ねているらしく、みんなで楽しめそうだと思って。

 しばらく歩いたところで、サリアさんがある建物の前で立ち止まる――大通りから少し裏に入った路地に並ぶ、趣のある古びた一軒家だ。

 軒先にかかる年季の入った木製看板には、『ジグナール魔法具工房』の文字がひっそりと記されていた。

 ワクワクしながら扉を開き、シナモンにも似た独特の香りが漂う店内へ踏み込む。
 同時に、カランコロンとベルのような音が響く。その出どころを探すみたいに、幼女たちが揃って獣耳を動かす仕草がとても可愛らしい。

 というか、思ったより明るいな。窓もないはずなのに……訝しげに思って天井を見上げれば、煌々と光を灯すランプらしき物が備え付けられていた。

「あれは……?」

「魔石を使ったランプだな。あちらには、ゴルド殿が使っていた簡易のカマドもあるぞ」

 ああ、例の魔石ね……確か、あれも迷宮から産出されるんだったか?
 サリアさんによると、他にも魔石を使った道具が色々あるらしい。興味を惹かれたので、さっそく見て回る。

「いらっしゃい。ゆっくり見ていっておくれ――おや? サリアじゃないか。奴隷堕ちしたと聞いていたが、もう解放されたのかい?」

「久しぶりだな、店主。見ての通り、私は今も奴隷の務めを果たしているところだ」

 店の奥には木製のカウンターがあり、その向こうに黒いローブをまとった人物が腰掛けていた。赤毛を三つ編みにまとめた、整った顔立ちの妙齢の女性だ。

 彼女は顔をあげると、やや目を見開きながら声をかけてきた。知人らしく、サリアさんも自然に応じている。

「どうも、店主さん。少し拝見しますね」

「ええ、構わないわ。どうぞごゆっくり」

 店主の承諾を得て、俺は幼女たちと一緒に店内を改めて見て回る。

 所狭しと立ち並ぶ木棚には、不思議な品々がぎっしり詰まっていて、まるでファンタジー映画の世界に迷い込んだような気分にさせてくれた。もはや店内の明かりすら怪しげに感じてくる。

「ねぇねぇ、サクタロー。あれなに?」

「さあ、なんだろうねえ……」

「いいか、リリ。それは――」

 気になる物があるたびに、リリがあれこれ尋ねてくる。しかし俺には、ほとんど正解がわからない……代わりに、サリアさんが説明を引き受けてくれて助かった。

 そして店内を時計回りで半周したところで、ふと足を止める。
 目の前のひときわ年季の入った棚には、細長い陶器の薬筒らしき物が並んでいた。コルクのような栓が嵌まっているあたり、中には液体が収まっていると予想できる。
 
「サリアさん、これはなに?」 

「ん? ああ、それは『生命薬』だな。怪我によく効く。物によっては、切断された手足すら生やすことができる」

 なんとなしに尋ねてみれば、驚くべき答えが返ってくる。
 その瞬間、俺はハッと息を飲み、棚の薬筒へ視線を向け直した。
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