幸せになっても良いですか? 

あさがお

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第二章

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 『あっはっは! 入った入った!』

 嫌だ! やめてください、やめてください!
 やだ、気持ち悪い!
 抜いて!

 『抜くわけねーじゃん! ほぉら、もういっちょ!』

 『うっわ、ケツに掃除道具とか鬼畜!』

 『血ぃでてるぜ!』

 『切れちゃってんじゃーん! ほーら、いたいねえー?』

 痛い、痛い、痛い!
 動かさないで!

 『えー? なあに? もう一本??』

 言ってな、……やだ、痛い! 
 う、あ、あぁ! 
 いたいいたいいたいいたいいたいいいぃ!
 もうやめて、やだ、死にたい死にたい死にたい死にたい!
 あぁぁぁあ! 痛いいいぃ! 

 『俺らのこと拒否った蓮見くんが悪いんだから』

 『後悔しても、もう遅いんだよ?』

 『まだまだたぁあっぷり時間がある』

 『たっくさん、遊ぼうね? さあ、次はこれ』

 やめて、やめて、やめて無理むりむりむりむりむりむり、そんなのいれられたら、裂ける、いやだ、やだぁぁぁ!

 『だぁめ』
 



 「うわぁあぁあっ!! いっ……!」

 飛ぶように起きると、全身が鋭い痛みに襲われる。もはや何が痛いとか、どこが痛いとかわからないくらい全身が痛い。それに、服が汗でベタベタで、すごく気持ち悪い。でも、そんなことよりも夢が恐ろしくて、うまく息ができない。心臓も、ずっとばくばくいって、頭の中も、嫌な記憶が巡り続ける。
 辛い、苦しい、怖い…。
 
 「はあ……っ、はぁ…っ…はぁっ…」

 あれは夢、あれは夢、あれは夢! ただの夢!
 ただの夢なんだから、怖いことなんてない。
 大丈夫、大丈夫。
 自分にそう言い聞かせて、なんとか気を落ち着かせる。

 「はあ……」

 そうして、やっと周りを見ると、目の前に広がっているのはいつもと違う景色だった。ここ、どこだっけ……。なんで、ここにいるんだっけ……。回らない頭で必死に考えて、ここが瑠威の部屋であることを思いだした。瑠威の部屋だとわかった瞬間、心が暖かくなるような、落ち着くような気持ちになる。
 
 「瑠威の…」

 いやな夢を見るたびに、瑠威が手を握って頭を撫でてくれた。本当に暖かくて、気持ちよくて…安心できて。瑠威のおかげで朝まで眠ることができた。

 「……瑠威…」

 瑠威に着せてもらったジャージで口元をおおうと、すごく瑠威のにおいがして、安心する。好きだな…、このにおい。
 ……って、なにをやっているんだ僕は! 
 寝ぼけているからだ、なんて適当に理由をつけて起き上がった。

 「痛っ」

 体の至るところが痛い。けれど、怪我は全部瑠威が手当してくれた。できるだけ痛くないようにって、すごく丁寧に優しくしてくれて、手当が終わったときは、「頑張ったな」って、あの大きな手で撫でてくれた。それ以外にもたくさんいろんなことをしてもらった。今すぐお礼を言いたい。そう思って部屋を見渡すと瑠威はいなかった。どこに行ったんだろう…。痛みに耐えて立ち上がると、ベッドの横の机の上に僕の服とメモ書きがおいてあった。急いでかいたのかな、走り書きで。

 『蓮見へ おはよう メシはリビングの机の上においてある 食べれたらでいいから 無理はするなよ』

 「瑠威…」

 瑠威は本当に優しい。メモを胸にあて、瑠威の優しさに浸っていると、ふと、机の上の時計が目に入った。

 7時58分。

 え? 朝礼が8時20分だから…。
 大幅に寝坊してる! 学校が!
 学校……。学校……。

 『歯ぁたてんなよ!』

 「…あぁ、…ああ……」

 『下手くそだから4発なぐりまーす』

 「ぁぁあ、いたい…いたい、やだぁぁ!」

 やめて、やだっ!
 痛い…、気持ち悪い!

 「う…っ!」

 あ、だめだ、──吐く!
 待って、ここは瑠威の部屋…! 汚しちゃいけない…!
 僕はとっさに嘔吐物を手で受けた。

 「はあ…、…はあ、うえっ…うぇえ……」
 
 学校は行きたくない。怖いし、恐ろしい。けれど──瑠威に、お礼を言わなきゃ。たくさん助けてもらったんだ、できるだけ早く、自分の言葉でお礼を言いたい。それに、なにより…ただ会いたい。瑠威の顔が見たい。瑠威の声が聞きたい。

 怖いけど、行く。

 僕は動きたくないと悲鳴をあげる体に鞭を打った。



 
 瑠威の家を出たのは8時20分。この時点で遅刻だ。ご飯は時間と食欲がなくて食べることができず、お茶だけ頂いて、残してしまった。そのまま残すのはすごく失礼で、最低なことだけど、やっぱり難しくて。せめてと思って「ありがとうございます」と書き置きをしてきたけど…それでも失礼だよね…。それも、謝らないと。
 瑠威の家から学校までは難しくなかった。瑠威の家から駅まで行ければあとは道がわかる。登校中、制服を着ている人は全然見かけなくて、遅刻するときってこんなに人がいないんだ、なんて思った。そんなどうでもいいことを考えていないと怖くて、辛い記憶が蘇りそうで。必死に考え事をしながら歩いた。

 学校についたのは8時50分過ぎ。確実に遅刻、なんだけど…なんだか、騒々しい。救急車も停まっている。かなり大変なことがあったんだ…。

 教室に近づくごとに騒々しさが増していく。なにがあったんだろう、気になる…。教室前の廊下に着くと、クラスメイトの皆さんがごった返していて、「マジでヤバイ」、「トラウマなんだけど…」なんて言って騒いでいた。え? このクラスで何かあったの…? 気になるけれど、背が低いから何があったのか見えない。入り口にいこうにも、人が多くていけない。周りの人に聞くのがベストなんだろうけれど、声をかけるのは、怖い…。人に声をかけて聞くか、どうするか悩んでいると、突然前から肩を掴まれた。

 「いたっ…」

 誰! なに、やだ、怖い!

 「…、や、…、だ…!」

 強い力で掴まれて、あのときのことがフラッシュバックする──そう思ったとき、
 
 「蓮見くん!」

 相手が三波くんだということを知った。三波くんはみんなに優しくて、気遣いが上手で、正義感が強い人だ。絶対に悪い人なんかじゃない。だから、なんとかフラッシュバックを押さえて、三波くんを見上げた。

 「三波、くん?」

 三波くんはいつも優しく微笑んでいるのに、今日は眉間にしわを寄せて、焦ったような顔をしていた。それに、よく見ると、襟元が血のようなもので汚れている。どうしたんだろう、なんて思っていると、三波くんは言った。
 
 「瑠威が!」

 瑠威が!!?

 瑠威が、なに、なにがあったの、どうしたの。居ても立っても居られない焦燥感に襲われて、どこにそんな力が残っていたのか、僕は人波をかき分けて教室の入口まで行った。

 「……!」

 そこから見た教室の中は──


 「どうして、こんなことをしたんだ!」

 多数の先生たちと、

 動かない血まみれの人たちと、

 拳と制服が真っ赤な、大好きな人──瑠威がいた。
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