我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

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第一章

第36話 来訪の理由と甘口カレー

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「ところで、お二人はどうしてこちらへ?」

 俺もジョッキに口をつけながら、場の空気を落ち着ける意味でも気になっていた話題を振る。

 この問いに答えてくれたのはケネトさん。整ったこげ茶色のヒゲに泡を乗せたまま、和やかな口調で語りだす。

「珍しくも良質な衣服を着た御仁が童女らを連れ、何やら街を歩き回っていると報告があったのです」

 どうやら、俺たちのラクスジット観光の噂が届いてしまったようだ。
 一方、情報を得たゴルドさんたちは、こちらの身の安全を考えて合流すべく捜索を開始。その途中、例の薄汚い探索者四人組を見つけ出したという。

「ですが時すでに遅く、ずいぶん前に帰還したと聞かされました。そこで我々はいったん引き上げたのです。けれども我が主は、『また破落戸どもに目をつけられてはいまいか』と案じておりました」

 あの探索者たち、武装した護衛の方々に囲まれて事情聴取されたそうだ。ちょっと気の毒に思う……また会ったらお詫びしよう、と俺は心に留めた。

 それはともかく、ゴルドさんたちはいったん帰宅したにもかかわらず、こうして駆けつけてくれた。サリアさんがいるとはいえ、注目の的になったばかり。不測の事態があってはいけない、と。

 さらに俺の姿をひと目確認せねばと廃聖堂内を探索した結果、この地下通路の発見に至る。

「なるほど、いろいろとご心配をおかけして申し訳ない」

「なに、こちらが勝手に気を揉んだだけのこと。サクタロー殿はお気に召されるな」 

 俺の謝辞に対し、ゴルドさんはマフィアのファーザーもかくやの笑みを浮かべて応じる。

 強面すぎるが、本当にいい人だ。これで商人だというのだから、ちゃんとやれているのか逆に心配になってくる。彼らが困っているときは必ず力になろう。

「それにしても、サクタロー殿には驚かされてばかりであるな。いやはや、神の抜け道がこのような場所に存在するなど思いもせなんだ」
 
 言って、残り少ないビールをぐいっと飲み干すゴルドさん。
 その視線は真っすぐこちらへ向けられている――ひいては、この通路の先が気になって仕方がないといった様子。

 まあ、それは後ほどってことで。
 よし、そろそろメインディッシュを持ってくるか。
 
 俺はいったんキッチンへ引っ込み、温め直したカレーの鍋と炊飯器、福神漬けのタッパーや皿などを順に地下通路へ運び込み、物置用のテーブルへ置いていく。

 続いて、カレーライスを盛りつけた皿を全員の前にサーブした……のだが、そこで場の空気が凍りついた。

「……サクタロー殿。匂いは良いが、これは本当に食べ物なのか?」

 鼻をくんくんやりながら尋ねてくるサリアさん。
 食べ物かどうか迷うとか、やはりカレーの見栄えは不評らしい……エマとルルも、へにょんと獣耳を倒して悲しそう。ああ、おいたわしや。

 ゴルドさんとケネトさんも、のけぞって絶句している――だが、すかさず救世主が弾むような声をあげた。

「わーい、カレーだ! いただきますっ!」

 自分専用のキッズスプーンを高々と掲げたのは、誰あろうリリだった。この子だけは調理中に味見していたので、特に抵抗はないのである。

 続けて全員の注目を集めつつ、皿のカレーライスをひと掬いしてパクリ、もぐもぐ……ゴクリと喉を動かしたら、ぱっと破顔して再び口を開く。

「う~ん、おいしいっ! ねぇサクタロー、なんでみんなたべないの? リリがぜんぶたべてもいい?」

「もちろん、たくさん食べてね。でも、せっかくリリがお手伝いしてくれたんだし、皆にも食べてもらいたくない?」

 俺の問いかけに、リリは元気よく「たべてほしい!」とお返事してくれた。

 この素直な反応に影響されたのか、エマが「いただきますっ!」と言ってスプーンを持つ。次いで、意を決した様子でカレーライスをもぐもぐと……犬っぽい獣耳をピコピコ動かしながら目を白黒させ、最終的にぱっと明るい笑顔を浮かべる。

「お、おいしいっ! これリリがおてつだいしたの? すごいね!」

「ね、おいしいよね! リリね、おなべたくさんグルグルしたんだよ!」

 エマとリリは顔を見合わせてニッコリ笑うと、カレーライスをもりもり食べ始めた。

 ここでサリアさんが動く。間をおかずゴルドさんとケネトさんも、ステンレスのスプーンを手に取ってカレーライスを口に運ぶ。すると、立て続けに感嘆の声が上がった。

「な、なんたる美味……ッ! 香り高く、奥深く、複雑な味わいが見事に調和しておる! 神々の晩餐に供される逸品と言われても驚かぬぞ」

「ええ、これは本当に素晴らしい……おそらく、香辛料がふんだんに使われていると思うのですが、その過程がまったく想像できません」

 ゴルドさんとケネトさんは、うまいうまいと取り憑かれたみたいにスプーンを動かす。サリアさんなんて、とっくに無言でかっくらっている。

 よかった、お口に合ったようだ。幼女たちでも食べやすいよう今回は甘口を用意したが、初カレーは刺激弱めでちょうど良かったかもしれない。
 
 唯一ルルだけは、スプーンを手に取らない……あ、取った。
 それから流れるような身のこなしで椅子を降りたかと思えば、俺の元へやって来てスルリと膝の上に収まった。さらにこちらを仰ぎ見て、パカッと口を開く。

 これは、催促だ。
 食べさせろ、とキラキラの青い瞳が雄弁に語っている。
 
 甘やかすのはよくないんだよなあ……でも、こんなに可愛いんだもの。今日くらいはいいよね、の精神でカレーを食べさせてあげることにした。まだあまり上手にスプーンを使えないしね。

 当然、エマとリリから『ズルい!』のクレームが入ったので、交代で食べさせて回る。おまけに、大人たちのおかわりを皿によそったりして、俺だけとても忙しいディナータイムとなった。

 ほどなく、鍋と炊飯器の中身は空となる。
 結局カレーライスをぺろりと平らげたみんなは至福の表情を浮かべ、ゆったりとした食休みを過ごした。これで幼女たちの白米に対する認識も変わったはず。大満足である。

 その後、俺のおもてなしミッションは最終フェーズに突入。
 ゲスト二人と護衛のサリアさんを連れ、軽く我が家を案内してみせた。
 その際、何気なく交わされた会話でちょっと曖昧な返答をしてみたところ……。

「やはりサクタロー殿は、遥か遠き大国のやんごとなきご身分であらせられたか!」

「これまでのご無礼、ご容赦賜りますよう伏してお願い申し上げます」

 ゴルドさんとケネトさんは、盛大に真意を読み間違ってしまう。
 完全に誤解している。さらには我が家のリビングで両手を組んで跪き、俺に頭を垂れるのであった……こちらこそ、なんかごめんなさい。
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