幸せになっても良いですか? 

あさがお

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第三章

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 『俺と約束しただろ』
 
 『腹をくくれよ』


 俺だって、できるならしたい。
 したいが、それは三波を裏切ることにならないか? そんな目で見ていたんだって、不快にならないか??
 もし、俺が逆の立場だったなら、同性になんて全く興味ない『普通の人』だったなら、きっと、喜べはしない。
 今までのはなんだったんだ、こっちは純粋に友達としてみていたのにお前はそんな目で見ていたのか、これからもそう見るのか、ってじわじわと気持ち悪さが広がって、少しずつ、気づかれないようにフェードアウトしていく。
 
 三波も、きっとそうする。想像できる。優しく笑いながら、違和感を感じさせずに、いつの間にか、いない。探してもどこにもいない。そうされるくらいなら、じわじわと離れられる怖さを味わうくらいなら──

 『天音に彼女ができて、結婚して、子供ができたら』

 『笑顔でおめでとうって言えるのか』

 『耐えられるのか』

 でも、それも、嫌だ。無理だ、三波が誰かのものになるなんて。誰かのものになって、幸せそうに笑って、結婚するってなって、招待状なんて届いたら、俺は、笑えない。
 普通を演じながら、幸せそうな二人に向かって、「おめでとう」って、きっと言えない。

 告白は怖い、でも、三波に離れてほしくない。誰かのものになってほしくない。
 どうしたらいいんだ。どうしたら、どうしたら……
 


 「千尋?」

 三波が丸い目をして覗き込んでくる。

 「すごい顔してるよ。どうしたの」

 考え事をしすぎたようだ。柏山が構ってくるから…。

 「何かあったの。俺で良ければ聞くよ」

 眉を下げて、小さな声でそう言ってくる。それは中学の時から変わらない。俺が少しでも普段と違うと機敏に察知して、優しくほほえみながら、

 『何かあったの。良ければ聞かせて?』

 と、小さな声で言ってくれるのだ。
 本当に、変わらない。よく見て、心配してくれるところも、好きだ。

 「ありがとう。そういうのじゃない…。ちょっと、疲れただけだから」

 「そっか、わかった。じゃあ、俺は着替え終わったから、先待ってるね。ほんと、お疲れ」
 
 「ああ」


 



 「千尋先輩千尋先輩っ」

 三波が更衣室を出ていったのと同時、タイミングを見計らったかのように、ひとつ下の、よくいえば人懐っこい、悪く言えば距離感がわかってない後輩、田島が声をかけてきた。

 「何?」

 三波が気遣ってくれるくらい疲れて見えるはずなのだが、田島に遠慮はない。いつも通り、歯をみせながらニカーっと笑って、テンション高めに話し始めた。

 「俺ずっと思ってたんですけど! 天音先輩って、なんか、男っぽくなくないですか?」

 「は?」

 突然なんだ。

 「てゆーか、実は女性なんじゃないかって思ってるんですけど、どうなんですか」

 何言ってるんだこいつ?

 「だってだって、着替えのときに、絶対脱がないじゃないですか。あっついのに中に着込んで、裸を見せないでしょ。それに、あんなにモテるのに、全然嬉しそうじゃないし、女にモテても嬉しくないんじゃないかなって。今日早川と話してたんですけど、どーなのかなって!」

 たしかに、三波は着替えの際、絶対に中に着込む。しかしそれは脱いだり着たりするのが非効率という謎のこだわりがあるからで。
 
 ……いや、謎のこだわりに見せているだけで、本音は別のところにあるのか…? 賢いアイツのことだ、そういう本音の隠し方はきっとできる。
 彼女を作らないのも、そういうことなら、理屈としては分かる。

 が、まあ、ないだろ。五年一緒にいて、三波が女に見えたことは一度もない。男子トイレも普通に使っているし、それに、中3の、修学旅行のときも、高1の、宿泊行事のときも、あいつは、男風呂に──

 いたか??
 ああ、中3のときは、ホテルだったから男風呂というより個室で。順番に入っていた。
 高1の大浴場のときは、いなかった、気がする。あ、そういえば、風呂で天音がいない、忘れているんじゃないかって少し騒ぎになって、風呂を出てみたら、「実行委員だから先に入った」とか言って、髪を乾かしていたな。
 
 思い返してみれば、たしかに、三波の裸どころか、上裸も見たことがないかもしれない。プールも、塩素が肌に合わないからって言って入っていなかった。

 え、案外、本当なのか…?
 いやいや、まさか。

 「んなわけねーだろ」

 口ではそう言うが、もしかしたら、そうなのかもしれないとか思い始めた。
 田島の言うことが、一理ある、って。

 「そっかぁ…。そうですよねぇ。もし、天音先輩の心の中が女性なら、あんなに綺麗なんですもん、俺、ちょっと、ときめいたのに」


 残念そうに戻っていく田島。
 ときめくってなんだよ。
 

 ていうか、三波の心の中が女?
 いや、…ないだろ。
 そんなわけないだろ。
 そんな風に見えたことはない。見た目は確かにかっこいいと言うよりは、かわいい、綺麗という感じだが、性格は正義感が強く男らしい。それに、私服や持ち物にも女らしさはない。

 けど、なら、なんで、裸を見せないようにしているんだ?
 なんで、彼女を作らないんだ…?

 田島の言うことが本当なら、俺が告白しても、変に思われないのか?



 ──いや、だから、ないって。ありえない。

 ああもう、バカバカしい。
 何なんだ、今日は。
 
 全部、考えるのはやめだ。
 


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