俺だけのひだまり飯~転職先は、ワケあり魔物たちのまかない処でした~

みぃた

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第十五話 憂鬱なハーピィと鳥肉のポットパイ

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冬が深まり森に冷たい風が吹き抜けるようになると陽だまり亭に一人の新しい客が訪れるようになった。
彼女は鳥の翼を持つ美しい女性の姿をした魔物、ハーピィだった。絹のような光沢のある青い髪に物憂げな表情を浮かべた彼女はいつも窓際の席に一人で座りため息をついていた。

「どうしたのかしらね、あの子」
ハナさんが心配そうに呟く。ハーピィは本来空を自由に飛び回るのが好きな種族だ。しかしこの厳しい冬の寒さと強い北風は彼女たちの華奢な翼には過酷すぎるらしい。空を飛べないことが彼女の心を憂鬱にさせているのだろう。

湊はそんな彼女のために何か心も体も温まるような料理を作ってあげたいと思った。空を飛べないのならせめて食べるもので空を飛ぶような軽やかな気持ちにさせてあげられないだろうか。
湊が思いついたのはポットパイだった。熱々のシチューをパイ生地で包んで焼いたイギリスの家庭料理だ。サクサクのパイを崩した時のあの高揚感。そして湯気と共に立ち上るシチューの豊かな香り。きっと彼女の沈んだ心を少しは軽くしてくれるはずだ。

まず中のシチュー作りから始める。具材は鶏肉に似た「森ドリ」の肉と冬に甘みを増す根菜たち。森ドリの肉を一口大に切り根菜はさいの目にカットする。
鍋にバターを溶かし肉の表面を焼き付け旨味を閉じ込めた。そこに根菜と小麦粉を加えて炒め、ムーの乳とスープストックを注いでことことと煮込んでいく。野菜が柔らかくなったら塩と香りの良いハーブで味を調えた。クリーミーで心まで温まるようなホワイトシチューの完成だ。

次にパイ生地の準備。この世界の小麦粉はグルテンが少ないのかサクサクとした食感を出しやすい。湊はバターを練り込んだ生地を何度も折りたたんでは伸ばし即席のパイ生地を作った。
耐熱の器に熱々のシチューを注ぎその上に丸く伸ばしたパイ生地を被せる。縁をフォークで押さえてしっかりと閉じ表面には卵の黄身を塗って艶出しをした。

これを高温のかまどで一気に焼き上げる。
やがてバターの香ばしい匂いが漂い始めパイ生地は風船のようにこんもりと美しいドーム型に膨らんでいった。表面はキツネ色にこんがりと焼き上がっている。
「森ドリの熱々ポットパイ」、最高の出来栄えだった。

湊は湯気の立つポットパイをハーピィの元へ運んだ。
「どうぞ。熱いのでお気をつけて」
ハーピィは目の前に置かれた不思議な料理を驚いたように見つめている。
湊は彼女にスプーンを渡しパイの真ん中を崩すようにと身振りで示した。

ハーピィはおそるおそるスプーンでパイの表面を突いた。
サクッ!
小気味良い音と共にパイが崩れると閉じ込められていた湯気がぶわっと一気に立ち上った。シチューのたまらなく良い香りが彼女の顔を包み込む。
その瞬間ハーピィの物憂げだった瞳が大きく見開かれた。

彼女は崩したパイと中のシチューを一緒にスプーンですくって口に運んだ。
サクサクとしたパイの食感とバターの豊かな風味。そして熱々のシチューのクリーミーな味わい。森ドリの肉はほろほろと柔らかく野菜の甘みが口いっぱいに広がる。
それは体の芯までじんわりと染み渡るような優しくて力強い美味しさだった。

ハーピィは一口また一口と夢中でポットパイを食べ進めていく。
食べ終える頃には彼女の頬はほんのりと上気しその表情は店に来た時とは比べ物にならないほど晴れやかになっていた。
彼女は湊に向かってふわりと花が咲くように微笑んだ。それは冬の空に一瞬だけ太陽が顔を出したような眩しい笑顔だった。

その日以来ハーピィは陽だまり亭の常連になった。
空を飛べない寒い日でもここに来れば心が空を飛ぶように軽くなる温かいポットパイが待っているから。
春が来て彼女が再び大空へ羽ばたいていく日まで陽だまり亭は彼女の心を温め続ける止まり木のような場所になるのだった。
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