我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件【書籍化決定!】

木ノ花

文字の大きさ
41 / 90
第一章

第41話 掃除の続きと荒廃の理由

しおりを挟む
 これが、魔法……俺が思っていたよりずっと幻想的な光景だ。
 いったいどんな原理かはしらないが、サリアさんの全身が淡い輝きを放っている。まるで夢の国の夜のパレードでも見ているような心地だ。

「でも、服装がなあ……」

 自分の足にひっつく幼女たちの獣耳を順番にふにふにしながら、ため息混じりに呟く。

 サリアさんは誇張抜きにかなりの美人さんだし、煌めくグレーアッシュの長い髪も本当に綺麗で……けれど、よりによってグレーのスウェット姿って。袖とかにちょっと毛玉ついているし、足元はクロッグサンダルだし。

 どうせなら、ピッカピカの鎧を装備している状態で見たかった。ラクスジットのお店に売っていたようなやつ。剣もあれば尚良し。コスプレ写真としてネットにアップしたら、即座にバズって大反響間違いなしだ。

「では、さっさと終わらせよう。まずは瓦礫をひとまとめにしてしまうぞ」

 言って、かろうじて原型を保っている木製の長椅子を掴むサリアさん。
 次いで、ひょいっと。あろうことか、そのまま片腕で軽々と持ち上げてしまう……嘘だろ!?

 体格は俺のほうがいいけど、これは絶対にマネできない。確か、魔法で身体能力が強化されているんだっけ。納得というか、ただただ驚愕である。

「サリアは力もち!」

「すごい、すごいっ!」
 
 エマとリリも大興奮。ルルだけはその黒い尻尾をゆったり揺らしながら、廃聖堂の前方――わずかに高くなった内陣で厳かに佇む、純白の女神像を眺めている。興味があるのかな?
 
 とにかく、今は脅威の怪力を発揮するサリアさんである。
 続けて彼女は、長椅子の底面を床に押し当てつつ足を動かし、ブルドーザーよろしく床の瓦礫を次々と隅へ押しやった。

 以前、商談の際に少し片付けをしてくれていたのだが、ほんの十数分ほどで瓦礫がひとまとめにされる。最終的な処理は、ゴルドさんと再会した際にでも相談する予定だ。

「ていうか、サリアさんって魔法を使ったらどれくらい強いの?」

「何をいう、サクタロー殿。私がこのラクスジットで最強に決まっているだろ。この間の小悪党ども程度であれば、どれだけ束になろうと相手にすらならん」

 ずっと気になっていた質問を口にすると、サリアさんは迷いなく自分が一番だと言い切った。
 小悪党とは、先日のラクスジット観光で出会った例の薄汚い男性四人組だ。そんな連中であれば、百人にいても楽勝だそうだ。

 しかも彼女の魔法、ちょっと意識するだけで発動するらしい。ほぼ直感なのだとか。おまけに魔力で身体能力が常時底上げされており、まったく隙がないときた。

「まあ、サクタロー殿には分かりづらいかもしれんな。であれば、実際に見てもらうとしよう」

 サリアさんは瓦礫の中から人の頭ほどある石材をつかみ取って、ぐっと拳を握り込み――ばくん、と派手に粉砕させる。

 続けて、その場で跳躍。
 壁を数度蹴って陽光の漏れる天井に軽々タッチし、音もなく着地する。
 
 まるで現実感のない光景だ。多分、10メートル近く飛んでいたぞ。スピードも、目で追うのがやっとだった……もうほとんどバトルマンガとかアニメのキャラじゃないか。

「わあっ!? フェアリープリンセスみたい!」

「すっごい!? びょんって! ばーんって!」

 これにはエマとリリも、両腕を挙げて大興奮。流石にルルもぽかんと口を開け、驚いているようだ。
 
 サリアさんって、俺が思うよりずっとすごい人なのかも。これなら、最優の探索者って評判も頷ける。ただの食いしん坊じゃなかったんだな。

 なんか、ちょっと安心した。あれで全然本気じゃないと言うし、もっと頼っても問題なさそうだ。

 それはともかく、次は床掃除に取り掛かろう。
 いったん我が家へ戻り、庭掃除用のホウキを持ってきた。幼女たちは、なぜか塗り絵帳とクレヨンをセットで持ってきていた。そうとう気に入ったのかな。

 そして皆で会話を楽しみながら、ホコリや細かい廃材を集める。これもゴミ袋にまとめ、瓦礫と一緒に置いておく。

 みんな進んでお手伝いしてくれたので、そう時間もかからなかった。
 仕上げは、女神像の拭き掃除。ここからは分担作業だ。俺は背後を担当し、サリアさんと幼女たちには正面側を受け持ってもらう。

 そうと決まればまたも我が家へいったん戻り、古くなったタオルをたくさん持ってきた。ついでに、お湯を張ったバケツも。洗浄液類は用意してないけど、不思議と元がキレイなので水拭きだけで十分だろう。

 では、さっそく拭き掃除スタート。
 女神像は結構な高さがあるので、手の届かない部分はサリアさんが担当してくれる。

 そういえば、ここはなんで荒らされてしまったのだろうか。確か、女神ミレイシュ様を祀る聖堂なんだっけ?

 神々が実在し、奇跡を起こすような世界だ。信仰心やらもあるだろうし、罰とか怖くなかったのかな……と、俺は神像を拭きながら疑問を口にした。
 するとサリアさんが、すぐに答えを教えてくれる。

「まず、女神ミレイシュは獣人たちの祖とされている。当然、人の祖たる神も別にいる。しかもその二柱は、とても仲が悪い――そしてこの街を含め、カルデリア王国は人が治める領域だ」

 元来カルデリア王国には人しか住んでいない。だが、このラクスジットだけは特別。迷宮が存在する影響で、人種問わず居住や活動が許されているのだとか。多くの獣人が生活しているのもそれが理由だ。

 ちなみに、いま話題に上がった『人』とは、俺のようなごく一般的な外見をした人間を指している。

「要するに、獣人を見下している連中の仕業というわけだ。ラクスジットの貴族には、『人こそ至高の種族』と戯言を吐く連中もいる。大方、この聖堂を荒らしたのもそういった手合いだろう。なにか弱みにでもつけ込んだに違いない」

 聖堂を荒らすなど、神罰を免れぬ所業である。しかし人の治めるカルデリア王国は別の神の勢力下にあり、女神ミレイシュの威光は及びにくい。事実、神の抜け道を作るだけに留まっている。

 なお、ラクスジットの領主である公爵様は、この惨状を知らない可能性が高いという。
 この街を管理するだけあってバランス感覚に優れた人物のようで、知っていれば放置するなどありえないとのこと。おそらく、情報工作している輩がいるのだろう。

 とはいえ、現在はこの街に女神教の使節団が訪れている……とゴルドさんも言っていた。しばらくは迷宮に潜って出てこないようだが、いずれ問題となることは確実。
 こちらとしては、その前に是が非でも廃聖堂の権利を確保せねば。

「そもそも、今は人間の時代。何より、神に期待しすぎるのは良くない。天上から見れば、我らの生命などそこらの虫ケラとそう変わらんのだから」

 ある日、庭の水たまりで藻掻くアリを見つけた。なんとなく哀れに思えて、落ち葉を与えて救った。けれどその翌日は、巣穴へ水が流れ込んでいても気にもとめない――異世界の神々にとって、大半の人間はその程度の存在でしかないらしい。

 実際のところ、神を敬っても信奉している者は少ないという。人間が自らの知恵でもって道を切り開く、そんな時代にあるようだ。

「もうすぐ迷宮以外で神の存在を感じられなくなる、そんな説を唱える学者もいる」

 探索者ギルドで前にそんな話を聞かされた、とサリアさんは説明を締めくくった。
 なるほどね、複雑な事情があるのは理解した。それでも、エマたちを救ってくれたことに変わりはない。

 たとえ気まぐれでも心から感謝だな。この廃聖堂にまつわることだから、きっと女神ミレイシュ様の御業に違いない。何かお供え物でもしないとね。

 俺は感謝を胸に抱きながら、せっせと汚れを落としていく。
 そして、あらかた綺麗になったところで正面へ回り、思わず目を丸くする――幼女たちがクレヨンを片手に、女神像に色をぬりたくっていたのだ。
 
「やけに静かだと思ったら……三人とも、上手に塗れているね?」

「えへへ、がんばってキレイにします!」

「ミレイシュさまも、カワイイとうれしいでしょ!」

 素敵な笑顔で答えてくれるエマとリリ。ルルも、まるで職人のような真剣さで手を動かし続けている。

 純白の女神像と塗り絵、ちょっと似てるもんなあ……ごめんなさい、ミレイシュ様。すぐに綺麗にしてお供え物をしますから、どうかお許しください。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

もうすぐ帰って来る勇者様と私の結婚式が3日後ですが、プロポーズされていないといくら言っても誰も信じてくれません

まつめ
恋愛
3日後に村をあげての盛大な結婚式がある。それはもうすぐやって来る勇者様と自分の結婚式。けれど勇者様は王都の聖女様と結婚すると決まっている。私は聖女様の代わりに癒し手として勇者様を治療してきた、だから見事魔王を打ち破って帰って来た時、村人達は私が本物の聖女だと勘違い。私がいくら否定しても誰も聞いてはくれない。王様との謁見を終えてもうすぐ勇者様が村に帰って来る。私は一度も好きだと言われてないし、ましてや結婚しようとプロポーズも受けていない。村人達はお祭り騒ぎで結婚式の準備は加速していく。どうしようと困っているのに、心の奥底で「もしかしたら……」と大好きな勇者様が自分を選んでくれる未来を淡く期待して流されてしまう私なのだった。どうしよう……でもひょっとして私と結婚してくれる?

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

夫が「未亡人を我が家で保護する」と言ってきました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
伯爵夫人カタリナの前に、夫が“行くあてのない未亡人”を連れて帰ってきた。 夫は「保護だ」と言い張り、未亡人を家に住まわせようとするが──その素性には不審な点が多すぎた。 問いただしても夫は曖昧な説明ばかり。 挙げ句の果てには「ずっと家にいればいい」「家族になればいいだろう」と、未亡人を第2夫人にする気満々。 家を守るため、カタリナは未亡人の身元を調査する。 そして判明するのは……? ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

処理中です...