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第十九話 初めての人間の客
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その日陽だまり亭の扉を叩いたのはこれまでにない客だった。
吹雪で道に迷ったらしい一人の人間の男。年の頃は四十代だろうか。上等そうだが雪でぐっしょりと濡れた旅装束を身につけている。彼は行商人のようだった。
「た、助けてくれ……! 吹雪で一歩も進めん! どうか一晩だけでも休ませてはもらえないだろうか……!」
男は震えながらそう懇願した。
湊はもちろんだと彼を店の中に招き入れた。
しかし男は店の中の光景を見て息をのんだ。
カウンターの隅でぷるぷると揺れるスライム。
テーブル席で静かに食事をするリザードマン。
そして男の姿を見て威嚇するように唸るコボルトのギル。
そこは彼にとって悪夢のような光景だった。
「ひっ……! ま、魔物……!」
男は顔面蒼白になり腰を抜かさんばかりに後ずさる。
無理もない。この世界では人間と魔物は決して相容れない存在だと固く信じられているのだから。
店の常連たちも見慣れない人間の登場に警戒心を露わにしていた。
一触即発の張り詰めた空気が店内に流れる。
「皆さん落ち着いてください」
その空気を破ったのは湊の穏やかでしかし凛とした声だった。
「この方はお客さんです。道に迷って困っているだけなんですから」
湊はまず怯える男に温かいお茶を差し出した。そして常連たちに向かって大丈夫だからと目で合図を送る。
湊の言葉に魔物たちは少しずつ警戒を解いていった。湊がこの店の主であり彼の言葉は絶対だからだ。
湊は冷え切った男のために温かいシチューを作ることにした。
特別なものではない。いつもの野菜と干し肉をことこと煮込んだだけの素朴なシチューだ。
しかしその一口が男の心をゆっくりと解きほぐしていった。
温かい。そして優しい味がする。
この料理を作った人間は決して悪い人間ではない。
男は夢中でシチューを食べ終えると少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
そして改めて店の中を見回す。
魔物たちは自分を遠巻きに見てはいるが襲いかかってくる様子はない。それどころか自分と同じように静かに美味しそうに料理を食べている。
彼らが信じてきた凶暴で邪悪な魔物のイメージとはかけ離れた光景だった。
その夜男は湊からこの食堂の話を聞いた。
ここが種族に関係なくお腹を空かせた者が誰でも訪れることができる場所だと。
そして湊が彼らのために毎日心を込めて料理を作っていることを。
男は信じられないという顔で何度も湊と魔物たちの顔を見比べていた。
しかし目の前にある温かい現実を認めざるを得なかった。
かまどの火がぱちぱちと音を立てる。
外は激しい吹雪。けれどこの小さな食堂の中だけはまるで嵐の中の灯台のように穏やかで温かい光に満ちていた。
人間と魔物。
決して交わらないはずの二つの種族が今一つの食卓を静かに囲んでいる。
それは陽だまり亭にとって、そしてこの世界にとって小さなしかし確かな歴史の始まりだったのかもしれない。
吹雪で道に迷ったらしい一人の人間の男。年の頃は四十代だろうか。上等そうだが雪でぐっしょりと濡れた旅装束を身につけている。彼は行商人のようだった。
「た、助けてくれ……! 吹雪で一歩も進めん! どうか一晩だけでも休ませてはもらえないだろうか……!」
男は震えながらそう懇願した。
湊はもちろんだと彼を店の中に招き入れた。
しかし男は店の中の光景を見て息をのんだ。
カウンターの隅でぷるぷると揺れるスライム。
テーブル席で静かに食事をするリザードマン。
そして男の姿を見て威嚇するように唸るコボルトのギル。
そこは彼にとって悪夢のような光景だった。
「ひっ……! ま、魔物……!」
男は顔面蒼白になり腰を抜かさんばかりに後ずさる。
無理もない。この世界では人間と魔物は決して相容れない存在だと固く信じられているのだから。
店の常連たちも見慣れない人間の登場に警戒心を露わにしていた。
一触即発の張り詰めた空気が店内に流れる。
「皆さん落ち着いてください」
その空気を破ったのは湊の穏やかでしかし凛とした声だった。
「この方はお客さんです。道に迷って困っているだけなんですから」
湊はまず怯える男に温かいお茶を差し出した。そして常連たちに向かって大丈夫だからと目で合図を送る。
湊の言葉に魔物たちは少しずつ警戒を解いていった。湊がこの店の主であり彼の言葉は絶対だからだ。
湊は冷え切った男のために温かいシチューを作ることにした。
特別なものではない。いつもの野菜と干し肉をことこと煮込んだだけの素朴なシチューだ。
しかしその一口が男の心をゆっくりと解きほぐしていった。
温かい。そして優しい味がする。
この料理を作った人間は決して悪い人間ではない。
男は夢中でシチューを食べ終えると少しだけ落ち着きを取り戻したようだった。
そして改めて店の中を見回す。
魔物たちは自分を遠巻きに見てはいるが襲いかかってくる様子はない。それどころか自分と同じように静かに美味しそうに料理を食べている。
彼らが信じてきた凶暴で邪悪な魔物のイメージとはかけ離れた光景だった。
その夜男は湊からこの食堂の話を聞いた。
ここが種族に関係なくお腹を空かせた者が誰でも訪れることができる場所だと。
そして湊が彼らのために毎日心を込めて料理を作っていることを。
男は信じられないという顔で何度も湊と魔物たちの顔を見比べていた。
しかし目の前にある温かい現実を認めざるを得なかった。
かまどの火がぱちぱちと音を立てる。
外は激しい吹雪。けれどこの小さな食堂の中だけはまるで嵐の中の灯台のように穏やかで温かい光に満ちていた。
人間と魔物。
決して交わらないはずの二つの種族が今一つの食卓を静かに囲んでいる。
それは陽だまり亭にとって、そしてこの世界にとって小さなしかし確かな歴史の始まりだったのかもしれない。
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