17 / 101
第十七話 冬のごちそうと岩トツゲの丸焼き
しおりを挟む
森に本格的な冬がやってきた。
夜の間に降った雪が世界を真っ白なキャンバスに変え、陽だまり亭の周りも深い静寂に包まれている。
かまどで燃える火の温かさがいつも以上にありがたく感じられる、そんな朝だった。
「湊や。こんな寒い日はみんなで温かいご馳走でも食べたいもんだねぇ」
ハナさんが窓の外の雪景色を見ながらぽつりと言った。
その言葉に湊も頷く。そうだ今日は常連のみんなを呼んで冬のご馳走パーティーを開こう。体の芯から温まるような特別な料理を振る舞うのだ。
湊が冬のご馳走の主役に選んだのは「岩トツゲ」の丸焼きだった。
先日ドワーフの鍛冶師が「ピザの礼だ」と言って立派な岩トツゲを丸々一頭持ってきてくれたのだ。猪に似ているがそれよりも遥かに大きく、その肉は滋味深くて栄養価も高いという。
こんなご馳走一人では食べきれない。みんなで分かち合うのが一番だ。
湊はまず巨大な岩トツゲの肉に下処理を施す。表面にフォークで無数の穴を開け、そこにすりおろしたニンニクに似た香味野菜と太陽の塩、そして数種類のハーブをたっぷりと擦り込んでいく。
肉の臭みを消し風味を付けるための大事な作業だ。一晩そのまま寝かせて味をじっくりと染み込ませる。
翌日いよいよ丸焼きに取り掛かる。
あまりにも大きいのでかまどには入らない。湊は店の前の広場に即席の調理場を作ることにした。雪をかき分け地面に穴を掘りそこに熾火を大量に作る。
そしてハナさんに手伝ってもらいながら味付けした岩トツゲを太い木の棒に突き刺し、火の上でぐるぐると回しながらじっくりと焼いていくのだ。
肉の表面からじゅうじゅうと脂が滴り落ち、それが火に落ちてたまらなく香ばしい煙を上げる。湊は時々刷毛で蜂蜜と果実酒を混ぜたタレを塗りながら根気よく焼き続けた。
何時間そうしていただろうか。
やがて肉の表面は飴色にこんがりと焼き上がり、ナイフで少し切れ目を入れると中から透明な肉汁がじゅわっと溢れ出してきた。
完璧な火の通り具合だ。
その匂いに誘われて陽だまり亭の常連たちが一人また一人と集まってきた。
ゴブリンもリザードマンもコボルトのギルも、みんな目の前の巨大な肉の塊を信じられないという顔で見つめている。
「さあみんな! 冬のご馳走ができたぞ!」
湊の威勢のいい声と共にパーティーが始まった。
湊は焼き上がった肉を大きなナイフで分厚く切り分けていく。
外側はカリッと香ばしく内側はしっとりと柔らかい見事なローストだ。
魔物たちは熱々の肉にかぶりついた。
噛むほどに肉本来の力強い旨味が溢れ出す。ハーブの爽やかな香りと蜂蜜ダレのほのかな甘みがその味をさらに奥深いものにしていた。
「うめええええ!」
「こんな美味い肉、初めて食ったぞ!」
みんな言葉にならない叫びを上げながら夢中で肉を頬張っている。
付け合わせにはかまどで焼いたほくほくのイモと温かいキノコのスープ。
体の芯から温まるご馳走にみんなの顔は幸せそうにほころんでいた。
雪に覆われた静かな森の中。陽だまり亭の前だけが温かい光と美味しい匂い、そして賑やかな笑い声に包まれている。
この日のご馳走は魔物たちの心と体をどんな寒さにも負けないくらいぽかぽかに温めてくれた。
それは湊が振る舞う冬だけの特別な「ひだまり飯」なのだった。
夜の間に降った雪が世界を真っ白なキャンバスに変え、陽だまり亭の周りも深い静寂に包まれている。
かまどで燃える火の温かさがいつも以上にありがたく感じられる、そんな朝だった。
「湊や。こんな寒い日はみんなで温かいご馳走でも食べたいもんだねぇ」
ハナさんが窓の外の雪景色を見ながらぽつりと言った。
その言葉に湊も頷く。そうだ今日は常連のみんなを呼んで冬のご馳走パーティーを開こう。体の芯から温まるような特別な料理を振る舞うのだ。
湊が冬のご馳走の主役に選んだのは「岩トツゲ」の丸焼きだった。
先日ドワーフの鍛冶師が「ピザの礼だ」と言って立派な岩トツゲを丸々一頭持ってきてくれたのだ。猪に似ているがそれよりも遥かに大きく、その肉は滋味深くて栄養価も高いという。
こんなご馳走一人では食べきれない。みんなで分かち合うのが一番だ。
湊はまず巨大な岩トツゲの肉に下処理を施す。表面にフォークで無数の穴を開け、そこにすりおろしたニンニクに似た香味野菜と太陽の塩、そして数種類のハーブをたっぷりと擦り込んでいく。
肉の臭みを消し風味を付けるための大事な作業だ。一晩そのまま寝かせて味をじっくりと染み込ませる。
翌日いよいよ丸焼きに取り掛かる。
あまりにも大きいのでかまどには入らない。湊は店の前の広場に即席の調理場を作ることにした。雪をかき分け地面に穴を掘りそこに熾火を大量に作る。
そしてハナさんに手伝ってもらいながら味付けした岩トツゲを太い木の棒に突き刺し、火の上でぐるぐると回しながらじっくりと焼いていくのだ。
肉の表面からじゅうじゅうと脂が滴り落ち、それが火に落ちてたまらなく香ばしい煙を上げる。湊は時々刷毛で蜂蜜と果実酒を混ぜたタレを塗りながら根気よく焼き続けた。
何時間そうしていただろうか。
やがて肉の表面は飴色にこんがりと焼き上がり、ナイフで少し切れ目を入れると中から透明な肉汁がじゅわっと溢れ出してきた。
完璧な火の通り具合だ。
その匂いに誘われて陽だまり亭の常連たちが一人また一人と集まってきた。
ゴブリンもリザードマンもコボルトのギルも、みんな目の前の巨大な肉の塊を信じられないという顔で見つめている。
「さあみんな! 冬のご馳走ができたぞ!」
湊の威勢のいい声と共にパーティーが始まった。
湊は焼き上がった肉を大きなナイフで分厚く切り分けていく。
外側はカリッと香ばしく内側はしっとりと柔らかい見事なローストだ。
魔物たちは熱々の肉にかぶりついた。
噛むほどに肉本来の力強い旨味が溢れ出す。ハーブの爽やかな香りと蜂蜜ダレのほのかな甘みがその味をさらに奥深いものにしていた。
「うめええええ!」
「こんな美味い肉、初めて食ったぞ!」
みんな言葉にならない叫びを上げながら夢中で肉を頬張っている。
付け合わせにはかまどで焼いたほくほくのイモと温かいキノコのスープ。
体の芯から温まるご馳走にみんなの顔は幸せそうにほころんでいた。
雪に覆われた静かな森の中。陽だまり亭の前だけが温かい光と美味しい匂い、そして賑やかな笑い声に包まれている。
この日のご馳走は魔物たちの心と体をどんな寒さにも負けないくらいぽかぽかに温めてくれた。
それは湊が振る舞う冬だけの特別な「ひだまり飯」なのだった。
1
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。
日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。
フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ!
フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。
美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。
しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。
最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる