婚約破棄後、権大人に溺愛されて天まで昇る

あきづき

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第一章

見知らぬ男に誘われて

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     徐挽寧（ジョ・ワンニン）は、陳柏安（チェン・ボイアン）を好いていることは、誰もが知っていた。
     ただ、誰も知らなかった。婚約して五年――彼は一度も彼女に触れたことがなかった。
     柏安、今日は私たちの婚約五周年の記念日よ。いつ来てくれるの？
     ホテルの最上階にある個室は、風船で飾られ、バラの形をしたライトが壁一面に灯っていた。電話がつながったとき、徐挽寧は約束の七時からすでに二時間以上――九時を過ぎてもなお、待ち続けていた。
     「忙しいんだ。」
     「何を忙しくしてるの？」と徐挽寧が訊ぎかけるや否や、電話の向こう側から柔らかな声がこちらに届いた。
     「柏安、痛いの……」
      徐挽寧は胸がキュッと痛み、試しに訊�ねた。「あなた…… 陸芯羽（ルー・シンユー）と一緒にいるの？」
     「彼女がちょっと用事があって。」
     「彼女が事件に巻き込まれたからって、どうしてあなたが処理しなきゃいけないの？」徐挽寧は自分の声が震えているのを感じた。「それとも、彼女の方が私より大事だと思ってるの？」
     「今この時期にケンカしたいのかよ！？」
     一瞬間、徐挽寧の頭の中で何かが爆発するような感覚が走った。彼女の目の端が微かに紅く染まり、心は海底へと一寸寸と沈み込んでいくような重さを感じ、全身を寒気が襲った。
     彼女は口を開け、しばらくの間黙ったままでいた後、やっと言葉を吐き出した。「なら、私たちの婚約を解消しましょう。」
     少なくとも彼女をなだめる言葉をかけてくれると思っていたのに、向こうは電話を切るままにした。
     徐挽寧は鼻笑いを漏らしながら、目の端が熱くなった。一体何を期待していたのだろう。
     開封済みのワインを手に取り、瓶口を口に当ててグイグイ飲み込んだ。
     ……
     個室を出たときには、すでに夜の十一時を回っていた。
     エレベーターに乗り込んだ徐挽寧が振り返ると、外には一人の男が立っていた。
     黒のスーツを身にまとい、すらりとした長身。彫りの深い顔立ちに、抑えのきいた眼差しが加わり、もともと強い存在感がさらに圧迫感を帯びていた。
     男もまた、彼女を見つめていた。
     鴉羽色のチャイナドレスに身を包み、頬はほんのりと上気して、まるで咲き誇る桃の花のよう。杏のような瞳に細い眉、しなやかな腰つき。ドレスのスリットは太ももの中ほどまで入っていて、動くたびに白く細い脚が覗き、その姿はどこか妖艶だった。
     清らかさの中に艶やかさが滲み、あらゆる色香を一身にまとっていた。
     ただ、彼女の全身からは酒の匂いが漂っていた。それを察した彼は目を伏せるようにわずかに目を細め、エレベーターには乗らなかった――だが、まさか中にいた彼女が、ふいに二歩踏み出してくるとは思ってもいなかった。
     手を伸ばして彼のネクタイを掴み、ぐっと引き寄せてエレベーターの中へと引き入れた。
     次の秒で、
     熱い身体が彼の腕の中に飛び込んできた。この突然の出来事に、彼の全身の筋肉は一瞬で緊張し、まるで固まったかのように動けなくなった。
    その一瞬の間に、腕の中の彼女はすでにつま先立ちになり、彼にキスをした。
    彼女の唇は、柔らかくて熱かった。
    しかし、彼女の身体はよろめき、立っていることができなかった。彼の腕から滑り落ちそうになったその瞬間――
    彼は手を伸ばして、彼女の腰をしっかりと抱き寄せた。
    体がぴったりと重なり、徐挽寧の身体にかすかなときめきが走った。
    彼女が我に返ったときには、すでに男にエレベーターの壁に押し付けられていた。背後には冷たいエレベーターの壁があり、目の前の男はまるで火をつけるかのように彼女にキスを浴びせ、強引で支配的だった。
    ひんやりと熱さが交錯し、彼女は耐えきれず、まるで子猫のようにかすかに甘えた声で鳴いた。
    その声は甘く、少しだけ拗ねたようで、さらに魅力的だった。
    エレベーターがゆっくりと降りていく中で、彼女の全身もまるで彼に引きずり込まれるように、欲望の深淵へと沈んでいった。
  「ピンポーン――」エレベーターが一階に到着した。
    親密な行為が止まった。
    徐挽寧の指はまだ彼のネクタイを絡めたまま、低い声で言った。「連れて行って。」
    目の前の女性は身体をふわりと預け、彼に寄りかかった。彼女の吐息はすべて彼の顔にかかっていた。
     それは挑発であり、誘惑だった。
    男の瞳は少しだけ暗くなり、喉仏がかすかに動いた。
    大人同士、言葉にしなくても一目で通じ合うことがある。それに、彼女はこんなにも積極的だった。

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