幸せになっても良いですか? 

あさがお

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第二章

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 あれからも、みんなが優しくしてくれたおかげで、そして何より瑠威が近くにいてくれるおかげで、フラッシュバックを起こすことはなかった。
 
 その日の帰り。本当なら僕は講習で瑠威は部活だけど、一人で講習を受けたらパニックになって迷惑をかけそうで、しばらくはお休みすることになった。先生も、「いいよ。来たいときに来なさい」と言って下さった。瑠威は、新しく部長になった鷲沼くんに「部活の気分じゃないから帰る」と言っていた。鷲沼くんは「了解」と短く言って、三波くんと部活に行った。


 「蓮見、帰ろうぜ」

 「あっ、えっ、は、はい」

 僕らは久しぶりに、二人で下校することになった。

 
 
 いつもなら外は暗いのに、今はすごく明るい。

 「……」

 瑠威とふたりきりで帰るのは久しぶりで、なんだろう、瑠威には安心するけれど、そわそわもする。どうしよう、どう話そうってぐるぐる考えながら、瑠威を見上げると、瑠威はいたずらっぽく笑って僕を見ていた。僕がどうやって話しかけてくるのか、待っているみたいで、瑠威から話しかけてくれない。
 しばらく悩んで、でも、話したくて、声を聞きたくて、僕は勇気を振り絞って、話しかけた。

 「……、久しぶり、です」

 そう言うと、瑠威は優しく笑って、言った。

 「はっ、なんで敬語なんだよ」

 「なんだか…、久しぶりすぎて、……」

 「二週間ぶりだもんな。ほとんど連絡もできなくてごめんな」

 「いえ…。えっと、スマホ、禁止されていたんだっけ…?」
 
 「ああ。スマホも、部屋から出ることも禁止されてたんだよ。“外に出るな。一歩も動くな。何もするな”って。めちゃくちゃキレててさ。面倒だった」

 「うわぁ……。ごめんなさい」

 「なんで蓮見が謝るんだよ」

 「あ、…えっと、だって、僕のせいで…そんな、大変なことになっちゃったから……」

 「お前はなにも悪いことしてねーだろ。お前のせいとかもない。むしろお前のおかげで俺は退学せずに済んだんだ。ありがとうな」

 「えっ。それは、みんなと、お兄様が…」

 そう。瑠威の処分が停学に留まったのは、瑠威の行動が正義感からくるものであったこと、それから、お兄様とクラスの皆さんのサポートがあったから。
 あの日、先生たちに事情を話し終えてすぐに、自分のせいで瑠威が退学になってしまうと半狂乱になりながらお兄様に電話した。お兄様が事態を理解するとすぐに動いて下さって、朔弥さんや、知り合いの弁護士の方など、周りの方と一緒に情報収集や交渉をし、事件に関与した人たちの関係者と、一週間と少しで和解までしてしまった。さらに、学校との交渉も行い、瑠威の処分を「二週間の停学」に、事件に大きく関与した人たちを退学にまでさせてしまった。
 本当に、無駄のない正確な流れで。感謝の前に、お兄様の凄さを実感せざるを得なかった。
 そんな、瑠威と、お兄様と、クラスの皆さんの功績を、僕のおかげだなんて、とんでもない話だ。僕はしてもらうだけで、何もできていないのだから…。

 「ああ、みんなと、蓮見の兄貴にもだいぶ世話になったけど。一番はお前だよ。あの日…、お前がみんなの前で俺をかばったから、周りが事実を知って、お前と俺の味方になった。それで、みんなが俺を退学にしないために動いてくれた。お前の兄貴もそうだろ。お前のあの告発が、みんなを動かした。全部、お前がきっかけなんだ。お前がいなかったら…、俺は今、ここにいない。だから、ありがとう。めちゃくちゃ感謝してる」

 「…え、あ、……」

 「退学でも構わないって言ったけど、やっぱり、こうしてお前と同じ学校に通い続けられるのが嬉しい。何度も言うが、一番は蓮見のおかげだ」

 「…っ」

 「ありがとう」

 「……ぼくの、おかげ……」

 「ああ」
 
 僕も、瑠威のために、役に立てていたんだ…。そう思うと嬉しくて、少し、誇らしい気分になった。


 

 駅が近づいてくる。学校から駅は結構遠いはずなのに、瑠威と一緒にいるとあっという間で、もう、これで今日は離れちゃうんだって思うと、寂しくなった。もっと、もっと一緒にいたい。話したり、触れ合ったりしたい…。

 ああでも、駅についてしまった。僕が乗る電車を確認すると、あと3分後で、ちょうどいい時間だった。そしてそれは瑠威もわかっているから、本当にこれでバイバイだ…。色々名残惜しく思いながら、「また明日」と言って別れようとしたとき、瑠威は言った。

 「なあ、今から時間あるか?」

 「えっ?」
 
 「久しぶりに会えただろ。だから、まだ、話し足りねえっつーか…。まあ、なんだ、時間があるならうちでもいいし、食べに行くでもいいし、どっかいかね?」

 「…うん、行く。いきたい、です」

 
 まだ、瑠威と居られる…。



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