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第一章
第37話 勘違いの理由とおもてなし終了(エピソードの内容に大幅修正あり)
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「あの、とりあえず立ってもらえませんか? 私はそんな大層な身分の者ではありませんから」
これはもう、平伏といった方が適切だな……深々と頭を下げ、許しを請い続けるゴルドさんとケネトさん。
リビングにはうちの獣耳幼女たちもいて、思わず塗り絵を中断してしまうほど驚いている。
情操教育にも悪そうなので、俺は慌てて止めた。けれど、両名ともぜんぜん話を聞いてくれそうにない。
どうしてこうなった……いや、原因は明白である。
先ほど脳裏をかすめたように、すべては曖昧な返答をしたせいだ。
俺は対応に苦慮しながら、地下通路でのディナータイム後の一連の出来事を振り返る――カレーライスを平らげると、自然と腹ごなしの小休憩をとることになった。
その際、雑談の流れからゴルドさんに再び事情を尋ねられたのだが、実際に体験してもらった方がスムーズだと考えた。
だから当初の予定通り、少し時間を置いて我が家の中を軽く案内した。幼女たちにはリビングで遊んでいてもらい、サリアさんの護衛付きであれこれ説明したのだ。
ゲスト二人は感嘆しきりで、終始目を見張っていた。
スイッチひとつで灯る部屋の明かり、電動バリカンやシェーバー、いつでも綺麗な水が流れ出す蛇口。果ては冷蔵庫や洗濯機など、日本の家電に度肝を抜かれていた。
ダメ押しにテレビをつけて、俺は『遠く離れた場所や人を映し出す道具』と説明する。
そこでゴルドさんとケネトさんは順に、動揺を押し隠すように恐る恐る口を開いた。
「もはや我らの理解の範疇を超えておる……サクタロー殿の祖国は、実に高度な技術力を有しておられるのですな。ましてや、これほど大量に所有なされているとなれば……」
「無論、サクタロー殿も決して只人などではありますまい。この地を治める王族、あるいはその血統に連なる高貴な御身とお見受けいたします」
電化製品などが大量生産されているとは夢にも思っていない様子。さらに二人は、『神の抜け道が繋がる先は、遥か遠い未知の大陸』という結論を導いた。
根拠は、顕著な文明レベルの差異。彼らの住まうラクスジット、ひいては属するカルデリア王国と比較すれば一目瞭然である。
本当は異世界だが、そこまで発想を飛躍させることはできなかったようだ。
そして、ここでつい魔が差した。
彼らをガッツリ味方へ引き込むためには、どう答えるのが正解か。できるなら、裏切りに類する行為を予防したい……それならば、彼らの勘違いは好都合ではなかろうか。
仮に俺が異国の王族だった場合、ぞんざいに扱って国際問題にでも発展すれば一大事である。なにせ、こちらは技術的に何歩も先を行く得体の知れぬ国。おまけに、通行に条件はあれども『神の抜け道』で地続きとなっている。
となれば、俺に対する裏切りや欺きは愚策以外のナニモノでもない。安易に敵に回すような行為は絶対に避ける。
そもそも、侮られるよりも一目置かれていた方が余計な敵意を買わずに済む。
しかしながら、破落戸に襲われかけたときに助けてもらった大恩がある。ゴルドさんたちに嘘を付くのは流石に心苦しい。
それでも、幼女たちの安全を考慮すれば――などとたっぷり迷った挙げ句、うっかり曖昧なスマイルを浮かべてどっちつかずの返答をしてしまった。
その結果が、いま目の前で繰り広げられているこの光景だ。
平伏を続けるゴルドさんとケネトさんは、これまでの振る舞いが異国の王族に対して無礼に値すると判断したらしい……なんか、本当にごめんなさい。
サリアさんも背後で、「そ、そうだったのか!?」と仰天している。昨晩、軽く日本の説明をしたでしょうに……そのうえ、ローテーブルで再び塗り絵を楽しんでいたはずのエマからも、戸惑いがちな声が飛んでくる。
「サクタローさんは、おうさまなの……?」
「ちがうよ。前にいろいろ説明したよね?」
「そうだ……おうさまじゃなくて、神様だった! だって、おいのりしたらきてくれたもん! おいしいパンくれたの! わたし、ずっとわすれないよ!」
そう言ったエマは、立ち上がって俺の足にしがみついてきた。出会ったあの日のことを思いだし、感情を押さえきれなくなってしまったのだろう。
その様子を見ていたリリとルルも、よく理解していなさそうなもののとりあえず笑顔でこちらへ飛び込んできたので、腰をかがめて優しく受け止めた。
三者三様の獣耳と尻尾が忙しなく動き、きゃっきゃと楽しげな声が響く。
込み上げてくる温かな気持ちを噛み締めながら、俺は『この子たちだけは絶対に守護らねば』と改めて決意する。
さらに「私もいるぞ!」と反対側からサリアさんが輪に加われば、我が家のリビングはほのぼのとした声で満ちるのだった。
こうして、秋深まる夜は過ぎて……。
「さ、サクタロー殿……」
「あ、ごめんなさい。つい盛り上がっちゃいました」
なんとなく良い感じだったので締めくくろうとしたが、ふと声をかけられて我に返った。
そうだ、まだゴルドさんたちがいたんだった。しかもほのぼのとした空気に当てられたのか、平伏をやめてくれている。
これで、ようやく落ち着いて話ができそうだ……が、何だかんだで時刻はもう夜の八時前。幼女たちをお風呂に入れたりして、寝る準備を始める頃合いだ。みんなの塗り絵もじっくり見たいしね。
残念ながら本日は、あまりゆっくりは話していられそうにない。
とりあえず、いま必要な情報だけを手早く伝えてお引き取り願うとするか。
王族などではないので、これまで通りに接してほしいこと。神の抜け道と繋がっている事情もあり、廃聖堂の所有権を是が非でも確保したいこと。平穏な生活を楽しんでいるから、大事にせず可能な限り内密にしてほしいこと。明日の午後、『ジグナール魔法具工房』の店主が外商として訪れること。
俺はざっと要望と予定を共有した。すると、ゴルドさんは立ち上がりつつ前向きに応じてくれる。
「では、ひとまずはサクタロー殿のご要望どおりにいたそう……して、ジグナール魔法具工房であるか。そちらに関しても、よろしければ私が代行を仕ろう。お譲り願った品々にて生じた、過分の利潤のお返しをせねばならぬゆえ」
騒動を回避する意味でも、ラクスジットにおいては自分を頼ってほしい――ゴルドさんはそう続け、異世界サイドで活動する際の案内人兼世話役を買って出てくれた。
廃聖堂の手続きの依頼もある。効率を考えても、ここはまとめてゴルドさんにおまかせするのが賢明だ。これからもお世話になりますね。
ともあれ、手応えは悪くない。
このまま利益をもたらしつつ積極的に交流を深め、日本の品々でガッツリ心を掴む。そして可及的速やかに、向こうからしても切り捨てがたい存在となってしまうのだ。
自分の立場を固めることは、いざというときの保険となる。もちろん、並行して別の対策も考えておくとする。
異世界うんぬんについては……まあ、おいおいでもいいか。なにも一遍に物事を進める必要はない。きっと説明に苦労するだろうし。
「あ、そうだ。最後にちょっと見てもらいたいものがあるんです。ゴルドさんは、クリスタルガラスってご存知ですか?」
「寡聞にして存じ上げぬ……だが、サクタロー殿の勧めであれば喜んで拝見いたす」
その後、クリスタルガラス製のバレッタなどをまた少し見てもらってから、ゲストの二人にはお帰りいただくことにした。
何年か前に取引先の付き合いで購入した品が残っていたな、と不意に思い出したのだ。透明なガラスのジョッキに驚いていたくらいだし、きっと興味を持ってくれるはず。
こうして、今度こそおもてなしを終える――俺は数日以内に再会する約束を交わし、ゴルドさんとケネトさんを虹色ゲートの向こうまで送り届けるのだった。
これはもう、平伏といった方が適切だな……深々と頭を下げ、許しを請い続けるゴルドさんとケネトさん。
リビングにはうちの獣耳幼女たちもいて、思わず塗り絵を中断してしまうほど驚いている。
情操教育にも悪そうなので、俺は慌てて止めた。けれど、両名ともぜんぜん話を聞いてくれそうにない。
どうしてこうなった……いや、原因は明白である。
先ほど脳裏をかすめたように、すべては曖昧な返答をしたせいだ。
俺は対応に苦慮しながら、地下通路でのディナータイム後の一連の出来事を振り返る――カレーライスを平らげると、自然と腹ごなしの小休憩をとることになった。
その際、雑談の流れからゴルドさんに再び事情を尋ねられたのだが、実際に体験してもらった方がスムーズだと考えた。
だから当初の予定通り、少し時間を置いて我が家の中を軽く案内した。幼女たちにはリビングで遊んでいてもらい、サリアさんの護衛付きであれこれ説明したのだ。
ゲスト二人は感嘆しきりで、終始目を見張っていた。
スイッチひとつで灯る部屋の明かり、電動バリカンやシェーバー、いつでも綺麗な水が流れ出す蛇口。果ては冷蔵庫や洗濯機など、日本の家電に度肝を抜かれていた。
ダメ押しにテレビをつけて、俺は『遠く離れた場所や人を映し出す道具』と説明する。
そこでゴルドさんとケネトさんは順に、動揺を押し隠すように恐る恐る口を開いた。
「もはや我らの理解の範疇を超えておる……サクタロー殿の祖国は、実に高度な技術力を有しておられるのですな。ましてや、これほど大量に所有なされているとなれば……」
「無論、サクタロー殿も決して只人などではありますまい。この地を治める王族、あるいはその血統に連なる高貴な御身とお見受けいたします」
電化製品などが大量生産されているとは夢にも思っていない様子。さらに二人は、『神の抜け道が繋がる先は、遥か遠い未知の大陸』という結論を導いた。
根拠は、顕著な文明レベルの差異。彼らの住まうラクスジット、ひいては属するカルデリア王国と比較すれば一目瞭然である。
本当は異世界だが、そこまで発想を飛躍させることはできなかったようだ。
そして、ここでつい魔が差した。
彼らをガッツリ味方へ引き込むためには、どう答えるのが正解か。できるなら、裏切りに類する行為を予防したい……それならば、彼らの勘違いは好都合ではなかろうか。
仮に俺が異国の王族だった場合、ぞんざいに扱って国際問題にでも発展すれば一大事である。なにせ、こちらは技術的に何歩も先を行く得体の知れぬ国。おまけに、通行に条件はあれども『神の抜け道』で地続きとなっている。
となれば、俺に対する裏切りや欺きは愚策以外のナニモノでもない。安易に敵に回すような行為は絶対に避ける。
そもそも、侮られるよりも一目置かれていた方が余計な敵意を買わずに済む。
しかしながら、破落戸に襲われかけたときに助けてもらった大恩がある。ゴルドさんたちに嘘を付くのは流石に心苦しい。
それでも、幼女たちの安全を考慮すれば――などとたっぷり迷った挙げ句、うっかり曖昧なスマイルを浮かべてどっちつかずの返答をしてしまった。
その結果が、いま目の前で繰り広げられているこの光景だ。
平伏を続けるゴルドさんとケネトさんは、これまでの振る舞いが異国の王族に対して無礼に値すると判断したらしい……なんか、本当にごめんなさい。
サリアさんも背後で、「そ、そうだったのか!?」と仰天している。昨晩、軽く日本の説明をしたでしょうに……そのうえ、ローテーブルで再び塗り絵を楽しんでいたはずのエマからも、戸惑いがちな声が飛んでくる。
「サクタローさんは、おうさまなの……?」
「ちがうよ。前にいろいろ説明したよね?」
「そうだ……おうさまじゃなくて、神様だった! だって、おいのりしたらきてくれたもん! おいしいパンくれたの! わたし、ずっとわすれないよ!」
そう言ったエマは、立ち上がって俺の足にしがみついてきた。出会ったあの日のことを思いだし、感情を押さえきれなくなってしまったのだろう。
その様子を見ていたリリとルルも、よく理解していなさそうなもののとりあえず笑顔でこちらへ飛び込んできたので、腰をかがめて優しく受け止めた。
三者三様の獣耳と尻尾が忙しなく動き、きゃっきゃと楽しげな声が響く。
込み上げてくる温かな気持ちを噛み締めながら、俺は『この子たちだけは絶対に守護らねば』と改めて決意する。
さらに「私もいるぞ!」と反対側からサリアさんが輪に加われば、我が家のリビングはほのぼのとした声で満ちるのだった。
こうして、秋深まる夜は過ぎて……。
「さ、サクタロー殿……」
「あ、ごめんなさい。つい盛り上がっちゃいました」
なんとなく良い感じだったので締めくくろうとしたが、ふと声をかけられて我に返った。
そうだ、まだゴルドさんたちがいたんだった。しかもほのぼのとした空気に当てられたのか、平伏をやめてくれている。
これで、ようやく落ち着いて話ができそうだ……が、何だかんだで時刻はもう夜の八時前。幼女たちをお風呂に入れたりして、寝る準備を始める頃合いだ。みんなの塗り絵もじっくり見たいしね。
残念ながら本日は、あまりゆっくりは話していられそうにない。
とりあえず、いま必要な情報だけを手早く伝えてお引き取り願うとするか。
王族などではないので、これまで通りに接してほしいこと。神の抜け道と繋がっている事情もあり、廃聖堂の所有権を是が非でも確保したいこと。平穏な生活を楽しんでいるから、大事にせず可能な限り内密にしてほしいこと。明日の午後、『ジグナール魔法具工房』の店主が外商として訪れること。
俺はざっと要望と予定を共有した。すると、ゴルドさんは立ち上がりつつ前向きに応じてくれる。
「では、ひとまずはサクタロー殿のご要望どおりにいたそう……して、ジグナール魔法具工房であるか。そちらに関しても、よろしければ私が代行を仕ろう。お譲り願った品々にて生じた、過分の利潤のお返しをせねばならぬゆえ」
騒動を回避する意味でも、ラクスジットにおいては自分を頼ってほしい――ゴルドさんはそう続け、異世界サイドで活動する際の案内人兼世話役を買って出てくれた。
廃聖堂の手続きの依頼もある。効率を考えても、ここはまとめてゴルドさんにおまかせするのが賢明だ。これからもお世話になりますね。
ともあれ、手応えは悪くない。
このまま利益をもたらしつつ積極的に交流を深め、日本の品々でガッツリ心を掴む。そして可及的速やかに、向こうからしても切り捨てがたい存在となってしまうのだ。
自分の立場を固めることは、いざというときの保険となる。もちろん、並行して別の対策も考えておくとする。
異世界うんぬんについては……まあ、おいおいでもいいか。なにも一遍に物事を進める必要はない。きっと説明に苦労するだろうし。
「あ、そうだ。最後にちょっと見てもらいたいものがあるんです。ゴルドさんは、クリスタルガラスってご存知ですか?」
「寡聞にして存じ上げぬ……だが、サクタロー殿の勧めであれば喜んで拝見いたす」
その後、クリスタルガラス製のバレッタなどをまた少し見てもらってから、ゲストの二人にはお帰りいただくことにした。
何年か前に取引先の付き合いで購入した品が残っていたな、と不意に思い出したのだ。透明なガラスのジョッキに驚いていたくらいだし、きっと興味を持ってくれるはず。
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