我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第一章

第35話 ホスピタリティ溢れるひとときの提供

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「さ、サクタロー殿……! これはいったい!?」

 俺が謎の地下通路に降りるなり、ゴルドさんとケネトさんもこちらに気づく。ほぼ同時に、驚愕混じりの問いかけが飛んでくる。

 あの虹色ゲート、やはり人の往来は阻むものの音は通すらしい。
 この結果は、サリアさんのときと変わらない。

 ただ図らずも別のサンプルを検証できたおかげで、セキュリティ面に対する信頼性がぐっと増した。この分なら、最悪はこちら側へ逃げ込めば安全を確保できそうだ。あとは、周囲の石壁の耐久性が明らかになればもっと安心できるのだが……。

「さ、サクタロー殿!?」

 おっと、思考がそれた。
 ゴルドさんの再びの呼びかけで我に返る。が、まだ考えがまとまってないんだよね……いや、ここまできたらある程度の事情を打ち明けてしまうべきか。もちろん保険はかけるけど。

 それで可能なら、このまま彼らを味方に引き込んでしまいたい。しかもガッチリと心を掴むレベルで。異世界サイドでの俺の活動含め、将来的には幼女たちの後ろ盾にでもなってくれたら心強い。
 
 突然の来訪の理由も気になるが、緊急事態というわけでもなさそうなので後回しかな。ひとまずは挨拶でもして落ち着いてもらい、しっかり情報を咀嚼できる態勢を作ってもらうとするか。

「どうも、お二人とも。こんばんは、急な来訪で驚きました」 

「う、うむ、先触れもなく押しかけて失礼する……いや、そうではない! これはまさか『神の抜け道』であるか!? サクタロー殿、差し支えなければ事情をお聞かせ願いたい!」
 
 まあまあ、落ち着いて……と俺は少し歩みを進め、虹色ゲート越しに対面する。すぐ背後にはサリアさんもいるので、近づいたところでさして危険もあるまい。

 加えて、こちらが不必要に恐れてばかりでは、今以上の信頼関係を構築するのは難しい――あ、そうだ。いいこと閃いた。
 警戒心を抱かせないよう笑みを浮かべつつ、混乱気味の二人にこう提案する。

「ぜひ私も色々と相談させていただきたい。ですがゴルドさん、その前に夕飯でもどうですか?」

「ゆ、夕飯……?」

「ええ、今日のカレーは絶品ですよ。リリが、頑張ってお手伝いしてくれたおかげです。よければ、一緒に食べていってください」

 いわゆる『同じ釜の飯を食う』という行為は、信頼関係を構築するための強力なコミュニケーション手段である。カンパニー(会社)の語源も『一緒にパンを食べる仲間』に由来する――サラリーマン時代に参加したセミナーでそう聞いた。

 要するに、『美味しいご飯をお腹いっぱい食べてからの方が、色々と受け入れてもらいやすくなるよね』みたいな理屈である。

 何より、さっきも言ったようにカレーの味を自慢したい。リリがお手伝いしてくれたおかげで、最高の仕上がりとなったのだ。たくさん作ったから、量にも余裕がある。

 そうと決まれば、ミッション開始――さっそくディナーのセッティングに取り掛かろう。

 ゴルドさんたちは『何が何やら……』と首を傾げているものの、ちょっと強引に促せばすぐに丸テーブルと椅子を準備すると応じてくれた。

 会場は、我が家のリビング……ではなく、この地下通路がいいかな。幸い結構な広さがあるので、テーブルをいくつか設置する余裕くらいある。そのうえ、わりと温かい。若干薄暗いけど、それはそれでムーディーだ。

 せっかくだし、テーブルキャンドルも用意しようかな。知人の結婚式のビンゴ大会で当たった物があったはず。席の配置は、安全に考慮して虹色ゲートを挟む。ちょっと絵面がシュールになるが、念のためだ。
 
 参加者はうちの子たちに加え、ゴルドさんとケネトさんの二人。廃聖堂には護衛の方々が詰めているそうだが、『絶対にここには近づくな』と伝言したうえで待機していただく形となった。

 こうして、色々と持ち込みつつ場のセッティングに動き回ること十数分。虹色ゲートを挟み、三つの丸テーブルと椅子が用意される。二つをそれぞれ食卓とし、残りは荷物置きとして使用中だ。

 次いでサリアさんにお願いして幼女たちを連れてきてもらうと、揃って塗り絵帳とクレヨンを抱えてやってきた。

「サクタローさん、これみてっ!」

「リリもじょうずにできた! ルルもだよ!」

 エマたちは地下通路に降りてくるなり、小さく飛び跳ねながら色を塗ったページをアピールしてくれる。待っている間に楽しんでいたようで、揃ってニッコニコだ。

 ずいぶんと塗り絵帳を気に入ってくれたみたい。しかしどうせならじっくり見たいので、寝る前にでもまた目を通させてもらおう。
 ついでに、もう少し遊んで待っていてね。ディナーまではまだ時間がかかる。

 けれど、その前に。
 俺は三人を連れて虹色ゲートの前に立ち、ゲスト二人へ挨拶をするよう促した。

「あ、あの、エマです……こんばんは」

「あー、しってるオジサンだ! なんでいるの?」

 控えめながらも、上手にご挨拶できたエマの頭を撫でる。続いて、「失礼なこと言わないの」とリリを窘めつつやり直しさせた。 

 ルルは……横向きにしたダブルピースで両目を挟み、堂々と謎ポーズを決めている。アニメで覚えてやってみたかったんだね。でも、ここではお辞儀をしてちょうだいね。

「さて、ゴルドさん、ケネトさん。よろしければ軽くお酒などいかがでしょう?」

「う、うむ……サクタロー殿のお誘いであれば、喜んでご馳走になろう」

「私もぜひご一緒させていただきたく。こう見えまして、酒には目がないもので」

 幼女たちを椅子に座らせて、俺はゲストのおもてなしに戻る。

 この際だ。目的達成に合わせ、ホスピタリティ溢れるひとときを提供したいな……そう考えるとワクワクしてきた。美酒と美食で魅了してから、トドメに我が家の見学なんていかがでしょう?

 ということで、キンキンに冷えた缶ビールをジョッキ(中)に注いでお出しする。
 やっぱり最初はこれだよね。異世界でもエールは一般的みたいだし、抵抗感も少ないはず。

 すると二人は真っ先に、黄金の液体に満ちるガラス製のジョッキに恐れおののいていた。異世界では、透明なガラスが非常に珍しいのだとか。またひとつ有力な商材情報をゲットである。

 サリアさんにもビールをねだられたが、この場では控えてもらう。
 酔って護衛がおろそかになったらマズいし、俺の代わりに幼女たちのお世話をお願いしたい。ディナーが終わったらアルコール解禁となる。

 うちの幼女たちには、お気に入りのりんごジュースだ。今はまた塗り絵に夢中みたいだけど、各自のコップに注いで配膳する。
 そして、俺はジョッキを掲げて乾杯の音頭をとった。

「では、僭越ながら音頭をとらせていただきます! 皆さまの今後のご活躍とご健勝を祈念いたしまして、乾杯!」

 続けざまにビールを飲むよう勧めると、すぐに「ぬおっ!?」という叫びが響く。思わずといった様子で、ケネトさんがいち早く口を開いたのだ。さらにゴルドさんも、「なんと爽快なッ!」と目を丸くする。

「素晴らしい……きめ細かい泡の口当たりが実に好ましい。この喉にくる刺激もたまりません」

「うむ、すっきりとした苦味が癖になる。東国より運ばれてきた『泡立つエール』を以前口にしたが、これはまるで物が違う。サクタロー殿、この酒はなんと?」

「これは、ビールですね。銘柄はハイパードライです」

「これがビールですと!?」

 少し中身が目減りしたジョッキを凝視し、ケネトさんとゴルドさんは矢継ぎ早に驚きをあらわにした。どよめきに乗った息が、テーブルキャンドルの火を何度も揺らす。

 聞けば、先ほど話題に上がった泡立つエールこそが、彼らの知る『ビール』というお酒だそうだ。これまでとは異なる製法で作られており、リベルトリア王国やその周辺地域で急速に流通し始めているらしい……俺の謎の自動翻訳のせいで名称がややこしく感じるな。

 もっとも、味は段違い。
 異世界のビールは炭酸が非常に弱く、雑味も酷いみたい。対照的に、いま飲んでいるハイパードライは最高だと大絶賛である。

 というか、うちの幼女たちが何事かとびっくりしているので、少しトーンは抑え気味でお願いしたい。しかし以降も、ジョッキを呷る度にゲスト二人の興奮はますます高まるばかりだった。
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