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第七十二話:絆という名の光
しおりを挟むカイの言葉と、彼から放たれる温かい光は、ヴァレリウスが築き上げた絶望の聖域を、内側から静かに溶かし始めていた。灰色の海に漂っていた魂たちが、その光に引かれるように、少しずつ、本来の輝きを取り戻していく。彼らは、カイの言葉に、忘れかけていた希望を、人との繋がりの温かさを、思い出していたのだ。
「やめろ……。わしの安息を、乱すな……!」
自らの楽園が崩壊していくのを目の当たりにし、ヴァレリウスの精神は激しく揺さぶられた。彼の絶望が、具現化する。灰色の海から、彼がかつて失った者たちの、苦悶の表情を浮かべた影が、無数に湧き出し、カイへと襲いかかった。それは、彼の罪悪感そのものだった。
「君に、わしの絶望が分かるものか! 愛する者全てを、目の前で奪われた、この苦しみが!」
影に飲み込まれ、カイの精神が引き裂かれそうになる。だが、その瞬間、彼の心に、力強く、そして澄み切った声が響き渡った。
『カイ、あなたは一人じゃない!』
リリアの声だ。現実世界で、彼女はカイの身を案じ、自らの魂の全てを懸けて、彼に呼びかけていた。その想いが、物理的な距離を超え、精神世界にいるカイへと届いたのだ。
リリアの想いは、銀色に輝く、美しい光の剣となって、カイの手に現れた。それは、ただの幻ではない。二人の揺るぎない絆が、魂の絆が生み出した、奇跡の顕現だった。
「リリアさん……!」
カイは、その光の剣を強く握りしめた。温かい。リリアの温もりが、そこにあった。もう、何も怖くない。
一方、現実世界の地下空洞では、リリアが苦戦を強いられていた。カイが精神世界で戦っている間、黒水晶の拒絶の波動は弱まり、彼女への負担は減っていた。だが、ヴァレリウスの側近たちの猛攻は、なおも激しい。彼女は、カイの体を守りながら、たった一人で、十数人の手練れを相手にしなければならなかった。
「カイ……。信じているわ。あなたが、必ず帰ってくることを」
彼女は、歯を食いしばりながら、剣を振るう。その一振り一振りに、カイへの信頼と、祈りが込められていた。彼女の想いが、カイの力となることを、信じて。
精神世界で、カイは光の剣を掲げた。
「ヴァレリウスさん。あなたの悲しみは、俺が受け止めます。でも、あなたのやり方は、間違っている!」
カイは、襲い来る絶望の影を、斬り払うのではない。その剣から放たれる優しい光で、一つ一つ、包み込み、浄化していく。苦しみの表情を浮かべていた影は、光に触れると、穏やかな表情へと変わり、安らかに消えていった。それは、カイにしかできない、魂の救済だった。
「馬鹿な……。わしの絶望が……癒されていく……?」
ヴァレリウスは、信じられないといった表情で、その光景を見つめていた。彼の孤独な王国が、一人の少年の、そして、その相棒との絆の光によって、今、崩れ去ろうとしていた。
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